最初の寮イベント6
「お兄ちゃん!」
アイラちゃんは叫ぶと同時に2種類のポーションをウシくんに『使用』を選択した。
緑と黄色の光が舞う。ひとつは回復用ポーション。そして、もうひとつは魔法攻撃一定時間無効化ポーション。
ーーーーーーバシュッ‼︎ーーーーーー
ジョーカーからの闇の魔法攻撃がウシくんに直撃する。
が。
「あれ?」
何のダメージも無く、HPも減らない。
『チッ。』
ジョーカーは舌打ちをし、闇のシールドの向こうから連続で闇魔法を撃ってくる。
「3分長いな……」
盾で持ち堪える原野。ウシくんが果敢にジョーカーに剣をふるっているが、あまり効果がない。
ソラさんとティアの攻撃もあまり通らず、むしろシールドに飛ばされてダメージを受けている。
と。
ティア。野崎。アイラちゃんの体が紫色に眩しく光り始めた。ポーションの効果が現れたのだった。
「行きます!魔法封印サラエ!」
野崎の魔法詠唱を待って、全員で総攻撃が始まった。
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『ううっ……』
HPが1になり。膝をつくジョーカー。闇の杖にすがりつくように体勢を保っている。
『あんた何よ!何で私に攻撃したのよ‼︎』
フィンが腰に手で、ジョーカーの前に仁王立ちになる。
忘れていたが、最初にジョーカーに攻撃されたのは、バルコニーで頬杖をついていたフィンだったのだ。
『……芸術の為だ……』
絞り出すように、声を出すジョーカー。
『はぁ?何?なんの事?』
上から目線でジョーカーに言葉をぶつけるフィン。
『お前が…あの部屋を爆破しなかったら芸術的風景が見られたはずだった……』
『はぁ?』
何の事かわからない。と、いう風にフィンは声を出したが、それは、みんなも同じだった。
『あの部屋にはバルコニーがついていて、うまくいけば天国の風景が見れたはずだった……』
『天国……?』
ますます分からない。という雰囲気が濃くなってゆく。
『……何故わからない?女子の美しい姿が見られるはずだったというのに!』
「あっ‼︎‼︎‼︎」
途端、ソラさんが大声を出した。
「そいつ‼︎露天風呂のぞく気だったって事⁈」
「「「えええええーーーーっ⁈⁈」」」
全員の驚きの声と、どよめきの声。
「ろ…露天風呂…/////」
原野がそこで何故か異常に反応する。
「寮のあるある事件だな……」
野崎は冷静に呟く。
「男子寮にもあるのかな?」
少しズレたウシくんの感想。
『そうだ‼︎爆破されたといっても、まだ、いちるの望みはあった‼︎さっき扉の前に貼られた『当分の間、立ち入り禁止』の張り紙を見るまではな‼︎』
熱く語るジョーカー。
『バッカじゃないの?』
あっさり切り捨てるフィン。
『何故だ‼︎女子はパ○ツの色を聞かれただけで嬉しくなるんじゃないのか⁈』
「おおっ‼︎」
何故かジョーカーの言葉に同調する原野。
『バッカじゃないの?それで喜ぶのは、それでお金を貰ってる人達か、ブランド品を買って貰うつもりの人達だけ!
普通の乙女はそれを聞かれた時点で、そいつの事を心底軽蔑するわ‼︎』
キッパリと言い切るフィン。
『『『異議なし!』』』
女子全員の同意を勝ち取った。
『何故だ…何故…そうなるのだ……』
ヨロヨロと精神的ダメージを受けるジョーカー。
同じく何故かダメージを受けている原野。
『だいたい、あんた達の考え方はね……だから……でしょ………』
「でさ、この茶番。いつまで続くのかな?」
ティアがこっそりソラさんに聞く。
「さぁ?でも、あれでもフィンは一応お姫様だから、フィンの気が済むまで。じゃない?」
ソラさんが答える。
ふと気がつくとゲーム世界では、空に星が光り始め、夜のとばりが落ちかかる。
『もはやこれまでか……』
どこかで聞いたようなセリフを呟きジョーカーはふらつく右手を高く上げた。
その手には『翼竜』のカード。
『あっ!』
フィンが声をあげた、その時にはもう遅く。
ーーーーーーーーボム‼︎‼︎ーーーーーーーー
舞い上がる煙と砂埃と共にジョーカーの姿は無く。飛び去る『翼竜』の姿が空に小さく見えるのみだった。
「行くぞ‼︎」
「うん‼︎」
そう声を掛け、原野は『翼竜』のカードを高く掲げ。
同じくウシくんも『翼竜』のカードを掲げ。
ーーーーーーボム‼︎ーーボム‼︎ーーーーーー
2つの音と共に煙が舞い。2匹の巨大翼竜が姿を現し、砂埃と共に大きな翼を広げた。
『ちょっと待ったーー‼︎‼︎ストップ!ストップ!ストップにゃーー!』
そこでケット・シーが慌てて2人を制止する。
「「?」」
『一応ここで寮イベント、第1章は終わりにゃ!君たちが追いかけるのは無しにゃ!』
明らかに焦っている様子のケット・シー。
『待ちなさい‼︎』
と。フィンの声が聞こえた。かと思うと。
ーーーーーーーーバサッ‼︎ーーーーーーーー
背中から羽根を出し、ジョーカーを猛スピードで追いかけて行った。
と。ここで。
ーーーーーー『第1章イベント終了』ーーーーーー
の文字が画面上に表示される。
『まったくもう。予定では、ほとんど何も出来ずに逃げられる。予定だったのに、ここまで追い詰めるのは、正に想定外だったのにゃーー』
頭をカキカキ、ケット・シーは説明を続ける。
『とりあえず、決まったイベントは第3章までで、第1章はいま終わった『寮イベント』。第2章は『学園イベント』。そして最後の第3章はもう一度『寮イベント』で……
そこで、君たちの『モニター』は終了する予定だにゃ。第3章以降は読み込んだAIで君たちの行動を予測してイベントを作ってゆく。しかし……』
「しかし?」
と。ソラさん。
『アイラちゃんの存在は本当に予想外だったにゃ。あんな上級ポーションを作っていたなんて……』
「あーーうん。」
と。ティア。
『特に紫色の3分後広範囲魔法全解除ポーションは5種類の薬草をブレンドしなきゃ出来ない、最上級ポーションなのにゃーー』
「「「ええええーーっ⁈」」」
みんなの驚きの声が響く中。当の本人。アイラちゃんはまるで眠っているように小さく座って目を閉じているのだった。




