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俺とアノムの同居生活  作者: 漆月零
1話 同居、始めました
6/9

1-6「延長戦だ!」

「・・・・・・話って?」


 緑茶を飲んで喉を潤したアノムが聞いてくる。


「いや、同居の話なんだが・・・・・・」


 最初は反対していたが、一日だけという約束で家にいさせた。

 それをどうするかだ。


「一日だけって言ってたよな?」


「うん」


「俺は正直、楽しかったよ。この一日が」


 これは、本音だ。

 言うと調子に乗られるだろうとは思っていた。でも、言った方がいいとも思っていた。


「今まで、家じゃ一人だったんだ。でも、今日は楽しかった。家にいて楽しいなんて、何年ぶりだろうな」


 バイト仲間や、同じアパートの友人はいる。けれど、家では一人だ。


「なんで急にそんなシリアスなの?」


「なあ、空気読めよ?」


 なぜこのタイミングでそんな事を言うんだ。


「いやだって、さっきまであんな騒いでたのに急にシリアスになりすぎでしょ」


「まあ、そうなんだけどさ・・・・・・話進まねーじゃん」


 そんなこと言ってたら敬語やめた途端の馴れ馴れしさもどうにかしなきゃだぞ。


「とりあえず話させてくれよ」


「仕方ないなー」


「偉そうだな」


 上から目線はもう性格から来てるんだろうな。


「つまりだな・・・・・・その、期間をだな」


「さあ、ズバッと言い切ろう!」


 アノムがめんどくささを滲み出しながら言ってくる。


「もっと長く一緒にいようぜ!延長戦だ!」


 アノムに言われた通りにズバッと言ってやった。

 問題のある言い方だが。


「ほーほー、遂に君も私の魅力に気づいたんだね!」


 アノムは満面の笑みでそう言っていくる。


「ちょっと違うが概ねそんな感じだ!」


 ちょっと違うんだよな。ちょっと。

 可愛いけどさあ、可愛いけど、性格悪いからなあ。

・・・・・・上傘と評価も近いな、アノムって。


「いやー、そうかそうか。フフッ」


 少し照れたように笑うアノム。


「嬉しそうだな」


「人間に会ったのは君が二人目だけどさ、一人目は、褒めてくんなかったし」


 二人目?え、いやでも、


「天界を出たの、初めてなんだよな?」


 初めてと言っていたはずだ。数時間前の話なのに、記憶が既に曖昧だ。


「いや、出たのは初めてじゃないよ?地上に降りたのは初めてだけどね」


「ってことは・・・地上以外に行ったのか?」


「そゆことだねー」


 もう何がなんだかわからない。天界とか地上とか普通に言ってるし。


「雲界に行った事があるの」


「雲界?」


 一体世界はいくつあるんだ。あとそんな気軽に移動できちゃっていいのか。


「雲界ってのはねー、説明しづらいんだけど、天界と地上の間、かな?」


 つまり、地上、雲界、天界という順に繋がっているのか。


「雲界と天界って何が違うんだ?」


「天界は神々が住んでて、雲界は天使が住んでる」


 なるほど、そういう風に分けられてるのか。

 ・・・・・・そういえば、どの神話も一致しないな。全部の神話を知っているわけじゃないけど、知ってる神話はどれも違う。


「ちなみに、人に会ったのは天界だよ」


「天界って人でも行けるのか!?」


 すごいな、行った人。少し行ってみたいな。


「そういや、悪魔っているのか?」


「いないよ」


「ああ、やっぱり魔か・・・・・・は?」


 え?悪魔って


「いないの・・・・・・!?」


 天界に神、雲界に天使とくれば魔界もあるかと思ったのに。


「魔界はあるんだけどね、悪魔は数百年前に滅んだよ」


「サラッとやばいこと起きてるな・・・」


 悪魔いなくなっちゃって平気なのか。


「まあ、魔神様が今創り直してるんだけどね」


「神万能過ぎるだろ!?」


 悪魔を創り直してるって、凄すぎる。

 魔神?って言ったか?様つけてたよな・・・・・・。アノムが様をつけるってことは、よほど偉いのか?


