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〜転移の勇者〜

「少年、起きてください。」

誰かが話す声が聞こえる。誰かを呼んでいるのだろうか?大人の女性のようだ。

「少年、確か名前は……アマノサイさん」

俺を呼んでいるのだろうか?俺は……そういえば、俺は車に…。

「アマノサイさん、起きてください」

その声で、俺は本格的に目を覚ました。ぼやけた視界に見えるのは、どこまでも白い世界。そしてその中に、白いドレスを纏った美しい女性が大きな杖を片手に立っていた。

「ここは……?」

「ここは神の世界。アマノサイさん、私が貴方をここに呼んだのです」

神の世界……?よく分からんが、俺は車に引かてて死んでしまったのではないのか?しかし、神か…。生前は神などいないと思っていたが、どうやら実在していたらしい。天才にも誤りはあるということか。

「アマノサイさん、改めてご機嫌よう。私は女神のヴィーナと申します。今回は貴方に頼みたい事がございまして、ここに呼ばせていただきました」

ヴィーナと名乗る女は、柔らかな口調でこう告げてきた。

「女神だか何だかよく分からんが、天才の俺をいきなり呼び出して頼み事など、失礼なことだと思わないのか?」

「…失礼なこととは存じ上げています。しかし…」

「ああ、賢明な判断だな。天才の俺を頼るのだからな。どうやら、お前は人を見る目があるらしい」

「……」

ヴィーナは俯いて言葉を発さない。どうやら、俺に才能を見抜かれて驚いているようだ。女神ともあろうものが、この俺の天才ぶりを甘く見ていたようだな。

「……それで、その頼み事というのは何だ?」

俺は黙り続けるヴィーナに問いかける。

「……え、ええ。アマノサイさん、貴方には世界を1つ救ってもらいたいのです」

「ほう、世界……か。その世界とやらに何かあったのか?」

「ええ。その世界では、世にも恐ろしい魔王によって人の住処が奪われています。こういった人類の危機が起こった場合、神の世界は、その世界の住民に天恵と呼ばれる奇跡の力を授ける、もしくは異世界からステータスの高い人間を勇者として取り寄せて討伐に向かわせる、という処置を取ることが許されています」

「ステータスの高い人間…?ゲームのようなものか?」

「ええ、大体そのようなものです。神の世界では人間の生命力、筋力、持久力、思考力などをステータスとして数値化して見ることができます。そしてそれは異世界に召喚される際に、対応する能力に変換する事になります。ゲームに例えるなら、生命力は体力に、筋力は力に、などです。私たち神の世界の住人は、人々のステータスを見て、優秀な人間は必要に応じて異世界に送り出しています」

「優秀な人間を異世界に……わざわざ異世界人を連れてくるメリットは何だ?その場の人間に強い天恵とやらを与えたりして強化すればいいだけだろう」

「もちろん、それができれば苦労することはありません。その世界に住む住人は、世に生を受けた段階でその地の制約を受けることになるのです。それが例えば与えることのできる天恵の強さや、強化できるステータスの限界等です。いかに神といえども、制約を超えて強化することはできません。しかし、異世界人となると話は違います。異世界人は神の世界に一回還元されてから、その世界用に作り直されることになります。その地だけでなく元の地の制約も受けないので、神の力でリミッターを解除することができるのです。もちろん人間という種族としての限界はありますが、それでも異世界に行かない人よりもかなり強大な力を振るうことができるようになりますし、天恵の上限も跳ね上がります」

「では、異世界人のほうが格段に強いということか」

「……あくまでもその可能性が高い、と言ったところでしょうか。元のステータスの高さを選ばなかったとすればすぐに死んでしまう方もいるでしょうし、天恵の使い方が悪ければなかなか強くなれません。また、順調に強くなっていったとしても、その世界に仇なすようであれば神の力によって弱くすることもあります」

「そういった観点から優秀な異世界人を選んでいる、と」

「…そうですね。基本は自然淘汰が原則なので、神として干渉できる限界はここまでですし、実際それでも人類は成り立って来ました。そのため、今回も同じような処置をしようとしたのですが…」

「それが尽く失敗した、と」

「ええ、この世界においては、天恵を授けた者、異世界へと送り出した者、その数100は超えていたでしょうか、皆全滅してしまいました」

「話を聞くに、その魔王とやらは相当強いようだな」

「ええ、とても強いです。…そして,そのために最近では天恵を与えるに値する住民も少なくなり、異世界からの転移の数も激減しています。人手が全く足りていないのです。」

「そこでこの天才の俺に話が来た、ということか」

「……そうです。アマノサイさんならやってくださると思ってのことです。ステータスも申し分ないですし、十分ご活躍いただけると思いますよ。もちろん、強制をするわけではありませんので、嫌なら断ってい ただいても構いません」

「ちなみにだが、ここの選択によって俺はどうなるんだ?俺は車に引かれたはずなのだが」

「ここで申し出を受けた場合、ここに召喚された貴方の体がそのまま異世界に転送されます。ここで断った場合、貴方は車に引かれた時点の状態に戻るでしょう。おそらくは助からないでしょうね」

「…そういうのを強制って言うんじゃないのか?」

「…いえ、元々死ぬ予定だったところを勝手に生き返らせようとしているだけなので嫌なら死んでいただいても構わない、という意味での選択肢ですので、強制ではないです」

「……何だか、神というのも案外性格の悪いものだな。人間とあまり変わらないようだ」

「まあ、神も生き物ですからね、個体差があると思いますよ。私よりも酷い神だって沢山いらっしゃいますし」

「そういうものか」

「ええ、そういうものです」

神にもいろいろあるらしい。もしかしたら、俺と釣り合うような天才の神もいるかもしれないな。まあ、どうでもいい事ではあるが。今重要なのはこの申し出を受けるかどうかだ。いや、死ぬぐらいなら生きていたほうがいいと考えているので受けるは受けるのだが、魔王の存在だけが不気味だな。勝てないとは思わないが。

