1-5「さあ、ひと狩りいこうか」
────────しばらくした後
「もう、ダメだ・・・・・・」
俺はリモコンを投げ捨て、床に突っ伏していた。
あの後、どれだけやっても勝てないのだ。きっとアノムの実力なら世界大会に行けるだろう。行く気はないだろうが。
「じゃあ・・・・・・次はこれかな」
勝つことを諦め、新たなソフトを差し出した。
アノムを見やると、こちらをじーっと見ていた
「・・・・・・これがやりたかったのか?」
無言で頷くアノム。
「じゃあこれやるか」
ソフトを入れ替え、起動!
今回俺が用意したのは、さっきとは全く違うタイプのものだ。大型のモンスターを狩り、それで手に入れた素材を元に装備を作る。そしてまた狩りに行く。そんなゲームだ。対戦型ではなく協力型で、一緒に強敵を倒すのは爽快だ。ちなみに俺が用意したのは、水中戦が実装されたもののHD版だ。結構面白いのだが、やっている人は少ない。
「でも、これ一人でしか出来ないよね・・・・・・?」
アノムが心配そうに訊いてくる。
そう、そうなのだ。実はこれ、一人プレイしかできないのだ。しかし安心して欲しい。俺には策がある。
「これを使えばいいんだよ」
同じソフトのHD版でないものを差し出す。こちらは据え置きではなく、携帯型のものだ。
「これとそれで通信プレイできるの?」
「ああ」
これが俺の策だ。同じものを二つは持っていないが、HD版じゃないのならば持っている。それらを使って通信プレイをすれば、協力できると。
「データは、新しいのがいいか?それとも、俺のを使うか?」
「うーん、新しいのがいいけど・・・・・・」
「じゃあ、新しいのだな。HRは俺が上げてやるから。・・・・・・HDがいい?普通のがいい?」
「えっと、どっちの方がいい?」
「操作性ならHDの方が上だな」
画面が大きいから見やすいだろうし。
「どっちでもいいぞ」
「・・・・・・じゃあHDで」
「オッケー。じゃあ、キャラ作って」
「わかった」
アノムはスムーズにキャラを作っていく。
「終わったよー」
「んじゃ、チュートリアルが終わったら言って」
そういった後、俺は普通の方を起動する。自分のデータを開いて、慣らしとして森に狩りに行く。
────────数分後
「終わったよー(二回目)」
「真似すんな」
始めるとするか。
「じゃあ、港に行っといて」
「ん」
返事の最短系。めちゃくちゃ短いよな。省略も遂に一文字になってしまったのか・・・・・・。
「行ったよー」
「あー、操作はもちろん出来るよな?」
「よゆーよゆー」
やっぱりか、さっきと同じ感じかなあ。
「じゃあ俺がクエスト受けとくから待ってて」
このゲームには、キークエと呼ばれるクエストがある。それをクリアすることで、ランクを上げることが出来るのだ。
装備を整え、クエストを受ける。
「さあ、ひと狩りいこうか」
「レッツゴーッ」
「ナウローディング」
「わかる。読み込み中って暇だから読んじゃうよね」
そうそう。じゃなくて、
「経験者みたいに言うなよ。初めてなんだろ?」
「そうだよ?だから?」
「当たり前みたいに言うなよ!」
ウザイ小学生か。
「あー、いいから行く・・・・・・はえーよ」
アノムはもう既に狩りへと向かっていた。
「んー?君が来る前に狩ってあげるよ」
「いや無理だから」
初期装備でそれは不可能です。
「いや、女神に不可能はない!」
ノリノリだなあ・・・・・・。
「はああ!」
「もう戦闘入ったの!?」
「女神の勘をなめないで!」
女神って勘なのかよ。予言とかじゃないのかよ。
「本当に戦ってるし!」
初体験とは思えない操作の上手さだし!
「クソ!でも俺の方が経験は圧倒的に上だ!」
「経験は才能に勝てないよ!」
自分で才能あるって言い切りやがった!
俺もアノムに追いつき、戦闘を開始する。
肉食恐竜のようなフォルムに、岩のような鱗。頑強な頭と、ムチのようにしなる尾を利用して攻撃を与えるモンスター。
アノムはそいつと戦っていた。
アノムが使っている武器は、銃型の武器のライトなほ・・・・・・
「えぇえ!?」
初体験で!?いや、確かに初心者向けではあるけれど・・・・・・初体験ではなかなか無いぞ。初体験と言えば大抵は剣士なのに。
「よし、怯んだ!」
「早っ!」
初期装備でこの速さ・・・・・・。
「やはり只者ではないな!貴様、何者だ!」
「いつの時代!?」
アノムが操作しながらご丁寧にこっちを向いてツッコんできた。しかもこっち見てるのに画面で敵の攻撃避けてる。
ありえねー。
「もうやる気失せてきたよ・・・・・・」
まだ戦闘に参加してないし。なのにエリア移動しちゃったし。ヨダレたれてたし。
「追うぞー!」
しかしアノムの無邪気な横顔を見たら・・・・・・
「よっしゃ追うぞー!」
元気出てきた。我ながらアホだ。
「はああ!」
アノムの。
「せいやぁ!」
俺の。
「フンッ!」
ゲーム内のキャラの。
ピンポーン。
・・・・・・誰の?
