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あ行系小説2、アイキャッチャー~愛惜

51、アイキャッチャー



 新しく出来た本屋に入ると、アイキャッチャーが目を引いた。

 その広告は店内のいたる所に飾られていた。

「広告を見に来たんじゃないんだよな」

 ぼそっと呟く。

「それにしても不思議な図柄や写真がたくさんあるな。何か眩暈がするよ」

 異世界や迷宮にでも迷い込んだような奇妙な感覚に頭が徐々に麻痺していった。

 店内では様々な聞いたことのない曲調の音楽や不思議な重低音が流れ、その感覚に拍車をかける。

 さらに床の辺りから白い煙がもわもわと湧いてきた。その香りを嗅ぐと思考が鈍り、まるで夢遊病者のようにふらふらとした足取りになった。

 そして知らず知らずのうちに買いたくもない本を山ほど手にとっていた。

 店を出てしばらくすると、意識がクリアになってきた。もう外は夜になっていた。いつの間にこんなに時間が経っていたのだろう。

 おかしい、と思い俺は警察に連絡を入れた。

 その本屋さんはやはりブラックだった。

 広告にサブリミナル効果的な細工を店内のいたる所に施し、音楽は本を買わせるために催眠音楽を流していた。そして極めつけは脳を麻痺させる白い煙を出す薬物を客に嗅がせ無理やりに本を買わせていた。

 まさに一寸先は闇だなと目の前に広がる暗闇の空間を眺め、そんなことを思った。



52、哀求



 私は山を登っていた。

 準備万端の装備をしていたのだが、突然熊に襲われた。

 何とか、命からがら逃げ出すことが出来たのだが、荷物は熊に奪われ、悪天候も重なり私は山で道に迷ってしまった。

 3日3晩歩き続けたが、山を抜けることは出来なかった。

 水も飯も食べていないので、もはや限界で歩くのさえ不可能だった。

 諦めかけていたその時、目の前に影が差した。人が立っていたのだ。

 た、助かった。私はそう思いその人に哀求した。

「た、助けて下さい。山で遭難してしまって」

 私が言うと、その男は「ええ、いいですよ」と了承した。

 無精髭を無造作に生やしたその男は元、医者だと名乗った。男は医者を引退した後、この山の付近の家に住んでいると言った。

 元医者だと聞いた私は、ああよかった、助かったと安堵した。

 安堵していた私に男は「ただし」と何か意味深な言葉を呟いた。

「た、ただしなんですか?」 

 私が聞くと、男は含みを持たせた笑みを浮かべた。

「交換条件として欲しい物があります」

「欲しいもの?」

「ええ」

「か、金ですか? 金なら助けて頂けたら出せる範囲で出します」

「いえ、金ではありません。」

 私はもう体力、気力が限界だったので、「分かりました」とまだ話半ばの状態で了承してしまった。

 元医者は微かに笑うと、服のポケットから何かを取り出した。

 注、注射?

 逃げ出そうと足掻くが体がゆうことを聞かなかった。

 男が私の腕に注射の針をさした。

「安心してくれ。これは麻酔の注射だ」

 薄れいく意識の中で元医者と名乗る男の話にどうにか耳を傾ける。

「俺はね。医者で外科医として活躍していたが、引退した後やりがいが見つからなくてね。それでどうすればこの引退後の生活をやりがいある人生を送れるかと考えたんだよ。そうして悩んだ結果、今までの経験を生かした趣味がしたいと思ったんだ。外科医としての経験と、もともとの趣味としてやっていたパズルを組み合わせることにしたんだ」

 元医者はおもむろにキラリと光るものを取り出した。

 メスだ。

 脂汗が全身から噴出する。た、助けてくれ。

「今まで、この山で遭難し、動けない人を探し、助ける代わりに臓器や眼球、爪など様々な物を貰ってきた。それらは一通り揃ったので今度はその臓器などを入れる容器が必要なんだよ」

 淡々と語る口調からは感情などは一切読み取ることが出来なかった。

「君には体を提供してもらう。眼球や臓器、爪、髪の毛などを全て剥ぎ取って、容器になってもらう。そして今まで色々な奴らから集めた臓器や眼球、爪、髪の毛などをお前の体に組み合わせる。パズルのようにな。大丈夫だ。君の体は私の心の中で永遠に生き続けるんだ。死にはしないよ。それでいいよな? 嫌なら今のうちに言え。まだ間に合う」

 嫌だ! 助けてくれ! 

 私は言葉を搾り出そうとするが、私の口から出てくるのはヒューヒューという空気が洩れる音だけだった。

「OK! じゃあ了承したということで……」

 男はくっくと喉を鳴らして言った。




53、IQ



 何てことだ。

 通報を受け川岸のすぐ側にある現場に駆けつけた俺は衝撃を受けた。人が倒れいていた。

 その人間の脈を計ると脈は既になかった。

 死んでいる。

 俺は手袋をはめ、人間を仰向けにする。

「なっ?」

 こいつはまさか……。

 死んでいた人間は俺の旧知の仲の男だった。

 名前はごんぞうという少し古くさい名前の男だった。

 こいつとはIQを巡って確執がある。

 IQテストを学生時代にした時、俺の方がこいつよりIQが高かった。そしてそれ以来、こいつは俺のことをライバルししていた。

 俺は現場の状況を詳しく検査した。

 異変に気づいた。

「ダイイングメッセージ?」

 川岸の砂利にはごんぞうが書いたと見られる暗号らしきものが書いてあった。

 これは俺へのごんぞうからの最後の挑戦だな。

「受けてたってやるぜ」

 砂利には1+1=2と書かれていた。

 この事件に関わっているとおぼしき容疑者を探した結果。ある人物が浮かび上がった。

 その人物の苗字は田仁という男だった。その人物は犯行時間のアリバイはまったくなかった。

「1+1は田んぼの田、それに2を足すと田仁だ」

 謎を解いた俺は田仁を緊急逮捕した。

 しかし、その後別の犯人が逮捕され田仁は無罪で釈放された。俺はその責任を取らされ、辞職した。

「お前は俺を混乱させたかったのか? それともただ単に死ぬ間際に1+1がしたかったのか? とにかくこの勝負は俺の負けだ」

 今はいない、ごんぞうに向かって俺は一人呟いた。



54、哀叫



 魔法使いとして、活躍して早100年。私は一区切りつけようと旅行に出かけることにした。世界旅行だ。

 私が旅の途中、南極に行った時、船の上でくつろいでいると、哀叫が聞こえた。

 船の上から下を見下ろすと、アザラシが鳴いていた。

 その切ない声を聞いた私はアザラシを家に持って帰ることにした。

 自宅は、中世のお城のような家で、敷地はかなり広い。

 ゴシックの雰囲気が漂うお城は一階がダイニングルームや魔法関連の書斎や研究所がある。

 螺旋階段を上って二階には私の趣味の部屋がある。様々なコレクションルームだ。ホルマリン漬けの生き物や、世界各国で集めた、人種の首。古今東西の多種多様な武器、切手、紙幣、コイン、ポルノビデオ、がみっちり二階の部屋の隅々を埋め尽くしている。

 3階もコレクションルームなのだが、生き物限定だ。海洋生物や陸上の生物が飼われている。

 魔法を使い、空間を広げることが出来るので飼っている生物の数は把握できていない。

 螺旋階段を上がって3階まで行くと私は魔法で小さくし持って帰ったアザラシを海洋生物の空間に解き放った。

 アザラシは嬉しそうにはしゃいぎ、鳴いた。

 飼って日が過ぎれば過ぎるほど、アザラシに対する愛着が湧いて来た。

「おーよしよしよし。プリちゃん。今、餌をあげるからね」

 プリちゃんとは私がアザラシに付けた名前だ。

 プリティーとぷりぷりした体から付けた名前だったが、ちなみにオスである。

 ああー、くっそー。可愛いなプリちゃんは。

 徐々に感情がプリちゃんに支配されつつあった。そして、気づけば日常もプリちゃんのことで頭が一杯になってきた。

 プリちゃん。プリちゃん。プリちゃん。

 私は、自分で言うのもなんだが、頭がついにいっちゃった。

 私は魔法を使い、アザラシのメスに変身した。

「プリちゃーん」

 そして私は、プリちゃんの子供を身ごもるべくプリちゃんに求愛するのであった。



55、愛郷



 俺はこの生まれ故郷を愛している。

 だから故郷の町が魔王の手下に襲われたと聞いた時、俺はいてもたってもいられなかった。

 俺は仲間を募った。

 仲間は日に日に増え、その兵力は万を超えた。

「たとえ、魔王に勝てないとしても俺達は戦わなくちゃならないんだ」

 一矢でも報いるべく、俺達は魔王の手下にばれないように隠れながら、魔王城への侵入を果たした。

 そして手下が魔王の元へと駆け寄った時、俺達は風と共に一斉に魔王に飛び掛った。

「くらえ、魔王。俺達の愛する故郷を守るんだー」

 その後……。

「ハックション」

 魔王は風邪をひいた。

 どうやら俺たちウイルスは一矢報いることができたようだ。



56、愛嬌



 温が40度を超える灼熱の日、駅前ロータリーを歩いていると遠くから下を向いた子供が歩いてきた。

 遠くにいたので一瞬で判断は出来なかったが、どうやら女の子らしい。スカートを履いている。

 近づいてくる女の子は手に筆のような物を持っていた。絵でも描くのだろうか?

 だんだんと女の子の風体がこちらに来るにつれ、はっきりしてきた。

 髪は艶を帯びた肩までかかった長さで、夏の風に踊っている。目は鳶色をしている。服装は何かのアニメのコスプレのような格好で、周りとは異彩を放っていた。

 女の子は顔に、不安や恥じらいのような表情を浮かべている。

 可愛いらしく、美しくもあるのだが、愛嬌があるという形容が一番しっくりくる。

 女の子はこちらを見て、にこりと笑った。

 な、なんていう笑顔なんだ。一つ一つの仕草も底抜けに可愛い。

 頭の神経が麻痺したような感覚に襲われる。こ、これは一体何なんだ? 魔性の女? 美人局?

