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俺とアノムの同居生活  作者: 漆月零
1話 同居、始めました
3/9

1-3「ウルァンチィツァアイム」

「さあ、ウルァンチィツァアイムだ」


 家に着き、ある程度の用意をすませると俺はそう言った。イントネーションは想像におまかせします。


「なんて言ったか全然わかんないんだけど」


「さあ、ウルァンチィツァアイムだ」


 アノムは聞き取れなかったようなので寸分狂わずリピートしてやった。


「オラン○ーナタイプ?」


「そうそう。あの微炭酸とオレンジの絶妙なバランスがなんともたまらないタイ・・・・・・そうじゃないよ」


 あれ確かにうまいけどさあ。


「もっとハッキリ言いなさいよ。ハッキリしない男は嫌いよ」


「何でそんな急に仲悪いカップルみたいになるんだよ。情緒不安定過ぎるだろ」


「それ仲悪いカップルってカップルじゃなくない?」


「確かに」


 言われてみればそうだな。いやでも、


「告白してYESが帰ってきたらそれだけでカップルになるんじゃないのか?」


「あー、カップルの定義って何なんだろうね。じゃないよッ!」


「くそっ、上手く話をそらせたと思ったのに」


「さっきのって何なの?」


「ランチタイム」


「わかるかっ!」


 気持ちのいいツッコミが入った。

 それにしても急に馴れ馴れしくなったな。買い物するまでもっと落ち着いてたのに。


「なんでこんなにテンション高いんだよ。あと忘れてたよ食べようとしてたの」


「君も大概だね」


「改めて、さあ、ウルァンチィツァアイムだ」


「それ好きだね・・・・・・」


 アノムの一言を無視して、買ってきた弁当を食べる。

 内容はうどんだ。袋に入ったつゆをかけて食べるヤツ。

 うどんを箸でつかみ、口に入れようとしたその時、


「ギブミー団子」


 団子を求められた。


「発音悪いなー」


 発音の悪さを指摘しつつ、団子を袋から取り出す。食品などは既に冷蔵庫へ入れてあるので袋に入っているのはグラノーラと団子だけだ。


「買ってやったんだから一本くれよ」


「いいよいいよー」


 案外アッサリだった。もっと渋ると思ってたんだけどな。


「はむ」


 食べる音可愛いなオイ。ああ、俺の中でのアノムの評価がうなぎ登りだ。初期との差が激しすぎる。


「んぐ。・・・・・・お、美味しい」


「まるで初めて食べたみたいな反応だな」


「だって初めて食べたもん」


「え!?」


 か、神様なのに?


「地上に降りたの初めてだしね」


「え!?」


 か、神様なのに?いやその理由はおかしいか。


「てか美味しすぎ、一本あげるのなしで」


「それはひどい」


 さっきいいよって言ったじゃん。二回も。


「私初めて食べたんだよ?ウルウル」


「声に出しちゃったら終わりだろ。あとウルウルしてないし」


「ならば先に食べ終えてやる!」


「ちょ、おい!」


 団子を持って逃げられた。うどんを食べているので追うに追えない。てか狭いアパートだから逃げる場所なんて限られているのだが。


「まあいいや、諦めよう・・・・・・」


 後でコッソリ買ってひとりで全部食べよう。

 ・・・・・・はっ!今の言い方だとこれから長い間同居するみたいじゃないか!まずいな・・・俺の考え方は同居に賛成に傾きかけてるぞ。


「だって可愛いんだもんなあ」


「私のこと?」


「ううぉおえああ!」


 突然後ろからアノムが現れた。俺の後ろ壁なんだけど。アノムが逃げたの正反対の方向なんだけど。どうやってもありえないんだけど。いや、すり抜けたのか・・・・・・?


「変な悲鳴」


「そっちのせいでしょうが・・・・・・」


「で、私のこと?」


 どんだけそこ気になるんだよ。いやまあ、そうなんだけどさ・・・・・・。口に出したら調子乗りそうだな。


「あー、柴犬のこと」


「嘘だね」


 瞬時に見抜かれた。


「私は神だよ?人が嘘をついてるかどうかぐらい分かるさ」


「・・・・・・あなたのことですよ」


 気恥ずかしくて敬語になってしまった。


「よし!」


 すごい嬉しそう。言ってよかったかも。


「あ、私嘘見抜く能力とかないから。さっきの嘘」


 訂正。言わなきゃ良かった。


「全然食が進まねー」


「ドンマイ」


「あんたのせいだろ・・・・・・」


 自覚無いのかよ・・・・・・。

 そんなことは無視して、全然減っていないうどんを食べる。アノムも静かに団子をほおばっている。可愛い。

 するとアノムが、


「ひみっけほもあひいふぁいの?」


 と、唐突に心の傷を抉ってきた。さっきの言葉を解読できる人はそうそういないと思うが、俺はできる。何か知らんができる。ちなみに今のは「君って友達いないの?」だ。こんな能力いらないけどな。


