ストーキングする事が生きがいです
地の文だらけだなぁと思うかもしれません。だらけではなく、地の文しかありません。
引きこもりの主人公の頭の中がダラダラと語られます。これは、一話目だけですので、ご安心ください。
【1. 小屋から出ない 】
僕は、自分が何年生きているのか覚えていない。僕は、不老である代償に、記憶を失う。10年も経てば、あの日感じた感覚も殆んどない。30年も経てば、昔読んだ本の内容も殆んど覚えてない。でも、あらすじぐらいなら、少しは覚えている。そして、一緒にいた鳥が死んだ事も覚えている。僕の罪は増えて行く。
僕は、教会付属の孤児院に住んでいた。孤児院では多くの孤児がいた。飯は不味い。そして、うるさい。臭い。狭い。人が多い。
そこでは、勉強を教えて貰ったり、歌を歌ったりした。
僕は、不老だ。永遠に少年のままだ。僕には、成長がない。睡眠も食事もない。汗もない。涙もない。疲労もない。痛みをない。臭いも味もない。友達もいない。家族もいない。
僕は、不老だ。肉体的消費がない。でも、それでも心が枯れるんだ。だから、生きるために、孤児院を出た。そして、また孤児院に入る。僕は、孤児院を巡って放浪した。成長しない僕が何十年もいると怪しまれる。だから、放浪した。
何件目の孤児院かは忘れた。僕は、そこでもあそこでも、いつも、いじめられていた。
嫌な記憶だけは覚えている。いや、そもそも辛い記憶しかないのかもしれない。殆んどの教会で子供達にいじめられた。だから、僕は、人間とは、関わらないと決めた。
僕が、人間と関わらない事には、ちゃんとした理由がある。アイツら人間は、弱い者を見つけていじめる。
人間は、人を差別する。読み書きが得意な人間。歌が得意な人間。魔法が得意な人間。喋るのが得意な人間。人間である事が得意な人間。僕は、人間が嫌いだ。
言葉を持つ種族は大勢いる。その中でも、同族を奴隷にする種族は、人間しかいない。例えばエルフやドワーフは同族を奴隷にはしない。だから、僕は人間は嫌いだ。
僕は、ある日、孤児院を出た。もう孤児院を探さなかった。
僕は、土になった。僕の肉体は腐らない。僕には、睡眠がない。だから、僕は、歩いた。
丁度いい廃墟を見つけた。そこは山の中にある。臭いし汚い。でも、どこでもよかった。僕は、自分でその廃墟の家を修復させた。そこに、90年ぐらい住んだ。
最高の90年間だと言ってもいい。でも、運動していないためか、骨と皮だけの体になった。それでも、不老のため、食い殺したいぐらいに肌は柔らかくみずみずしい。僕は、絵が好きだ。ハッキリ言って天才だ。僕は、自分の心を絵に描いている。僕は、久しぶりに街に出ようと思う。この天才を山小屋に閉じ込めることは、人類の発展を妨げる。僕には、神のお告げが聞こえる。街に出よと聞こえた。僕には分かる。
【2. 街へ出る 】
僕は街に出る前に、喋る練習をしなかった。なぜなら、独り言をたくさん喋ってきたからだ。声帯は衰えてはいない。むしろ、孤児院にいた頃より、喋り上手になっている。僕にできない事は何もない。
山から出ると、太陽が僕の門出を歓迎した事は当然であった。しかし、人間はバカであるから歓迎などしてくれない。
僕は、代謝がないため、あそこにいる奴隷やホームレスよりかは臭くない。でも、体は雨や土により汚れている。だから、汚いと言える。
絵が描けない。それは不幸だと言っていい。僕は、働くことに決めた。
服屋から服を盗んだ。街にある一番大きな噴水で体を洗った。多くの人に見られたが、気にしないようにした。
なぜなら、この街には奴隷もホームレスもいる。僕はそれよりも、ずっと、賢いし優れている。文字だって書ける。
それに、こうやって、人を好奇の目で見るなんて、礼儀知らずも甚だしい。
お里が知れると言っていい。
僕は、噴水の中で裸だ。人の裸を見るなんて変態だ。この街の人間はおかしい。
とは言え、これもα45の周波数の影響だろう。
でも、確かに、噴水で体を洗うのはおかしいけど。わかってるけど。お金もないし、どこで体を洗えばいい。誰も僕を責められるはずがない。僕はそれが言いたかった。
僕は、面接をした。
落ちた。そして、落ちた。また落ちた。
僕は、自信家だ。
でも、人の前に立つと自信がすっかりなくなるんだ。
