血に染まる月と巫女5
「大丈夫、寝てるだけだよ」
顔を上げると空の様に青い髪の少年、那智が黒い翼を広げて降りてきた。
着地すると羽が那智から離れて頭の上に乗る。
どうやら大きな烏が背中を掴んでいたらしい。
みつきの膝の上で眠っている夜を背負い部屋に案内する。
婆達に顔合わせをするように言われたものの、何処にいるのか分からず途方に暮れていたがやっと予定の人物である一人に会えたから助かったが、眠ってしまって更に途方に暮れる事にならずに済んで安心した。
「東の巫女は、ここに来るの初めて?」
「え?ううん、私は元々ここに住んでたの」
那智はみつきの答えに立ち止まって振り返る。
しばらく何かを考えた後、申し訳なさそうに聞いて来た。
「もしかして、原田みつきさん?」
もしかしなくとも、原田みつきで間違いないと頷く。
また何かを考える素振りを見せ、何度か頷くと歩き出す。
そこからの質問等は無いのかと心の中で突っ込むも、無いらしく会話は終了して長い廊下を歩く音だけが響いた。
不思議な雰囲気の那智に戸惑いながらもはぐれないようにと追いかける。
背負われている夜の髪を見てみつきは目を伏せた。
助けられた時の事を思い出して自分が死ぬのではないかという恐怖と絶望を思い出して拳を握る。
あの時、本部と呼ばれるこの土地に帰る途中で迎えを待っていたがなかなか来ず赤い月を見上げて時間を見ていると複数のダークネスに襲われた。
逃げようと走ったのが間違いだったのかしつこく追いかけられ、路地の行き止まりへ追いつめられ戦おうとしたが一人では対処しきれなくなり藁にもすがる思いで大きな声を上げた時に夜が現れたのだ。
塞がっていた道が一瞬で開けた時は何が起こったのかと一瞬パニックになったが、助けに来てくれた人物の姿に強張った身体の力が抜けた事は覚えている。
「……よ」
不意に声が聞こえ、ハッとすると那智が扉の前に立って首を傾げていた。
ボンヤリしている間に目的の場所へ着いていたらしい。
心配そうに声を掛けられるが、大丈夫と答えて扉をノックする。
中から少年の声が聞こえ、ドアノブに手を伸ばして開けた。
椅子に座る潤と目が合ったみつきは会釈をして中に入る。
那智は自分のベッドの上に夜を寝かすとそのまま開いているスペースに腰を下ろし、普段座っている椅子をみつきに譲った。
全員が座った所で潤が軽く自己紹介をして本題に入る。
「原田にいくつか聞きたいことがあるが、いいか?」
「うん、いいよ」
何から聞こうか迷う潤は寝返りをうつ夜を横目に見て口を開いた。
「まず、お前が東の巫女として呼ばれたのを理解していると考えての質問だが……戦闘経験はあるのか?」
みつきは首を横に振る。
訓練は受けているが、まだダークネスと戦った事は無いと答えると潤は眉を寄せた。
自分の力は理解していると思うが、本番で戦うとなると動けるのかが問題になって来る。
いきなり戦っていなくなるという可能性もある事に頭を悩ませた。
ダークネスの恐ろしさは身を持って理解しているのは、先程の戦闘で分かっている。
「そうか、力を見たい所だが戦闘以外で使わせるのにも婆の許可がいるからな……せめてどれくらいのレベルかは知りたいものだな」
潤の困った様な声にみつきと那智は唸った。
「心配しなくても、そいつの力はかなり強い」
唸る三人の耳に小さく呟く様な声が聞こえて一斉に視線を集中させる。
片手に頭を乗せたポーズでみつきを見ている夜は眠そうな目で何かを追っていた。
夜の眼には力が煙のような形で視えており、大きければ大きいほど力が強い人物である事を示している。
他の者には視えていない物で、戦闘の時もそれを頼りに戦い方を考えていた。
「起きてたのか」
「今起きた」
潤と夜は短い会話をすると、話を戻す。
今にも寝そうな夜に寝てていいと声を掛けて次の質問をした。