 分からない。だが、足は無意識の内に女の子の方に向かっていた。そして、気づいたら女の子を抱きしめていた。

 この香り、感触、手触り、肌触り、舌触り。無意識の内に舌で舐め回していたようだ。

「い、痛いよう」

 か細い声が小さな口から発せられた。

「ご、ごめんよ。お、おじさんが悪かったよう」

 言うと、女の子は頭に『?』を浮かべた。

「もう、何言っているの? パパ」

 そこでようやく気づいた。私はこの女の子のパパだったのだ。

「パパ。私をコスプレさせて、絵画教室に通わせるの恥ずかしいから止めてよ。それと舐めたりするのも止めて。こういうの親ばかって言うんじゃないの?」

 我が子があまりにも可愛すぎて、私はどうやら盲目になっていたようだ。




57、愛楽



 愛楽。願い求めること。

 世の中には何でも願いを叶えるという、アニメや本などの空想の世界が存在する。

 ある一定の条件を満たすと、龍や魔人が出てくるのだ。

 小さい頃から空想の世界に浸ってきた私は、医者になった今でもその夢は心の片隅にひっそりと眠り、心のどこかで今もまだその夢を追い続けている。

「先生、オペの時間です!」

「ああ」

 神妙な顔つきで白衣に身を包んだ私は助手に声を掛ける。

「メス!」

「はい!」

 助手が私にメスをそっと渡す。

 いよいよか。私は心の中で呟く。

 外科医になってまだ間もない私だがいよいよ念願の時が来た。

 今日でボールが7つ揃うのだ。

 私は患者の去勢手術を終えると、今まで集めた玉を7つ並べ願いを叶えし者を呼び出すために玉の前で手を広げ、掛け声を掛けた。

「先生。何やっているんですか?」

 軽蔑とも嫌悪感ともとれる表情をして助手は言った。

 次の日、私の病院から助手が全員消えた。

 



58、愛薬



 人にはそれぞれ体質というものがある。

 蚊に刺されやすい体質、お酒に弱い体質、暑さ寒さに弱い強い体質、アレルギー体質。

 人は皆千差万別だ。

 私は昔、傷を負ったことにより体調が著しくない。、なので様々な回復の薬を飲んでいるが、なんの効果もない。

 そんな絶望の生活を送っていた時、私は屋根裏を掃除するようこの家の主から頼まれた。

 屋根裏は埃だらけで、蜘蛛の巣も張っていて掃除は困難を極めた。

 屋根裏の奥を掃除していると、本が見つかった。とても古びた年代を感じさせる本だった。

 本には私の体質とそっくりの症状が記されていた。そしてその症状を治す薬も載っていた。

 しかしその薬はどこにも売っていないらしかった。自分で手作りで作らなければならないらしい。

 その薬を作るには材では熊の爪、ハブの牙、スズメバチの毒針などが必要だった。

 私は自分に合った合薬を作るべく旅に出かけることにした。

 ¶

「ようやく。家を出て行ってくれたか」

 両親は安堵のため息を漏らす。

 息子は昔から妄想癖が激しく、自分が選ばれし勇者で、魔王によって傷つき、手負いの状態でこの家に一時避難していると思い込んでいる。

 だから両親は息子が喜びそうな古びた冒険要素を含んだ本を作り屋根裏部屋に置いた。

 案の上、息子はその本を手に取り、冒険心がくすぐられ、傷も回復すると思い込み旅に出てくれた。

「早く良い嫁、見つけてこいよ。もうお前は50歳にもなるんだから」

 御年80になる両親はどこか憂いを帯びた声音で呟いた。



59、相口



 相口はとても気持ちがいい。

 物がぴったりと合わさった感覚は脳内に快楽を生む。

 例えていうなら、トイレで用を終えた後トイレットペーパーで拭く時、ジャストフィットする感覚に近い。

 まだ、未成年の俺だが、私はその相口の感覚を探す為に全国を旅することにした。

 様々な相口を試行錯誤しながら模索し続けた。

 まずはラップだ。ラップを全身に巻き、ぴったりとフィットさせる。しかし、通気性が悪かったので却下した。

 次に、デパートのマネキンに抱きつき、フィット感を確かめた。だが、無機質なその肌触りは理想とは程遠かった。

 最近ニュースで見た事件を思い出し、狭い溝に入り込んだりもした。

 ナンパもした。老若男女問わず、知り合った人物とフィット感を模索した。が、なかなか上手くはいかなかった。

 どうすれば相口のフィット感が味わえるのか、悩んだ末でた結論はこれだった。

 教師になること。

 物や話がぴったりと合わさった時、心は歓び、躍る。ということは、大事なのは心なのではないだろうか。

 私はそういう結論に達した。

 だから、心と心を通わせフィットさせられる職業に就こう。そう思ったのだ。

 なんとかして、苦労の末、教員免許の資格を取ることが出来た俺は、これからは生徒たちと心のフィット感を味わうべく、決意を新たにするのであった。




60、相悔み



 出会ってはいけない俺達は出会った。

 今までは会わないように回避してきたのにどうしてこんなことに。

 因縁の仲といっても過言ではないだろう。

 相手は敵意剥き出しにして、武器を手に取る。

 ふんっ。そんなことだろうと思った。やはり俺を憎んでいたのか。そうなれば話は別だ。俺も戦わねば。正当防衛だ。殺られる前に殺る。

 お前みたいな武器を使う卑怯ものは許さん。俺は食べていくのが精一杯でぎりぎりの生活を常に送っているんだ。俺を舐めるなよ。

 ガオー。

 熊は銃を手にした男に向かっていきました。

 狩人は銃で熊に深手を負わせ、熊も狩人に深手を負わせました。

 相悔みです。




61、愛犬



 我が家には愛犬がいる。

 とても可愛い、ポメラニアンでポピーという名前だ。他にもニシキヘビも飼っているがそれはまあ、どうでもいい。

 愛犬の性別はメスで私にとてもよくなついている。

 どこへ行くのも一緒で、おしゃれな服を着せたり高級で栄養バランスの良い餌を与えている。

 そんなある時、私はあるニュースを見た。

 科学の進歩により、移植手術が更に飛躍的な革新を遂げたというのだ。

 そのニュースを聞きつけた私はその手術について詳しく調べた。

 何と動物などを自分の体に移植できるというのだ。

 早速、大金をはたいてポピーを自分の体に移植することにした。

 ポピーの体は自分の体と同化させ、ポピーの頭は右肩の肩甲骨の辺りから出した。

 そうすると、左肩が寂しくなってしまうので、あまり気分は乗らなかったがニシキヘビを移植するこちにした。

 案の定私と、ポピーはすぐにニシキヘビに襲われ食べられ、乗っ取られた。




62、愛眼




 小さな頃から悪童だった俺。

 小学、中学、高校でした悪さは数え切れないほどだ。高校では切れたナイフと呼ばれていた。

 大学へは行かず、かつあげで生計を立てていた鬼畜の俺だが、ある事件がきっかけで変わった。

 ある日チーマーに因縁をつけられ、ボコられていると「やめなよ」

 澄んだ声が俺の脳に響いた。

 這いつくばっていた瀕死の俺が声の主を見上げると、竹刀を背負ったスカートの丈が地面に着くほど長く、化粧が濃いめで茶髪のロングの女が俺のことを見下ろしていた。

 その女はチーマーの知り合いらしく、俺を助けてくれた。

 その女は俺を部屋に運ぶと裸にし、傷の手当てやその他もろもろの解消をしてくれた。

 そして、その後もしばらく介抱され重症を負っていた俺だったが、早く回復することが出来たと思う。

 回復するとすぐにその部屋を出た。女は名残惜しそうにしていたが、俺には進むべき道が出来たのだ。

 その進むべき道、それは女が教えてくれた。

 アボーンしそうな状況の中、聖母のように救ってくれた女。その献身的な愛を受け、俺も人助けをしたくなったのだ。

 心が変化し、いつしか全てを愛眼で見るようになった。

 蜘蛛が蝶蝶を食べようとしていると、俺は蝶蝶を蜘蛛の巣から取り払った。

 幼き子供がいると、可愛いと思いにこりと満面の笑みを浮かべた。

 道端に生える、犬におしっこをかけられた雑草にさえ微笑んだ。

 もちろん自分のことも愛眼した。

 自分の性器を見つめ、その後可愛がった。人の性器も可愛がった。

 道端に怖い人が歩いてきても愛眼の目で見て、にっこりと笑った。

「何、眼つけとんじゃ」

 絡まれた。

 ヤクザだった。

 組に連れて行かれた。

 でも、めげずににっこりと笑った。

 縛られた。

 ドラム缶に入れられた。

 東京湾に沈められた。




63、あいこ




 今は夏休みの真っ只中。

 僕は、夏休みの間、友達の赤岩と勝負をすることにした。

 赤石とは昔から何かと勝負をしてきたがいつもあいこだった。今回こそは勝負に勝ち、一歩抜きん出てやるぞ。僕はそう思った。

 勝負の内容は、図鑑とかに載っていない虫などを多く捕まえた方が勝ちという勝負だ。

 今日は8月の19日だ。あとちょっとで夏休みも終わる。

 今までに捕まえた虫は色鮮やかな蝶蝶、奇形のカブトムシ、など十匹だ。

 その時、ポケットから着メロの南島三郎の演歌が流れてきた。

 赤岩からだった。

「今、どんな状況だ? 虫集めは」

 赤岩が言った。

「まずまずといったところだな」

 強気の発言をして返した。

「俺は図鑑に載っていない虫を30匹は捕まえたぞ」

 自慢げにいう赤岩に僕は焦った。

 このままじゃ負ける。

 そして新学期が始まる日、僕は家族や親戚を集め、頭に手作りの触覚を作り、頭に付け学校に連れて行った。

「この虫は僕が捕まえたんだよ」

 僕は赤岩に見せると赤岩も僕に捕まえた虫を見せてくれた。

 縄で縛られ人工的な羽を付けたその虫は明らかに人間だった。

「どうやって捕まえたんだい?」

「俺の親が、車で捕まえてくれたんだよ」

 いやそれ、普通に拉致監禁だから。

 僕は、こっそり110番した。

 赤岩親子は逮捕された。




64、愛顧



 