僕は、本当は知っている。天才じゃないと。でも、働きながら、趣味で細々と絵を描いて、生きていこうと思った。だから、街に出た。別に、天才性を発揮するために街に出た訳じゃない。
僕は、対して、魔法も使えないし、学校にも行ってない。なにか、凄さを、実力を、見せるものもない。僕には、保証がない。権威がしてくれる能力の裏付けがない。じゃあ、目の前で自殺して、僕は、不死だと言えばいいのか。でも、それは怖いし、仕事には役に立たない。
何回目の面接だったか忘れた。僕は、仕事を手に入れた。
貴族だったり、国王だったり、そういった偉い人達に関われる仕事に就いた。
主な内容は、トイレ掃除だ。
【3. 一日三回は怒られる 】
僕は、不老不死を面接官の前で証明した。食事も睡眠も必要ない。痛覚も感覚もなくす事ができると、売り込んだ。
そして、トイレ掃除の仕事に就いた。主に、貴族の屋敷やこの国の城のトイレを掃除した。
トイレ掃除は、奥が深い。トイレ掃除は、様々な種類の薬品を使う。まず最初に薬品Aを使う。それを便器に掛ける。すると、汚れがふやけるかのように、分解される。次に、薬品Bを使って、便器を漂白する。このように、便器の白さは保たれる。これは順序が肝だ。間違ってもBを掛けてから、Aを掛けてはならない。他にも、床掃除のコツなんかもあるが、それは追々紹介しよう。
床掃除は、難しい。便器は簡単だ。なぜなら、的が絞れているからだ。的が絞れているというこのニュアンスを分かってほしい。便器は1個2個と数える事ができる。対象が明確だ。でも、床は、1個2個と数える事ができない。だから、難しい。
先輩は、1日3回、僕を怒らないと気が済まない。例えば、床の隅が汚れてると指摘してくる。
「なぜ、まだ汚れているのに、終わりにしてるの? まだ終わりじゃないけど?」と、嫌見たらしく言ってくる。殺意が沸く言い方だ。
僕は言う「すす、すみみ」
「はぁ!? ブラシの角を使えば、隅でも届くけど? 別に、魔法を使えとか高度な事は要求してないよね。いいから、直ぐやれよ。次があるんだからさ。こんなんじゃ一日じゃ終わらないよ?」
確かに、先輩の言う通り、ブラシの角を使えば、汚れは落ちた。僕は、だからこそ、返事はしなかった。
先輩には、スイッチがあるみたいだ。一度怒り出すと、ドミノ倒しみたいに、次々と怒り出す。
僕は、鉄の心で終始無言を貫いた。絶対に。お説教には返事はしなかった。
そんなことが何日も何日も続いた。僕は、仕事を辞めようと決めた。でも、怖かった。また、仕事を探す事が怖かった。怖い。嫌だ。こうして、2年とか5年とかが過ぎた気がした。
僕の心は死んだ。世界の闇を見た。僕の心は死んだ。
【4. 僕の一日と哲学的幸福についての考察 】
貴族の館を掃除するときは、つまらない。一番最高に楽しいのはお城だ。本当に運が良ければ、世界で一番美しい我が国のお姫様が、なんと、「ご苦労様です」と挨拶をしてくれるのだ。それも、笑顔でだ。だから、僕は、不幸でも惨めでもない。幸せだと言える。
僕には、睡眠も食事も必要ない。疲労も痛みもない。だから、僕は、仕事が終われば真っ先に、姫様を観察する。少しづつ、姫様の行動範囲を調べた。それを地図にした。
家に帰れば、ひたすらに、姫様を描き続けた。
姫様の寝室から300から500メートル離れたところに、木がある。
僕は、そこから、双眼鏡で、姫様を見守っていた。その双眼鏡は高額だった。
僕は、お金を殆んど必要としなかったため、貯金をしていた。貯金を崩して購入した。
暗闇でも昼間のように見えた。その双眼鏡には、高度な魔法が施されている。
僕には、流行があった。姫様の唇を観察する事だ。毎日見てるため、その日の体調の変化すら分かった。次に、耳の形を見る流行があった。それらの観察は、姫様の絵を描く時の完成度に直結した。
僕の心は生き返った。世界の光を見た。僕の心は輝いた。
私が物語に重要視している事は、あらすじとか脚本です。確かに、文章は大切。心理描写。状況の説明。場所の説明。世界観の説明。会話。表現が面白ければ、あらすじとか脚本は大した問題じゃない。それに、物語のパターンは、そんなに多くない。大事なのは表現だと思う。でも、自分の技量では、表現で押し通せるとは考えられない。だから、あらすじとか脚本と言った骨を重要視すると決めた。