ウェディングイベント
「申し訳ないが、用事を思い出したので、私は抜けさせてもらおう。」
真剣な声で突然、ノブナガさんがそう言った。
「あ。はい。」
呆気にとられるソラさん。
「お疲れ様ですーー」
優しく手を振るフイトスさん。
「アイラ。帰るぞ。」
ノブナガさんがアイラちゃんに声をかける。カワウソさんに貼りついたままのアイラちゃんは、ノブナガさんをチラッと見て、諦めたように
「はい。パパ。」
と、言った。
と。そこで。
「ノブナガさん。」
改めてフイトスさんが声をかけた。
「ウェディングイベントはレアだし、ここはアイラちゃんに見てもらう。って言うのはどうでしょう?」
そう提案した。
しばらくの沈黙ののち…
「わかった。では、よろしく頼む。」
そう言って、ノブナガさんはログアウトしていった。
微妙な空気の中。ウシくんがスタスタと前に出て、アイラちゃんが落とした学者の四角い帽子を拾った。
「はい。」
差し出された帽子を見て、アイラちゃんは始めはキョトンとして、それから
「ありがとう、お兄ちゃん。」
そう言って、帽子を受け取った。
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「それにしても遅いわね。」
ソラさんが呟く。待ち合わせ場所は、南の町。通称はじまりの町の教会の前。
立ち止まったままのパーティを見て、通りがかった他のプレイヤーも立ち止まる。
「ここで何かあるんですか?」
「良かったら一緒にどうですか?ウェディングイベントを開催するんです。」
フイトスさんが説明をする。
「おっ!レアじゃん!」
「なになに?」
次第に人が増えてゆき、それはまるで、一昔前に流行った『ポケ○ン○ー』のイベント待ちみたいな渋滞を引き起こしていた。
中には「間に合いましたー」
「リヒトくんっ!」
ティアのお兄さんのリヒトも合流した。
「おぅ!すっごい人じゃん!何かあんのか?」
「ばかね。ハロウィンパーティしてくれる。って言ってたでしょ。」
「「「月夜さん!ラトシアさん!」」」
全員の注目を浴びるなか、やっと、主役の登場となった。
「いやーーーーっ。いろいろ暗証番号とか、ログイン番号とか、面倒くさくってよーーーー。あ!リヒト!元気だったかーー?俺が居なくて寂しくなかったかーーーー?」
そう言って、ラトシアさんはリヒトの背中をバンバン叩く。
「それにしても、すごい人ね。」
「月夜さん。待っていました。」
ソラさんがニッコリ微笑んで近付いてくる。
「えっ?」
ーーーーーーキラッ☆ーーーーーー
一筋の白い光が辺りをパッ‼︎と輝かせる。続いてフワッと純白のレースのヴェールが舞い、ウェディングドレスを着た、月夜さんが現れた。
「ソラさん⁈」
驚く月夜さん。
「はい。これが私の最高傑作♡」
「「「「うわぁーーーーっ‼︎‼︎」」」」
途端、一斉に拍手。口笛の音も聞こえる。
「花嫁さんが現れたーーーー」
「キレイーーーー♡」
「なんだ?なんだ?」
大盛り上がりの中。続いてソラさんはラトシアさんに近づく。
「男性キャラに変わってくれますか?」
「い…いやだ。」
「タキシード着てくれますか?」
「…いやだ。」
「私が前に作った、ライダースーツ着てくれますか?」
「……いやだ。と言ったら?」
「これだっ‼︎‼︎」
今度は白い煙が、ボワッと舞い上がる。現れた姿は……
「「「「ぎゃははははっ‼︎‼︎」」」」
一斉に笑い声がこだまする。
ラトシアさんが着せられた、それは…
『富士山』の着ぐるみだった。
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「世間は狭い……」
マノヤはそう呟いて、全体魔法の詠唱を始める。
「あの辺、『着ぐるみ戦隊。なんとかジャー』みたいですよねーーーー」
フイトスさんは楽しそうに回復魔法を飛ばす。
結婚式が始まってまもなく、魔王が花嫁の月夜さんと新婦側のメンバーを攫っていってイベントが始まった。
