事実は小説よりも奇なり
むかし、ムカシ、その昔。ある所に駆け出しの売れない作家がいた。
ある日の事。
駆け出しの売れない作家は、満を持して書き上げた小説を発行所に持ち込んだ。だが、その小説は哀しくも没となり、採用もされずに破棄されてしまった。
それから半年後。
新聞の社会面の片隅に小さな小さな三面記事が載った。社会面に載ったその三面記事は、驚いたことに駆け出しの売れない作家が小説に書いた作品と同じ内容の事件だったそうな。
その事件が起こってからの以後、それと同じような小説や物語が次から次と書かれたり描かれたりするようになったと
360言う。
事実は小説よりも奇なり。
散歩していると、
「ワンワンワン!」
突如、どこからともなく犬の吠える声がけたたましく聞こえてきた。
「?」
犬の吠える声に過敏に反応して立ち止まり、耳をダンボにし澄ませて聞いているうちに、
「じゅんぎ君の飼犬だ」
そう思って、辺りを360度隈なく見廻したけれども、どこにもじゅんぎ君の飼犬の姿はなく、だからとて、他の犬の姿もなかった。ただ、そこには休息中の1羽のカラスが木の枝に止まっているだけだった。
野生動物ではあっても、巷では頭脳明晰と誉れ高いカラスのこと、まさかとは思うが一応取り調べる必要があるだろうと、
「わんわんわん」
と、そのカラスに向かって吠えたてて見た。
だが、カラスは鳴くどころか一瞥して飛んで行き、再び、別の木の枝で羽休めした。やっぱりカラスはカラスだなと眺めていたら、カラスが、からすがッ、烏が!、鴉がッ!
「ワンワンワン!」
嘘か実か、吃驚仰天の果てに狐につつまれたような顔でポカンと見詰めていると、
「ニュニャニャ!」
突如、また、どこからともなく今度は猫の鳴き声が聞こえてきた。流石のカラス猫までも、と思いながらもどこかでそんなわけがないだろうと疑い、今一度360度、隈なく周囲を見廻した。やはり疑った通りに、瞳のカメラに映ったのはカラスではなく、お尻振り振り塀の上を通ってくる本物の猫の声だった。もしやもしや、
「じゅんぎ君の」
「何や?」
「猫が、猫がッ」
「喋るわけないやろ」
「びぇ~~~~ッ!?」
じゅんぎ君が、塀の上からひょっこりと顔を出した。
「何でやねん!」
追いつ追われつ、抜きつ抜かれの攻防戦の末に向かった先は、とその前に、じゅんぎ君が予期に反して、行き成り急ブレーキをかけ立ち止まった。
「カラスが、カァカァカァやのうて」
「ワンワンワンて鳴いた」
「ほんまか?」
「ほんまや」
「ほんまにほんまか?」
「ほんまにほんまや」
「事実は小説よりも奇なりやな」
カラスの話を信じてくれたのかどうか、
「それは、君次第やで」
じゅんぎ君は前方を指差して言って、再び走り出した末に辿り着いたのは、日本の代表的な三つの景勝地、広島の厳島・宮城の松島・そして、三つ目の京都の天橋立だった。
白砂青松で知られる天橋立は股覗きで有名だ。天橋立の方向に背を向けて立ち、腰を曲げて股の間から景観を眺望する。するとその景観は一変する。
「見えたか?」
「じゅんぎ君は?」
「見えた」
「ほんまか?」
「ほんまや」
「ほんまにほんまか?」
「ほんまにほんまや」
「ほんまは」
「疑ってんのか?」
「うん!」
「なんでやねん!」
海が空に、空が海になって、天橋立は天に舞い上がる龍のように見える。そこから、『飛龍観』と呼ばれている。
そして、冬の寒い朝は別の顔を見せる。
凍った松葉に新雪が積もって真っ白に雪化粧される時、日が昇り暖かくなれば消えてしまう幻の風景、この貴重な景色は、『幻雪の飛龍観』とも呼ばれている。
「please」
突如、またまた、どこからともなく幼子心の君の切なそうな声が聞こえてきた。
【 ネバーエンディング・ストーリー 】
1984年:西ドイツ
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
原作:ミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』
ファンタージェンは人間の空想の世界で、全てのものは人間の夢と希望によって出来ている。けれども人間が、夢も希望も捨てたがために、虚しさや絶望が無の力を強めた。現実と空想世界を描いたファンタジー物語。
「聞いたか?」
「うん聞いた」
周囲をあちらこちらと見廻していると、
「楽しんでや」
犬の顔をした白い竜のファルコンが言った。
「ひぇ~~~っ」
じゅんぎ君と一緒にファルコンの背に乗って空を飛んでいた。