ピンポーンピンポンピンポンピンポーン。
「しつこっ!」
どうしよう。ゲーム中で手離せないし、一時停止出来ないし。
「誰だよ、こんな時に」
自分のキャラをエリア移動させ、戦闘はアノムに任せる。
「はーい、何でしょうか?」
ドアを開け、礼儀正しく出る。
「やあ、調子はどうだい?悪いとありがたいけど良さ」
バタン。
ドアを閉める。
上傘?なんであいつが・・・・・・。
「相田くーん?僕のこと嫌いかーい?」
「嫌いだよ!」
ドア越しの問いに、ついドアを開けて答えてしまう。
そして、油断したなと言わんばかりの上傘が、ドアと壁の間に足を差し込んだ。
そして、足を挟まれた上傘が言う。
「痛いなあ、女子に暴力はダメだよ?」
「確かに女子への暴力はいけない、でもお前は女子じゃない、だから許される!」
その胸は偽物だ!
そう叫んで、足をちぎろうとドアを全力で閉める。
しかし手で抑えられ、ドアは易々と開けられてしまった。
「この腕力、やはり女じゃな痛い痛い痛い痛い!」
上傘につま先を踏まれた。
痛みに悶えていると、後ろから、
「徹ー、クエスト終わっちゃったよ?」
アノムが出てきた。
タイミング悪すぎだろう・・・・・・。
「相田君、やっぱ君ロリ」
「コンじゃないからな!?」
全力で否定する。
「違う違う、ロリータコンプレックスでしょ?このピーーーって言おうとしたんだ」
「どこが違うんだ!?あとピーーーって何言おうとしてんだ!」
口でピーーーって言っちゃったらもうそれはモザイクじゃないじゃん。
「にしても、遂に犯罪に手を出したか。やはり君は今すぐ死ぬ運命にあるんだね」
「どんだけのことをしたんだよ俺は!」
今すぐとか、死刑よりひどいじゃんか。
そんな事を思っていると、上傘はスマホを取り出した。
「えーっと、ひゃくとーばん、と」
「なに警察に電話しようとしてんの!?」
「あ、もしもし?少女を家に連れ込んでいる人を見たんですが」
「連れ込んでねーよ!」
むしろ乗り込まれたわ!
「え?てか、マジで電話してんの?」
「はい、隣室の方です」
「あのー、上傘さん?」
・・・・・・警察来たらどうしよう。アノムにはかくれてもらえばいいとして、どう弁明したら・・・・・・。
「ねー、無視しないでよー」
アノムが待ちきれないとばかりに話しかけてきた。
「お前のせいで俺は一生変態と呼ばれかねない事態なんだよ!」
「え?事実なんだからよくない?」
「味方いねー!」
やっぱりアノムと上傘は息が合う。
・・・・・・もう会わせないようにしよう。
「いやー、つまんないね。相田君は」
「は?何言ってんだよ。つか電話・・・・・・」
上傘はスマホの画面を突きつけてきた。
ディスプレイに映るのは、ホーム画面。
────それはつまり、
「もう既に通報が終わ」
「通報してないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
え?いや、え?
「いやー、流石に相田君でもこれぐらいしたら面白いんじゃないかと思ってね。動揺させてみたんだけど・・・」
上傘はこれからすごいことでも言うように、タメを作ってから言い切った。
「君はつまらないね!」
「決め顔で人の悪口を言うな!」
心が傷つくから。
ふとアノムを見ると、腹を抱えて笑っていた。
・・・・・・心が傷ついた。そして治った。
俺の心はスライムか。
「・・・・・・そもそも、なんで来たんだよ。俺をいじめにか?」
「君如きをいじめるのになんで僕が歩かなくちゃならないんだい?文句を言うためだよ、文句」
「文句?」
生きていることへの?
・・・・・・俺もそろそろやばいな。
「隣の部屋から声が聞こえてきてね、壁に耳をつけてみたんだ。そしたら少女の可愛い声と、男の汚いドブのような笑い声が聞こえたから文句を言いに来た。」
「俺の声そこまで汚いか!?」
「汚くはないんじゃない?どちらかというと臭いと言うか・・・・・・」
アノムがフォローを入れてくれたと思ったがただの悪口だった。
「口臭の話じゃねえんだよ!」
それに、一日四回磨いてるわ!朝食後、昼食後、夕食後、寝る前の完璧使用だよ!
「ったく、で?だからどうしたよ。聞こえて?」
「騒音として訴えようかなと」
「近所迷惑に留めておこうぜ、そこは!」
裁判沙汰はありえないだろ。
「あー、とりあえず立ったままは嫌なんだけど」
さっきからアノム以外立ちっぱなしだ。
アノムずりーな。
「じゃあ、お暇するよ。君の顔が見れたからね。今日は嫌な夢が見れそうだ」
「喜んでんのか何なのか、はっきりしろよ!」
最後にそう言うと、上傘は自分の部屋に入っていった。
「で、アノム、どうする?」
「とりあえず喉乾いた」
「緑茶でいいか?」
「どーぞー」
緑茶を取りに冷蔵庫へ向かう。
緑茶を取り、コップも二つ取り、テーブルに置く。
そして、俺は言った。
「アノム、話がある」