アイラちゃん
「だめだ!一度クリアしてるから牛原のとこに行けない!」
突然、耳に入った原野の声。
「えっ?」
「ワープゾーンが回っているだけだ!」
原野の悔しそうな声。
「そっか。」
ウシくんは親友のその声を聞いて、腹を括った。
「ま。一回死ぬだけだ。ゲームだし。」
そう言うと一人。改めて剣を構え直し、翼竜を見据えた。
ここはゲーム内。北の塔の最上階。一番最初のラスボス。
炎属性の翼竜を焔の剣で仕留める。ウシくんなりのこだわりだった。
「せいっ‼︎」
剣を振りかぶり、高く高くジャンプする。
と。
「聖時空‼︎」
後ろから突然、声が響く。
ーーーーーーーーピシッ‼︎‼︎ーーーーーーーー
いままさに炎を吐かんとする翼竜がいきなり凍りついたように凝固する。
「ええええええーーーーい‼︎‼︎」
ウシくんの改心の一撃が翼竜を捉えーーーーーー
ーーーーーーズダダダダーーーーン…ーーーーーー
物凄い地響きと舞い立つ砂煙と共に翼竜は地面へと失速した。
「え?アイラちゃん?」
ウシくんは着地しようとした体勢でアイラちゃんの姿を見た。
空中に浮かぶ開いた分厚い魔法本。杖も宙に浮いている。
両手を前に突っ張って、小さな学者のアイラちゃんがそこには居た。
と。
彼女はスッと右手を上げ、その途端キラキラキラッとウシくんの周りに光が舞う。
HPが全回復した。
「どうして?」
着地し、ウシくんが近づこうとした瞬間。
「お兄ちゃん‼︎」
アイラちゃんが声を上げる。
ーーーーーーバサササッ‼︎‼︎ーーーーーー
後ろで翼竜の羽根の音が聞こえた。
咄嗟。
ウシくんは『パーティ』のアイコンを押し、アイラちゃんとパーティを組み。
そして『スキル』のアイコンを押す。
そのまま、グルリ180℃走って回って、翼竜に『注視』を改めて発動する。
翼竜がウシくんと向かい合い、アイラちゃんに背中を向ける状態になったところで、ウシくんはアイラちゃんに声をかける。
「ありがとうー‼︎一緒に翼竜倒そうーー‼︎」
「⁈」
アイラちゃんはかけられた、ありがとう。の言葉に驚き、そして「うん。」とうなづく。
「はい。です‼︎」
大声でそう答えて、攻撃魔法の詠唱を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「本当にありがとう。アイラちゃんが来てくれなかったら絶対勝てなかった。」
ウシくんは翼竜をカード化する、光のアイテムを高く掲げながらそう言った。
掲げた指から飛び出したアイテムは翼竜の体の周りを光をこぼしながらクルクル回って…
ーーーーーーピシャーーーーン‼︎‼︎ーーーーーー
カードの中に翼竜を閉じ込めた。
「わぁ……」
アイラちゃんが駆け寄ってくる。
「ありがとう……」
もう一度ウシくんの心から出た、ありがとうを伝える。
「え…え…あ…ありがとう…」
戸惑いながら、アイラちゃんも、ありがとうを伝える。
その様子を見ながら、ウシくんの心には…
ーーーーーー助けてあげたい。しっかり頼られる存在になりたいーーーーーー
そう言ういままで考えた事がない気持ちが、ふつふつと溢れ出してくるのだった。
「お兄ちゃん。ありがとう……竜……前は怖かったんだけど……もう、大丈夫……お兄ちゃんのおかげです。」
アイラちゃんはそう言うとニコッと笑った。
「えっ…///」
何故か現実で顔が赤くなる。
ウシくんの手の上でクルクルと光をこぼし宙で回っていたカードは、ヒュン!と音を立て、ウシくんの持ち物に入る。
そうして…
ーーーーーーキュウウゥゥゥーーィンーーーーーー
高い音が鳴り、2人のキャラクターの体が眩しく輝き始め、ソルト大陸へのワープモードに入ったのだった。
「キレイ……」
「うん……」
次々と縦に飛ぶ、色とりどりの光に照らされて……
「キレイだなぁ……」
思わず、ウシくんはアイラちゃんを見て、そう呟いた。
「?」
不思議そうに見つめるアイラちゃん。
「あ。いや。その…髪が!///」
しどろもどろに言い訳をするウシくん。
「髪の毛?うん。ゲームの中では女の子らしくしたかったので、ピンクにしたの。本トの私は男の子みたいに短い髪だから……」
「え?」
今度はウシくんの方が不思議顔。
「昔はね『プリ○ュア』みたいに横で2つにくくってたの…でもね……」
「プリ○ュア…/////」
ウシくんの顔が現実で更に真っ赤になる。
「ちょっと怖い事があって……」
そうしてアイラちゃんは口を閉ざす。
そうしているうちに2人はワープが終わり、ソルト大陸へと降り立ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「牛原‼︎アイラちゃん‼︎よかった!クリアしたんだな!」
めっちゃ大声をかけて、原野が駆け寄って
くる。
「原野!」
ウシくんも手を振る。
「ちゃんと翼竜、カード化したぞ!」
「おおーーーーっ!やったじゃん!すげーっ!」
原野のテンションは更に上がる。
「アイラちゃんも良かった!大陸まだだったんだな。」
「うん。」
「一緒に『大イベント』行けるな!」
「あ。」
「そっか。」
原野の言葉に2人、顔を見合わせ、そしてうなづく。
「それにしても……」
ウシくんは周りを見回す。
「なんか、なんにも無い所なんだな。」
そこには吹きっさらしの空き地と、ところどころに木。川と橋。どこまでも続く平坦な大地があった。
「うん。『大イベント』クリアしたら賑やかになるらしいんだけど…いまは、あの木のほこらの地下に小さな村があるくらいで……」
「へーー」
「『王国のアイテム』集めも、いまはやって無いから…」
「そうなんだ…」
「だから、俺らはここでリタイアしてた。って訳。」
そう言って原野はペロッと舌を出す。
「うん。野崎は土日しかログイン出来ないし、俺はまだレベル低いし、クリアするのはまだちょっと先になりそうで、ごめん。」
「いいって!謝るな。」
原野は手を振る。
と。
2人は、心配そうに見つめている、アイラちゃんに気がついて。
「じゃ。帰ろっか!」
「学園に!」
そう、アイラちゃんに優しく話しかけた。




