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〜彼女の呟き〜

「あぁん?可愛いお姉ちゃんじゃねぇか?ちょっと俺達と遊ぼうぜぇ?」

「あぁん、ちょっとお茶するだけだからよぉ」

「………ぇ」

突然ですがこんにちは。私の名前はロインです。今は魔法使いなんぞをやらせてもらっているわけですが……まあ、今はどうでもいい話ですね。

「あぁん?聞いてんのかぁ?あぁん?」

「あぁん、話してくれないのかよぉ?」

「………ぁ、あの……」

ところで、皆さんは町中でちょっとヤバめのお兄さんにナンパされる……なんて経験、あったりしませんか?……え、私ですか?私は沢山ありますよ?なんと言っても自他共に認める美少女ですからね。こういった経験は実によくあります。

「あぁん、頼むから俺達と遊んでくれよぉ?」

「あぁん、一生のお願いだぜぇ?」

「………それは……ちょっと…」

こういったお誘いを受けること自体は嫌ではないんですけど、こういった人達とのデートって大体にしてつまらないんですよね。オリジナリティーがない上に安かったり、隙あらば宿屋に行こうとしてみたり……っていう感じで。私はもうちょっとお金持ちジェントルマンな対応をしてもらいたいんですが、彼ら的にはそうもいかないようです。ちなみになんですが、さっきから彼らに結構控えめに返してると思うんですけど、これは『消極的な女アピール』作戦ですね。こうやってなんとなくもうひと押しでいけそうなオーラを出すと、なんと『見返りいっぱい積まれたからしょうがなくって事でさぁ』って言って待遇上げしてくれる事があるんですよ。たまにこれで結構積んでくれる人がいるんで、待遇次第ではいいよって言う人には割とおすすめです。まあ、今回は金持ちでもなさそうなのでそこまで期待はしてませんでしたが。

「あぁん?で、どうなんだよぉ?」

さて、というわけで本題です。こういった状況のとき、どう切り抜けるのがいいでしょうか?いえ、正確に言えば『後腐れなく誘いを回避しつつ相手の心の中で自分の良いイメージが保たれるにはどうするのがいいでしょうか?』ですね。逃げてもいいですけど、撒くまで追われるでしょうし、例え撒いたとしても次に見つかったときにまた絡まれるかもしれません。ではきっぱり断るのでしょうか?いえいえ、それで頑固な女だと思われたらどうしましょうか。控えめ系ゆるふわ美少女という私のイメージが台無しになってしまいます。倒してしまうというのもほぼ同じ理由ですね。今回のお兄さん達の場合なら確かに倒せはするんでしょうが、強い女だと思われるのはやはり心外です。私はみんなの可愛い女の子でいたい。

 というわけで、ここで私がおすすめの方法を実践形式で紹介しようと思います。それではご覧ください。

「助けてくださーいっ!」

そうです、叫んで助けを求めることです。当たり前のことのようですが、最初は結構勇気がいります。ポイントはできるだけ高くて可愛い声で叫ぶこと。これをすることで助けが来る確率が高くなりますし、助けを呼ぶことしかできないかよわい存在というイメージを相手に植えつけることができます。とてもお得ですね。

「きゃーっ、誰かーっ!」

「ほら、お姉ちゃんよぉ?俺達とちょっと遊ぶだけだからさぁ?」

「そうだぜぇ?優しくしてやるんだから、静かにしろよなぁ?」

しかし、皆さんはここまで聞いて一つ疑問が残るかもしれません。そう、『本当に誰か助けに来るのか?』という点です。ですが、これについては問題ないですね。高くて可愛い声を出せばだいたい助けが来てくれます。それも男です。正義感が強いのか、可愛い声につられたのか、まあおそらく後者でしょうが、男が実によく来ます。しかも、顔に自信がない人でも声さえ可愛ければ同じように来ます。多分馬鹿なんでしょう。というわけで、安心して可愛い声を出してください。