 私は先生からひいきされているの。愛顧よ。

 先生はいつも私の頭をなでなでしてくれるの。他の女子にはしないのよ。

 先生はいつもこっそり私を自宅へと案内してくれるの。そして手料理を作ってくれるの。

 先生はおちゃめで、私はいつも料理に先生のパーマ風の毛が入っているのを発見し、先生に指摘するの。

 先生は「ごめんね。また焼けた毛が料理に入っちゃった」と軽く舌を出して、私に笑いかけるの。

 まだ、私は小6だけど、先生は私の体のことを心配してくれて全身をマッサージしてくれるの。

 全裸にされて、少し恥ずかしいけど、先生は丁寧に丁寧にマッサージしてくれるわ。そして、穴という穴までもお風呂で洗ってくれるの。

 先生はどうして私のことをひいきにしてくれるのかしら。友達に相談してみようかな。

 私はいつものように先生の家から出ると、親から持たされている携帯を手に取ったわ。

 すぐに友達の石奈が出たわ。

「どうしたの? こんな時間に」

 私は言われて、気づいたの。あら、もうこんな時間だわ。親が心配しているわ。

 用件をさっさということにしたわ。

「私、先生にひいきされているけど、石奈知ってた?」

「え? そうなの? それは知らんかった。具体的にどんな風に?」

 私は事細かに先生にしてもらっている行為を石奈に告げたの。

「それ、セクハラじゃん。犯罪だよ」

「え?」

 頭がぐーるぐると回り続ける。頭の中は真っ白よ。何も考えられない。何も浮かばない。

 でも、これっていけないことよね。

 馬鹿な私でも何か腹が立ってきたわ。

 そうだ、今までは先生にマッサージや体を洗ってもらっていたから、今度は私が先生の歪んだ心を洗い、マッサージしてあげよう。決心したわ。

「ありがとうございました」

 さあ、金属バットも買ったし先生の家に行くわ。

 なぜか、ドブネズミのような薄汚い笑みがこぼれたわ。




65、愛護




 僕には愛護している奴が2匹いる。それは生き物で、幼少の頃から可愛がってきたとても大切な奴らだ。

 あまり感情が読み取れず、反応もあまり示さない理解しがたい生態ではあるが、そこがまた自由気ままな感じの猫のようで好きな一面でもある。

 性別もパッと見分かりづらいその形態だが、色も様々あり興味をそそる。中でも自分が飼っている奴らがやはり一番僕は好きだ。

 そいつは刺激や痛みにとても弱い。そして恥ずかしがりやだ。

 前はよく外に連れ出し、人目にさらしたり愛情のつもりでリングをそいつにつけた時がある。リングをつけた時は痛がっていた。自分勝手なエゴでとても悪いことをしたなと思う。

 だから今では外に連れ出す時もあまり人目にはさらさないし、日焼けもしないように日焼け止めも塗っている。そして更に保護する為に柔らかい物でそいつをガードしている。過保護かもしれないが。

 いつも優しく、良い子良い子と撫でると嬉しそうに反応する。

 僕の乳首のことなんだけどね。




66、愛号




 僕は泣き叫んでいた。海に向かって哀号していた。

 目覚めたら無人島にいた。

 都会に今まで住んでいた僕だったので、対処することが出来なかった。

 ここに来て既に3日は経っている。

 食べ物は木の実や魚、たまたま通りかかった動物達だ。

 なぜこんなことになってしまったのか。

 家で昼寝をしていた時の記憶が最後の記憶だ。

 今日も、無人島にある廃墟を寝床に睡眠をとる。

 無人島には様々な凶暴な生物がひしめいていた。

 ワニやタランチュラ、大蛇、オオイグアナ、人工知能を搭載した破壊ロボット。

 ここは一体何なんだ? そんなことを考えていたが、ふとあることを思い出した。

「そういえば無人島から脱出できたら1億円という雑誌に胡散臭い募集が載っていて、昔興味本位で応募したような気がするな」

 まさか、な。不安がさざなみのように静かに押し寄せてくる。

 その雑誌の募集では当選した人は当選した日から死ぬまでの間でランダムに拉致され無人島に監禁されるらしい。でも、雑誌に応募したのは記憶を辿ると、10年以上も前だったはずだ。

 僕は、今まで苦労しっぱなしだった。

 そしてつい最近、いや拉致される前日、結婚もしたばかりだった。

「なんでこんなことに」

 まさか主催者は僕が幸せになった瞬間を狙って拉致したのか?

 謎が謎を呼ぶ展開だったが、僕には待っている人がいる。

 僕は船を作り脱出する決意を固めた。

 雑誌に興味本位でも応募することだけあって、幸いなことに、僕は物を作るのが得意だった。犬小屋は自分で作ったし、小さなログハウスも一回だけだが作ったことがある。

 ではなぜ、すぐに船を作らなかったかというと、海へと飛び出す決心がつかなかったからだ。

 実は僕は海恐怖症なのだ。

 海は生命誕生の源とも言われるが僕は嫌いだ。

 深い海、寒く暗い海、未知なる生物、巨大生物、夜の波の不気味な音。僕は小さな時から海が嫌いだった。

 だがそんなことは言っている場合じゃない。海の向こうに大切な人が待っているんだ。

 船を砂浜で早急に完成させると僕は船を海にそっと浮かべた。

 波が徐々に船を沖へと連れ去っていく。

 食料は燻製が中心で、水は雨水を流れ着いていた空のペットボトルに大量に詰めた。釣竿も持って来た。

 海は僕にとってやはり恐怖の存在でしかなかった。

 波によって不規則に揺れる手作りの船。その下にはサメやクジラなど大型の生物がひしめき合っている。そんな奴らに狙われたらこの船なんかひとたまりもないだろう。

 その不安感が胃をキリキリと締め付ける。

 無人島を出て、一週間が経った時、僕の心に希望の光が灯った。大型の船が見えたのだ。

 僕は必死で手を振った。が、大型の船は通り過ぎてしまった。

「くそっ」

 しかし、絶望よりも希望の方が大きかった。

「船が通るって事はもう港が近いのかもしれない」

 意気が上がった僕に更なる希望の光が見えた。空にヘリコプターが飛んでいたのだ。

「おーい。ここだよ。ここだよ」

 必死でヘリコプターに向かい両手を動かす。

 するとヘリコプターがこちらに気づいたようで近づいてきた。

「た、助かった」

 捜索のヘリコプターだろう。これで、僕も無人島と苦悩の日々から脱出できる。そして、脱出したあかつきには一億円が僕の手元に入るのだ。

「待っていろよ!」

 僕は結婚した大事な人を思い浮かべて大きく叫んだ。

 ヘリコプターは上空までくると扉を開けた。

「ここでーす。僕は最後の叫びを上げた」

 ヘリコプターから覗いた人は僕を見ると、満面の笑みを浮かべた後、不気味な表情をした。そして拡声器を取り出し、僕に語りかけた。

「お前が生き残ると、一億円損するんだよね」

 男はヘリコプターの奥に一旦消えるとすぐに何かを手にして顔を再び出した。

「ばいばい」

 ピンっという音と共に、僕に向かって手榴弾がゆっくりと落ちてきた。




67、愛国




 僕のおじいちゃんは昔戦争で死んだ。

 とても愛国心の強い人だった。

 僕もそれを引き継ぎたかった。

 でも、僕は馬鹿だからどうすればいいのか分からなかった。

 だから、愛国心を訴えようと文字にして人の目につくようにしようとした。

 まずは落書きから始めた。

 西洋チックな家の敷地に夜中に忍び込み外壁に愛国と漢字で記し、僕と同じ年代の子供や若者にも親しみやすいように僕が大好きでもある萌えキャラの数々のイラストを必死で練習し、描いた。

 次は学校だ。幸いなことに小学生の僕は疑われることなく学校に侵入することが出来た。

 僕は機を見計らって男子トイレ、女子トイレの個室に侵入し、手早く、速読ならぬ速描きによって愛国の文字と萌えキャラを次々に描いていった。

 銭湯にも行った。

「お背中流しましょうか?」

 僕が声を掛けると皆笑顔で「ありがとう」と笑ってくれた。

 僕は桶に隠していたペンキと筆を使い、背中を流しているふりをしてまたしても愛国と萌えキャラを手早く描いた。

 そして僕もいつしか大人になった。

 大人になった僕、いや俺だが夢は小さい頃から変わっていなかった。それどころかますます欲求が深まって行った。

 結婚もし、子供も息子、娘が生まれ、嫁、子供には俺の全てを教え込んだ。

 海外に旅行した時も、どんどん家族で落書きをした。

 俺達家族の書いた愛国の文字と数々の美少女イラストは海外でも大々的に報道され、世界的な問題となった。

 そして、俺達家族の志は世界中に連鎖し、輪になっていった。

 世界のいたるところで愛国、萌えキャラが氾濫し、町にもゴスロリ、メイド、ラノベのキャラを模した人が溢れかえっていた。

 愛国から始まった俺の宣教だが、ついに終わりが近づいてきた。

 もう、わしは120歳になったのじゃ。

 病院でチューブにつながれておる。

 息も絶え絶えの状況じゃ。

 わしは最後の願いとして、嫁、息子、娘にに棺桶は萌えキャラのイラストにして中には美少女フィギュアをたくさん詰めて欲しいと告げた。

 そしてわしは死に、エキセントリックな棺桶に収容された。

 その後、生まれ変わったわしが考古学者になり、前世での自分の棺桶を発見し、前世の記憶を取り戻し、また愛国心に目覚めることになるとは前世で死んだ時知る由もなかった。


 


