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#10 目覚め

「重ねがけして! 耐性付けてても重なればリークになるから!」

「分かった!」

「てめぇ!」


 三条院、当然ながら狙い変更。

 俺に向かってダーツを構えつつ駆け寄ろうとするが……


「させるかぁ! 食らえ100万クレジットの重み!」

「どわっ!」


 スズネがアクセル全開でバク転して乗り捨てたホバーモービルが三条院に特攻!

 予想外の行動に三条院はひるみ、バランスを崩す。いや、轢かれて死なないだけでも凄いんだけどね。俺のレベルだと多分死ぬ。


「≪マインドリーク≫! ≪マインドリーク≫! ≪マインドリーク≫!」


 三条院が持ち直し、猛進してくるホバーモービルを叩き潰すように超振動大剣で切り伏せた頃には、俺は四発目の≪マインドリーク≫を三条院に叩き込んでいた。

 奴の頭の周りに鈍色のモヤモヤが渦巻いている。NPが継続減少する状態異常、リーク状態だ。


「……の、野郎!」

「グッジョブ、マサ!」


 ホバーモービルを乗り捨てたスズネは、二丁レーザーガンを構えて三条院に向かい合う。


 ……だが!


「舐めてんじゃねええええ!」


 なんだ!?

 三条院の大剣が揺らめくオーラみたいなものを纏って……


 一瞬で三歩分ぐらいこちらに接近、そして勢いを乗せた回転斬りを放った!

 まだ明らかにスズネには届かないはずの距離だけど、衝撃波が出たかのように、実際の斬撃より三回りくらいデカいエフェクトが発生!


「「え」」


 多分、俺とスズネは同時に言ったと思う。


 本当に一瞬。本当に一撃。

 スズネは、胴体辺りで真っ二つにされていた。

 断面から赤いものが吹きだし、ぶちまけられる。うわあ、R18-G……!


 NPCにやられたなら、あくまで『戦闘不能』扱いで蘇生可能だが、PvPだとそうはいかない。

 三条院に胴体両断されたスズネはリストコムの緊急回収機能で死体の残骸を転送され、持ち物のドロップをその場に残して消え去った。


 NPを使い切った三条院から、ドス黒オーラが消えていく。

 これで≪ベルセルクハート≫は効果が切れたが、本来のMAX効果時間である5分間が過ぎるまではクールタイム。回復不能のペナルティは付いたままだし再使用もできない。


 でも……もはや≪ベルセルクハート≫の持続は不可能と悟った三条院はNP切れも厭わず、最後に残ったNPでスズネを殺っちまった!

 さっきまでこいつが通常攻撃でチマチマ戦ってたのはNPをもたせるため。NPとバフが切れる覚悟なら、最後にデカイのを一発かませるってわけだ。しかもスズネは回避と防御に使えるホバーモービルを三条院に突っ込ませて失っていた……


 スズネを仕留めて興奮のあまり肩で息をしていた三条院が、ぐりんと首を巡らせて俺の方を見る。コワイ! こっち見んな!


「待ちやがれてめぇも死ねこのザコが!!」

「う、うわああっ!?」


 逃げるしかねえええええ!!

 俺は、三番目の父さんに連れてってもらったエリア51見学ツアーで発光しながら飛行する物体に追いかけられたとき以来の超全力疾走で逃げ出した。

 バフが切れて足遅くなってるはずだよな、あいつ!? 重装備だから鈍足だよな!? そうであってくれ!


 息を切らして森の小道を疾走していると、リストコムがピンコロピンコロ鳴り始める。

 復活リスポン地点でクローン再生されたスズネからの通信だ。


『ごめん、死んだ!』

「あっけなさ過ぎない!?」

『無茶言わないでよ! 私後衛なんだから、基本的に純前衛にタイマンで勝てるわけないの! 味方前衛が居て初めて輝くの!』

「ほぼソロオンリーで配信してんのに後衛ってどうなの!?」

『趣味なんだからいいじゃん! 文句があるならお前が盾になるんだよ! つーか、してやる!』

「自分の都合で俺を育てようってのかよ! 光源氏かよ!」


 そう言えば現実リアルで割とそれっぽいことされてました。


 ああ、くそ! あくまでVR的なやつだけど、息の苦しさまでそれなりに再現されてる!

 自分の足音と自分の呼吸でうるさくて背後からの足音とか分からない。

 あいつ、どの辺まで迫ってるんだ!? 気になるけど振り返ったら死ぬ気がする!


「くそ、あいつのレベル70ちょいだろ!? あんなの俺一人じゃどうにもなんねえ!」

『いいえ。対抗する手段はございます』


 スズネじゃない声が、俺に答えた。

 聞き覚えのある声だった。


「……システムアナウンス?」


 そう、そうだよ。これオープニングでストーリーを読み上げてたり、逐一システムメッセージを読み上げてたアナウンスの声じゃん。

 あの、なんかやたら硬くて人間味が無い感じの。

 なんでそんな声が聞こえるんだ?


