北の塔の翼竜
「そうだ牛原。北の塔の『翼竜』必ずカード化しとくんだぞ。『デュエル』ではすげー役に立つらしいから。」
学園(仮)の休憩室で原野がウシくんにそう助言する。
「そっか、わかった。」
ウシくんは素直にうなづく。
「翼竜カード…」
ティアが呟く。
「ん?」
「あ。ごめんなさい。なんか思い出しちゃって…私、持ってるよ。」
そう言いながら、ティアはウィンドウを操作し『プレゼント』として、原野に贈る。
「え?いいのか?思い出の品なんだろ?」
慌てる原野。
「うん。いいよ。もう大きなイベントには参加しないつもりだから。」
「ティアちゃん…」
心配そうに、ソラさんが見つめる。
「あ。この学園モニターはちゃんと参加するよ。アイラちゃんが心配だし。」
慌てて手を振るティア。続けて…
「私ね…フイトスさんの話しを聞いて思ったの。『縁』があるなら、10年経っても、また会えるかも知れない。って。だから10年くらい待ってみようかな?って。」
「ティアちゃん…」
悲しそうにソラさんが声をかける。
「めっちゃ長いけどね。」
少し笑ってティアがそう答える。
ウシくんと原野は結婚式の二次会は出席していない。なので何の話しなのかは一切わかっていない。
けれど空気を読んで沈黙を保っていた。
と。
現実で後ろから声が聞こえた。
「ご飯出来たよーー!」
時間は既に6時を回っていた。
「あ。ごめん!俺、時間なのでログアウトします!」
慌ててウシくんがセーブをする。
「ホント!ごめん!」
謝りながらバタバタと騒がしく、ウシくんはログアウトしていったのだった。
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ーーーーーー次の日火曜日ーーーーーー
「あれから、ソラさん達と何か話しした?」
じいちゃん先生の塾の日なのでゲームはお休み。
「うん。実はサ……」
ウシくんの質問に、原野は昨日ソラさんから聞いた『フイトスさんの結婚』の話しをした。
「えーーそれって言っちゃ悪いけど、一番悪いの親じゃん。」
と、ウシくん。
「うん。俺もそう思う。『10歳年上だから認めない。』って言うか、10歳年上だから、早く結婚しなきゃだよな。」
「そうそう。」
「でさ。」
「うん。」
「『赤い糸』って本当にあるのかな?って思っちまった。」
「えーーーー」
「これが、女子は信じているんだな意外と。」
「へーーーー」
そんな話しをしながら、ウシくんは心の中で、アイラちゃんの姿を思い浮かべる。
原野はティアの心配をしていた、ソラさんの姿を思い浮かべる。
「でさ。」
「うん?」
「俺、いままでの俺の名言を改めるわ。」
「?」
「『俺に彼女が居ないなんて、有り得ない』から『年上でも全然OK!』に!」
「………。」
握り拳の原野に、言葉を失くすウシくん。
「変か?」
「……『ロリコン』はどうしたんだよ?」
ウシくんがツッコむ。
「それもアリ。」
「そっか。」
そこには、ゆっくり自転車を押してフェードアウトするウシくんがいた。
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ーーーーーー水曜日ーーーーーー
「さて。まだマノヤさんに会ってないし『お使いクエスト』も途中なんだよな……」
呟きながらウシくんはゲームの電源を入れる。
「どうしようかな…」
ログイン場所の最後に表示されている『レベリング学園(仮)』のアイコンを見て考える。
「うん。とりあえず今日はマノヤさんを探そう。」
ウシくんはそう決めて『東の町』のアイコンをクリックした。
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いつもの中央噴水の前。道具屋や武器屋が商店街のように並んでいる。
その場所から山の方を見上げると、山の上に黒々と大きなお城のような学園のシルエットが浮かんでいる。
手前には大きな看板。
『レベリング学園(仮)建設中』とある。
「ふぇーーーーっ……」
ウシくんが看板を見ていると、後ろで他のプレイヤーが話している会話が画面に表示される。
「なぁ。学園の詳細読んだか?」
「ああ、来年だろ?クリスマスの後。」
「めっちゃ先だよなーー」
そんな会話が聞こえてきた。
