~天才のギルド(上)~
ギルドの内装は所謂『ギルド』だった。依頼板、受付、酒場、換金所など、ゲームなどでよく見るようなコーナーがゲームなどでよく見るようなレイアウトで設置されている。
「あのっ、サイさんっ!」
ギルドを見回していると、ロインが声をかけてきた。
「どうした?」
「少しのどが渇いたので、飲み物を飲んできてもいいですかっ?」
まあ、先程まで叫んでいたのだ、無理もない。
「ああ、勝手にしてくれ」
そう言って俺はロインを送り出した。ここまできたら一人で十分だろうからな。
さて、本題に戻ろう。確か俺が必要としているのはギルドカードだったな。ギルドカードを取得するならおそらく受付だろう。そう考え、俺は受付に向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件ですか?」
カウンターに立つと受付の女性が定型文で話しかけてきた。
「ギルドカードを取得しにきたんだが」
「ギルドカードの発行ですね」
そう言うと女性は棚から一枚の紙を取り出した。
「では、こちらに名前と登録するクラスを記入してください」
なるほど、確かに情報を登録をしないとギルドとしても管理しづらいな。ギルドというのも少しはやるらしい。だが、登録するクラスとは何だろうか?
「登録するクラスというのはどういうことだ?」
「登録したクラスがあなたのギルド公式クラスとなります。登録してあるクラスによって与えられる権限や特典が異なります。例としては商人が物を売る権限、薬師が商用で薬を作る権限を与えられることや、剣士が剣を購入するときに値引きされることなどが挙げられます。これらは他のクラスでは与えられないものになります。また、登録していないクラスの権限と同様のことをするとギルド規約違反となり、登録停止処分が科されます。一応登録後に手続きをとってクラスチェンジをすることもできますが、登録手続きより手数料がかなり増えるのでクラス選びは慎重に行った方がよいと思います」
「なるほどな」
そうなると確かにクラスは重要なようだ。俺のクラスはもう決まっているが、いつか他のクラスになることがあるかもしれないな。そう考えながら俺は紙に必要事項を書き、受付に提出した。
「………ん?」
紙を受け取った受付の女性が怪訝そうな顔をしている。俺が何かまずいことを書いたのだろうか。
「どうした?」
「あの、この登録クラスの欄なんですが」
「ああ、俺は『勇者』と書いたが、それがどうかしたのか?」
「『勇者』というのは称号であってクラスではありません。申し訳ありませんが書き直していただきます」
「………そうなのか」
勇者がクラスではないとは。さすがの俺も少し動揺してしまった。当たり前といえば当たり前の話だが、元の世界の常識がここでも通じるとは限らないわけだな。俺は少し異世界を勘違いしていたらしい。
さて、そうなると俺は何のクラスを選ぶべきだろうか。順当にいけば魔法剣士だろう。次点で剣士、魔法使い、といったところだろうか。その他のクラスは俺に見合うようなものではないからな。とはいえ何かの問題でまた書き直すのも面倒だし、一応聞いてみるとしよう。俺は受付の女性に話しかける。
「魔法剣士はどうだ?」
「お名前は確か……アマノサイさんでしたね?アマノサイさんはギルドのご利用は初めてでしょうか?」
「初めてだな」
「では、クラスごとのランクについてのことはご存じないですか?」
「そんなものがあるのか」
「そうですか。では、説明いたしましょうか?」
おそらくゲームの職業ランクの様なものなのだろうが、聞くに越したことはないだろう。そう思い、俺は頷いた。
「それぞれのクラスは最低のFから最高のSまでのランク制になっており、ランクが高いほど権限が強くなっていきます。登録時には全員Fランクから始まり、そこから仕事やクエストをこなすことによってランクを上げていくというシステムです。そして、このランクというシステムにはもう一つの役割があります。それは、上級クラスの質の維持というものです。一部のクラスは登録条件として特定のクラスで特定のランクを修めることを指定しています。これが上級クラスと呼ばれるものです。上級クラスは取り扱いの難しい物を扱うものや相当の技量が求められるものなど、初心者に扱わせるものではないもので構成されています。こうすることで、しかるべき技量を持つ人だけにクラスをとらせることができるようになっているのです」
「素人に難しい事させてもできないからそもそもさせない、ということか」
「そうですね。そこで魔法剣士というクラスについてですが、これはは魔法使いと剣士の両方のクラスでCランク以上を修める必要がある上級クラスになっています。ギルドを初めて利用されたアマノサイさんは剣士も魔法使いもFランクなので、魔法剣士になることはできません」