「あー、つか、話戻していいか?」


 本来の目的を外れてファンタジーな方向に行ってしまった。


「どーぞ」


「どーも。で、同居なんだが」


「あと六十年くらいに延長するんだよね?」


「なげぇよ!せめて二十分の一だ!」


「ほう、三年間か」


 しまった、ノリで言ってしまった。コイツと三年とか・・・・・・楽しいかもしれないと思う自分がいる。


「この俺め!」


「遂にドMが爆発して自分で自分を罵った!?」


「ちげぇよ!」


 ホントコイツなんなんだ。素でこれだったら友達いないな。

・・・・・・いるって言ってたな。馬鹿なやつが。


「で、どれくらい延長するの?」


「さあな。適当だよテキトー」


 一緒にいる内に決めたらいい。別に今決める必要は無いからな。


「ふーん、テキトーね」


「ああ、テキトーだ」


 テキトーでいいんだよ。


 グギュウルルル。


 お腹から音が鳴る。


「おや、おやおや?お腹減ったのかい?」


「・・・・・・今日の晩御飯はカレーです」


 辛口の。

 てかホントにお腹空いた。


「じゃあ、まずは片付けようか」


 上傘が突然来たからゲーム放置してあるし。


「えー、寝る」


 アノムは嫌そうにそう言って床に寝転ぶ。

 ホントに寝る気だろうか。


「・・・・・・」


 無言でアノムの足を持って引っ張る。


「ウワー、セクハラダー」


「片言な当たり本心じゃないな」


「きゃあ!セクハラ!」


「叫ぶな!上傘が来るから!」


 もう来て欲しくない。あと場合によっては警察が来る。


「ほら、片付けるぞ。カレー作り始めるんだから」


「いや、私はゲームやってるよ。カレー作ってて」


 ────その手があったか。


「オーケー分かった。やってていいぞ」


「よーし、頑張ろ」


 アノムはコントローラを持ってテレビに向き合う。

 こうしてみると彼女と言うより娘に見えるな。俺まだ二十一歳だけど。


「さて、作るか」


 なぜ、レトルトではなく、作るのか。

 どっちの方が安上がりとかは計算したことがない。多分同じ量なら同じくらいなんだろうけど。でも作ろうと思うのは、楽だからだ。

 レトルトは、基本的に一食分。けれど、鍋で作ればなくなるまで平気。さらに、時間が経つほど美味しくなるというおまけ付きだ。一人暮らしとしては、カレーやシチューを作って、翌日まで食べるというのが非常に楽だ。

 家で作っていたので料理は得意だし、バイトでもキッチン。ちなみに、俺がキッチンなのは、後光の差した店長が『歳や経験に惑わされてはいけない。その人が最も輝ける場所に配置することが大切なんだ』と名言を残してキッチンに採用したからだ。あの人マジで神。アノムより神。


 なんて考えつつ、カレーを作り進める。

 カレーは煮込まないといけないので、作ってすぐは食べられない。いやまあ、食べられるけど、食べるべきではない。


 ということで時間を飛ばして、


────────一時間後


「そろそろ、かな」


 本当ならもっと煮込みたいが、腹が減ったのでここらで食べてしまおう。


 ちなみに、煮込み始めてからは、ゲームをしていた。さっきの続きだ。

 皿のご飯にカレーをかける。スプーンを取り、テーブルへと向かう。

 アノムが座っていた。


「・・・・・・何やってんの?」


「あれ?カレー一人分しかないじゃん」


「食べる気満々かよ!」


 自分の夕飯が出てくるのは当たり前だと言わんばかりの態度だ。


「お前なんも食べないんじゃねーの?」


「食べなくても平気。でも食べたい」


「ただの我侭かよ!」


 食費必要じゃん・・・・・・。

 無理だよ、誰かを養うとか。一人暮らしがギリギリだよ。このアパートが信じられないくらいの安物件だから生活できてるんだぞ。


「お前を養う余裕は俺にはない」


「えー、ケチだなー」


「懐の危機なんだよ」


 お前を養ってたら割とマジでヤバイ。親に縋るとか借金とか嫌だよ?