68、相言




 俺達は2人で語り合っていた。

「これからどこに行く?」

「あっちに行きたいわ」

「何か食べたい?」

「パスタとか、フランス料理とかかな。あなたは?」

「俺? 俺は牛丼とかメキシコ料理とか食べたいな」

「そう。じゃあ、後で食べに行きましょうよ」

「そうだね。今すぐは無理だけど、後日機会があればね」

「ええ、そうね」

 彼女はフフッと小さく笑った。

「でも、こうやって潮騒を浴びながら、ここから2人で大の字になって、広い海と空を見ているとなんともいえない不思議な感情になるよな。ふわふわとしたような」

「そうね。こんな感情になったのは初めてだわ。もう今までの過去の全てが流されて行くようだわ」

「これからは2人でやって行こう」

「そうね。そうするしかないわよね。例えあなたがどこの誰なのか知らなくとも」

 大型船が難破し、俺と見ず知らずの彼女の2人は小型の救命ボートに乗って救助を待っている。

 



69、合言葉




 僕は弟と2人で山で秘密基地を作っていた。

 数ヶ月前に発見した小さな小屋をその本拠地にした。

 その小屋は始め、蜘蛛や蟻、見たことのない虫が占拠していたが、僕達はそれを持ってきた小さな箒で丁寧に掃除した。

 そのかいもあって小屋はまるで、出来立ての家みたいに綺麗になった。少しおおげさだけどね。

 その小屋には鍵をかけて家にあったお菓子や、ここで遊ぶ為のおもちゃ、後は何かと役に立ちそうなカッターやハンマー、のこぎりなどを持ってきた。

 その頃から両親は僕達のことをどこか訝しげな顔で見るようになった。まさかカッターとかを持って行ってしまったので、何か感ずかれたのだろうか。

 ある日、小屋で遊んでいると、弟が「ねえ、僕何か木の実かなんか探してくるよ」と言った。

 僕も一緒に行こうとしたが、弟が「お兄ちゃんはそこでくつろいでいて。いつもお兄ちゃんに色々やってもらっているから」と言った。

 僕はとても嬉しい気分になり「分かった」と大きな声で返事した。

 でも、弟が出かけている間、もし変な人がこの小屋に訪ねて来たら怖かったので僕達は合言葉を作ることにした。

 小屋に入るとき、合言葉を掛けるのだ。

 そして弟が木の実とりに出掛けた。

 少し経った頃、小屋の玄関がトントントンと音を立てた。

 弟だな。

 僕はすぐに小屋の扉を開けようとしたが、合言葉を作ったことを思い出し、「合言葉は? ちん?」と言った。

 扉の向こうで、「ちん」という力のない声が、呼び返した。

 僕は扉を開けた。……そこにいたのはお父さんだった。

「何しているんだ?」

 一気に顔面蒼白になった。な、何で合言葉が分かったんだろう。

 僕と弟はお父さんにこっぴどく叱られた。

 普段家で子供がしょっちゅう言っている言葉が合言葉だったとは。適当に言ったお父さんはどこか優しい顔で苦笑した。

 



70、愛妻




 俺には愛妻がいる。

 彼女はとても優しい。俺に何でも色々とやってくれる。

 馴染めない環境にいる俺だが彼女のおかげでどうにか平穏を保てている。

 だが、不満もある。彼女の手料理についてだ。

 毎日毎日、同じ料理ばかり出てくる。

 肉や、芋の繰り返しが延々と続いている。

 しかし、これは彼女のせいではない。

 どちらかといえば俺のせいとも言える。

 なぜなら、この嫁が暮らす実家に嫁いできたのは俺なのだから。

 ここはジャングル。

 たくさんの原住民が静かに暮らしている。



71、挨拶




 挨拶はとても大事。

 基本だね。

 だから毎日挨拶は欠かさない。

 いつも元気良く声を掛けることを心がけている。

「おはよう」

 僕は今日初めて会った人に大きな声で挨拶する。

 しかし、相手はいつも不機嫌な顔をして僕を鬱陶しがる。

 でも、僕はくじけない。

「おはよ。ねえ、おはよう」

 相手はまたもや怒りの顔を露にしている。

 相手が僕の体を掴み、持ち上げた。何をするの? やめて。

「くっそうるさい目覚まし時計だな」

 相手は僕の体を地面に叩き付けた。




72、間紙




 間紙をすることにより、傷や汚れはつきにくくなる。

 それは人間関係にも言えることだ。

 人と人との間にクッションとなる人を入れることにより、喧嘩やギクシャクとした空間がなくなることがある。

 人と人は絶妙なバランスの下に関係性が成り立っているといってもいいだろう。

 シーソーのように、天秤のように、ぐらぐらと関係性は常に変わり続けている。

 夫婦関係のバランスを失った人間が、ほんの些細なことでその関係がバランスを再び取り戻すこともある。

 例えばペットを飼う。

 同じ趣味を見つける。

 それらは間紙と一緒で2人の心の間に置く共通のクッションのような物なのかもしれない。

 



73、哀史




 悲しい歴史がある。それは中学時代のことだ。

 帰宅部だった俺は下校するべく、校舎の脇を野球部の部活を見ながら歩いていた。

 カーンという甲高い音が響き渡る。

 あ、ファールだな。なんて呑気に考えていたらボールはこっちにだんだんと向かってくるではないか。

 避けようとすればするほど、まるで引力に引き寄せられるように俺へと向かってくる。そして……。

 俺の体に直撃した。

 意識が暗転する。

 目が覚めると、そこは不思議な空間だった。

 ふわふわと漂う雲の上にいたのだ。

 死んだんだな……。

 そう思った。

 心に導かれるまま、ずんずんと前へと歩いていく。

 そこには女神と思しき人がいた。

 女神は俺に心配するような優しい声音で読んでいるように見えた。

 死んだと思い、どうにでもなれと思っていた俺はその女神に対し色々と破廉恥な言葉を投げかけた。

 その女神から声は聞こえなくなった。

 それと同時に世界が徐々に崩れ始めた。

 景色は霞み、曖昧になっていく。

 しばらくすると、俺の目に眩しい光が飛び込んできた。

 どうやら、目が覚めたようだ。よかったよかった。

 辺りの景色を見回す。

 そこにはクラスの女子数人が俺を囲っていた。

「あ、ありがとう」

 クラスの女子は俺を介護してくれていたようだ。しかし。

「あんな破廉恥なこというなんて、最低ー」

 軽蔑の眼差しを俺に向ける女子達。

 まさか女神の声は彼女達だったのか?

 夢の中で破廉恥な言葉を投げかけていたが、現実でももしかして口走っていたのか?

 女子達は去っていってしまった。

 まあ、いいさ。こんなこともあるさと妙に悟った俺だった。




74、愛子




 人間社会を見てきた魔王である私は、ふと切ない気持ちになった。

「もう魔王として千年が過ぎたのか。時が経つのは早いものだ」

 白いため息は冬の空気に一瞬で溶けていった。

 様々な時代の様々な勇者と格闘をしてきた私。

 他の世界の魔王とも交流がある私は、他の魔王が子供を愛でるのを見て正直羨ましいと思った。

「もう、ぼっちは嫌だ。私にも愛子が欲しい」

 私は人生を共に歩むパートナーを探しに出ることにした。

「魔王様! どこへ行くんですか?」

 使い魔が驚いた顔で言う。

 しかし、その手を振り払って魔王城を飛び出した。

「さあて、どの女をパートナーに選ぶかな」

 魔王は早速ナンパを開始する。

 しかし、あっけなくスルーされてしまう。それどころか怪しげな風貌もあるせいか、だんだんと人が集まってきた。

「ちいっ! このままじゃ任務を遂行することが出来ん」

 私は生まれた時から、正々堂々と勇者と対決してきたので、無理やりさらうといった乱暴なことはしたくなかった。まあ、そのせいで部下の悪魔や使い魔達からはたまに嘲笑の的にされているが。まあよい、十人十色。十魔十色だ。

 私はまずは人間のメスになれることから始めることにした。

 どこに行けば人間のメスと出会えるんだ?

