過去の闇5
認められた以上、口出しは許されないと知ってか周りは何も言わなかった。
だが、一人だけ納得がいかないのか立ち上がって叫ぶ。
「どうして!どうしてこんな奴が、私が肇さんの本妻なのよ?納得いかないわ!」
「お母さん、やめてよ……ねぇ……」
那智が宥めるも無視をして叫び続ける。
婆は従者に連れ出すように言うと部屋を出て行こうとした。
「待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」
「おかぁさ……っ」
夜は目を見開いて駆け寄る。
同時に倒れ込む小さな身体。
限界だったのか、青褪めた顔でぐったりとしている那智。
婆が二人に近づくと残った従者に部屋を用意するよう指示を出す。
異母の声が聞こえない部屋で二人は父を待つ。
水を変えに行こうにも手を掴まれて動けない。
本当に神谷を継いでよかったのかと悩む夜の後ろから手が伸びて来た。
「水、変えてきてやるよ」
前に見た二階の窓の少年だ。
さっきの騒ぎを知っているのだろうかと不安になる。
戻って来た少年は水の入った桶を置いて座った。
お互いに黙っていると那智が目を開ける。
「潤兄ちゃん、お兄ちゃんもどうしたの?」
「無理するから、倒れたんだよお前」
潤が答えると那智は申し訳なさそうに眉を下げた。
「紹介するね、僕のお兄ちゃんの」
「神谷夜だろ?あそこにいたから知ってるよ、肇さんの隠し子なんだろ?」
厭味ったらしく言われ、夜はムッとする。
そんな空気に気付いてか那智が潤についていろいろと話しはじめる。
「でね、僕を女の子と勘違いした潤兄ちゃんはね」
「こら、止めろって!」
「はははっ、お前おもしろいな……でも、那智あまり無理すんなよ?まだ具合悪いんだろ?」
笑い声を響かせていると父が入って来た。
疲れた様な顔で座り、那智を見る。
夜と潤が気を使って席を外した。
「お前さ、その怪我どうしたんだよ」
「佳代さん見れば分かるだろ?そう言う事」
「……俺、こういうの良く分かんねーけどさ……お前の事、嫌いじゃないぜ?周りがなんて言おうと俺は井上の後継者として認めてるから」
「なんだそれ、話したばっかなのに?」
「話して分かったんだよ!お前は良い奴だって」
そんなものなのかと首を傾げ、お礼を言う。
こういう時はお礼じゃなくてと手を差し出された。
友情の握手と手を握る潤。
初めて男の友達が出来た事に喜んでいると背後から声が聞こえた。
「許さない……アンタが、来てから私は……許さないっ!」
異母が虚ろな目で叫ぶ。
周りに黒い物が纏わりついて姿を変えていく。
まるでダークネスに似た姿になると夜に向かって飛びかかって来た。
一瞬、金木犀の匂いと女の子の姿が浮かぶ。
死ぬわけにはいかない。
約束したんだ、と右手に力を込めた。
「やめろ!その人は佳代さんだ、殺すな!」
潤に止められて夜は攻撃を避ける。
人間がダークネスになるなんてと夜は舌打ちをした。
「なんだよ、どうして佳代さんが」
「ダークネスは人の怒りや憎しみから生まれる生き物なんだ!」
「こいつは佳代さんだってのかよ!」
「そう、それは佳代さんだ」
人間を殺すなんて出来ない。
元に戻す方法は無いのか。
焦る二人の前に父が現れて異母を蹴る。
もう、意識はないのか威嚇するように唸る異母。
こんなの那智に見せたくない。
「どうしたの……?」
「来るな!那智!」
父の声と同時に異母は那智に向かって飛び出した。
鮮血が舞い、那智は目を見開く。
堪らず夜は大鎌を取り出して異母の背中を切った。
床に倒れる小さな身体。
もう、助ける事は不可能だ。
「夜、俺が那智をどうにかする……しばらく頑張ってくれ」
夜の横を過ぎながら言う父。
傷口に手を伸ばすと何かが生えた。
黒い翼を持つ鳥は首を傾げると那智の中に入る。
「まさか、肇さん……アンタ……」
「年のせいか、力が使えなくてね命と引き換えに力を貸してもらってたんだ……コイツごと俺の命を那智に移した、夜……すまない、後は頼んだ」
大きな鳥は肇をチラッと見ると光となって消えた。