『お初にお目に掛かります。

 私は世界運営支援システム。この方舟の管理AI。

 『神』たるあなた様を補佐する役目にございます、マサル様。

 今はこうして、『電脳使い魔(サイバーファミリア)』としてお側にございます』


 気が付けば俺に併走するようにして、ホログラムのお姉様が飛んでいた。


 ブルースクリーンのように澄んだ蒼い目。メカニカルな光沢の銀髪は、切れ味鋭そうなポニーテール。

 SF風プロテクターみたいなラインの入った、黒のタイトスカートスーツを着ている。

 外見年齢はリアルのスズ姉と同じくらいだろうか。

 あの硬い声音にピッタリの……なんつーか、こう……悪の大企業の社長秘書って感じの雰囲気を漂わせていた。


 『電子の使い魔(サイバーファミリア)』というのは、このゲームのシステムのひとつ。

 そうか、これの解禁も確かレベル6だっけ。

 確か、本当はレベル6以上になったらショップとかで『お迎え』するシステムなんだったけか。


 電子の使い魔(サイバーファミリア)とは冒険者たちが連れて歩き、冒険をサポートさせる使い魔だ。

 もちろん実態はそんなファンタジーなもんじゃなく、リストコムの電脳内に存在する専属サポートAIという設定だったりするのだが。

 でも今、俺の隣にいるこいつは……この世界の管理AIだと?


「お前ならあれを倒せるのか!?」

『いいえ、私は世界運営支援システム。戦いは、あくまでマサル様の御意志によってなされねばなりません』

「じゃあどうしろってんだよ!」

『新人冒険者向けのクラスリファレンスも電子の使い魔(サイバーファミリア)の機能。

 今は敢えて電子の使い魔(サイバーファミリア)としてチュートリアルを実施致します』


 自称・世界運営支援システムがそう言うと、俺のリストコムが勝手に起動!

 全力疾走する俺の前にスキルリスト画面がホログラム展開された。


 大量に並んだスキルが高速でスクロールされて画面の上方向へ流れていく。

 そして、末尾付近まで到達したところでハイライトされたスキルは……俺の知らないものだった。


 なんだ、このスキル!?


『こちらがアドミンクラスのお勧めスキルとなります』

「こーゆーのあるんなら先に言えーっ!

 一番下とか! 全部見なきゃ! 分かんねえだろーっ!!」

『ユーザーインターフェースに関しての苦情は私の担当範囲外ですので受け付けかねます』

 

 やる気の無い市役所窓口みたいなことをしれっとおっしゃるホログラムお姉様。


 こいつが何なんだかはまだよく分からないが、とにかく俺は生き延びるための……

 いや、違う!

 あいつに勝つための端緒を見た!


『ちょっと、何があったの!?』


 俺ですら理解不能な事態がリストコム通話の向こうに居るスズネに分かるわけない。

 困惑した様子でスズネが叫んでいた。


「スズ姉……レーザー攻撃への防御を剥がす方法って分かるか!?

 属性防御ゼロにしろとは言わない、半分でも削れないか!?」

『多分、あいつがレーザーガン対策に使ってるのは使い捨ての屈折力場発生器。

 パルス系の攻撃を浴びせれば壊れるか、少なくとも数秒間は使えなくなるはず。

 私の電撃レーザーは逸らされちゃったけど帯電状態の蓄積はいくらか入ってると思うから、今ならあと一押しで行けるかな?』

「スキルポイント5、残りNP20%であいつに帯電ぶち込んで、ついでにレーザーの攻撃を当てやすくするコンボ教えて!」

『レーザーガン使うんなら射手シューターの≪エイミング≫で自動補正付く!

 帯電は……待って、あんた二次職の前提無しスキルって取れる!?』

「取れる!」

『なら陰陽師インヤンマスターの≪雷撃符≫で、消費軽減にSP突っ込めば1回は撃てるはず!

 でもそれでどうするの!?』


 走りながらじゃ手がブレブレでまともに操作できないところだが、スキルリストが自動でスクロールされてスズネの言ったスキルが表示される。併走してるホログラムのお姉様の操作かな。

 とにかく俺はスズネの指示通りにスキルを習得していった。


【新たなスキルを習得しました。】

【新たなスキルを習得しました。】


 無感情なシステムメッセージが俺の脳裏に響く。


「分かった気がするんだ。このバランスブレイク臭い『アドミン』ってクラスがどういうコンセプトなのか」


 俺は、足を止めた。

 最後に残したスキルポイント1を消費して、『アドミンクラスのお勧めスキル』を習得する。


【新たなスキルを習得しました。】


 このアドミンというクラス。

 戦闘能力という面では突出して強くしてある。

 だがそれは本質じゃない! キーワードはEaO独特のシステム・ストーリーポイントだ!

 アドミンは何でもありの公式チートじゃない。ちゃんとゲームを遊ばせるためにバランスを取って作られた、まともなクラスなんだ。

 戦闘の勝敗とかじゃなく、別の部分でゲームになるようにしてある。だから、()()()()()()()()()()()()()()んだ!


 足音が近寄ってくる。

 俺はガスマスクの残骸で額を隠したまま、追いついてきた三条院の方へ振り返った。


「あんだぁ? 諦めたか?」

「いいや」


 既に勝利を確信し、嗜虐的で下卑た笑みを浮かべている三条院に、俺は言い放った。


「お前を倒す」

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