エピソード
「ま。いいか…原野も気が向いたらログインする。って言ってたし…」
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ゲームの起動音が鳴る。登録しているキャラクターの表示。場所。持ち物。ステータス。
「そういえば、サブジョブも育てておいた方がいいのかな?」
ウシくんのメインジョブは剣士。レベル30まで上げて『侍』にする予定。
ゲーム中盤まではサブジョブは1つ。レベル60まで上げると5つまで増やせるらしい。
ステータス画面を開ける。サブジョブはまだ真っ白だった。
「まだ真っ白。という事は、自分で選べるのかな?」
ウシくんは試しにサブジョブのアイコンをクリックしてみる。と。パッ‼︎とジョブ選択画面へと変わった。職種はメインと同じく20種類以上はあろうか。
「うーーん……」
画面を前に、ウシくんは悩む。アイラちゃんは学者。空中に本を浮かべ主に攻撃魔法を使う。
ティアさんは魔法使い。杖を使い回復と攻撃。どちらもこなす。
ソラさんは戦士。斧や大剣を使い、時々魔法も使う。
選択画面をザッザッザッとスクロールしながら考える。
「魔法を使えて中距離攻撃が出来るのがいいな。」
ウシくんはそう呟いて『レンジャー』で手が止まった。初期は弓。レベル30から銃も使える。どちらも魔法をのせる事が出来る。
「焔の弓とか、焔の銃とかって、カッコいいよなぁ…」
『レンジャー』はレベル30まで上げると『スナイパー』にランク上げが出来る。中距離攻撃で使い勝手が良い。
「うん。とりあえず『弓』見に行こう。」
ウシくんはログインした東の町の道具屋へと足を向けた。
「うわ。弱っ!」
初期装備の弓は本当に普通の弓。カスタマイズして貰った剣と比べると攻撃力は本当に雲泥の差。
「そっか…」
ウシくんは、ソラさんがサブジョブに『鍛治師』を選んだ理由が分かる気がした。
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「歩。野崎くんのお母さん入院したって?大丈夫なの?」
晩御飯時、母親の瑞希がそう聞いてきた。
「うん。大丈夫。2〜3日で退院出来るって。」
口にご飯を放り込みながら、ウシくんこと、歩は答える。
「そう。それならいいんだけど…」
ホッとした様子で瑞希は答える。
「なぁに?何かあったの?母さん。」
2人のやり取りを聞いていた、姉の結がそう問いかける。
「ううん。何にもないよ。ただ後で後悔しないようにしなくちゃね。という事だよ。」
そう言いながら、母親の瑞希は高校生の時のあの苦い、苦しい後悔の日々を思い出していたのだった。
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それは夏の終わり頃。瑞希は友達と2人でスーパーの店出しのバイトを始めた。
学校が始まって、ちょっとバイトが辛いな。って感じ始めた頃に友達が入院した。
それを学校の朝のホームルームで聞く。
「大丈夫かな?」
とは思ったけれど、瑞希はその日もバイトだった。
なので、お見舞いに行く、みんなと別れてバイトに行った。
そうしてバイトが終わって帰宅すると、彼女から家電がきた。
「ずる休みなんかじゃないからね!本当に体調壊したんだからね!」
強い口調でそう言われて、瑞希はほとんど何も言わずに電話は切れた。
まだ携帯電話も無い時代。10円20円で時間がなかったんだと推察する。
けれど。
「私は『ずる休み』なんて、一言も言ってない。普通に心配してた。なんでそんな事を言うの?そんな事を言うような友達だと思っていたの?」
そこのところが、ひどく引っかかってしまって、瑞希はお見舞いに行かなかった。彼女はバレーボールの部活もやってたし、元気だったから、すぐに治って帰ってくると思っていた。思い込んでいた。
でも。
一ヶ月後に彼女は亡くなった。
瑞希は何故お見舞いに行かなかったんだろう。どうして彼女はあんな事を言ったんだろう。と、ひどく後悔をした。
それは悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。後悔の念。
その小さな理由は今なら分かる。お見舞いに行った友達がふざけて…
そんな事を言って…彼女はその言葉をそのまま信じて…
瑞希は今でも悔やんでいる。それは、何故、あの時。
変な意地をはらずに、すぐに、誤解を解く為に、お見舞いに行かなかったんだろう。
二度と会えなくなるなんて思ってもみなかった。
あの時の私は本当に酷い。ごめんね。ごめんなさい。
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「大丈夫だよ。」
唐突に歩の言葉が入ってきた。続けて…
「なんだかは分からないけれど、後悔して、反省して、それは、たぶん伝わっていると思う。だから大丈夫!」
そう言った。
「なーによ、何が大丈夫なのよ。」
結が呆れるように言う。
「たから、分かんないけどだよ。」
歩は焦りながら、そう答える。
2人のやり取りを母親の瑞希は驚いて見つめて、そして少し微笑んで……
「ありがとう。」
小さな声でそう言ったのだった。