「つーわけでお前の分はない。分かった?」


「はぁ・・・・・・」


 めちゃくちゃ残念そうな顔をしてため息をつくアノム。

 それを見て、俺は諦める。

 ────仕方ない。でもやっぱ、


「ダメだな」


「・・・・・・何が?」


「いや、なんでもない。あと、一口やるよ」


 俺はダメだな、やっぱ。

 こう、女子が残念そうな顔してたり、悲しそうな顔してると耐えられない。それが原因で中学と高校はいろいろ失った。我ながら馬鹿だ。馬鹿だ。


「んむ」


 気づけば、あーん状態だった。

 なんでだよ。

 スプーンを渡そうと思って差し出したのにそのまま食べてくるとは。

 ・・・・・・でも、想定外ではないんだよなあ。心のどこかで期待してた。多分本当に想定外だったらもっと焦るだろうしな。



「ほう、こへははれーは」


 ほう、これがカレーか。じゃねえよ。


「感謝・・・・・・は、いいよ。されるほどじゃねえしな」


 ホントはして欲しいが、それは傲慢ってものだろうな。


「うまっ!」


「そりゃ良かった」


 あげてよかった。アノムの笑顔を見れたからな。

 ・・・・・・自分で言って結構恥ずかしい。言ってないけど。


「これ食い終わったら風呂入って寝るだけだけど、アノムってどうすんの?」


「んー、風呂は大丈夫だよ。肉体作り直せば汚れは消えちゃうし」


「夜は?」


「寝るよ。女神でも」


 へー、そうなのか。なんか寝なくても大丈夫なイメージがあるな。そういえば、どこで寝るんだ?朝は俺のベッドとか言ってたけど。


「寝る場所は一緒でいいよねー」


 ・・・・・・一緒に寝る、だと?


「アノムさん、何言って」


「もう一口」


 スプーンを奪われ、カレーを食べられる。

 しかし俺はそれに気づかず、


「いや、でも、いろいろ危ないぞ・・・・・・?俺の方も、アノムの方も。だからといって俺が床で寝るというのは嫌だしな────とすると一緒に寝るしか道はないのか・・・・・・」


「思ってること全部口に出てるしうるさいよ?」


「ああ、この娘と一緒に寝る?寝る!?マズイ、マズイぞ。俺の理性は果たして持つのだろうか」


「そろそろやばいよ?もうなんか変態にしか見えない」


「ああ、もういっそのこと理性なんて投げ捨てて野生に任せてもいいじゃないか」


「もう完全に変態だよね!?」


 心の声ダダ漏れで変態扱いだ。救えないな。ははは。

  泣けてこない。そんな事がどうでもよくなってきたからだろうか。まあ、夜のせいだな。夜だからテンションが高いんだよ。


 もうめんどくさくなってきた。なんか眠いし。明日からまたバイトだし、早めに寝るか。・・・・・・アノムと一緒に。


「きゃあ!一緒だなんて!恥ずかしいわ!」


「裏声で叫ばないでよ男でしょ!?」


 男だよ。正真正銘の。

 体をくねらせながらそう答えると「キモッ」と全力で引かれた。予想通りだぜ。


「もう、早く食べて寝るぞ」


 まだ全然食べてないしな。

 ったく、カレー冷めてきてるじゃんか。

 まあいい、食べるか。


 冷めたカレーを食べながら夜のことを考える。思考停止。ちょっともう、いい加減にしないとやばいな。その時はその時なんだ。考えたって仕方ない。

無心でカレーを食べる。もう、何も考えない。無駄だから。

 そんな訳で、無駄に疲れた夕食だった。

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