心臓が食われた
前回は、ほとんど地の文スタイルでしたが、今回は童話風スタイルです。それも、前回と同じく今回限りですが。
【1. 童話風に書いてみた 】
昔々あるところに、魔法の世界がありました。
この世界は誰もが魔法が使え、愛に包まれたキラキラした世界です。
空を見上げれば、ドラゴンやグリフォンが飛び交い、街に出れば、ゴブリン、ドワーフ、オーガ、リザードマン、ミノタウロス、フォーンといった魔法の生き物たちが、道を行き来しています。
みんな喧嘩する事も差別もなく、いろいろな種族たちが共存して、この国で幸せに暮らしています。
商店街に出れば、「うちのお店に追いでよ」と言わんばかりに、看板が次々と主張してきます。
『なんでもあります。なんでも買いますなんでも売ります。ガラクタ屋。注意。保証は一切致しません。返品お断り』
『あなたの代わりに働きます。労働人専門店。 男性の方へ。姉妹店では特別な労働人が待っています。あなたの好みの種族を探しませんか?』
『世界中から取り寄せた薬草あります。なんでも聞いてください。薬草屋。 一度使ったら止められなくなるあの葉っぱもあります。もうあなたもやってしまいましたよね? ご安心ください。絶対に値上げは致しません。ただし、為替の変動により変わる事があります』
『うちの子? もしかして、魔法適正低いかも? 任せてください。元王族家庭教師の私に不可能はありません。自信があるからこそできる完全成功報酬制です。子供達にはどんな可能性だってあります。魔術教えます。魔術指導の家庭教師。 注意。完全成功報酬制にはいくつかの条件があります』
『摘発されても何度でも蘇ります。 消えてほしい人はいませんか? 殺しの専門店』
この国では、誰もが等しく商売の良い機会があり、とっても繁盛して賑わっています。なので、街はいつもお祭りかのように賑わっています。外国からも多くの人が来るため、人も多いです。とっても、華やかで明るい国です。
都市部から離れれば、お金がない人達も協力し合い幸せにくらしています。
そこでは、魔法適正が過度に低い者、読み書きができない者、音が聞こえない者、目が見えない者、腕がない者、親がいない者など、多くの人々が集まり、一つの集落をなしています。
みんな平等にお金が少ないです。この国では、お金がある人もない人もどんな人も幸せに暮らしています。
今でこそ、愛に溢れる幸せの国でしたが、とっても恐ろしい悲劇がこの国に起きました。
それは、今よりも昔の事です。
魔法の力を盗む事ができる魔女がいました。魔女は、この国に訪れ、人々を襲い、次々と魔法の力を盗みました。
それは、突然の事でしたが、直ぐにこの国の騎士達が魔女をやつけようとしました。
しかし、騎士達は、魔女にたくさん殺されました。
それを目の当たりにした騎士は、指揮官の命令に足がすくみました。
しかし、少し遅れて、この国の騎士の中でも一番強い少年が現われました。
少年は、魔女に挑みました。少年は、まったくの無傷のまま魔女を追い詰めました。魔女は、酷く損傷しました。魔女は、残りの力を使い、この国から逃げました。今では、魔女がどこにいるのかは、未だに分かりません。しかし、この国の平和は守られました。
騎士は、国王から英雄の称号を授与されました。
国王は、決断しました。国王には、たくさんの妻とその子供がいました。普通ならば、自分の子供に国王を継がせます。しかし、国王は、英雄こそが、この国の次の王に相応しいと考えました。
それから、時は経ち、国王は引退しました。英雄は、国王になりました。
現国王は、一人の女性に恋をしました。二人は、女の子を授かりました。
女の子は、あれから19歳になり、それはそれは美しいお姫様になりました。
お姫様は、恋をしました。
一人の騎士見習いの男の子に密かに恋をしました。
その騎士見習いは、住み込みで城に使え、国を守るために、毎日、熱心に稽古をしていました。
どれぐらい熱心かと申しますと、稽古の時間が終わり、他の騎士達が帰る中、闘技場へ残り練習をする程です。
お姫様は、隠れて、その騎士の練習を殆んど毎日見守っていました。
でも、それは身分違いのため許されない恋だとお姫様は考えました。
そのため、ぐっと気持ちをお姫様は堪えました。
けれども、耐えれば耐える程、その恋の気持ちは強くなり、夜に身悶えして寝付けなくなる程その騎士見習いの男の子がほしくてほしくてたまりなくなる一方です。
いつものように、騎士見習いは稽古が終わっても、残って練習をしていました。
