復活の時8
二人の傍に立つ死神は、無表情で見ていた。
血の気の失せた肉体を迎えに来たのだろう。
「おい、お前これは一体……?」
「お前ではない、私の名前はイシュガルド」
那智の魂を迎えに来たと分かり、胸倉を掴んだ。
意識は無く目を閉じているだけの姿。
もう、助からないのだろうか。
フィルデスの顔を覗き込むとフードを思い切り引っ張られ転びそうになる。
真剣な色をした真紅の瞳に、何をするつもりなのか理解した。
だが、それは定められた運命を変える禁忌だと反論しようとしたが頭を下げられて何も言えなくなる。
「あなた方は、正気ですか?」
イシュガルトはそう言って笑う。
死神でさえも知っている禁忌。
本気で助けたいと思う気持ちは分かる、分かってはいるが。
『兄さん、僕も戦う許可貰ったんだ!』
嬉しそうに近寄って来る那智。
喜んだ反面、心の奥底では不安でたまらなかった。
いつかは覚悟していた事なのに、フィルデスの願いに迷ってしまう。
「俺は……」
震える手をみつきが優しく包んだ。
何も言わずに握ってくれている。
動かない那智の気持ちが伝わってくるような気がしてならない。
まだ、生きたい。
そう聞こえた。
「分かった、やろう兄貴」
フィルデスは小さく頷く。
蘇生術には、二人の悪魔と悪魔の血液が必要となる。
唇を噛みしめて血を出すのを確認し、夜は同時に呪文を唱え始めた。
―I put the blame of a Iight of the Iife on a beloved person,and take it back to the world again
ゆっくりと顔を近づけるフィルデスは血で滲んだ唇を冷たくなった唇に押し当てる。
微かに聞こえる心臓の音が次第に大きくなり、閉ざされた瞼が震えた。
「……ジン?兄さんも……」
どうしたんだと言わんばかりの表情に全員は安堵する。
苦い顔で立つイシュガルトは、深い溜息を吐くと夜とフィルデスに忠告した。
「禁忌を犯した以上、お前達は悪魔にも人間にも認められないだろう」
「いいさ、俺達はそうやって生きて来たんだ今更だっての」
夜は笑って言い返す。
そうか、とだけ言って踵を返した。
「なぁ、那智がフィルデスの事なんて言ってるか気付いたか?」
潤がこっそりと夜に耳打ちをする。
「そうだ、那智と兄貴に聞きたいことがある……お前達、契約してるって本当なのか?」
「兄さん、何言って……」
「あぁ、してるぜ?那智は俺とな」
フィルデスの言葉に驚く那智は、強い力で引き寄せられて袖を破られた。
肩に浮かぶ契約の印。
夜とみつきの様に二人にも同じものがあった。
「なんで、那智と契約した事を黙ってたんだよ」
「別に言っても良かったけど、那智が黙っててほしいってから黙ってただけだ」
悪いとは思っていないような口ぶりに苛立つ。
「兄さん、ゴメン……」
申し訳なさそうな那智。
契約した事は二人がいいならそれでいいが、身体の負担や黙っていた事を考えると納得がいかない。
「お前は、自分をどれだけ犠牲にすれば満足すんだよ!兄貴に血をやって?戦って死にそうになって?いい加減にしろよ!」
怒りが収まらず、つい怒鳴ってしまう。
言いすぎたと顔に視線を移す。
声を出すことなく静かに涙を零す姿。
「……好きにしろよ」
引っ込みがつかなくなり、そのまま来た道を戻る。
みつきが後を追うのを見て潤は那智を心配した。
「ジン、どうしよう兄さんに嫌われた」
フィルデスは無言で那智の頭を撫でる。




