『コーンポタージュ*対偶』
秋の終わり、冬の訪れを感じさせるこの寒さと静けさは私の感覚を研ぎ澄ましてくれるような気がする。
既に部活の時間はとうに終わっている。完全下校の時間が迫っている今、誰も残っていないだろう。
私は一人練習を続ける、誰よりも上手くなるために……
頼れる先輩はもういない。私がこの部の年長者である。いや、私だけではないが私が一番上手い。うちの部は毎年成果を出している。残された私達の中で一番賞に近いのは私だ。私が頑張らなければ……
────っ!?後ろから物音がした。自然には絶対に鳴らない音。
「誰?」
「あっ……えと邪魔をしてしまいましたよね、すみません、先輩」
振り返る。そこには男子生徒が一人。確か彼は一年の子だ。
はぁ、驚かされた……、名前は思い出せない。うちは男女合同の部だが男女間の交流はやや薄い、仕方のないことだろう。
忘れ物だろうか?
「あ、あの……」
「どうしたの?」
私は極めて優しく声をかけれたはずだ。
「あーその……」
煮え切らないやつだ。こういうウジウジした態度には苛立ちを覚える。
「はっきり言いなさい」
「ひゃいっ! お、……おおお、お疲れ様です先輩!」
そう言って勢いよく差し出される両手。そこには黄色い缶が顔を覗かせている。
「それは、私にですか?」
「はい! ……先輩、3年生が引退してからずっとみんなが帰ってからも残ってて、最近はとても寒くなっているのに頑張り続けていて……その、きっと先輩冷えているだろうなと思ったら……その」
要領を得ない喋りだが、なんとなく気持ちは伝わって、だから────
「ありがとう」
自然と言葉が出た。すると後輩くんは何故か慌てたように「ががが、頑張ってくださーい!!」と叫んで出て行った。
「変な子……ふふっ」
だけどいい子だ。名前は聞きそびれたけれど、また明日聞けばいいか。
コーンポタージュの黄色い缶は温かい。甘くて温かいそれは張り詰めたものを解きほぐす。中のコーンの粒を残さないように残りを一息に煽ると空になった缶を置く。
「もうひと頑張りしますかね。……あと残り十数分だけど」
なんとなくだがさっきよりもずっと集中できている気がする。
────これは後輩くんにお礼を言わないとね。
少し明日が待ち遠しくなっている自分がいることには驚きだが、悪くないなと思う私だった。
やった、Romyさんミッションコンプリートだぜ!
私は初めて有言実行した。やほほい、やほほい、やほほのほい。
“コーンポタージュマスターに私はなる”とか言い出してコーンポタージュでミステリーでも書き出さない限りは『コーンポタージュ』シリーズはラストです。
ありがとうございました。