#3 推理が披露される
松原が淳二さんに頼んで全員をダイニングに集めてもらった。皆は食卓の椅子に座り、ただひとり立っている松原を静かに見つめている。
「話を始める前に1つ確認したいことがあります。」
そう言って里見さん夫妻に質問する。
「このK荘に隠し部屋や秘密の入り口はありませんよね?」
「もちろんです。どうしてそんなことを聞くんですか?」
淳二さんが答えた。
「侵入者による犯行がない、とはっきりさせたかっただけです。本題に入りましょうか。」
皆息を飲んで松原を見守る。
「これまでの捜査や皆さんの証言で、私なりに犯人を1人に絞り込めました。今からその推理をお話しするので、疑問点やおかしな点があった場合は指摘をお願いします。」
一体どうしてあの捜査で犯人がわかったのだろうか?ほとんど収穫はなかったように思えるが。
「ではまず、今野さんが部屋を出たあとから死体発見までにこの部屋から出た人は、金町さん、横田さん、鈴村さん、里見亮子さんの4人、ということで間違いありませんね?」
疑問はないが一応聞いてみる。
「それ以外の人間がこっそり部屋を抜けていたってことはないのか?」
「おそらくないでしょう。いつの時も部屋の中には最低6人がいました。つまり、誰にも気付かれずに部屋を出るには5人の目を欺かなければなりません。部屋を出入りするだけなら可能かもしれませんが、犯行が可能なほど不在だと5人の誰かが気付くでしょう。でも、そんな証言はありませんでした。」
「ありがとう、納得した。」
松原は続ける。
「皆さんもこんな感じで質問して構いません。それでは続けます。犯人は部屋を出ていった4人のうちの誰かです。侵入者がいないらしいことは前にもお話ししましたね?ここで問題となるのは遺体の位置です。今野さんは事故で下半身が動かなかったので、殺害の現場は1階で、そのあと発見現場の2階まで遺体を運んだと考えられます。今野さんを気絶させ、2階へ運び殺害、とも考えられますが、どちらにせよ動かない今野さんを上へ運ばなければなりません。しかし、今野さんの体型を考慮すると、普通の女性にはそれは不可能でしょう。階段やその周りにはトリックが使われた形跡はありませんでした。となると、唯一上に運び得た人物は、体格のしっかりとした金町さん、ということになります。」
ここで金町さんが口を挟む。
「待ってください!私はやってません!お風呂に入っていただけです!」
松原は金町さんを落ち着くように言ってから、
「しかし、金町さんに犯行は不可能です。今野さんが部屋を出てから5分、つまり金町さんが犯行可能だった時間には横田さんがずっと今野さんの世話をしていたと証言しています。つまり、この時間は金町さんは犯行不可能でした。もし金町さんが犯行を行ったとすれば、横田さんが意味なく嘘をついていることになりますし、少し無理のある考えになると思います。」
金町さんはほっとした表情を見せる。
「すみません、金町さん、不安にさせてしまって。さて、残る3人のうち亮子さんは部屋を出て戻ってくるまで1分ほどでした。今野さんを運ぶ能力以前に、殺害や運搬の時間はありません。ですので亮子さんは犯人ではありません。ここまでよろしいですか?」
犯人は2人まで絞り込まれた。場に緊張が走る。
「さて、残る2人ですが、先ほどお話ししたように今野さんを運ぶのは不可能です。では、2人に犯行は不可能だったのでしょうか?しかし、外部の人間の犯行の可能性が薄い以上、犯人はこの2人のどちらかのはず。何か方法がないか考えました、なんの証拠も残さないトリックを。そして私は思いつきました。考え方はこうです。誰にも犯行ができない、となるならばある前提を疑うしかない。」
少し間が空く。
「つまり、今野さんは、実は歩けたのではないか、ということです。そう考えれば犯行は可能です。たとえ犯人が女性でも、今野さん自身に階段を上らせて、2階で殺害するだけですから。」
たまらず僕が聞く。
「どうしてそうだと思うんだ。何か証拠でもあるのか?」
「申し訳ないけど、確固たる証拠はないわ。でもそう思う理由はちゃんとあるの。白神も見たでしょう?今野さんの足。腕と同じように太かったよね。」
松原は皆向けに口調を直す。
「横田さんによると今野さんは半年前に事故に遭い、それ以降足が動かないそうです。半年もあれば、動かすことのなくなった足の筋肉は落ちます。確かに脂肪の分もありますが、それにしても今野さんの足は太すぎると思ったんです。だから、今野さんは歩けたのでは、と考えたのです。」
松原の重い声。
「どうなんですか?横田明子さん。」
横田さんは不敵な笑みを浮かべて答える。
「すごい妄想ね。たとえあなたの言う通りだとしても、あそこのお嬢ちゃんにも犯行は可能なんじゃない?彼の足が動くことを知る機会がないとは言い切れないわよね?」
横田さんは鈴村さんを指差す。明らかに挑発的な言い方。
探偵への挑戦に松原は受けて立つ。
「あなたに今野さんの足の状態について聞きたかっただけなのだけれど、まあいいわ。確かに、時間的に鈴村さんも犯行可能でした。けれども、彼女は確かにあの時間、風呂の中にいました。」
「どうしてそう言い切れるの?証人がいるわけじゃないでしょう?」
「ええ、証人はいません。でも私は偶然にもそれを確認しました。風呂から上がった彼女の手を握ることで。」
なるほど、と僕は思った。疲れたからなんてのは嘘で、そのために松原は風呂に入ったのだ。
横田さんが聞く。
「どういうこと?そんなことが証拠になると言うの?」
「彼女の指にはシワがありました。もちろんお湯に浸かってふやけた結果のシワです。私も時間を測って実験してみました。個人差はあるでしょうが、シワができるまでの時間を差し引くと、彼女に犯行のための時間は残されていません。」
「つまり、犯行が可能なのは横田明子さん、あなただけです。」
しかし抵抗は続く。
「見事な推理ね。でも、何一つモノの証拠がないじゃない!」
「金田一やコナンならここでスッとモノを出してくるんでしょうが、残念ながらありません。」
「やっぱりそうじゃない!そんなので私を犯人呼ばわりしないでくれる?」
「証拠はそのうち見つかりますよ。明日には警察がやってきます。指紋を調べれば階段の手すりの今野さんの指紋がでるでしょうし、遺体のあった部屋のドアノブにもどちらかの指紋が付いている可能性が高いです。遺体を調べれば歩けることもわかるでしょうね。それに、犯行に使ったロープが見つかれば、あなたは言い逃れできません。」
強かった語気を少し弱めて言う。
「出来れば、警察が来たときに自首して頂きたいです。その方がきっと罪は軽くなりますから。」
横田さんはついに諦めたようだ。
「そうよ、私がやったのよ…」