「実力はあったとしてもか?」
「そうですね、規則ですので」
上級クラスになるには形式的な評価というものが必要らしい。面倒な話だが、システムとしてはしょうがないだろう。その程度なら俺が少し実力を出せばいいだけだからな。
「ところで、魔法剣士というのはどういった特典や権限が貰えるんだ?」
「特典の内容としては剣士と魔法使いの特典を足したものを少し豪華にした感じです。剣も杖もより安く買えるようになります。逆に言えばそれだけですし、クラスチェンジ手数料まで考えたらそこまで安くもないですがね。また権限についてですが、そもそも戦闘系クラスが得られる権限はそのクラスの道場を開くこととそのクラスの規格武具が割引となることぐらいで、戦闘においては明確な権限や罰則は特にないです。『権限にないから本来使える技が使えませんでした』とか言って死なれても困りますから」
「魔法剣士には大きなメリットはないのか?」
「戦闘や冒険の面ではほぼないと言っていいですが、宮廷騎士になる条件に『魔法剣士Bランク以上』というがあるので、宮廷騎士になれることが大きなメリットといえます。」
「なるほど。では、宮廷騎士にならない俺の場合は特に何もないということか」
「アマノサイ様がどういった用件でギルドに加入するのか私は存じ上げませんが、宮廷騎士にならないというのならおすすめはしません」
「そうか」
クラスの違いといっても、ゲームのように技が使えたり使えなくなったりするわけではないということか。では、得られる特典で選んだほうが得だな。
「俺は通行許可証になると聞いてギルドカードを取りに来たのだが」
「そういうことでしたら冒険者などがよろしいのではないでしょうか?特定武具の道場を開く予定などがないのであれば、松明や薬草など特定の道具が安く購入できる冒険者が無難だと思います」
「俺は剣を扱うのだが、剣士のほうが得ではないのか?」
「もちろんその場合もあると思いますよ。ただ、道具は買い替え頻度が高いので剣の買い替え頻度が低い場合は冒険者のほうが得になります」
「なるほどな」
つまり、俺のような天才であれば丈夫な剣を壊すことなく使い続けることになるだろうから、冒険者のクラスのほうが得になるというわけだな。そういうことならそれにしよう。俺はクラス欄に『冒険者』と書き、受付に提出した。受付は紙を受け取り、内容の確認をする。
「では、アマノサイさんの登録するクラスは冒険者ということでよろしいですね?」
「ああ」
「了解しました。では、登録手数料の銅貨五枚をお支払いください」
「分かった」
俺は袋から銅色の硬貨を五枚取り出し、受付の台に置いた。
「では銅貨五枚、確かに受け取りました」
「これでギルドカード発行というわけだな」
少し手間取ったが、とりあえずこれで一段落ついたはずだ。
「いえ、まだ手続きは終わっていません」
受付の言葉に俺は耳を疑った。
「どういうことだ?」
「これからアマノサイさんには登録クエストを受けていただきます。これをクリアして初めて登録となります」
「そういうものがあるのか」
「といってもとても簡単なものですがね。ギルドとしても最低限のことができない人を受け入れるわけにはいきませんから一応設けてはいますが」
「なるほどな。システムとしては上出来というところだろう」
「……ええ、まあ」
「それで、俺が受ける登録クエストとやらはどんなものだ?」
「冒険者の登録クエストは薬草の納品です。この町の近くの森に薬草が生えているので、それを十株ほど納品していただきます」
「それだけか?」
「それだけです。ただ、森には魔物も住んでいるので、くれぐれもお気をつけください」
「分かった。まあ、俺にかかれば魔物など大したことないだろうが、一応忠告だけは聞いておこう」
「………そうですか」
「ああ。では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
俺はギルドの出口へ向かおうとする。と、俺はそこで辺りの様子がおかしいことに気が付いた。
「お前はっ!この期に及んでのこのことっ!」
「……えっ?あ、あのっ、ごめんなさいっ?」
どうやら揉め事が起きているらしい。いや、揉めているというより一方的に責められている、といったほうが正しいのだろうか。揉め事の起こっている方に目を向ける。一人は大柄の男。背中に大きな斧を背負っている。男は相手を激しく責めたてている。もう一人は小柄な少女。少女はなぜ自分が責められているのか分かっていないのだろうか、謝りながらも折首をかしげている…………ん?というか、あれは。
「……ロイン?」
少女の正体は、先程休憩に送り出したはずのロインだった。