それぞれのチャレンジ
「ちぇっ。『炭○郎』でいいと思うんだけどなぁー」
「あはは。」
土曜日。改めて『お使いクエスト』の続きを始めたウシくん。と、土曜日になって、ようやく学園にログインして『お使いクエスト』を始めた野崎は2人して紙の束を抱えて廊下を歩いていたのだった。
「俺の『クエスト』での名前は結局『タロウ』になりそうなんだけど、野崎のはなんか執事みたいな名前だった。」
「原野は?」
「う…ん…なんかアメリカっぽい名前だったような…」
一生懸命思い出そうとするウシくん。その様子を見守る野崎。
と。
『『映像クラブ』二階です。ここの階段を上がります。』
ウシくんの使い魔しろっち。が光りながら飛び回って、そう告げる。
「うん。わかった。しろっち。じゃあ俺行ってくるわ。」
野崎に手を振り階段に近づくウシくん。
「牛原は『しろっち。』ってつけたのか。」
「うん。野崎は?」
「僕は『エア』ってつけたよ。」
「おーーーーっ。そっちの方が断然カッコいいじゃん。」
「そっか?じゃあ、また後でな。」
「おう。」
そう言って2人は一旦廊下で別れたのだった。
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『『映像クラブ』ここです。』
階段を登りきったすぐ右で、使い魔しろっち。がそう告げる。
「ありがとーー」
そう言ってウシくんはドアをノックする。
「失礼します…」
挨拶をして入ると、そこには10人ほどのNPCの部員がいた。
ーーーーーー『釣りクラブ』3人くらい。『カードクラブ』5人くらい。『音楽クラブ』8人くらい。ここが一番部員が多いんだなーーーーーー
心の中でウシくんは呟く。
『やぁ。新入学生くん。映画は好きかな?』
そう部長らしき人物が話し掛けてきた。
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『どうだい。我が『映像クラブ』に入部しないかい?』
「うん。とりあえず『保留』かな。」
ポチッとアイコンを押すウシくん。
『わかったよ。気が向いたら、また見に来てくれよな。じゃあチラシを貰おうか。』
部長がそう言い、ウシくんの抱えた紙の束が、スッ!となくなると、音楽が流れだし『ミッションコンプリート』の文字が画面に出る。
「よっしゃーー‼︎」
ウシくんはガッツポーズをとる。
「そうだ『セーブ』出来るかな?」
廊下でセーブを試みる。セーブは普通に完了した。
「うんうん。かなり便利になったよな。さっき普通に廊下で話しが出来たから、ちょっと改良してる。とは思ったんだ。」
そう言いながら、ウシくんは側にあった『男子トイレ』のドアを何気なく開けた。普通に手洗い器が並び、個室が3つと小用の便器が5つほど並んでいる。
「ゲームだから使わないんだけどなーー」
そう言いながらトイレに入る。ふと目に止まった『用具室』と書いてあるドアがあったので、意味なく開けてみる。
と。
「うわぁっ‼︎‼︎」
思わず大声を出してしまう。そこには断崖絶壁の山の姿があった。
「あっぶねぇ、落ちたら死ぬやんこれ。」
下を覗き込むと足元には何もなく、遥か下の方に雲がゆったり浮かんでいるのが見えているのだった。
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「あ。お兄ちゃん。こんにちは。」
「お。おぅ///」
休憩室のドアを開けるとアイラちゃんがいつも通り窓際に座っていた。
意識している訳ではないけれど、何故か心臓がドキドキする。
「『お使いクエスト』やっと終わったよ。アイラちゃんはどこか入った?」
隣の席に座りながらウシくんがそう聞く。
「ううん。どこにも入ってないよ。」
「そっか。」
ウシくんは自分も全部『保留』にしているのを忘れて、不思議そうに返事をする。
「えっとね…私は学校が始まったら、みんなを集めて『お花を育てるクラブ』を作ろうと思っているの。」
「えっ!」
「みんなでお水をあげなきゃ育たないお花もあるから…」
「そうなんだ…」
恥ずかしそうに、だけど、しっかり話しをするアイラちゃんに、ウシくんはちょっとびっくりしていた。
「私の『植物図鑑』はまだまだだけど、いつかは完成させたいと思っているし…それにね…」
「それに?」
「『宇宙草』シリーズを全部集めたいの。いま持っているのは…えっと…『水星草』と『金星草』。それと『火星草』と『彗星草』の4つだけなの。種は『砂金採り』の場所でとれるけど育ててみなくちゃ、どのお花が咲くかわからないから…」
「へーーすごいねーー…」
ウシくんはいつものアイラちゃんからは想像も出来ないほど熱く語る姿を感心と尊敬の目で見ていた。
「それでね。」
アイラちゃんはウィンドウを開き、透明のカスタムボックスを取り出す。4つのお花はボックスの中でゆらゆらと揺れている。
「おおーーーーっ…」
4つのお花はそれぞれ違うパステルカラーの色。不思議な光を放っている。
「キレイだね。不思議な色だなぁーーすごい事をしているんだ…」
ウシくんはそう言いながらカスタムボックスを覗き込む。
「うん。今度お兄ちゃんを招待するね。」
嬉しそうにアイラちゃんが言う。
「うん?」
「うん。私の事をちゃんと見て話しを聞いてくれる。お兄ちゃんはいい人です。」
「はい?」
と。
ーーーーーーピコーーーーン‼︎‼︎ーーーーーー
アイラちゃんの『ログインチャイム』が鳴る。
「あ。ソラさんログインしたみたいです。」
アイラちゃんがにこっと笑ってそう告げる。
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「ごめんね。先輩が熱だしてお休みになって、夜だけじゃなく一日中、今日と明日、バイトに入る事になっちゃったからゲーム出来ないです!」
ソラさんは休憩室に入るなり、そう告げた。
「いまとりあえず用意して、いまから行きます!みんなに伝えておいてね!」
そう言うと、ソラさんはバタバタとログアウトして行ってしまった。
ソラさんの姿が消えてから…
「わかりました。」
ウシくんが声をかける。それくらい忙しそうだった。
「ソラさん急いでたね。」
「うん。とりあえず『寮イベント』は来週だな。」
「?」
「なんか全員揃わないと『撮影』出来ないから。って原野が言ってた。」
「そうなんですね…」
ウシくんとアイラちゃんは、ソラさんが消えたドアを見ながら、呟くように話しをした。
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「とりあえず明日はレベル上げだな……あっ‼︎」
「どうしたの?」
「すっかり忘れてたけど、明日は約束があるんだった。」
「約束?」
「原野のお父さんの……」
ウシくんが、そう言いかけた時。休憩室のドアを開けて、野崎が入ってきた。
「おかえりーー」
ウシくんが声をかける。
「ただいまーー」
野崎もそれに応える。
「どうだった?終わった?」
「終わった『映像クラブ』に入った。」
「早っ‼︎」
「3ヶ月に一回。講堂兼体育館で発表会をするんだって。僕も出来るなら映画を作って発表してみたい。」
「え。すごっ。」
野崎はいつになくワクワクした様子でそう話す。
「出来たらオリジナルの曲も作って、それのミュージックビデオなんかを作りたい。みんなが元気になるような楽曲で。」
「……すごいな……2人とも…」
熱く楽しそうに話す野崎とアイラちゃんに同じ尊敬と感動を感じるウシくんだった。