 ピンクの看板が目に入った。

 その看板には60分一万5千円とかかれていた。

 私はお金なら色々な洞窟などで発見した宝を売ってたくさんもっていた。

 だから、そのお店へと入った。

 60分後、お店から出てきた私は決心した。

「まずは、こういったお店を全国回って人間の女に慣れ、それからパートナーを探そう」




75、愛車




 俺は愛車を持っている。

 このご時世、都会などでは車など必要ないという若者が増えているらしいが、もったいないと俺は思う。

 乗っている車はベンツだ。やはり外車は周りからの羨望の眼差しを感じるので格別に良い。

 住んでいるところは片田舎の、これと言って何かあるといった場所ではないが、自由に車を走らせることが出来ることもあり、俺は満足している。

「よし、ちょっくらコンビニにでも行って来るか」

 意気揚々とした気持ちで20キロ先にあるコンビニを目指す。

 エンジンを吹かすと、排気口から心地よい爆音が鳴り響く。

 車に乗り、革張りのシートにゆったりと腰掛ける。

 グラサンを掛け、タバコを吹かし、ちょい悪親父の雰囲気を醸し出しながらアクセルを踏んだ。

 後ろに流れていく景色を横目でちらっと見つめる。窓を開け、真夏の蒸し暑いべとつくような空気と匂いを感じる。

 ふと、俺はベンツを田んぼの脇に止めた。

 幼き頃に見た記憶の中の風景と目の前の光景が重なった。

 夏のトンボが飛び交う田んぼ。夕焼け空。雑草や木々の匂い。

 俺はタバコの火を消し、グラサンをそっと外した。

 涙がただただ、溢れ出していた。

「か、かあちゃーん。今日のご飯はなんだべかー?」

 小学生の時の記憶が頭の中にどんどんと勢い良く流れ込んでくる。

 俺はいてもたってもいられなくなって、近くの資材や生活用品が多数揃えてある、ホームセンターへとベンツを使い、向かった。

 そこで俺は網を買った。

 そう、カブトムシやクワガタを捕るためだ。

 昔の出来事に思いを馳せた俺はびしっと決めたスーツもなんのその、そのまま山へと入り込んだ。

 悪戦苦闘の末、カブトムシ10匹、クワガタ10匹、蝉10匹、計30匹を捕まえることが出来た。

「やったー。やったよー」

 俺は無邪気にはしゃいだ。

 家へ着いてもその感動や懐かしさは消えることはなかった。

 むしろ加速していった。

 そして、加速は覚醒へと変わって行った。

 まずは家を改造し始めた。

 カーペットを全部引き剥がし、分厚く土を敷き木々を家の中に植えた。

 草や花もたくさん家の中に植えた。

 そこにカブトムシやクワガタ、蝉を解き放った。

 俺は、少年時代を再び取り戻したのだ。

 嬉しくなった俺は、家の中に植えられた木々の脇で立ちションをした。

 木々に止まっていた蝉は何事もないかのようにすました顔でその様子を眺めていた。




76、相酌




 知り合いの男と相酌をしながら、談笑を交わしていた。

「もっと世の中が明るくなればいいのにな」

「まったくだ。こんな暗い世の中じゃ憂鬱にでもなるぜ」

「俺達で世の中を驚かせてみないか?」

「そうだな。いいアイデアだ。どんなことをするか?」

「予想だにしない展開がいいな」

「例えば?」

「そうだなピエロとかになって、曲芸の変わりに違うことするとか」

「ああ、いいね。見ている人に衝撃を与えたいよね」

 酔っていた二人はにひひとほんのり赤い顔をくずした。

 2人はピエロの衣装、メイクを施し、酔ったまま町へ繰り出した。

「あのカップルはどうだい?」

「カップルはだめだ。一人の方がいいな。出来れば女がいい。反応があるからな」

「そうだな」

 2人は女をしばらく探した。

 そして、条件と一致する女を見つけその女の前に立つ。

「な、なんですか?」

 ピエロの格好をした2人はにへらと笑う。ここからが腕の見せ所だ。

「曲芸か何かを見せてくれるんですか?」

 女はどこか喜びとも驚きともいえない顔をする。

「いや、見せるのはね。曲芸じゃないんだよ。見せたかったのはこれだ」

 2人は着込んでいたピエロの衣装の前ボタンをバッと開いた。

 すぐに2人は捕まりました。




77、愛着




 彼女を食べたい。

 そんな欲望が心の底から渦を巻き、理性を振り払い支配している。

 食べたい食べたい食べたい食べたい。

 こっそり彼女のあとをつける。

 彼女は海岸沿いをゆったりと歩いていた。

 徐々に彼女と距離が近づく。

 すでに心の中は暗闇に塗りつぶされていた。

 我慢できなくなり、彼女の元へダッシュする。

 しかし、飛び出すタイミングが早すぎたのか感ずかれてしまった。

 彼女は顔面蒼白のような表情を浮かべ、逃げる逃げる逃げる。

 逃がさない。強い意志の元、筋肉に力を込め加速する。

 彼女は深い森へと入っていった。

 だが。

 ダンッ!

「逃がさない」

 渾身の力を込めてジャンプし彼女の足を掴んだ。

「ブヒィー」

「やったぞ」

 無人島に漂着してからまともな物を食べていなかった。ようやく豚を見つけたぜ。悪く思うなよ。

 女をストーカーする役になりきって豚を追っていたのでメス豚だと思っていたが、裏返してみるとその豚はオスだった。

「この世の中は弱肉強食だから許してくれよな」

 その夜、その豚を焼肉定食にして食べた。



78、アイシャドー



 電車の中で化粧をしている女性がいた。

 なんとはなしに見ていると、アイシャドーを施していた。

 その目元を強調し、陰影をつける化粧を見て普段目立たない俺は「これだ」と思った。

 電車を降りると、すぐに近くのドラックストアーに行き、アイシャドーを買った。

 自宅へ帰ると、早速アイシャドーのメイクを練習し始めた。

「難しいな」

 試行錯誤しながら、何とかそれなりの化粧をすることが出来た。

 次に町へ繰り出すことにした。

 るんるんっ♪

 もちろん俺が誰だかばれないように、カツラを被り、口紅、化粧、女性物の服を着て出かけた。

 周りは俺が男だと、気づいていたようだが、誰だかまでは分からないだろう。

 次第にアイシャドーの魅力にとりつかれていった俺は、ペットの犬や、猫にもアイシャドーを施すことにした。アイシャドーを施し、町を散策した。

 更に、自転車のライトにもアイシャドーを施した。

 だんだんと俺はおかしくなってきた。

 目があるものにはアイシャドーを施したくなってきたのだ。

 フィギュアの目元にも、アイシャドーをし、本のイラストのキャラや雑誌に載っているモデルにもアイシャドーを落書きした。

 そしてつい先日、知り合いといる時、目という漢字を書く機会があった。

 しかし、そこでも俺は目という漢字にアイシャドーをし、目という漢字の中の棒を三本入れてしまった。

 それを見た知り合いは俺のことを激しく馬鹿にした。

 それ以降アイシャドーの化粧は行っていない。

 これからは心の中にアイシャドーを塗ろうと決めた俺だった。




79、相三味線




 唄方と一緒に俺は三味線をやっている。相三味線だ。

 唄方の唄うリズムにのって、軽快に三味線を弾く。

 だが困ったことがある。それは唄い手が唄いながら足を掻く癖があることだ。

 客商売なので見た目も重要だ。足を掻くことはどうも見た目的によいとは言いがたい。

 だから、俺は唄方が足を掻くとそれを注意するべく、さりげなくキックを唄方の足にかます。

 唄方は最初ぎょっとした顔をした後、俺を睨んでいたがすぐにそれは収まった。


 唄方はいつも気になっていた。三味線弾きが三味線を弾きながらさりげなく曲の合間に鼻くそをほじくっているのを。

 だが、そこは温厚な性格もあり抑えてきた。

 しかし、今日その考えが変わった。

 三味線弾きが唄っている最中の俺にキックをさりげなくかましてきたのだ。

 俺は目を疑ったね。あいつはこんなことをする奴だったのか。

 今まで築き上げてきた信頼という名の城が一気に崩壊してったよ。

 その後もあいつは毎日蹴りをかましてきやがる。

 痛くはないが、そんなことを繰り返されれば流石に誰だってムカッとくるだろう? だから俺もやり返すことにしたんだ。

 俺は唄の間がある時に三味線弾きに近づき、さりげなくビンタやひじ打ちをかました。

 三味線弾きは何が起こったのか分からないといったような呆けた顔をしている。

 おいおい俺にやっといて、その顔はないだろう。


 2人は日に日にエスカレートしていった。

 その2人の様子がネットや口コミで、とても新しいパフォーマンスだと話題になり、客は次第に増えていった。

「何か最近客が大幅に増えたな」

 今日も歌と三味線を弾いている2人のパートナーはは何も知らずに唄い、三味線を弾きながらリズム良く叩き、蹴りあった。


 


80、愛執




 愛執している物がある。それは髪の毛だ。

 髪の毛は素晴らしい。

 なぜそんなに髪の毛に惹かれるのかは分からない。登山家が山に登るように。

 私は髪の毛を愛するのだ。

 私の知り合いに唾を街頭でツボに集めた輩がいる。

 私はその彼からヒントを得て、髪の毛を街頭であつめることにした。

 髪の毛のサンプル検査をしていると嘘をつき、私は髪の毛を集め始めた。

 赤ん坊から年寄りまでの様々な年代の髪の毛を一本ずつもらった。

 数年後、私は10万人分の髪の毛を集めることが出来た。

「わーい」

 無垢な子供のように私ははしゃいだ。

 私は早速長年夢に見ていたことを実現することにした。

 それは植毛だ。

 人間は一人ではない。私は常日頃そう思っていはいたのだが、やはりそうは言ってもつながりが何かしら欲しい。

 だから私は皆の毛を植毛することにしたのだ。

 まずは全身をつるつるに剃り永久脱毛する。

 その後、病院に集めた髪の毛を持っていく。

 医者に植毛を告げる。

 医者はしばし、異形の者を見るかのような顔を浮かべたが最後には了承してくれた。

 頭に一本一本違う髪の毛を移植する。長い髪などは適度な長さに切り、余った髪の毛は脇や股間、足に移植した。

 移植が終わると私は大感激した。

 これからの人生は皆と一緒だ。

 私は今日も全身に植えた髪の毛に高級シャンプー、高級トリートメントを施し、そっと撫でている。

 


81、愛書




 人にはそれぞれ愛書というものがあるだろう。

 私にも自分だけの愛書がある。

 私は愛書のことを思い浮かべて鏡の前でにやっと笑った。

 家の廊下には本棚がズラーッと並んでいてその全てが本で埋め尽くされている。

 どれも好きな本だがそれは愛書とは呼ぶ品物ではない。

 本当の愛書は金庫の中に入っている。

 金庫はロシアのマトリョーシカのように念には念を入れて、大きい金庫の中に更に一回り小さい金庫、更に一回り小さい金庫と金庫を10個開けたところで、私の愛書までたどり着く。

 たまに愛書を見たくなるのだ。

 10個の金庫を開けるとついに愛書が出てきた。

 だれにも見せない。秘密の本。自分の生まれた時からの写真とともに、成長記録や毎日の日記、自分の考え、裸、を一冊の本にした物だ。その本は常に更新され続けている。

 この本を常に読み、更新することによって自分の当時の考えが分かり自分を更に高め、磨くことが出来る。そして私が死んだらこの本は世界中に拡散され歴史を変える大ベストセラーになるであろう。

 私は声高らかに笑った。

 そして私は死んだ。

 金庫を開ける遺族が見える。遺族は金庫を開け中身を確認するとがっくりとした仕草を見せた。

 おいおい、何をがっくりしているんだ。これからその本が世界に拡散されて、お前達は大金持ちになれるんだぞ。私は思った。

 しかし、遺族はその本をゴミでも扱うようにぞんざいに扱うと、私の本をゴミ袋に入れた後、汚いものでも触ったかのように顔をしかめ、手をパンパンと払った。

 私は昇天する途中、その様子を悲しい気持ちで涙ながらに見ていた。

 