「そっか…」
ウシくんは姿勢を正す。
「しっかりしなくちゃな。」
学園以外で学園の話しは禁物。そう改めて自分の心に命ずるのだった。
「さて。」
ウシくんはウィンドウを出し、友達検索をする。
原野とアイラちゃんは『クエスト(S)中』と出る。
ーーーーーーたぶん(S)はスクールの事だよなーーーーーー
ウシくんは心の中で呟く。マノヤもログインしている。けれどその先は……
「『ソルト大陸』か…」
そう呟くウシくんはまだ大陸には渡っていない。
「ちょっと北の塔に行ってみるか……」
そう言って、ダッシュで北の塔へ向かうウシくんだった。
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『北の塔』
シュガーランド北に位置する5階建ての塔。
入り口には『守り人』がいる。
4階までは宝箱が多く、比較的弱めのモンスターが出現する。
5階屋上にはラスボス『翼竜』がいて、倒すとソルト大陸へのワープゾーンが解放される。
ソルト大陸には『リインブルク城』が建っていて『(元夏の)大イベント』に挑戦できる。
ウシくんは『ハロウィンイベント』で既に『リインブルク城』へは足を踏み入れているが、それは本ストーリーの正式なルートではないのだった。
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「ヤバっ‼︎」
ウシくんは床に現れる翼竜の攻撃範囲から逃れ、回復薬を使う。
ダンジョン内のあちらこちらに宝箱が落ちているので、つい夢中になって開けて回っているうちに、いつの間にか5階の翼竜のいる屋上に足を踏み入れてしまったのだった。
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ーーーーーー時間は少し前ーーーーーー
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ーーーーーーピコーーーーン‼︎‼︎ーーーーーー
学園にログインしているアイラちゃんの表示に『ログインチャイム』が鳴る。
「あ。お兄ちゃん、ログインしたみたいです。」
「お兄ちゃん?」
「あ…えっと…ウシくんです。」
ここは学園内休憩室。
『お使いクエスト』途中のアイラちゃんと、『お使い』は終わったけれど全員集まらないと発動しない『寮イベント』待ちの原野が居た。
「そっか『お使い』終わったかな?」
のほほんと原野が言う。
「えっと…お兄ちゃんは東の町にログインしたみたいです…」
「えっ?なんで?」
「それで…えっと…北の方に移動しています…」
地図の表示を見ながら、アイラちゃんが説明する。
「北⁈あいつ、北の塔の翼竜を倒しに行ったのか⁈」
原野が大声を出す。
ビクッ‼︎‼︎
と、アイラちゃんが怯える。もちろん大声に驚いたのもあるけれど、実は翼竜にはトラウマがある。
まだレベル20くらいの時。父親のノブナガと一緒に塔に登ったのだが、
その禍々しい翼竜の姿に驚いて泣き出し、父親と共に一旦退去した。
その後、父親のノブナガは1人で翼竜を倒したが、アイラちゃんはレベルの上がった今もまだ翼竜を倒してはいないのだった。
「ちょ!行ってくる!」
アイラちゃんに声をかけ、原野は北の塔へとワープした。
「あ。まっ…」
思わずアイラちゃんもワープする。
ヒュン!
とワープした先は、あの、北の塔。
先に着いた原野は走って塔の中へと入ってゆく。
ーーーーーー大丈夫!1人じゃない!怖くない!ーーーーーー
心の中でそう叫んで、アイラちゃんも続いて塔の中へ飛び込む。
レベルの低いモンスターは襲って来ない。
流れるように階段を登り、5階へ辿り着こうとした、
その時。
先に5階に登った原野の声が響く。
「だめだ!一度クリアしてるから牛原んとこに行けない!」
「「えっ⁈」」
「ワープゾーンが回っているだけだ‼︎」
原野のその声は、ウシくんとそしてアイラちゃんに届いていた。
ーーーーーーじゃあ、私は?ーーーーーー
アイラちゃんは翼竜のいる5階へと足を踏み入れる。
そこに広がっている世界は…
巨大な翼を大きく広げ、いまにも炎を吐こうとする翼竜と
その足元で剣を手にいま、まさに飛び上がろうとするウシくんの姿だったーーーーーー




