過去の闇7
みつきの頬に涙が伝う。
ギョッとした夜はわたわたと泣き止ませようとした。
全身に伝わる体温に目を丸くする。
「悪魔としても人間としても、私はナイトが好きなのは変わらないから……ナイトが悲しいなら私が慰める、寂しいならそばにいるから」
優しい匂いに目を閉じて押し寄せる感情に耐えた。
抱きしめる腕に水滴が流れる。
顔を赤くして笑う夜の目には涙が流れていた。
誤魔化すような表情で、嬉しそうにする。
「はは……なんだこれ、とまんねぇー……」
「うん」
「このまま、収まるまで……この、まま……」
「いいよ」
「……っふ、うぅっ……っ……ありがとう」
嗚咽交じりに発せられた感謝の言葉。
こっそりと見ていた那智と潤はホッとしたように笑みを零す。
戦っている理由を探すように我武者羅に自分の命を気にせずに戦っていた夜。
今はもう、大丈夫そうだと潤は思い那智の方を見た。
「いいのか?」
「なにが?」
不思議そうにしている那智。
感情を隠すように無表情でいる姿に苦笑する。
「大好きな兄は、好きな人をみつけた事に対してだよ」
「……別に、兄さんがいいなら僕は何も思わないし言わない」
「へぇ」
「兄さんの穴を埋められるのは僕じゃなくて、みつきさんだったんだからそれでいいんじゃない?」
腕を組む潤の前を通ってその場を後にする那智。
溜息を吐いて後ろ姿を横目に舌打ちをした。
「ったく、『また一人か』って顔しやがって」
長年の付き合いのせいか、無表情に隠された思いに気付く。
家族はもう夜しかいないという事から執着していた。
だが、みつきが現れた事によって一人になった悲しみにどう耐えるのか。
それが心配で堪らない潤も自分の部屋に戻る。
誰もいない部屋。
また溜息を吐き、スマートフォンを取り出す。
しばらく操作し、耳に当てた。
コールが続いた後、少女の声が聞こえて静かに声を出す。
「俺」
その頃、那智は宿舎の屋上に座って空を見ていた。
初めて見た嬉しそうに泣く夜の姿が頭から離れない。
体調が悪い時にそばにいてくれた夜、行動を共にしている時に見せる笑顔。
それはもう、みつきに向けられるであろう。
両親がいなくなり、夜だけが支えだった。
「大人にならなきゃなぁ……」
身体がだるい。
戻ったら薬を飲もうと思い、立ち上がる。
フラッと眩暈がして足を踏み外す。
(あ、しまった)
と思った時にはもう落ちていた。
大きな烏が見えたかと思うと二本の腕に受け止められる。
黒髪の天狗の様な姿の男が屋上に向かって飛ぶ。
足場がある場所に降ろされて俯く。
「那智、どうした?お前らしくもない」
「……ちょっとね、嫉妬してるのかな」
天狗は顔に付いている仮面を外す。
切れ長の目で座り込んだまま動かない細くて弱い身体に視線を送る。
隣に座って頭を撫でた。
「お前にはたくさんの仲間がいるんだから一人ぼっちなんて思うな」
「うるさいな、八咫のくせに」
「肇に頼まれてるからな、那智をよろしくってな」
那智は肩を強く掴んで頷く。
父がくれた命のおかげか、頻繁に体調を崩す事は無くなった。
後継者の顔通しが終わった後に言われた言葉を思い出す。
―お前が夜達と共に戦いたいって思うなら、俺の中にいる八咫烏を譲る……その代わりに俺がいなくなっても泣くなよ?
「父さんがいなくなるならいらないって言ったのになぁ」
結局、父は那智の命を繋ぐ為に八咫を移してしまった。
八咫から聞いた父との出会いと役目。
それから、那智が持つ式神との出会いを思い出した。