「いやぁーっ!」

そういえば、助けが来たあとの立ち回りについて言ってませんでしたね。まず助けが来たら相手が気を取られている間に戦闘が起こりそうなところをさり気なく離れて、うずくまるなどの可愛い防御ポーズを取りましょう。可能であれば助けの後ろがいいですね。顔に自信がない人は、ここでできるだけ顔を隠すといいです。これで助けの庇護欲がかき立てられ、勝手に戦ってくれます。そして戦いが始まるわけですが、ここで助けが勝ったならそのまま可愛くお礼を言って立ち去っていくといいです。なんと助けの男まで自分の虜になってしまいます。楽でいいですね。助けが負けた場合は勝つ人が来るまで呼び直し続けましょう。幸い男は沢山いますし、数で困ることはないでしょう。ちなみに、戦っている最中に逃げるというのは大幅なイメージダウンなので極力やらないように。

と、そろそろ誰か来る頃でしょうか。できれば一人で終わってほしいですね。まあ、これくらいの方達なら負ける方が難しいぐらい…というのは言い過ぎだとしても、並の冒険者なら倒してくれるでしょう。

「お前たち、そこまでだっ!」

噂をすれば来ました、本日のお助け一人目です。やはり男でしたね。さて、どんな人なのでしょうか。やっぱりイケメンがいいですよね、願わくばお付き合いしたいですし。

「あぁん?なんだお前は?」

お兄さん達が振り向きました。それに釣られるように私も声の方を向きます。

「俺は天野才、天才勇者だ。くだらないことはやめて家に帰れ」

そこに居たのはいかにも少年といった感じの人でした。顔は……まあ、悪くはないですけど、ちょっと薄味ですかね。筋肉はあんまりなさそう。背があんまり高くないのも微妙なところですかね。

……いや、そんなことより天才勇者って何ですか?天才ってあの天才ですよね?勇者ってあの勇者ですよね?あんな体つきではパワー系の武器は振るえなさそうですし、剣が軽くなる魔法剣士や武器がいらない魔法使いにしては魔力が低すぎます。彼が使いこなせるのなんて精々ナイフぐらいのものだと思うんですけど、ナイフ一本で魔王が倒せるとでも言うんですかね。今のところ天才でも勇者でもないんですが……。

「あぁん?天才勇者だぁ?お前がぁ?そんな訳ねぇだろってぇ!なぁ?」

「あぁん、そうだそうだ。こんな弱そうな奴見たことないぜぇ」

あ、そうですよね。私がおかしいわけではないですよね。よかった……じゃなくて。

「ほう、俺の強さが分からんとは、やはり所詮はチンピラだな」

この人何でこんなに自信あるんですかね。もしかして年頃特有の全能感とかでしょうか。これは外れかもしれません。

「あぁん?お前こそ俺達の強さが分からねぇのかぁ?」

「俺達は落ちこぼれとはいえ、魔導学園の生徒だぜぇ?学園で見たこともねぇお前に勝つ余地があるってのかぁ?」

あ、魔導学園の生徒なんですね。それにしては感じる魔力が弱かったんですが…。まああそこもピンキリですからね、それで落ちこぼれと。

「分からないようならばしょうがない。俺がお前らの攻撃を一発受けてやろう。それで勝てると思ったなら戦ってやる。勝てないと悟れば逃げてもいい」

だとしてあなたが勝てるとは誰も言ってませんけど。いや、というかこの人達の魔法くらったら一発で倒れるんじゃないですかね、あの人。大丈夫かな。

「あぁん?お前、何言ってんだぁ?」

「ビビってんじゃねぇのか?じゃなけりゃハッタリをかましているかだなぁ」

「そんなんが俺達に通じる訳ねぇだろ?そんなに強さが知りたいなら、お前が先に攻撃仕掛けてみろよぉ?どっちが強いか分かるからさぁ」

何だその奇跡的な命拾い。まあ、ともかく助かりましたね。これで実力差が分かって逃げていくでしょう。そうしたらまた別の人が呼べます。

「はぁ……そういうことなら、遠慮なく倒させてもらおう」

「あぁん?お前に何ができるっていうんだよ?」

「大人しく見ていろ」

なんであの人まだ勝てる気でいるんでしょうか。いや、というかさっきから思ってたんですけど、あの人もしかして魔力が見えてないんですかね。それで勝てる気でいると。そんな魔法初心者丸出しの人がよく助けに来たものですね。そんなに私が可愛かったんでしょうか。いや、可愛くてたまらなかったんでしょうね。私美少女ですし。