「では、話を聞いて改めてどうされますか?」

「……ああ、その申し出を受けよう。天才の俺が行けばすぐに解決できるだろうからな」

「…そうですか、ありがとうございます。では早速天恵を与えましょう。どのようなものがよろしいですか?」

「では、俺に相応しい最強のものを頼もうか」

「相応しい……ですか」

「ああ、俺のスタイルに合った強い天恵を頼む」

「なるほど……了解しました。少し考えてもよろしいですか?」

「それはいいが、あまり俺を待たせるなよ?天才には時間がないんだ」

「………分かりました、急ぎます」

ヴィーナは俯いて何かを考えている様子だ。おそらく神の世界で人に与えられる最強の天恵を考えているのだろう。最強の剣術か、最強の魔法か、またはその両方か。いずれにしろ相当強いものであろう。天恵を貰うのが楽しみだ。

「…では、決まりました」

ヴィーナが顔を上げた。

「俺に相応しいものは見つかったか?」

「…ええ、とても相応しいと思います」

「ほう、それはどのような能力だ? 」

「それは……相手の知能を……下げる能力です」

俺は耳を疑った。相手の知能を下げる能力だと?天才の俺よりも賢い奴がいるとでも言うのか?

「それは、喧嘩を売っているのか?」

「……それは、どういう意味ですか?」

「普通に考えれば俺より知能がある奴はいないはずだ。なのにどうして下げる必要がある?」

「……あ、ああ、そういうことですか。そういうことでしたら、それは誤解です」

「どういうことだ?」

「今から行っていただく世界には魔法の概念がありますが、この世界での知能や知性は魔力とも結び付いています。つまり、相手の知能を下げるということは相手の思考力だけでなく、魔法も封じることとも同義になるのです」

「ほう、なるほどな。それで、それは強いのか?」

「そうですね……。第一印象としてはあまり強くなさそうにも見えるかもしれませんが、相手が魔法を使えなくなって弱体化するとなると考えると、間違いなく最強の一角を担う天恵と言えるでしょう」

「なるほどな。そういうことなら俺に相応しいだろう。では、それを貰おう」

「…気に入っていただけてなによりです。……あ、そういえば、まだこの天恵の名前を言っていませんでしたね」

「名前があるのか?」

「…ええと、まあ、そうですね、ありますよ、ええ。この天恵の名前は…『スチューピッドエイジャー』です」

「よく分からんがかっこいい響きだな。それはどういう意味だ?」

「……神の言葉で、『才に恵まれたもの』という意味、です、ええ。名前までアマノサイ様にぴったりではないでしょうか?」

「俺のために生まれたような代物だな、喜んで受け取ろう」

「喜んでいただけて良かったです。私も貴方みたいな方に受け取っていただいて嬉しく思います」

ヴィーナは俺に手をかざした。次の瞬間、俺の体に何か熱いものが流れ込んで来るような感覚がした。

「体が 、熱い…?」

「大丈夫ですよ?人間界で言うところの風邪みたいなものです。天恵が体に馴染めばすぐ元に戻ります」

言われてみると、徐々に熱さが引いているような気 がする。しばらくすれば治るというのは本当の事なのだろう。

「では、天恵が体に馴染んだらすぐ送り出そうと思いますので、この間に軽く説明をしてしまいましょう。神の世界からの支給品や最初の行動についての説明です」

「何か貰えるのか」

「神の世界からは革の服等の最低限の装備と、ギルド登録料と数日分の宿泊代を合わせたお金が配られます。過剰な支給は転生者にもその世界の住民にも良くないですからね。転生者にはまずギルドに登録していただきます。ギルド登録をするとギルドカードが貰えるのですが、様々な場所の通行許可証にもなりますし、ステータス等の個人情報も入っていますので、大切に持ち歩いてください。また、天恵とは神から与えられた力の呼び方のことで、向こうではスキルの一部とされているので覚えておいてください。翻訳は全てに対応しているので、言葉の壁とかは気にしなくて大丈夫です。……と、このぐらいでしょうか。時間も丁度良いぐらいでしょう」

「ああ、取り敢えず大丈夫だということは分かった。丁度良く体も冷めているようだ。もう送るのか?」

「ええ、早速送りましょう。実際にやってみた方が早いでしょうから」

「それもそうか。では、送ってもらおう」

「ええ、では……」

そう言うと、ヴィーナは俺の頭に手を掲げた。

「今から送るのは始まりの町『ビギンズ』です。近くには弱いモンスターしか出ませんので、安心して技量を磨いてもらって構いません。ある程度強くなったら…と、これ以上言うのは楽しみがないですね。それでは勇者様、私はいつでも貴方の幸運願っています」

俺の足元に白く輝く魔法陣のようなものが出来上がる。溢れ出す光は徐々に俺の体を包んでいく。

「ああ、すぐに魔王を倒してやろう。なにせ俺は、天才だからな」

自分の体が段々見えなくなってきた。これが転移というものなのだろう。告白を断られた時はどうした事かと思ったが、一転して異世界の英雄になれるとはな。天才でない人間でも役に立つことがあるとは、なかなか良い学びだったかもしれない。まあ、代償が大き過ぎた気はするが。

自分の体はほぼ見えない。そろそろ転移完了、といったところだろう。俺はヴィーナの顔を見た。彼女は美しい顔でこちらを見つめ、口を開く。

「勇者様ありがとう、そして…」

そこで俺の意識は途切れた。


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