こちら、新郎側のメンバーも自動で振り分けられたのだが、
前衛ーリヒト。カワウソさん。ウシくん(何故かハリネズミを着ている)
中衛ーラトシア(何故か気に入って富士山のまま戦っている)
ので、後衛から見ていると着ぐるみがわちゃわちゃしているように見える。
「実は自分も『カンガルーの着ぐるみ』持ってるんですよ。着ちゃおかなー。マノヤさんは何か持ってますか?」
フイトスさんの問い掛けに
「めぼしいものは何も……」
と答えるマノヤ。
「僕、『クジラの着ぐるみ』持ってます!」
「おおーーっ‼︎」
答えたのは飛び込みでイベントに参加した、水系魔法使いのプレイヤー。
「よし。着替えよう!」
と、フイトスさん。と、ボン‼︎ボン‼︎と2つの白い煙が立ち上がり。
カンガルーとクジラが現れる。
「ここは楽しい世界だなぁ…」
マノヤはこそっと呟いた。
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魔王を倒し、イベントが終わって、引き出物のように、コインと『レアカードの詰め合わせ』と『ハートの着ぐるみ』が配られた。
『ハートの着ぐるみ』に関しては「いらねーーー」の声、多数だったが、売るとかなりいい値が付いたりするのだった。
新婦側のイベントも遅れて終わったらしく新郎側と合流し始めたのだが、何故か新婦側のメンバーの様子が暗い。
と、アイラちゃんがウシくんを見つけて駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、いっぱい、いっぱい、いっぱいだったの‼︎」
「へ?」
テンション高く話しかけるアイラちゃん。要領を得ないウシくん。
そこへ、ソラさんが来て説明を始める。
「私達は地下からの脱出イベントだったんだけど…途中で大広間があって…そこで金色のスライムが出てきて…」
「「「金色のスライムっ⁈」」」
男性陣のテンションが上がる。
「めちゃめちゃ沢山スライムは出たんだけど…ともかく動きが素早くて、触る事も出来なくて…結局、誰1人として、1匹も捕まえる事が出来なかったの。他のパーティはどうだったかわからないけどね……」
「「「あーーーーっ……」」」
「ホント、もったいない…ティアちゃんなんか泣いちゃってるし……」
「「「…………。」」」
見ると。
「うーーっ…」
と、膝を抱え、体育座りで泣いているティアがいた。
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『新郎ラトシアは、新婦月夜を生涯のパートナーとし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に進み、他の者と協力し、如何なる時も愛を誓い妻のみに添う事を神聖なるマナウェルの神の契約のもとに誓いますか?』
「誓います。」
「誓います。」
『宇宙万物の創造者マナウェル神よ。本日、結婚の誓いを交わした二人の上に満ち溢れる祝福を注いでください。
困難なクエストにあっては慰めを、また多くのフレンドに恵まれ、実り豊かなゲーム生活を送ることが出来ますように。
では、御参列の皆さん。お二人の上に神の祝福を願い、神が慈しみ深く守り、助けて下さるよう祈りましょう。』
ーーーーーーカーン…カーン…ーーーーーー
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鐘の音が響き渡る中、無事に式は終わり。マノヤさんが白の王宮用の馬車を出し。
ついでに狛犬型の召喚獣『ベリー』と『アロン』を呼び出し、記念撮影会が始まった。
飛び入り参加のプレイヤーも滅多にないレアな結婚式イベントなので、なかなか撮影会は終わらない。
そんな中
「アイラちゃん!」
「えっ?」
ウシくんはありったけの勇気を振り絞り、アイラちゃんに声をかける。
「一緒に写真。撮ってくれませんか⁈」
アイラちゃんは一瞬驚き。そして笑顔になって
「はいっ!」
と、楽しそうに返事をした。