「学生時代はね・・・・・・」


 俺の高校生活は寂しい方だった。1年の時は友達がいたのだが、学年が上がるにつれて徐々に減っていき、最後は友達三人と化した。理由はわかっている。間違っているかもしれないが。

 俺の高校生活がどんなものだったか、詳しくは後で。ネタバレすると、俺はノリが悪かったせいで友達減った。


「どしたの?急に黙り込んで」


「いや、アノムに抉られた心を修復しつつ過去を思い出してた」


 今度は団子を頬ばらずに普通に喋ってきた。手元を見るともう団子はなかった。


「じゃあ、もっと抉っとこうか?」


「やめろ。俺の豆腐メンタルをかき混ぜんな」


「どんだけ弱いの、メンタル」


「倒置法を駆使しやがったか」


 強調すんなよ。


「じゃあねー、君ってなんで就職できないの?」


「ぐふっ」


「なんで友好関係狭いの?」


「ぐうぇっ」


「なんで・・・・・・えぇと、生きてるの?」


「何も思いつかないからって俺の存在を否定すんなよ!」


「いやぁ、ハハハ」


「お前、上傘と仲良くなれそうだな・・・・・・」


 互いに毒舌なところが合いそうだ。あ、上傘ってのは隣に住んでる毒舌ボーイッシュ女のことね。


「なあ、アノム」


「んー?」


 床に寝転び、ぐてーっと手足を伸ばすアノムがゆるい返事をする。


「お前って、女神なんだよな?」


「そーだよー」


「神様の仕事とかしないのか?」


「全部友達に任せてきた」


「ひでぇな!?」


 友達が不憫だ。


「いやいや、喜んでたよ?先輩から頼みごとだなんて・・・・・・感激です!みたいな感じで」


「お前の友達も大概だな!」


 こいつ、自分も周りも馬鹿しかいないんじゃないだろうか。


「っていうか、友達って・・・・・・天界にはたくさん神がいるのか?」


「うん。知らなかったの?そんな事も知らないなんて、馬鹿なの?フフフッ、アハハハハ!」


「その程度のことでそこまで笑う!?笑うどころか大爆笑じゃん!お前のツボが分からねえ!」


「笑ってないよ。さっきの嘘」


「性格悪いにも程があるだろお前!」


 嘘であそこまで笑えるのも凄いけど。つかホントに嘘なんだな。よく考えるとさっき目が笑ってなかったし。


「さてここで問題です」


 今までの話の流れをぶち壊すように、唐突にアノムが人差し指を立ててそう言った。


「な、なんだよ急に」


「さっきの会話、私は途中から嘘をついていました。さてどこからでしょう?」


 え、質問攻めで俺の心を傷つけた所から?俺が話を振ったところから?はたまたその両方よりも前?

 ・・・・・・おい、それって、


「どこからでもタチが悪いな!?」


「いやー、へへっ♪」


 いや、可愛いけど!可愛いけどそうじゃない!語尾に音符まで付けちゃって照れたように笑うのすげー可愛いけどそうじゃない!」


「途中から思ってたこと口に出てたね」


「嘘だろ!?どっから!?」


「語尾に音符なんたらの辺りから」


「ほとんどじゃん!」


 終わった。もう終わった。こいつに直接可愛いとか言ったらもう終わりだ。絶対ネタにして笑われる。


「大丈夫だよ。笑ったりしない。嬉しかったし」


「アノム・・・・・・」


 一応、女神なんだな。こんな性格だけど、それでも女神なんだ。


「後でいろんな人に言いふらして馬鹿にするけど」


「やっぱコイツ女神じゃねぇよ!」


 少しでもアノムに女神っぽさを感じた俺が馬鹿だった。

 そう思いながら、半ばやけになりながらうどんを食べる俺だった。


「ッ、ゴフッ!ゲフッゲフッ!」


「うわ、汚っ!」


「ほんほにやはひははいは!」


 ホントに優しさないな!

 最後にそう叫んで、汚く終わった昼食だった。

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