……お、炎魔法の前兆が見えますね。彼は炎属性の使い手のようです。あのレベルの人が多属性ではないでしょうからね。さて、どんな魔法が出てくることやら……もしやあれは『煉獄球インフェルノボール』ですか?あれほどまでに燃え盛るのはそれぐらいしか、いや、でも彼の魔力でそんなもの出せないはず……と思ったらやはりそうでしたねでしたね、密度が全く無いです。イメージだけ先行して魔力が伴ってない、という典型的な失敗でした。

「お、おい。ヤバいんじゃねぇの、あれぇ?」

「あぁん、確かにあれはヤバそうだ……いやぁ?」

「あぁん?どうしたんだぁ?」

「あぁん、アイツの魔法、どうやら密度が伴ってないっぽいなぁ?」

「あぁん……ホントだぁ、あれじゃあマンドラゴラも燃えねぇぜぇ」

「ただの見掛け倒しじゃねぇか、あぁん?」

「あぁん、俺の『リフレクト』で余裕だなぁ」

彼らもそれに気付きましたね。まあ、落ちこぼれとはいえ魔法の高等教育を受けている人達なので当たり前のことだとは思いますが。

…と思っていたら、あの人魔法をキャンセルしましたね。ようやく力の差を理解したのでしょうか……いや、彼にそんなことが出来るとは思えません。いったい何が狙いでしょうか。彼はこちら側に手を出して何かを叫ぶようです。

「くらえ、『才に恵まれたもの(スチューピッドエイジャー)』」

彼の手から何かが放たれたのはいいとして……は?いや、なんですかその名前?どういう育ち方したらこのネーミングになるんでしょうか、とても不思議です。

彼の手から放たれた何かがこちらに来ました。攻撃性のあるものには見えないですが、いったい何なのでしょう?それらが届くと……あ、あれ?頭が、回らなくなってきた。

「あ、あぁん?だんだん頭が、回らなくなっ、てぇ」

「あぁん、リフレクトの魔法の使い方が、分からなく、あぁん」

それは、きっと、この人たちも……いっしょ?あ、大きな炎が出てきた……大きくてつよそうだなぁ……あ、あれ?

「あぁん!炎の塊だぁっ!でかいぞぉっ!殺されるぅぅ!」

「あ、あぁん!どうすんだよぉ!と、とりあえず逃げようぜぇっ!」

あ、この人たち、逃げそう。さっきまで勝ちそうだった、はず、だよね?あ、でも、あの人が、つよそうな炎でいっぱい攻撃して……とても、かっこいい!

お兄さんたちは、逃げていきました。すごい!わたしは、あの人に助けてもらいました!とてもかっこいいです!お付き合いしたり、できないかなぁ?……あ、あの人がこっちに来ました!

「おい、大丈夫か?」

「……」

ああ、あんまり、セッキョクテキな人だと思われたくないなぁ。どうしようかなぁ?オトナのお姉さんみたいに、すればいいのかなぁ?きっと、かっこいい男の人は、オトナなレディーが好きだよね!

「すまない、そこまで大きな魔法を使うつもりはなかったのだが」

「……いえ」

くらえ!オトナ言葉!オトナなレディーに、きっとこの人も、メロメロだよ?

「俺がなにかしたのか?言いたいことがあるなら言ってくれ」

……あ、あれ?そうでもない、みたい?おかしいな?このままだと、どこか行っちゃう?そんなのイヤだよ!でも、オトナなレディーは……ううん、もうガマンできない!

「……あ、あのっ!」

「何だ?」

「助けてくれて、ありがとうございましたっ!それでっ、それでっ!……」

「どうしたんだ?」

「……わたしと、お付き合いしてください!」

きゃっ、い、言っちゃったぁ!



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