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〜天才の旅立ち〜

俺は天野才あまのさい。天才高校生をしている。周りのやつは子供っぽい馬鹿ばっかりで、俺だけが大人で賢い。そのことでいつも苦労していたり、周りから浮いていたりするが、それは天才税として受け入れることにしている。

そんな俺だが、実は好きなやつがいる。同じクラスの賢田偉かしこだえらだ。頭が悪そうなそこらへんの奴らとは違って、あいつはどことなく賢そうな感じがするからだ。天才高校生の俺にふさわしい女と言えるだろう。

今日は何とこの俺が直々に偉を呼び出して告白をしようとしている。彼女はおそらく俺の告白を待っているのだ。あの女が俺以外の馬鹿な男どもに惚れるわけがないからな。……おっと、彼女が来たようだ。わざわざこちらから出向いてやる俺の優しさと勇姿をとくと見てくれ。


「………何?」

「待たせたな、偉」

「待たせたのはこっちでしょうに。日本語ぐらいちゃんとしてほしいな」

偉は冷たい目を向けてきている。……照れているのだな?彼女も賢いから、これぐらいの見当は付いているのだろうまあ、俺みたいなのに告白されるのだからな、無理もないだろう。

「…フッ。そんなことより、だ。……話がある」

「……うわ、すごい嫌な予感がする。帰っていいかな?」

偉は不安のようだ。大丈夫さ、今からちゃんと告白してやる。

「まあ、心配するのも無理はない。いきなり呼び出したのだからな。…し

かし案ずるな、とてもいい話だ」

「うわぁ、これ帰してくれないやつだ。どうしよう、面倒くさいなぁ」

「端的に言ってやろう、この俺と付き合ってくれないか?」

「あー、そんな感じだと思ってたわ。えっと……答えはノーかな?」

「どうしてだ?君は他の女とは違って俺に相応しいと思うんだが」

「こういうこと言う人ってほんとにいるんだぁ……言われてみるとなんか

普通に気持ち悪いな。しかもこの人の頭の中にはどうやら『自分が私に

相応しくない』っていう発想がないらしいなぁ」

「どうだ?悪い話ではないと思うんだが?」

「……」

「さあ、改めて答えを貰おうか、俺と付き合え」

「うん、嫌だよ」

「なっ……!」

何だと……?今彼女はなんと言った?嫌?……断ったのか?いや、気のせいか、もしくは何か勘違いをしているのかもしれないな。

「俺は今、告白をしたんだぞ?」

「うん、ちゃんと聞こえてちゃんと断ってるよ」

「何故だ?偉のことだ、賢い男の方が好きだろう?」

「まあ、どちらかと言えばそれはそうなんだけど、うん、なんていうか、

ね?」

何か事情があるのか……?もしや、誰かに脅されている?

「何か事情がありそうだな。俺で良ければ聞いてあげられるぞ?」

「えーっと……落ち着いて聞いてほしいんだけどね?」

「ああ」

「才君風に言うのであれば、『才君はその馬鹿の一人だから、付き合え

ません』」

「……………え?」

俺が馬鹿だと?俺が、あんな奴らと同じ……?いや、そんなはずはない。俺は天才高校生だぞ?あんなサルみたいに騒ぐ子供みたいなやつとは違うに決まっている。……ああ。はは、可愛い奴め。ただの照れ隠しか。これはちょっと強引に行く必要がありそうだな。

「…そ、そんな台詞ぐらいじゃなびかない男だってこと、分かってくれた

か?俺は、みんなとは違うんだ」

「才君のことだから照れ隠しかなんかだと思ってるかもしれないけど、私

が普通に才君の事好きじゃないだけだからね」

「…俺の心が読めるのか?」

「頭が単純な人の考えることぐらいなら何かもう見れば分かると思う

よ、才君も含めて」

俺は絶句した。俺は生まれて初めてプライドを傷つけられたのだ。今まで他人に『馬鹿』だなんて言われたことがなかったからだ。親だって、学校の先生だって、『もう好きなように生きてください』しか言わなかったのに。そんな俺の頭が……悪い?

「じゃあ、私もう帰るね」

「あ……」

俺が何かを言う前に、彼女は足早に去っていった。しかし、俺はそれを止めることができなかった。なぜなら考え事をしていたからだ。

…俺が馬鹿?いや、そんなはずは……いや、彼女は俺のことを……俺と同じ天才のはずの彼女が……?

そこで俺は気付いてしまった。今回の件の原因がとても簡単な事だったということに。

「なるほど……な」

理由は簡単だ。賢田偉は天才ではなかった。ただそれだけだ。俺の賢さが分からない人間が賢いはずがない。俺は彼女を過信していたようだ。

「俺も女を見る目だけは無いってことか…フッ、天才にあるまじきことだ

な」

そう言って俺は笑った。そして俺も家へと帰っていった。

とはいえ少しショックだったのかもしれない。そこからのことはあまり覚えていなかった。少しだけ覚えているとすれば、暗い道を歩いていたことと、気付いたら俺の目の前で車のライトが光っていたことだろう。

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