82、哀傷




 私は哀傷していた。人がたくさん死んだのだ。

 子供から大人まで皆死んだ。

 世界の人口は数十億人いたのだが、だんだんと減り続けもはや数えるだけしかいなくなった。

「ああ、何てことだ。なんでこんなことになってしまったんだ。つい出来心だったのに」

 嘆くがもう元には戻らない。

 私が出来心で試しに死神をたくさんこの星に派遣したのが間違いだった。

 制御できなくなった数多くの死神達はこの星を己の欲望のままに人類の命を貪った。

 この過ちは私がけじめをつけなければならない。

 死神を捕まえ、回収する為に私、閻魔大王は自ら死神討伐に出かけるのだった。




83、愛妾




 私には愛妾がいる。

 彼女はとても素晴らしい。

 私はばついちだ。今の妻で2回目の結婚になる。しかし、なかなか夫婦仲は上手く行かない。妻はいつも私にガミガミと口うるさく言う。しかし愛妾はそんなことはない。

 彼女は要求には反抗の態度は示さず、いつもにっこりと笑っている。

 妻は彼女のことをもちろん知らないし、これからも言うつもりはない。

 いずれ私は妻と別れるだろう。妻も妾のようになる日が来るのだろうか。今の時点では分からない。

 今日も妻は私に対して冷徹だ。

 流石に私も嫌気がさした。今日こそ妻と別れよう。

 私が妻に別れを告げると、妻は嫌がるそぶりも見せず、すぐに承諾してくれた。どうやら前々から私と別れたがっていたようだ。

 離婚が成立すると、私は家の地下室に行き、妾に会いに行った。

 ホルマリン漬けされている、一番最初に結婚した元妻は無口でおしとやかに笑うように目を閉じている。

「やはり、愛妾は最高だな。もう一人欲しいほどだよ」

 私はホルマリン漬けされている元妻に話しかける。

 そうだ。最近まで一緒に暮らしていた元妻も愛妾にすればいいんだ。

 私はそう決断し、つい先日離婚したばかりの元妻の下へと駆けつけた。




84、愛称




 愛称は人それぞれある。

 俺もたくさんの愛称をつけられたし、つけもした。

 俺がつけた愛称はメイド、ピアス、刺青、金髪、チャーミングほくろなど、見た目を重視してつけていた。

 どこか毒を含んだ愛称だが、つけられた当の本人は怒ることはしなかった。それどころかむしろ喜んでさえいた。

 さらにもっと色々な愛称をつけてみることにした。

 髭、鼻毛、毛深い、弱そう。

 それらの愛称を親しみを込めて相手に言う。

 相手はその言葉を聞いてははっと笑った。

 何で何で怒らないで笑っているんだろう。

 そりゃあそうだよね。鏡に映った自分に向かって言っているんだから。

 俺は自分の体を眺めた。

 メイド服を着て、刺青が入っていて、金髪で、鼻毛が出ていて、弱そうだった。

 はあっ。

 もう自分に愛称をつける遊びは止めよう。

 俺は服を脱ぎ、髪を黒に染め、鼻毛も切り、刺青も消し、体も鍛えようと決心した。




85、愛唱




 俺は唄が大好きだ。だから愛唱している。

 俺は時代やジャンルを問わず曲を歌いこなしている。

 カラオケも好きだ。だがカラオケはあくまで練習だ。本番は路上で歌うことだ。

 かれこれ数年前から俺は駅前などの路上でギター片手に大熱唱を披露する。

 しかし、最近規制が厳しくなってきたこともあり、なかなか思うようには歌えない。

 それでも、なんとか歌える場所を確保し、俺の心の底から湧き上がる熱い思いを歌にする。

 今日は公園に決めた。

 公園でギターを取り出し唄を歌い始める。

 流石俺だ。すぐにぞろぞろと集まってきた。

「皆、ありがとう」

 感激しお礼を言い、お礼としてポケットから飴玉を取り出し渡す。

 するとどんどん観客が増えて来た。

 また俺はお礼の為にお菓子を出す。

 俺の周りはオーディエンスの虫達で一杯になった。

「皆、いつも俺の唄を聴いてくれてありがとうな」

 瞳からは感激とも、切なさや哀しみともとれない涙が頬を伝い地面にぽたりと落ちた。




86、哀情




 ゴミ捨て場付近に猫が倒れていた。近づいてみる。

 すでに猫は息絶えていた。車に轢かれたのか体にはタイヤの跡と思しき汚れがついていた。

 哀情が自然と心の底からわきあがってきた。

「こんな所で放置されつづけているなんて、なんて可哀想なんだ」

 猫をそっと拾い上げる。幸い猫の中身はばらばらになっていなかった。

 どこに持っていこう。市役所か? しかし市役所では門前払いにされるだろう。

 では、土に埋めるか? 

 それも可哀想な気がしてきた。今まで光を浴び可愛がられ続けていたであろう猫。それを日の光が当たらない土に埋めるなんて。

 俺はやはり、この猫の安らげる場所を探し求めた。その結果辿り着いたのが、リサイクルショップだ。

「これお願いします」

 俺は店員にソーラー部分が壊れた、少し前に流行したソーラーエネルギーによって動く、ソーラー猫を売りに行った。

「ああ、かなりやられちゃっているんだね。これじゃあ、買取は出来ないよ。それとも処分する? 処分代かかるけど」

「処分? 処分なんてするわけないですよ。俺はこの猫の安らげる場所を探しに来たんです」

「そうは言っても壊れているからねえ。ってちょっと待って」

「どうしたんですか」

「いやー。見逃してたよ。申し訳ない。このソーラー猫、期間限定で発売された奴だよ。これなら壊れていても多少価値はある」

「じゃあ」

「ああ、買い取るよ」

 俺は店主から決して高いとは言えないが貴重な500円を代金として貰った。そしてそのお金を使いリサイクルショップに売ってあった綺麗な台を買った。

「この台にソーラー猫を乗っけて下さい」

「分かった」

 店主はにこりと笑って頷いた。




87、愛情





 人それぞれ愛情というのは持っているだろう。

 親、友人、ペット、オモチャ、対象は人それぞれ異なると思う。

 私も特別に愛情を持って接している対象がある。それは小さな生物達だ。

 私よりも遥かに小さい存在なのに生きる為何と涙ぐましい努力をしているのか。

 蠅は排泄物やゴミに群がり、カマキリは必死に狩をし、蟻は懸命に食べかすや虫の死骸を巣に運ぶ。フンコロガシはどこの誰が排便したのかも知れない糞を生きる為せっせと転がし続ける。こんなに小さな生き物達は頑張っているのだ。

 もう私は100歳だ。病気などはしていないが、まあいつ昇天してもいい年だ。

 今まで人間に対しては恵まれない子供たちがいる施設に一億円の寄付や、ランドセルなどを送ったことがある。

 何か問題ごとが起きたりすると、出来る限りの支援などはしてきたつもりだ。

 だが、もう私の資金は尽きたのだ。しかもこの年なので体が思うように動かず、活動範囲も限られている。

 だから人間に支援することはもう出来なくなった。私は自分が年金で生きるだけで精一杯なのだ。

 生きがいをなくしていた私だったが、庭先で猫が死んでいてその猫を蛆虫が生きよう生きようと必死に猫の死骸を食べているのを見て、今私が行っている活動が始まった。

 私は毎朝この時期外に裸で出る。するとまだ夏が終わったとはいえ、蚊は存在する。

 蚊に私の血をたらふく吸わせる。私の全身は痒くなるが奉仕活動に犠牲は付き物だと思っているので我慢する。

 次に蟻の穴に私の鼻糞、目糞、耳糞を投入する。私の体の一部が蟻の腹を満たすと思うと感激でつい、もう使い物にならないイチモツを握ってしまう。

 更にカマキリなどを見つけると、指を差し出し、指の肉を食わせる。

 蛆虫などを発見した時もわざと傷口を作りそこに蛆虫を置き、肉を食わせる。

 干からびそうな虫を発見した時は天の恵みとして小便を虫にかける。

 で、たまたまテレビを見ていたら宇宙空間からこの星を見下ろしている映像が流れていた。

 それを見た私は、なんて宇宙は広いんだ。宇宙から見下ろすとまるで人間が虫のように小さいではないか、と思った。

 だから考えが180度変わった。

 虫のことなんか考えている暇はなかった。私だって宇宙から見れば虫以下の大きさなんだ。

 そう思い、虫のことを考えることを止め、今度は私が虫のように残りの僅かなと思われる人生を必死に生きることを決めた。





88、愛嬢




 私には娘がいる。愛嬢だ。

 とにかく可愛いのだ。私は娘より先にしなないと心に決めた。

 一歳はじめての誕生日。私は盛大に祝った。

 六歳小学校入学式。私は娘の手をとり、一緒に写真を撮った。

 十二歳中学校入学式。娘と一緒に風呂に入り、これからの人生について談笑した。

 十五歳高校入学式。娘と一緒に風呂に入り、思春期の悩みについて相談に乗った。

 二十歳成人。娘と一緒に風呂に入り、その後乾杯のワインを夜通し飲んだ。

 三十歳。娘と一緒に風呂に入り、成熟した肉体を眺めながら、結婚についての話をした。

 四十歳。娘と一緒に風呂に入り、風呂から上がると娘の白髪を抜いてあげた。

 そして百歳。まだまだ私の娘はいつまで経っても可愛い娘のままだ。娘と一緒に風呂に入り、娘と一緒に縁側でくつろぎながら今までの人生を振り返る。

 今までの娘の人生を振り返っている時、100歳になる娘が顔に皺をたくさん作り、険しい表情をして私に言った。

「お父さんや。今まで言えなかったんだけど、一つ言ってもいいかのう」

「ああ、どうした娘よ。父さんに何でも言ってごらん」

「ああ。分かったじゃあ言わせて貰うわ」

「うん。なんだい?」

「ちょ、お前何者だよ」




89、あいしらい




 旅館のおかみを私はかれこれ二十年しているわ。なので、私はあいしらい、もてなすことに命を懸けているの。

 客が例えどんな人であろうとももてないしの心は忘れないわ。

 この間来た客は人殺しだったの。

 たまたま客がお風呂に入っているときに部屋に食事を運んでいたらバックが目に入ったの。

 そのバックは口が少し開いていて、中から切り取られた人の頭が見えたの。

 でも私は旅館のおかみ。人には人の人生があるから余計な詮索はしないのよ。それがおかみとして上手くやっていくコツでもあるのよ。私はどんな事情がある方でも、現実を忘れられる夢のひとときを味わえる旅館を目指して頑張っているんだから。

