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こぼれ話あれこれ

『勝者。挑戦者ウシくん!』


審判の声が響く。


「ふぁーーやっと終わったーーー」


ウシくんは深い深いため息をついた。


『おめでとうございます。あなたに『雷』のスタンプを授けます。』

そう言って審判の方が用紙にスタンプを押してくれる。


『おぅ!よく頑張ったな。えらい、えらい。』

そう言いながら、フルメンはウシくんの頭をクシャっと撫でた。

それから、ウシくんはコインと雷の宝石。金色の透き通ったスキルキャンディを無事6時前に受け取ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーー次の日 金曜日ーーーーーー


この日、高田塾。通称じいちゃん先生塾の生徒はワクワクしながら早くから集まっていた。

じいちゃん先生の奥さんが祭り事が好きで、ひな祭りや端午の節句に、ぜんざいやおはぎ、ヨモギ餅など。

バレンタインにはチョコ、クリスマスにはお菓子の詰まった小さなブーツなど、生徒のみんなに配ってくれるのだ。

明日はハロウィン。今年は何かな?とみんなワクワクして集まって来ているのだった。


「あれ?」


原野は一番後ろの席から周りを見回す。

「やっぱり来てない。」

小さな塾なので、人数は8人くらい。なので来てないとすぐわかる。


「…まさか…あいつ…家でゲームして忘れてるんじゃ…」


と、そう思いはじめた、その時。


「すみません!自転車がパンクしてて!」


バタバタと、牛原こと、ウシくんがやって来た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こぼれ話①

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「はい。どうぞ。」


塾が終わり、じいちゃん先生の奥さんが、オバケやカボチャの絵のついた、可愛いクッキーを配ってくれる。


「すげーっ‼︎おばさんが焼いたんですかっ⁈」


初めて奥さんから貰う、ウシくんはテンション高くびっくり声を上げる。


「あんまり上手じゃないかもよ。」

そう言う奥さんはやっぱり嬉しそうだ。


「そんな事無いですっ!めちゃめちゃ嬉しいです!ありがとうございます‼︎」


「そぉお?よかった。」

奥さんは照れくさそうに、そう言った。


人は褒められると恥ずかしさも相まって、嬉しさも上手く伝えられない人もいるけれど、ウシくんのハッキリした言葉は、本人は気づいていないかも知れないけれど、その周りにいる人々、みんなを本当に嬉しく、ほっこり、幸せにする。

魔法のような力を持っていると思うのだった。


そうして奥さんは

「さぁて、次は何にしようかねぇ。」

そう嬉しそうに呟くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こぼれ話②

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「自転車パンクしてたって?」


塾の帰り道、原野が聞く。


「うん。ここんところ時々…500円。後で母さんにパンク代貰わなきゃ。」

「500円?高いな、あのガレージの300円のとこは?」

「あーー…あそこさぁーー…」


原野の問いに、牛原こと、ウシくんは言葉に詰まる。


「…あそこは潰れたよ、だいぶ前にパンクで行ったら、突然800円って言われて…」

「えっ⁈なんで⁈」

「わかんない。でも一応『300円じゃないの?』って文句言って、でも800円その時払って、でも腹たったから、しばらく行かなかったら、こないだ近くを通ったら潰れてた。」


「自業自得。ってヤツだな。」

「うん。」


「その事を母さんに話したら…『安易に値上げするより、他の方法を考えなきゃならないよね。』って。『一回失くした信用は、取り戻すのに何年もかかるのに。』って。」


「深いな…」

「深いよ…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こぼれ話③

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そうして、しばらく歩くと原野の家の前へと着いた。塾から一戸建ての原野の家は近いのだった。


「おぅ。お帰り。」

と、突然2人は後ろから、原野のお父さんに声をかけられた。


「父さん。」

「いま帰りか?」


会社帰りのお父さん。本当に日本のサラリーマン。と言う感じでスーツにネクタイ姿。少し日焼けしたお父さんだった。


「あ。原野、じゃあ。」


そう言って、ウシくんは手を振り、自転車に乗ろうとする。

と。


「牛原くん。」

「はい。」


お父さんに声をかけられ、ウシくんはブレーキをかける。

「再来週の日曜は空いているかい?」

「え?はい。空いていると思います。」


「じゃあ、一緒に『サバゲー』行かないか?ソフトが終わったら迎えに行くから。」

「え?サバゲー?」

不思議そうなウシくん。


「『サバイバルゲーム』だよ。本物じゃないけど、銃持って戦うヤツ。で、本当?」

いつになく嬉しそうに原野が聞く。


「ああ、本当。お前行きたがってただろう?」

「うん。行きたい!」


父と子の楽しそうな会話。実はウシくんには父親がいない。記憶にもない。

なので、それは少し遠い景色のようにも見えた。

原野のお父さんは以前、野球観戦にも連れて行ってくれた。父親のいない、ウシくんを気遣ってくれる、優しい大人の男の人。という感覚だ。


「牛原。一緒に行こうなっ‼︎」


「本当にいいんですか?」


原野の言葉に、ウシくんは原野のお父さんに質問した。


「もちろん!」

そう言って、わざと胸を叩くお父さん。優しさが沁みる。


「ありがとうございます!」


ウシくんは明るく、元気よく返事をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こぼれ話④

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「母さーん。ごめん。500円。自転車パンクしててさぁ……」


家に帰るなり、ウシくんは台所にいる母親に声をかけた。


「えーーまたーー?最近多いねぇーー」


エプロンで手を拭き、タンスを開ける。

「はい。」

財布から500円玉を出して、ウシくんに握らせる。


「ありがとーー!」


明るく元気に受け取るウシくん。その顔が何故か小さい頃とオーバーラップする。

台所に戻ると姉のゆいが声をかける。


あゆむのばっかり、おかしいよね。」

「そうね。」

「犯人、誰なんだろ…」

「さぁ…」


自転車のパンクは高校生で自転車通学なら、本当に大問題だ。だけど、まだウシくんは中学生で、まだちょっとだけ余裕があった。

母親の瑞希はいま、小学一年生の歩の笑顔と、今の歩の笑顔が重なりあって見えていた。


そう、あれは入学まもない頃ーーーーーーーーーー


「母さん!誕生日プレゼント買うから、お金貸して!」


学校から帰って、公園に遊びに行った歩が、息を切らして帰って来た。


「うーん…500円くらいでいいかな?」


そう言って瑞希はお金を握らせた。


「ありがとーーーー!」


満面の笑みで受け取る歩。


その日の晩ご飯時に、公園で遊んでいた男の子が4月の今日、誕生日で、お誕生日会をやった事がない事。シャボン玉のセットを買った事。の話しを聞く。


そして、それから2日ほどたった日に、若いお母さんに呼び止められる。


「ありがとう。うちの子の誕生日を、牛原くんが祝ってくれて!みんなで公園でシャボン玉を吹いて、『おめでとう!』って言ってくれた。って、あの子、本当に嬉しそうに……」


最後は涙声でそう教えてくれた。


「いえいえ、何も……」


そう言いながら、瑞希にも涙が浮かぶ。お誕生日プレゼントって言いながら、みんなで使ったんだ…シャボン玉を選ぶ。ってところも不思議だな……


思い出して目を閉じた瑞希のまぶたに幻のシャボン玉がたくさん飛んでゆくのが見えた気がしたのだった……






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