1-2「お買い物♪」
「はあ・・・」
「どしたの?溜息なんてしちゃって」
「いや、なんで俺なんだろうって・・・・・・」
「私が嫌なの?」
あー、その上目遣いをやめてくれ。
「そういう訳じゃないんですけどね?ただ、俺みたいなフリーター、どこにでもいるじゃないですか。なのになんで俺なのかなって」
「神の気まぐれとでも思っとけば?」
思っとけばって、自分のことなのに。
「家出てから暗いねー。外出がそんなに嫌?」
「まあ、できればずっと家にいたいです」
「うわー、ひきこもらないでよね?」
「大丈夫ですよ。ひきこもったら生活出来なくなりますから」
だからこうしてフリーター生活をしているのだ。幸い親は結構裕福だから僕の貯金も多く、就職するまでは安心だ。しかし、流石にバイトをしないときついので頑張っている。
「相田君」
「はい?」
突然後ろから名前を呼ばれる。
「さっきから独り言が激しいんだけど、脳内にウジ虫でも住んでるのかい?」
あ、そうか。アノムは他の人に見えないのか。
じゃない!
「ウジ虫なんか住んでねーよ!」
「あ、そうか、まず脳が無いんだった」
「そういう事言ってんじゃねえよ!俺は単細胞生物か!」
な、何かいい言い訳は・・・・・・。
「電話してましたっていいなよ」
アノムが助け舟を出してくれた。
「電話だよ・・・・・・」
「の、脳がないのに電話なんて使えるのか・・・・・・?」
「マジで驚いたような反応するなよ・・・・・・」
目を丸くするな。
「今急いでるんだ。ほっといてくれ」
そう言って無理やり別れる。
「ありがとうございました、アノムさん」
「んーん、なんかその言い方ムズムズする。アノムでいいよ」
「いやでも、敬語で呼び捨てって気持ち悪くないですか?」
「んーじゃあ敬語じゃなくっていいよ」
「あー、結局・・・・・・」
「ちなみに、今のって例の」
「アパートの隣の部屋に住んでる毒舌女」
胴体さえ見なければ性別がわからない。声は中性的だし、見た目も中性的。なぜ胴体を見なければなのかと言うと、胸はあるからだ。それも大きめ。あと結構美形だ。・・・・・・あ、顔がね?
「あーやっぱり。なかなかに綺麗な人だよね」
それは思う。思うが口にはしない。性格悪いしな。顔だけ見ても、アノムの方が可愛いし。
「やばい、だいぶ脳内が汚染されてきてる・・・・・・」
「何に?ちょっと厨二病っぽいよ」
あなたにだ。とは言えない。言えるけど。あれ?どっちだ?
「買い物ってさあ、いつものスーパー?」
「そー」
いつものって、まるで彼女みたいだ。
「返しが雑だなー」
「敬語を急になくそうとすると、違和感があって無理なんだよ」
「確かに」
敬語に戻してもいいが、それだと呼び捨てに違和感が生じる。どうしたものか・・・。
「慣れるしかないねー」
「そうか・・・・・・」
────それから10分経過
「ついたー。お買い物♪」
「そーだな・・・・・・」
「思うんだけど、なんで自転車とか自動車使わないの?」
「車買うお金が無い、自転車は家にあるけど使ってない」
「なんで使わないの?」
「歩いた方が運動になると思って」
「なーる」
「もう喋りませんよ。変な人に見られるから」
「あ、さっき敬語に戻ったね。もう敬語でいいんじゃない?」
「────」
「ほんとに黙っちゃった」
スーパーに入って、カゴを取る。いつもと同じ光景だ。しかしいつもと違うのは隣にアノムが・・・・・・いない!?
「は!?」
つい大きい声が出てしまった。幸い近くに人はいない。それにしてもどこだ?どこに行った?
周りを見渡すが、それらしき人影はない。僕以外には見えないのだから誰かに聞く事も出来ない。
『臨機応変に』
アノムの言葉が蘇る。そうだ、臨機応変にいこうじゃないか。となれば・・・・・・。
「放置だな」
ほっとけば戻ってくるだろう。買い物を先に終えよう。
えっと、これからの昼食は、弁当でいいか。うどんが食べたいな。最近熱くなってきた。まだ6月上旬だってのになあ。地球温暖化か。
この調子で夕飯と明日の朝食、昼食も買っていく。朝食はグラノーラだ。最近かなりハマっている。
「アノムは、何も食べないんだよな」
食費かからないとか言っていたし。
他にも料理の材料を買い、レジへと進もうとした、その時。
「徹くーん」
アノムの声がした。その方向を見ると、アノムが立っていた。
「お菓子買って」
「子供か」
つい声が出てしまった。気を付けなければ。
「いや、お菓子と言ってもスナック菓子ではないよ?この団子さ」
見ると、アノムの指さす方向に、団子があった。あんこのようだ。
「スーパーにしてはなかなかの出来だよね。その分値段は他より少し高いけど」
あなた何も食わないんじゃなかったの。
「あ、えーっとね、食わなくても平気なだけで、普通に食べられるよ」
僕の心を読んだように答える。にしても、あの団子三本入りで二百五十円か。・・・・・・高いけど許容範囲だな。
団子を手に取りカゴに入れる。
「いいの?」
そう言われると買う気が失せる。でもまあ、買ってやろう。一本貰うけど。
「そんなに優しかったんだ」
この人は天界で僕の何を見てたんだ。
この時間帯だと人は少ないので、スムーズにレジを通れる。
しかしこの時間帯に来るのには、少しリスクがある。暑さで食品がやられてしまう可能性があることだ。急いで帰らねば。
お金を払った後、買ったものを袋につめ、スーパーから出る。
・・・・・・食品が痛む前に帰らないとだし、急ぐか。
「アノム、走ろう」
「ええー・・・」
なんで残念そうなんだよ・・・・・・。
でも、顔を見ると笑顔だった。可愛い。
・・・・・・いや、なんでもない。