 私が食事を運び終えると入り口のドアが開きお客様がお風呂から帰ってきたわ。

 お客様は私が部屋にいることを知ると、表情を一変させ部屋に上がりこんで来たの。

「お、おい。お前見たな!」

 お客様はバックの方を見た後、私の方を振り返ったの。

「え、何も見てませんわ」

「嘘付け!」

 あら大変お客様が疑っていますわ。このままじゃお客様に不安感を与えてしまい、お客様がくつろげなくなってしまうわ。

 私はお客様に近づくと、にこりと笑い勢いよく頭に衝撃を与えたの。お客様が力を失い畳に倒れようとしたので私はお客様をキャッチして、その後床の間に寝かせたわ。

「あなたはお風呂から部屋に帰るとおかみが部屋にいたことを忘れる」

 私はお客様に昔習った催眠術をかけてお客様の記憶を消去したわ。そして私はバックの開いた口をゆっくりと閉じたわ。食事も一旦回収し、お客様が起きるのを見計らって再び料理を部屋に運んだの。

「お客様、料理をお持ちしました」

「ああ、ありがとう。そこに置いてくれ」

 今日も私はお客様の皆様に至高のひとときを提供するわ。

 皆様のご来客、心よりお待ちしております。




90、合印




 合印。他と区別をつけるための印を俺は付けている。

 それはネットで知り合った同じ趣味の仲間と考え、印を作った。

 その同じ趣味とは母乳愛好会だ。

 秘密裏に入手した妊婦の母乳を仲間と分け合いその味を確かめ、価値観を共有する。

 その母乳愛好会の仲間の印が頭の髪の毛の下に刺青で印されている。

 小さなその印しだが俺は仲間との繋がりを感じ、まるで勇者になったかのような誇りを感じる。

 そういえば今日は散髪の日だったな。

 昨日、新しい母乳の味を味わったからかどこか浮き足立っていた。

 なので普段行っている散髪屋には行かず、気分を変えて別の散髪屋にいってみることにした。

 散髪屋に入ると、店主が出迎えた。ヌソッと現れ、まるでどこか山奥で出会ったオランウータンのような雰囲気を感じさせた。

 俺は髪の下に隠された印しが見えない長さを指定すると、店主は首を軽く頷けた。本当に理解したのだろうか。

 チョキチョキという心地よいカット音にいつの間にか眠りについていたようだ。

 目が覚めた俺は、大きくあくびをする。

「はああっ、って?」

 びっくら仰天した。な、なんで丸坊主なんだ? 俺は焦りでパニック状態に陥った。

「お、おい。ななんで坊主にしたんだよ」

「うっかりしてました」

 店主は悪びれる風もなくにたにたと笑う。

 その時、カットの表示一覧の下にある一文が書いてあるのが目に入った。

『カットサロンあまのじゃく』この店主はあまのじゃくなので、指定した髪の表示の一つ下の表示の髪の毛にします。

 俺は一応、長さこそ指定したが注文したのはカット&シャンプーだった。そして、そのカット&シャンプーの下の表示には丸坊主と書かれていた。

「ふざけんなー」

 げきこうした俺は店主に付けられていた髪の毛が服につかなくする為の前掛けみたいな布を乱暴に引き剥がした。

 すると、店主は怯えた表情を見せ、そしておもむろに上半身を脱ぎ男にしてはたわわに実った乳房をあらわにした。

「な、何をしているんだ」

「う、うん。か、カットのこと、お、怒らないで欲しいんだ。これがこの店のルールなんだから。君は母乳愛好会の者なんだろう? さっきカットしている時に頭の刺青を見たから」

「な、なんで母乳愛好会のことを……」

「だ、だってぼ、僕も」

 そういうと店主は首を曲げ、まるでお礼をするかのような仕草をした。

「あっ?」

 店主の頭、つむじの所に母乳愛好会の印しが刻まれていた。

「ま、まさか。あんたも」

「そ、そう。だから怒らないで欲しいんだ」

 そういうと店主はたぷたぷの乳房を俺のほうへと近づけてきた。

「ど、どうぞ。これでも吸って許してちょんまげ」

「だ、誰がそんなの吸うかー」

 俺は店主の乳房を目一杯つねった後、お金を投げ捨てるように置き、店を飛び出した。




91、アイスクリーム




 暑かったの近所によく来る移動式の新しいアイスクリーム屋さんに買いに行った。

 移動式のワゴンタイプの車体にはメイドアイスクリーム屋と書いてあった。

 僕は店員を見る。

 店員はメイドの格好をしていて、僕ににこやかなスマイルを投げかけながら、「いらっしゃいませ。ご主人様」と言った。

「あ、あのアイスクリーム食べたいんですけど」

 僕が言うと、メイドは「かしこまりましたご主人様」と鈴の音のような澄んだ声で言った。

 色々な種類のアイスの中から僕は定番のバニラを買うことにした。

「バニラ下さい」

 僕はメイドに言った。するとメイドが色々とアイスに付けるサービスを紙を差し出し教えてくれた。

 その紙にはアイスクリームにハートのマークを書いたり、美味しくなるように魔法を掛けてくれるサービスが記されていた。

 その一番下の欄には『愛す』という表示が記載されていた。

 駄洒落なのだろうが、思春期真っ只中の僕は欲望に負け、その『愛す』を注文することにした。

「じゃあ、バニラに『愛す』のサービスを付けるのね」

 メイドは嬉しそうに言った。

 メイドはカップにバニラのアイスを盛ると、バニラに向かって言った。「あなたを愛す」

 次の瞬間メイドはバニラを食べ始めた。

「は?」

 放心状態の僕には目もくれず、バニラを食べ続けるメイド。

 メイドがバニラアイスを食べ終わると、僕は「な、なにしているんですか」と問いかけた。

 するとメイドは「『愛す』のサービスは私がアイスを愛し、美味しそうに食べ、お客様がそれを眺めるサービスなの」

「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、僕の買ったバニラアイスは?」

 メイドは僕の言葉が聞こえていなかったかのように聞き流し、その後言った。

「お客様、お代がまだです。バニラアイス300円。サービスの『愛す』1000円。合計1300円になります」





92、合図




 合図というのは役に立つ。

 俺の犬はとても敏感で雨が降ったりするのが分かる。

 庭先で俺の目の前でぐるりと3回回ってワンと吠えると雨が降る。

 4回回ってワンと吠えると雪が降る。

 5回の場合は、みぞれでが降り、6回の場合は台風だ。

 7回の場合はこの地域に地震が10分後に起きる。

 8回の場合はどこかの火山が噴火する。

 9回の時は小さな隕石が他の国に降って来た。

 そして、今日、俺の犬は100回ぐるりと回ってワンと吠えた。

 一体これから何が起きるというのだろうか。

 俺は不安で不安で夜も眠れなかった。

 次の日、俺の体に異変が起こった。風邪をひいてしまったのだ。

「お前は、どんな天変地異よりも俺の体のことを心配しているのか」

 俺は犬の頭をよしよしと撫でた。

 




