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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

くまのみ少年シリーズ

男の子に恋したので頑張って女の子になりたい男の子の話

 できれば十四才の主人公の年齢を考慮して読んでください。一人称ですし。

 俺は、何を、血迷ったのか、男に、恋して、しまった。

 句読点を打ち過ぎるのは精神に異常があるからとか書かれているのをネットで見たことが有るが、多分今の俺は精神に異常があるので間違いない。


 俺は同性愛は認められない人間だ。だって子供が残せないじゃないか。俺は子供が好きなんだ。つってもまだ十四才だから俺自身が十分に子供なんだけどな。

 だから異性と恋をするのが普通だと思ってる、のに。

 なんでかあいつのことを好きになってしまった。それも抱きしめられたいとか思うほどに。あいつは、蒼大(そうた)は特にイケメンでも無いのにな。


「アキ、なんか最近元気ねえな」

「ああ、声変わりしてきたのが嫌なんだよ。喉痛いしさ」

「しかたねえだろ。俺は声変わり済みました~。膝とかまだ痛えけど」

「良いよな~蒼大は身長伸びて。割とモテるしな」

「お前の方がモテんじゃん。この前も線の細いイケメンとか言われてたぜ」

「やめろよ。女になんか興味ねえ」

「思春期かよ。思春期だったわ」


 俺が好きなのはお前だよ。

 つかなんでこいつをこんなに好きになってんだろ。

 俺は線の細いイケメンとは確かに言われてるが身長は百五十から伸びない。女装したら可愛いだろうと言われてるし、この間、母親が何を思ったのか俺に女装させた。……悪くなかった。つか俺、めちゃ可愛いのな。

 女が女を可愛いと言うのは普通だから、俺が女の自分を可愛いと思うのも普通なんだよな、とか、かなり倒錯した感想が浮かんだ。

 俺ってあれなのかな、性同一性障害って言う奴?

 でも俺、男だし。

 蒼大が好きだけど男だし。


 蒼大が好きになったのは、男同士だから一緒に色々遊んでたのが原因かも知れない。


 蒼大はめっちゃ足が速い。俺も遅くないのに絶対追い付けないし、鬼ごっこで壁とかを蹴ってアクロバティックに俺から逃げる蒼大を見て、ひたすら格好良いと思った。

 ジュースを回し飲みして、男同士なのにドキドキしてしまった。


 距離が近すぎたのかな? 良く分からない。でも、好きになったんだ。


 ある日曜日、母親に女装して出掛けたい、と言った。凄い喜ばれたのは謎だ。彼女が何を考えているのか小一時間は問い詰めたい。でも、欲望に負けた。蒼大に見てもらいたい。


 蒼大はいつもの公園にいた。ウィッグと付け睫の他は化粧も殆どしてない。そもそも色が白くて肌がまだ子供の肌なので普通に女の子になれている。……なんでちょっと嬉しいんだろう。そもそも私は大人になりたくないんだな。

 だからこれは中学生特有の変身願望って奴なんだ。仮面○イダーになりたいとか魔法少女になりたいとか。……少女になりたいな。


 ……やっぱり俺はおかしい。


「こ、こんにちは!」


 サッカーボールで壁パスしている蒼大に、思いきって知らない女の子の振りをして声をかけてみた。蒼大は俺を見て、目を丸くする。

 その反応の意味はなんなの? 俺が女装してるから驚いた? それとも……夢かも知れないけど、俺が可愛いからとか?


「あ、え、えと、こ、こんにちは!」

「あはは! そんなにどもらなくても!」

「あ、いや、その、初めてこんな可愛い娘に声をかけられたから……」

「うっそー、やだー! わたし可愛くなんか無いって!」


 うわっ。嬉しすぎてめっちゃわざとらしくなった。いや、自分で自分を可愛いと言うのは良く考えたらナルシストだよな。そもそも男が自分を可愛いと言うのはナルシズムなのかは疑問なのだが。格好良いと言ったらナルシストで間違いないけど。自分を良く言うんだからナルシストだろ? だから否定したけどなんかわざとらしくなった。


 し、しかし可愛いと言われてしまったぞ、蒼大に。どどど、どうしよっ! ヤバイよー! なんでこんなにドキドキが加速してるの?!


 ……俺は男だ。そう考えたら一気に萎えた。……寂しいな。

 なんで俺、男なんだろ。


「えと、サッカー好きなの?」

「うん。あ、私はアキって言うんだ。初めましてだね!」

「う、うん、アキちゃん、よろしくね! あ、俺は蒼大!」

「そうなんだ、よろしく、蒼大くん!」


 知ってるけどね。ああ、俺、何やってんだろ。蒼大は俺を見て顔を赤くしてる。間違いなく惚れさせてしまった。俺なのに!

