#4 三者による反省会
僕と松原、そして犯人だけとなったダイニングで僕は松原に声をかける。
「お疲れ様。すごい推理だった。」
「そんなことないわ、結局は自供待ちだったし。厳密な推理じゃなかった。」
松原は謙遜ではなくしっかりとそう答えた。
「どういうことだ?僕はそうは思わなかったけど。」
「たとえば、横田さんと金町さんが共犯なら、今野さんの足の状態に関わらず犯行ができるでしょう?」
なるほど、しかし…
「でも、その可能性を否定する確信はあったんだろう?」
「ええ。この説は確実に否定できる証拠がないからあえて言わなかった。でも状況から十分ないだろうと思えたの。」
「今野さんが部屋を出たのは今野さん自身の意思だった。もし金町さんが共犯ならいつ出てくるかも分からない今野さんをずっと外で待ってたことになる、ってことだろ?」
「正解。それに犯行時間が5分だと、横田さんがお風呂に入ってた金町さんを呼んだ、ってことも考えにくいわ。というか分かってるならいちいち聞かないでよね。」
一言謝って、僕は話題を少し変える。
「ところで、犯人はいつわかってたんだ?」
「確信に変わったのはお風呂で実験してからだけど最初から横田さんじゃないかって思ってた。」
「どうしてそう思ったんだ?」
疑問を投げかけると、松原は座っている横田さんに顔を向けて言った。
「どうして…って、普通に考えて今野さんを殺す動機が一番ありそうなのは横田さんでさはょう?」
「動機、か。確かにそうだな。」
動機、と松原の口から出てきた事に少し驚いた。
「そう言えば松原は容疑者の聞き取りのときに動機に関する質問を全くしてなかったよな?動機の有無で考えようとはしなかったのか?」
「人がどう生きてきて、何を思っているかなんて、他人の私たちにはわからないじゃない。白神だって、私に今野さんを殺す動機がないと言い切れる?」
僕は黙ってしまう。
「他人を理解するなんて、できやしないんだよ。」
松原は独り言のように言う。
「そうだ、今野さんが足が悪いと偽っていた理由ってなんなんだろう?」
僕は思い出したかのように言った。
「横田さんに聞いてみたらどう?せっかくそこにいるんだし。どうなんですか?横田さん。」
「当ててごらんなさい、名探偵さん。」
横田さんはこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「私が思いついたのは1つだけです。今野さん、当たり屋でもやってたんじゃないですか?下半身不随ってことにして相手から慰謝料を大量に取る。診断書なんかも偽造して。で、念には念を入れて旅行中もそのフリをしていた、とか。」
横田さんの表情は変わらない。松原は続ける。
「そして動機は当たり屋の稼ぎを巡る金銭トラブル、もしくはどちらかがもう辞めようと言ったことから生じた亀裂、とかですかね。なんの根拠もないですけど。」
横田さんは微笑した。
「半分くらい正解かな、残りの半分、聞きたい?」
「いえ、結構です。」
松原は即答する。意外だ。ここまで真相に向けて走ってきたというのに、動機は知りたくないというのか。僕はその事を松原にぶつけた。その答えはあまりに拍子抜けするものであった。
「私が知りたかったのは犯人が誰かってこと。だって、そうしないと皆んな安心して夜眠れないじゃない。まあ、私は無理そうだけど。」
本人達同意の上、今夜は横田さんは手足を縛り、松原の部屋に置かれることとなっている。
横田さんが松原に問う。
「しっかり練ったトリックだったのに、私は何を間違えたんでしょうね。」
「ひとつは死体の発見が早かったことですね。あまりに犯人候補が少なすぎた。男性の犯行はもちろん、女の人が殺害し、それを庇うために男の人が上に運んだ、とか色々な可能性がありますから、推理は難しいでしょうね。」
「運が悪かったのね…」
「いえ、仮に男の人が上に死体を運んだとして、その人にメリットがあるでしょうか?ただ犯人を絞る手がかりとなるだけです。と考えるとやはり女性が殺害を行っているのではないか、となります。自分への容疑を晴らすトリックとしては、そもそも不十分だったと思います。」
「手厳しいのね、探偵さん。」
「まあ、悪事はいつかはバレます。今回はそれが早かっただけです。」
「そうね、悪いことはするものじゃないわね……」
横田さんは窓の外を見ていた。その目には涙が溜まっていた……ように見えた。
時計を見ると、すでに日付が変わる直前である。
「さあ、もう寝ましょうか。白神、今日は手伝ってくれてありがとうね。おやすみ。」
そう言って僕らは部屋を出る。
いつの間にか、外に降る雨は止んでいた。