騎士見習いは、突然、血豆が潰れ驚きの声を一声上げて痛そうにしました。
剣を毎日振っていたので、手に豆ができていたのです。
隠れて見守っていたお姫様は、隠れている理由をすっかり忘れ、とっさに騎士見習いの元へ駆け寄りました。
お姫様は、真珠のように白く美しい手で騎士見習いの手を握りました。
柔らかなお姫様の手とは対照的に、騎士見習いの手は固く大きく戦う男の手をしていました。
お姫様は、癒しの力があるため、握っている間に、手の傷は癒えました。
この世界では、誰もが魔法が使えるため、お姫様のした事は不可能な事ではありませんでしたが、癒しの力はとっても珍しい力です。
騎士見習いは、手を握られ戸惑い、そして傷の癒えた手を見て驚き、お姫様の透き通った瞳を見つめました。
お姫様と騎士見習いは変装して、城の者から隠れて、毎日毎日、会うようになりました。
夜に、城から離れた庭にあるベンチに座り、楽しいお喋りをして過ごしました。
あまりにも夢中にお喋りをするものだから、寝不足が一週間も続くときもありました。
そのまま、日が昇るときもありました。
【2. リア充であることの代償と罪と罰とか根暗の怒りとかいろいろと 】
ある満月の夜に騎士見習いは思った。
「僕はどうかしちゃったみたいだ」
この気持ちを伝えるなんて・・・。それはいけないことだ。分かってる。
でも。もう抑えられない。
いつものように、姫と騎士見習いは、城からうんと離れた庭にいた。
その庭にあるベンチに二人は腰掛けて、向かい合っていた。
「姫様。僕の罪を聞いてください。僕はいけない男です。僕は姫様に」
騎士見習いは、意を決してじっと見つめた。間があった。その間は重い。
心臓が破裂しそうだ。この騎士の眼差しで、姫は理解した。
「恋をした」
丁寧にゆっくりと騎士見習いは囁いた。
「だ、だめだめ!!うー。心の準備がア」
顔を真っ赤にしてしばらく姫は固まった。全身の毛穴が開いた。まるでサーナに入ったかのように、血液が全身を駆け巡った。
「わーわーわーあ」そう発言すると、姫は走り出した。
「えっと・・・姫さま」
そこには、ベンチに座った騎士見習いの銅像があった。そこにタイトルを付けるとしたら、意気消沈だろう。
【3. この不法侵入者は危険すぎた 】
あーどうしようどうしよう。逃げちゃった逃げちゃった。どうしよう。絶対告白だよ。
部屋の隅々を探検するかのように、行ったり来たり部屋中を何度も歩き回りながら、姫はブツブツ言う。
あー逃げなきゃよかったー。なんで逃げたんだろう。あーチャンスが。
コンコン
部屋の窓ガラスを叩く音が聞こえた。
「なにかしら。こんなにも一大事なときに」
騎士見習いの声がした。
「やあ、マイハニー!僕だよ開けておくれ」
姫は、自室の寝室にいる。寝室には窓がる。姫には、習慣がある。カーテン開けて、月を見ながら癒され眠りに付き、朝日の光と鳥のさえずりで起きる事を習慣としている。
その窓には、縁がある。人が座れるだけの太さと長さがある。
そこに、片方の膝を立てて、騎士が座っている。キザな座り方だ。
「き、騎士様。どうしてこんなところに」
どうしよう。なんでなんで、騎士様が? う、いま寝間着だし。髪だってバサバサかもだし。部屋は? うん、散らかってはなさそうね。でも、マイハニーってなに? あっこんなところじゃ危ない。落ちちゃう!
「いま直ぐ開けます」
落ちないように慎重に開けて、招いた。騎士見習いは、部屋に入った。
暗くてよくは見えませんが様子がなんだかおかしいと姫は疑った。
お姫は少しだけ声が裏返った。
「あっあの座ったら」
なんだか怖いと感じた。
騎士見習いは、ゆっくりと近づいた。獲物を狩るかのように。
「アナタ誰?? 来ないで!!」
騎士見習いの皮膚はドロドロと垂れさがり、顔の半分がおそろしく肌の白い女の人の顔に変化した。
そして、姫に抱きついた。
「そなたの心臓、旨そうだ」
「えっ」
ぽたぽたと垂れていき、辺りは真っ赤に広がった。
肌の白い女の手には、心臓が握られている。
そして、そのまま飲み込んだ。
あらすじとか脚本と言った骨を重要視していると前回は言った。でも、やっぱり、本当に大切なのは表現だと思う。表現はカメラのようなもので、ちょっと変わった角度から物語を言ったり、変わった世界観や哲学感があるから、自分の世界に新しさが芽生えるんだと思う。でも、物語自体は、ヒーローズジャーニーだったりグレマスの行為者モデルで解釈できたりはする。全ての物語は、構造的にはほとんど同じかもしれない。同じでも飽きない理由は、表現が違うからだと思う。