 うう、嬉しいのに心が苦しい。申し訳ない。俺じゃなく女の子の俺に蒼大が惚れてる。……いや、どうなんだろ。自分に嫉妬している?

 で、で、でも、女の子として蒼大と仲良く出来そう! そこは何故か嬉しい!


「そ、蒼大くんはいつも一人でここでサッカーしてるの?」

「あ、いや、いつもは友達とやってるんだけど。今日はおかしいなあ、誰も来ない。アキの奴も来ないし」

「私はここにいるよ?」

「あ、いや、この場合アキって言うのは男友達の方で……あ、おんなじ名前だね! あはは!」


 だっておんなじ人だもの。ヒントのつもりだったけど全然全く気付かないね。……このまま、アキって女の子として、蒼大に抱きしめて欲しい……。

 も、もっと化粧とかして女の子らしくなったら良いのかな? だ、抱きしめてくれないかな?


「そ、蒼大くんって彼女いるの?」

「え、い、いないよ!」

「あ、あのね、蒼大くんに……うう、あのね、」


 なんて言おうとしているんだ私は。あれ、時々頭の中では俺じゃなくて私って言ってるな。いや、今は女装してるんだからおかしくない。


「水族館に、その、二人で行きたいの」

「えっ、えっ、な、なんで急に?!」


 そうだった。アキ(男)とアキ(女)は別人だから急な要求だったか。


「ま、前から蒼大くんを見かけてて、その、格好良いなって思ってたから……ってわたし何言ってんの……」

「あ、もちろん行かせてもらいます」

「ぶふっ!」


 かしこまりすぎだよ蒼大~。あ、でも今は初対面のアキ(女)だから突っ込めないな。

 そ、そ、蒼大とデートだあ……。うう、嬉しいよお。

 水族館には男同士の時に一回友達数人含めて皆で行ったことは有るけど、男の蒼大と女の私二人きりでは当然初めてだ。すっごいドキドキする。

 約束をしたこの日からデートの日までほとんど眠れなかった。


 水族館デート当日の朝の私の目では熊が大戦争をしていた。いや、すっごい目元が隈になってた。

 でもお母さんの化粧テクニックで隠してもらえたよ!


 ……いや、だから母よ。何故そこまで女の俺を援護したがる。腐ってるのか? 腐ってるらしい。子供をおもちゃにすんな。


 でも、えへへ。蒼大とデートだぁ。


 私も蒼大を騙してるんだよね。腐ってるんだろう。……でも楽しみ……。


 そして待ち合わせ場所、駅前で、私はお気に入りのワンピースを着て蒼大を待っている。どうしようもなく胸が高鳴る。可愛いって言ってもらいたい。期待が膨らんで気持ちがふわふわしている。今の私は可愛い気がする。でも、それは浮かれてるからであって、気のせいかも?


 しばらく待っていると蒼大は凄いダッシュでやって来た。その走る姿が好きなんだよぉ。つか速すぎいぃ!


「おはようアキちゃん!」

「うん、おはよ蒼大くん!」


 声を高めにしてるけど最近声変わりが始まったから不安だ。ちゃんと女の子の声になってるのかなあ。

 でも蒼大はちっとも気にしていないみたい。罪悪感が半端ない。


「行こう!」

「えっ、きゃっ!」


 いきなり手を掴まれて引っ張られる。いやいや、なんで俺きゃっ! とか言ってるの?

 自然に女として振る舞ってるのヤバくね?


 蒼大に引っ張られるまま、私たちは電車に乗り込む。何人か男の人が私を見てる気がする。顔が熱い。


 蒼大に正体がバレたら気持ち悪いって逃げられるんじゃないだろうか。…………やだよぉ。……このままデートして良いのかな。

 でも嬉しそうな蒼大。うう、ここでやっぱり行けないとか私はアキ(男)なんだ、とか言えない。そしてやっぱり楽しい気持ちに嘘をつけない。

 蒼大が、好きだ。


 電車は目的の駅に着いたらしい。車掌さんの声が響く。


「着いたね」

「行こっか」


 蒼大がかなり私を意識してるのが分かる。嬉しさと申し訳無さが胸を苛む。私が悪いんだ。蒼大に嫌われても、仕方ない。このデートが終わったら本当のことを言おう。だから、このデートだけは、最後の思い出にしたい。