93、愛づかはし




 この町の愛づかわしの物を俺は探していた。

 俺の住んでいる町は歴史があり、古い趣のある家々がたくさん残っている。

 重要な建造物もたくさんあり、山々にも囲まれていて空気も澄んでいる。町のいたる所に流れる水も透明で純度は高く、静かな場所である。

 普通に暮らすのには申し分ないだろう。

 だから、俺はこの町の魅力を世界に発信したかった。

 どうすればいいだろう。

 俺は町おこしを提案することにした。

 この町の住人もその意見には大賛成で、皆でこの町を盛り上げていこうということになった。

 しかし、町には若者が少なく、まだ若い俺が先導をになうことになった。

 町おこしをするにあたって参考にしたのは、遊園地などのテーマパークだ。

 テーマパークには老若男女様々な人が集まる。

 そこで、俺は町その物をテーマパークにすることにした。

 その中で選んだのがお化け屋敷だ。

 町全体をお化け屋敷に改造し、町の住人をゾンビへと特殊メイクで変身させる。

 その試みはとても上手くいった。

 次々に人がこの町に来客した。

 しかし、そんな時悲劇は起きた。

 密入国した武器商人達が武器を売るため、この町を夜横断しようとしていた。

 そこで、目にしたのが深夜に明日の仕事の準備をしていた老人の姿だ。

 この町の住人は夜になると特殊メイクのマスクを取るがこの老人はどういうわけかそのマスクを被ったままだった。

 それを見た武器商人は恐怖により、その夜この町を抜け出すことを止めた。

 次の日の朝、武器商人は明るい内にこの町を横断しようと車を動かし始めた。

 次の瞬間、目にしたのはゾロゾロと家の中から出てくるゾンビ達だった。

「ああああああああああ」

 狂乱状態に陥った武器商人は持っていた全ての武器を使い、この町の住人達を抹殺した。




94、【とーよー200】



 頭の中に人格がいくつも住んでいる人がいるというが、俺もその一人だ。俺が活動出来るのは1日の内の僅か1分だけだ。

 俺の頭の中には1440人の人間がいて常に入れ替わっているらしい。俺の頭を調べた医者が言っていた。つまり、1分ごとに人格が入れ替わっているのだ。

 俺は1分で知り合った一目惚れの女に告白することにした。

「あのもしよければ俺と……」

「は、はい」

 女が言った。

 その時人格が入れ替わった。

「ボンジュール」



95、相住み




 相住みしている人がいる。そいつとは暮らし始めて結構長い。

 普通は色々と気を使うところもあるだろうが、俺の場合はない。

 同じ家に住んではいるが、鉢合わせることもまずないので、気は楽だ。

 音も立てないし、文句も言わない。しいて嫌なことがあるとするならば臭いだな。

 風呂にはそいつは入らない。というか入れない。まあ、仮にそいつが風呂に入ったとしても臭いは消えないだろうが。

 俺は今日もまた床下から発見した腐乱死体と暮らしている。




96、あいずり



 あいずり。

 オレにはグルになって悪いことをする仲間がたくさんいる。

 普段俺達は、他の弱い家を襲って殲滅させたり、その家に住むものを連れ去ったりしている。

 やられる方も俺達のことをよく分かっており、俺達が襲いに行く集団で向かって来て無駄な抵抗をする。

 だが、そんな俺達にも天敵はいる。巨人だ。

 あいつらは普段は無防備なくせに俺達に向かって来る時だけ白い巨人に変身してきやがる。

 俺達の攻撃はほとんど通用しない。やっかいな奴らだ。

 ズシンズシン。

 巨人がきやがった。

 俺達は警戒音を鳴らす。

 しかし、巨人は俺達の家へ躊躇なく向かってくる。

 そして、家に勢い良く何かを噴射した。

 ぐ。か、体が動かない。何をしやがった。

「こんなに大きいスズメバチの巣が取れたぞ」

 防護服に身を包んだ人間は大きな声で仲間の作業者に巣を見せびらかした。




97、相席




 今日は仕事は今の所入っていない。だから近場の行ったことがない場所をバイクで周っていた。

 すると、変わった外観の喫茶店があったので、時間的にもちょうど昼だったので、喫茶店に入ることにした。

 二人用の席に着き、注文をマスターにし、新聞を読みながらくつろいでいると。

「相席よろしいでしょうか」と女性が声を掛けて来た。

 女性はまだ二十歳そこそこで、俺を覗き込むような仕草をしていた。

 それにしても、席は他にたくさん空いているのになぜ俺の席に座ろうというのだろうか。

「どうぞ」

 あまり、良い気分ではなかったが仕事で疲れていた俺はやりとりをするのが面倒くさくなり適当に頷いた。

 女性は軽く礼のをすると、俺の前の席に腰を下ろした。

 俺は特別な仕事についている。世界でも数少ない仕事だ。体力や頭の良さも要求される仕事だ。

 俺の名前が世に出ることはないが、皆俺の仕事に感謝してくれている。だが、恨まれる仕事でもある。

「お待たせしました」

 マスターがランチセットを運んできた。

 俺は、ブラックコーヒーを一口飲もうと口に運ぼうとした、その時、俺の携帯が鳴った。

「はい」

『緊急事態だ。新たなる怪物の正体が分かったぞ。そいつは人を自分の作り出した空間に閉じ込めることが出来る怪物だ。お前が今いる辺りに出現したとの情報だ。気をつけろ』

 空間に閉じ込めることが出来る怪物? 俺は目の前の女性を見た。

 女性はにたにたと笑いながらこちらを見ている。

 ふーっ。そういうことか。

 俺は椅子から立ち上がると女性に言った。

「お前の正体はもう分かっているんだ怪物よ」

 すると女性の肉体が徐々に肥大していき服を破り、怪物の姿が現れた。

 マスターの方も見るとマスターも怪物に変化していた。

「ちいっ、そのコーヒーには睡眠薬が入っていたのに。もう少しだったのに」

 マスターが俺を憎憎しげに見る。

 どうやら俺に休日は訪れないらしい。

 俺は上着を脱ぐと、ポーズをとり、変身した。

 今日も俺はヒーローとして、悪の怪物と戦っている。




98、哀惜




 この魔王が支配している世の中は腐りきっている。

 モンスターは町には結界が張ってあるので簡単には入れはしないが、それでも一歩町の外を出ると、聖水や屈強なボディーガード、魔法使いが同行していなければ移動は困難を極めるだろう。

 この世界の人々は自由に外の世界を知ることが出来ない。

 道端には花が咲き乱れ、蝶々が優雅に飛んでいる。

 俺達も何の心配もなく優雅に世界を回ることが出来る日が来るのだろうか。

 そんなことを考えながら毎日を過ごしていた。

 ふいに空が光った。

 あ。

 思考が一瞬停止した。

 光は強さを増して行き。

 そして俺に衝突した。

 俺は死んだ。体に小さな隕石が衝突し体にぽっかりと綺麗な真ん丸の穴が開いたのだ。

 こんなにあっけなく死ぬなんて。俺は哀惜の感情が湧いた。

 俺は真ん丸に空いた体を見てため息をつき、立ち上がった。

 あれっ? 何で動けるんだ? 死んだはずなのに。

 その様子を見ていた野次馬は立ち上がり歩き始めた俺を見て悲鳴をあげ逃げ去っていく。

 痛みは不思議と感じなかった。

 開いた体を眺めていると、ふいに傷口が泡立ち始めた。

 え? 

 そしてみるみる傷口はふさがっていった。

 な、なんで?

 その時、声が頭に聞こえた。

「俺は魔王だ。隕石がお前にぶつかったことにより、お前の脳内の一部を乗っとることに成功したぜ」

「ど、どういうこと?」

「俺は、この世界とは違う世界で魔王をやっていたがその世界の勇者に滅ぼされかけた。だから、隕石と化し他の世界に逃げたのだ。そしてその魔王の力を込めた隕石にお前がぶつかったことにより、お前は俺に脳内の一部を乗っ取られた」

「へぇー」

「いや、驚けよ」

「じゃあ、俺の体に魔王の力が宿っているんですか?」

「そうだ。だが、その力を引き出せるかどうかはお前次第だ」

「どういうことですか?」

「お前が望み鍛錬するなら、俺の魔王の力を全て引き出すことが可能だろう。しかし、お前が何もしなければお前は今までのままだということだ」

「ふうん。どうしようかな」

「俺の力が欲しくないのか?」

「力があってもそれはそれで出る杭は打たれるし」

「な、なんと向上心のない奴だ。それで満足なのか」

「いや。外には出て色々世界を見て周りたいのは山々なんだけど。この世界にも魔王はいるしね」

「な、なんと。この世界にも魔王はいるというのか」

「いや、別に不思議なことじゃないでしょ。どこも同じようなもんじゃないの?」

「なんということだ。そんなことがあるとは」

「だから、俺は自由に外に出たい願望はあるけど、やっぱりこの町で暮らす」

「お前はそれでいいのか。魔王の力を使えるようになれば、女にもてるし、世の中は思いのままだぞ」

「おお、それはちょっといいかも」

 こうして、魔王に脳内の一部を乗っ取られた男は、旅に出て魔王の能力を磨きました。

 旅の途中で女の勇者とその仲間と出会い、この世界の魔王を倒し、そしてその後めでたく勇者と結婚し、魔王と勇者の子供が生まれました。




99、愛婿




 私には愛婿がいる。

 容姿は端麗で、頭も非常に良い。

 服装はいつもビシッと着こなしていて、格好良い。

 髪型はオールバックにしている。

 何事もそつなくこなし、私は彼にぞっこんだ。

 どんなスポーツでも彼はすぐに覚えコツを掴む。難しい機械の操作なども少し勉強すれば頭に入る。

 人殺しも彼は表情を変えずに実行する。彼は週1で殺人をし、私の前に死体を持ってくる。

 私は彼から死体を受け取ると、死体をすぐに蘇生させる。

 私は蘇生専門の白魔術師なのだ。

 こうやって彼といつも夫婦間の疎通を交わしている。

 そして、彼が死体を持ってくる日だ。

 突然部屋の電気が消えた。

「あら、停電かしら」

 私はブレーカーを上げようと暗がりの中部屋を歩く。

 ふいに、何者かに後ろから羽交い絞めされた。

「だ、誰?」

 背筋が凍る思いで、私は聞いた。

「俺だ」

「あ、あなたどうしたの?」

 声の主は彼だったの。

「今日は何の日か知っているな」

「え、ええ。あなたが死体を持ってくる日よね」

 声を上ずらせながら私は聞く。

「ああ。だが、今日は死体はまだ持ってきていない」

「え? どうして? 何かあったの?」

「それは、今日の獲物は……お前だからだ」

 彼は私の首を強く絞め、私を殺した。

「くっくっくっ」

 私はその後、庭に埋められた。

 でも、私は自分に死んだら蘇生する魔法をかけていたので、ゾンビのように土から再び生まれ変わった。

 そして、彼の前に再び姿を現した。

「まさか、自分に蘇生の魔法をかけているとはな」

 彼は不敵に笑い、私に熱い口付けを交わした。

 今日もそんなこんなで私達は仲良く暮らしています。




100、愛惜




 おじいちゃんから昔貰い、愛惜しているものが俺にはある。

 それは一見何の変哲もない眼鏡だ。

 しかし、その眼鏡には霊的で特別なパワーが宿っており、その眼鏡越しに人を見ると、その人の悪い所が分かるという。

 今まで、宝箱にしまい厳重に封印にしていたのだが、成人したこともあり、判断力が十分についたと思った俺はその宝箱の封印を解いた。

 エイッ!

 宝箱を開くと中から、目を覆わんばかりの眩い光が飛び出した。

 そしてその光の中に手を突っ込み俺はその眼鏡を取った。

 黒眼鏡で一昔前の眼鏡だけあってどこかアンティークな雰囲気を醸し出していた。

 早速眼鏡を掛ける。

 そして、町を歩く。

 皆こちらを見て、クスクスとどこかおかしそうに笑っている。

 やはり今の時代にこの眼鏡は合わないのだろうか。

 が、しかし見た目よりも、機能の方が重要だ。

 すれ違う人すれ違う人、ほとんど誰しもが何かしらの病気を持っていた。

 本人に自覚症状はない可能性があるにしても、やはりそれには驚いた。

 俺は皆に悪い所を教えてやろうとした。そうすれば早めに治療も出来るし、いいと思ったのだ。

 口内炎が出来ている女性を発見したので声を掛けた。

「あなた、口が悪いですよ」

 ビンタされた。

 鼻くそが詰まっていて、鼻の通りが悪い女性を見つけたので声を掛けた。

「あなたの場合は鼻くそですよ」

 ボディーブローをくらった。

 胸に毛が生えていて、胸に行く分の栄養をとられている女性を見つけたので声を掛けた。

「胸を見せてください。あなたの為にしたいことがあります」

 逮捕されました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報の質が高いと思いました。 [一言] 94話の、【とーよー200】というタイトルは、どういう意味か気になりました。
2016/08/07 18:16 退会済み
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