表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

はじめての睡眠

【1. 旅立ち 】




僕は、初めて言われた。この気持ちはなんと言うのだろうか。僕は、もう一度言われたい。お姫様は、僕の事をスゴいと言う。僕が不老不死である事をスゴいと言う。もっと言われたい。

お姫様は、僕に頼んだ。人を殺してほしいと。僕は、自信がないから断った。けれど、お姫様は「君ならできる」と言う。

僕は、言われる。かつて、みんなに、「オマエじゃできない」「オマエじゃ無理」と言われる。でも、お姫様は、「君ならできるよ」「絶対できるよ」と言う。この気持ちはなんだろう。


僕のまぶたは閉じていく。眩しくないのに閉じていく。暗闇が僕を包む。僕に流れる時間が初めて停止した。

朝を経験した。僕とこの世界が初めて結ばれた。僕は、夜に眠くなり、朝に目を覚ます。何年も体を動かしていないかのように、体が固まった。それをほぐす。なんだか面白い。僕は、そうする事により、朝を経験する。これが朝なんだ。夜が来て朝が来る。氷が溶けていく。


僕は、コーヒーを用意した。お姫様が来るからだ。僕は、知ってる人間はコーヒーが好きなんだ。

僕は、コーヒーを捨てた。コーヒーは苦い。


馬の足音が聞こえる。お姫様が来る。人が歩く音。扉を叩く音。扉がきしむ音。


「おじゃまします」

お姫様が来た。


僕は言う。

「あのう。お、お。おはは。よう。その。あの。ございます」

僕は、朝に相応しいハキハキと挨拶した。目を合わせて、丁寧に紳士がする振る舞いをした。


僕は、罪を犯した。お姫様にコーヒーを用意する事ができなかった。コーヒーは苦い。僕は、コーヒーを失敗した。僕は、みんなの真似がしたかった。お客様に、一杯のコーヒーを用意したかった。僕の罪が増えて行く。神様が僕の事を睨むんだ。だから、いつも、失敗する。


「おほよう。よく眠れたみたいね。目がキラキラしてる」

彼女は白い。僕は黒い。僕も白になりたい。


僕は、女神様に許された。


僕は、人と目を合わせる事ができない訳ではない。しかし、何らかの用事があり、俯いた。

「あののん。初めて、眠れたんだ。ありがとう。それで」

僕は、伝えた。

「考えたんだ。ボク。お姫様に。スゴい言われた。それで、思った。ボクは。本当は、この世界の白を描きたかった。今までは、黒。描いてた。だから、旅は。いけない。このこの街で、絵を描く」


「そっかー。君は画家さんになりたいんだね。君はとっても絵が上手だもんね。私は、君の絵が好きだよ。でも、旅をしながらなら、もっと素敵な絵が描けるかもよ」

笑顔だ。彼女は暖かい。朝の光。


腕が軽い。頭が軽い。体から黒い鉄の煙が抜けていく。

「ボク。この街で描く」

僕の体に残ったものがそれだった。


怖い。近づいて来る。

「ねえ。私を触って」

彼女は、やや大股で接近して、少年の腕を掴んだ。彼女は、そのまま自分の胸に少年の手のひらを当てた。

「聞こえないよね? 私、心臓がないの。私ねぇ。もう直ぐ死んじゃうの。君なら助けてくれるよね?」


これは知ってる。涙というものだ。彼女は、死ぬ事が嫌いなんだ。僕は、生きる事が嫌いなのに。


「君は死ねるんだ。ボクは。死にたくても死ねないんだ。でも、君は死にたくないんだね」

分からない。なんだか、彼女は神秘的だ。彼女は死にたくないのだ。彼女は全てを見透かす光だ。だから、僕は床の木目を数えた。


「うん。君は、生きる事がとってもつらいんだね。私が君の事を包んであげる。だから、私の事を助けて。お願い」

彼女の体は熱い。


「ボクなんかじゃできないよ」

僕は黒い。彼女は白い。僕は汚してしまう。


彼女は力強く抱きしめた。

「君ならできるから絶対できるから、私を助けてよ」

暖かい。柔らかい。


「ボクならできる? ボクなら。任せてよ!」

体温が上がった。


「ついて来て」

お姫様は、女の子なのに、僕よりも力があるみたいだ。僕の手をとても強く引っ張るんだ。

僕は、怖い。この小屋にもう帰れない。そんな気がするんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