復活の時3
息を切らす二人。
壊れた人形が足元に散らばっていた。
お互いに力を消耗しすぎたのか、次なる攻撃を仕掛けようとはしない。
「終りに、しましょうって言ったのになんで抗うんですか!」
紫苑は泣きそうな顔で叫ぶ。
両者ともボロボロなのに、終わらない戦い。
額から流れる血を拭って潤は答える。
「したくないからだ、お前が闇の姫だとしても敵だとしても終わりになんてしたくないんだよ」
胸に広がって弾けそうな感情。
とても痛いのに、不思議と暖かい。
「私は、もう戻れないんです!だからもう、終わりにしてください!」
「嫌だ」
「なんでですか?どうしてそこまで構うんですか!」
悲痛な声。
辛そうな顔。
それでも、潤は終わりにしようとはしない。
「ずっと、誰かを守る為に戦うなんてありえないって思ってた……家族や仲間をって言ってても上辺だけの言葉で、結局は自分の為に戦ってたんだけどさ……ある時から考えが変わったんだ守りたい奴が出来たんだよ」
ちょっと近場を散歩したり、一緒に食事をするだけで幸せだった日々。
楽しい記憶を思い出す度に浮かぶ笑顔や恥ずかしそうな顔。
隣で他愛のない話をする姿。
我武者羅に刀を振るっていた自分に目的を与えてくれた大切な人。
その為に戦う事によって生き甲斐を始めて感じた。
戦う意味を知った。
「俺は、紫苑を心から愛しているから……だから、終わりにするだなんて言わないでくれ」
紫苑は切ない表情で俯く。
目から雫が零れた。
「愛してるなんていわないでください」
震える声で言うと濡れた瞳で真っ直ぐ潤を見る。
「私は、貴方を愛してしまった罪を償う為に戦う事を決めたんです……それなのに、愛してるなんて言われたらもう戦えません……」
「それが罪で、お前が切り捨てられたとしたら……俺が命に代えても守ってやるから戦えなくなってもいいじゃないか」
紫苑の胸に潜む感情が弾けた。
ドキドキと五月蝿い鼓動に戸惑う。
悪魔は人間に恋をしてはいけない。
例え、人間だった時があったとしても。
でも、それでも愛情という余分な感情が大きくなり惑わせる。
もう道は閉ざされてしまった。
「酷いですよ、私にはもう選択する事が出来なくなってしまいました」
潤の胸に飛び込む。
本当に酷い人だと言って背中に手を回すと自身の背中にも同じく手が触れた。
「私、私は……」
貴方を愛しても許されますか?
その言葉を遮るように頭の中に声が響く。
―姫の裏切り者。
白月の声だ。
冷酷な声と共に暖かい感情が凍り付く。
嫌だ、嫌だ。
「やめて、私は……わたしはもうっ!」
潤の身体を強く押す。
黒い感情が心を支配する。
逃げて欲しいのに、伝える事が出来なかった。
このままでは傷つけてしまう。
「いや、いやぁっ!」
「紫苑!」
意識が遠くなる。
闇に支配された紫苑は漆黒のドレスを身に纏い、壊れた人形を集めた。
集まった人形は一体の巨大な身体を手にすると潤を見下ろす。
一度、闇に堕ちた者は死ぬまで逃げられない。
王の怒りを買った時、完全なる闇の使者になってしまう。
急な事に動けないでいると人形が拳を振り下ろす。
割れた地面と共に宙へ投げ出され、瓦礫の中に落ちた。
もう、声の届かない場所へ行ってしまった紫苑。
どうすることも出来ないのだろうか。
しかし、潤は立ち上がり微笑む。
「言ったろ、俺がお前を守るって……命に代えても、守るって」
刀の柄をしっかりと握り刃を自身の心臓に向ける。
歯を食いしばり、力を込めるとそのまま突き刺す。
「ぐぅっ……我が血を糧とし、究極の姿を開放せよ『紅椿』」
所有者の生き血を吸う事で秘められた究極の力を開放する刀。
心臓から抜かれた刃は真紅に染まり、禍々しい気を放っていた。
傷がふさがると潤は紫苑を見て笑う。
「大丈夫、俺と帰ろう」
赤い帯状の物が身体に纏わりつき、刀を持つ手のみに装甲が施される。
時間制限のある形態である以上、失敗は許されない。
これで助けられなかったら、もう。
「いや、絶対に救ってみせる!」
赤と黒の光がぶつかり合い、衝撃が生まれた。