 私は蒼大が、好き。それは嘘じゃないから。


 チケットを払い水族館に入ると、大きな水槽が見えてきた。


「アマゾン川の魚ってデカいけど綺麗だよなあ」

「ピラルクーだね。大きいしドラゴンみたいだよね」

「ドラコンとか知ってるんだ、アキちゃんってお嬢様みたいなのに時々そう言う男っぽいとこ有るよね」

「あうぅ……」


 だって男だし。でも少女漫画をお母さんにやたら読まされたから女っぽいところも有るんだけどね。

 名作少女漫画は男が読んでも面白いよ。男の少女漫画家もたくさん居るし。赤○先生とかき○がわ先生とかね。大物が多かったりする。


「こいつ凄い派手だな」

「ミノカサゴだね。ヒレに毒が有るんだよ」

「アキちゃん魚詳しいな!」

「こっちのホンソメワケベラは大きい魚の歯とかを掃除するんだよ。こっちのニセクロスジギンポはホンソメワケベラの擬態をして大きい魚のエラを引きちぎったりするんだ」

「詳しすぎだろ!」


 調子に乗って解説しまくった。魚は昔から好きだし。あのぎょぎょって言う人には負けるけど。あの人はクマノミかも知れないね。


 魚には黒鯛やクマノミみたいに雄が雌になるものもたくさんいる。かと思えばアンコウみたいに雄は数ミリで雌は1メートル近く、雄が雌に寄生する魚もいる。

 性差は魚だと凄く不安定なものなんだ。原始的な生物だから仕方ないのかも知れないけど、でも。

 私もクマノミなら良かったのに。大人になったら本当に女の子になって蒼大と結婚、出来たら、良かった、のに、……。


「アキちゃん? どうしたの?」

「なんでもない……」


 もうすぐ終わりだ。私と蒼大の友達関係も。……嫌だ。

 嫌だよお……。


「ど、どうしたのアキちゃん!?」

「な、なんでもないぃ……うえぇぇ」


 涙が止まらない。でも、引き返すのは今しかない。生涯蒼大に変態野郎と罵られても、もう、嘘を吐きたくない。蒼大を傷つけたくないもの。


「蒼大、蒼大ごめんね」

「何が? どうしたの?」

「私、アキなんだ」

「え? うん、それはきいた……えっ?」


 私はウィッグを取り、付け睫を外す。蒼大はびっくりはしているけど、未だに女の子のアキを見ている目をしていた。優しい目だ。


「アキなんだよ。私はアキなの。俺なんだ。……ごめん」


 ここで逃げるのは卑怯だ。俺は、私は、逃げない。もうここで終わりだとしても。


「アキが、……アキちゃん?」

「うん、ごめんね。でも、最後にこれだけ言わせて」


 貴方が、好きです。


 嗚咽で言葉になってなかったかも知れない。でも、それを聞いて蒼大は、私を、……え、ふえっ?!


 蒼大は、私を、抱きしめてくれている。

 ……うそ……。


「なんで……」

「……だって今日、アキちゃん、ずっと泣きそうだったし」

「アキだよ。アキちゃんじゃない」

「でも、俺の中じゃもうアキちゃんなんだよ。もう、アキちゃんなんだ」


 うう、うううう、…………ぅれしぃ……。でも。


「ごめんね蒼大。これから私を虐めても良いから嫌っても、無視しても……」

「でも、俺のこと、好きなんだろ?」

「うん、大好き」


 そこは即答できる。そうじゃなきゃこんなに泣いてない。


「じゃあ、これからも女の子で良いじゃん。俺も、……アキちゃんのことが好きになったから……」


 良いのかな。蒼大は、それで良いんだろうか?

 蒼大がいつか苦しむなら、それは嫌だ。


「蒼大が苦しむのはやだ。ちゃんとした女の子を好きになって欲しい」

「アキちゃんは女の子でいるのが嫌なのか?」

「ううん、女の子になりたい」

「じゃあさ」


 それから蒼大が言った言葉は夢物語だと思った。将来的には完全に性別を変える方法が確立されるかも知れない。それを信じようって。

 だったら私も生物学が大好きだし、人間がクマノミに成れる日を目指して、私は、頑張って頑張って、研究して、私は、頑張って、女の子になりたい。


 それから私たちは、正式に付き合うことになった。

 今も蒼大に言い寄る女の子は多いけど、蒼大も普通の女の子と付き合った方が良いのだとは思うけど、申し訳無いが私が彼を独占させていただいている。






 お付き合いいただき有り難う御座いました。


 黒鯛チヌは一年毎に性別が変わります。釣り人の目標である五十センチの物は五年もので、全部メスらしいです。一部ホルモンの関係で雄のままのもいるそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵な話
[良い点] 面白かったです。全然気持ち悪くない。 なぜくまのみなのかわからなかったけど、本文を読んで氷解しました。 [一言] 続きも読みたいと思います。(^_^)
2019/03/25 14:45 退会済み
管理
[良い点] うぅ……(´;ω;`)よかった…… 心にじ~んと来ました☆ 人を好きになるって素敵なことですね☆ そこに男とか女とかは関係ない!! とてもいい作品でした(*´▽`*) [一言] 最…
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