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星月の旗 或いはとある少年の革命記  作者: 織宮 圭
第1章 雪深い村の片隅に

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02


 目を開くと、見覚えのある部屋だった。

 前回目を覚ました時と同じ、うっすらと寒気が停滞した部屋。


 身を起こして、部屋を見渡す……その時に身体が軋むような心地がするところまで同じで、でも明確に違うことが一つ。

 ……空腹なのだった。


「……おなか、すいた……」

 声が出たのも、前回とは違うことだった。


 部屋の隅には、旅に必要なものらしき荷物がいくつか。

 それが多いのか少ないのか、マントが被せられているので詳しいことはわからないが、マントに収まっているので少ないのではないだろうか?

 マント自体は少し傷があるものの新しそうで、買い換えてそう長くないか、あるいは旅慣れない者のもののように感じた。……それが自分の物なのかはいまいちわからなかったが。


 室内は薄暗いが小さな燈火があり、部屋に窓はあるが閉めきられている。とはいえ窓の辺りは少し明るいので、どうやら外は明るい時間らしい。

 それでも窓を開けるのではなく燈火で明かりを確保しているのは、窓を開けると支障のある場合……恐らくここが寒冷地だからなのだろう。


「ここ、は……」

「ここはステラ王国北西部、ノッテ村だ」


 急に返答があって驚いて振り返ると、部屋の入口には怜悧な印象の美形の男と豪快そうな男、それから前回にも見た快活そうな少女が立っていた。


「俺はアズロ、この村で医者をやっている。まずは無事目覚めたようで何より。こちらはこの村のまとめ役、ベアード」

「おう、ベアードっつうもんだ。ちっと聞きてぇ事があンだが、調子はどうだい?」

「だいじょうぶ、です。……ええと、」


 眼鏡をかけた美形の男が先に名乗り、続いて逞しくて大柄な男。

 それに答えながら名乗ろうとして、『自分』を指す言葉が自分の中にないことに気付く。


 一瞬、喉元まで出かかった言葉がわからないまま、曖昧に微笑むことしかできない。

 それを見た二人の男がどこか納得したように顔を見合わせるのが視界に映るが、それでも何も言えずにいると、ふと背に手が添えられた。


「君は五日前に村の入口に倒れてたんだよ。それから三日も目が覚めなくて、昨日スープだけ飲んでまた眠ってたの……。覚えてる?」


 背を撫でられながら目を伏せて思い返す。塩味と野菜の甘さ、温かなスープ。冷え切った手足と、誰かの呼ぶ声。


 ――どうか眠って、愛し子よ。

 ――悲しい記憶は凍り付かせて。


 そうだ、その声はずっとそばにいた。だけど真っ白な世界の中で、突然手を離された。


 ――私達の可愛いクリス。

 ――貴方の傷が癒えるまで。


 歌うような祈り。慈愛に満ちた声。耳ではなく、頭の中に響く声。

 この声が本当に超常のものであるのなら、自分の記憶は言葉通り『凍り付いた』のだろう。

 それだけの力を、きっとこの声の主は持っている。

 それを表すかのように、それ以前の記憶はまっさらだった。


「……落ち着いた?」


 少女の声に、現実に引き戻される。

 心配そうな表情の彼女に頷くと、改めて二人の男に向き直って名乗る。


「僕はクリスです。名前以外ほとんど何も覚えていませんが、助けていただき感謝します」




お読みいただきありがとうございます。

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