番外編ラトシアと月夜とヤマノ
ーーーーーー少し話しが遡って9月ーーーーーー
ーーーーーーとある駅前の宝くじ屋さんの前ーーーーーー
「うぉ?」
そこに一房だけ金髪に染めた20代と見える青年がいた。
「おおおおぉ……マジか‼︎」
青年が買ったのはスクラッチ。『本日大安』と書かれた旗にひかれて一枚だけ買ったスクラッチくじで、なんと50万円を引き当ててしまったのだった。
「やったぜーー‼︎」
青年の軽く大きな声が辺りに響き渡っていたのだった。
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ーーーーーーそれから10月初めーーーーーー
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お昼の駅前の定食屋さん。
「あ。ヤマノ見っけ。」
ひょこひょこと歩いて近づいてくる、その青年は酷くやつれた感じになっていた。
「トシヤ?」
いつも通りという感じでパソコンを操作していた、ヤマノと呼ばれた人物が顔を上げる。トシヤと呼んだ青年の姿を一目見て…
「どうした?なにかあった?」
心配そうに声をかける。
「あぁ…ちょっと調子にのっちゃってサ…」
「調子?」
「借金100万ほど抱えちまった…」
「はあっ⁈」
ヤマノは思わずテーブルに手をかけ半分立ち上がろうとしパソコンを落としてしまいそうになる。
「スクラッチで当たってサ…」
「は?」
「そのまま酒呑んで…」
「は?」
「お姉ちゃん達が可愛くて…」
「は…」
「通っているうちにお金なくなって…」
「……」
「パチンコや競馬も負けがこんで…」
「……」
「つい、金、借りたら…」
「……」
「気がついたら100万よ…」
「…バカか。」
「俺、どうしたら、いいと思う?」
上目遣いで、ヤマノを見るトシヤ。
「働いて返す事だな。」
少し冷たくヤマノは言い放つ。
「それ、月夜にも言われたんだよなぁ…」
テーブルに突っ伏して、トシヤは崩れる。
「賭け事、ギャンブルの類いは9割が当たらないと決まっている。」
「1割は?」
「キセキだ‼︎」
バン‼︎と、ヤマノは怒りに任せてテーブルを叩いた。
「お前が怒るの初めて見たよ。」
何気なくトシヤが言う。
「じゃあ、怒らせるな。」
童顔でいつも優しい感じの、ヤマノの背中で何か黒い怒りの渦のようなものがゆっくりと渦巻いている。ような気がした。
「家賃や光熱費は?ちゃんと払えているのか?」
「家賃は親が出してる。」
「実家はどの辺?」
「2つ向こうの駅…」
「じゃあ、実家に帰れ!いまの家は一人暮らしなら解約しろ!」
「え…ぇ…」
「家はいまどんな状態だ?電気やガスは?」
「電気は止まっている…てか、家に帰ると借金取りが来て、ドアをドンドン叩くから帰りたくない…」
「……マジか。」
ヤマノは少し考えて、スマホを手に席を立ち、どこかに電話をし始めた。しばらく経ってヤマノは険しい顔をして席に戻って来た。
「トシヤ。家に案内しろ。消費者金融の請求書は捨ててないだろうな。ウチの弁護士を呼んだから、借金の整理をする。」
「ひぇ…」
「いいか。酒と女は破滅の入り口だ。」
「えぇっ…」
「弁護士代は、僕が出す。借金は銀行一括にまとめて、そこへ返済してゆく。月々の返済金額は銀行と相談しろ。こんなケースは初めてだから僕にも、よくわからない。しっかり働いて、しっかり返せ。いいな。」
「…はい。」
いつも軽く明るいトシヤは、ヤマノの真剣な態度に圧倒された。
それと同時に自分が軽々しく借金をした事の後悔を、いま身をもって感じるのだった。
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「と。いう事で、この家。近所迷惑にもなってるから出て行く事になったんだ。スマホも一旦全解約。」
ここは『レベリングライフ』のゲーム内。チャットを使って、トシヤはキャラクター名、ラトシア。として月夜と話しをしている。
『お姉ちゃん達』にお金を使った事は月夜には内緒にして。
「そうね。それがいいわ。それにしても、凄い友達持ってるのね。」
「うん。ヤマノはすごい奴だった。俺、改めて尊敬してるもんな。」
「そうね。あ。それから、メモリーにゲームデータ転送した?」
「うん!転送した。」
「そう。それがあれば、ネットカフェからでもログイン出来るからね。」
「月夜…さん。」
「はい?」
「こんな俺って、呆れた?みっともない?」
「うん。みっともないよ。」
「がーーーーん‼︎やっぱりかーーーーっ‼︎」
トシヤこと、ラトシアは大袈裟に言ってみせる。
「とりあえず、私のラインの番号教えるから、新しいスマホにしたら連絡ちょうだい。」
「マジですかっ?」
「はい。真面目によ。」
「本当ですかっ⁈」
「これでも心配してるのよ。」
「ホント…?」
「本当。」
「……付き合ってくれますか?」
「ダメ。」
「がーーん‼︎…リアルで一回だけ会う。って言うのは?」
「それもダメ。」
「がーーん‼︎やっぱりかーー‼︎」
「とりあえず働いて、借金返して。お話しはそれからよ。わかった?」
少し微笑んだ感じの優しい声の月夜。少し呆気にとられるラトシア。
「……ごめん。俺、頑張って借金返すわ……」
静かにそう言った。
「頑張ってね。じゃあ。」
そう言って月夜は手を振ってログアウトして行った。
しばらく残されたラトシアはそこで立ちつくす。
「……俺。頑張るわ。俺のたった1割のキセキは月夜さん。君かも知れない。」
そう呟いて。




