葵〈来訪〉①
〈藍〉
押切駅無差別惨殺事件、そして〈七極彩〉の〈赤〉こと赤神灯真の失踪━━及び古賀大臥の遺体消失。
月を跨ぎ、世間を震撼させた二大事件。
私達もまた事務的な仕事や手続きに追われ、各支部は疲弊に溺れていた。
七色機関は独自体系である事を強調する為に、区分単位を故意に変えている。
まず先頭にくるのが三本柱である開発課、教育課、派遣課だ。これは仮本部を除いて、それぞれに支部が置かれている。
ただ大よその範囲内に集中して設置される為、第何支部と呼称した場合、それは三本柱を言い包めての意味合いが強い。
例を挙げれば、第二支部は押切市に教育課と派遣課を設けており、開発課だけが多摩区と……やや離れている。
各課から各支部へ、各支部から各区間へ、構成は枝分かれしているのだ。
矢継ぎ早に降り注ぐ書類や、雪崩式に行先を阻む報道陣。
灯真の失踪が報じられた当日、これらの軋轢にいち早く爆発したのが〈黄〉の庄土葉洸だった。
我慢などという言葉とは無縁な洸が憤るのは、元より目に見えていたが……洸でなくても、今回の騒動はさすがにこたえた。
怒涛の平日も一旦区切りとなる今日━━12月5日。
きっかり定時で帰る支度をしていた私を呼び止めたのは、〈七極彩〉の〈青〉こと朝霧蒼乃介だった。
蒼乃介は私と同じく〈永久切〉の南下を受けて、東京へ召集、転勤となった『ヒーロー』だ。
彼とは関西で勤務していた頃にも付き合いがあり、〈七極彩〉としては最も長い縁になる。
「折角、東京戻ってきたんやし、久しぶりに『魚活』どうや?」
それは〈災厄〉以前、私達が贔屓にしていた寿司処の名だった。
およそ数年振りとなる東京での飲みに誘われたのが、もう一時間前の話だ。
どうやら蒼乃介は初めから私を誘う魂胆だったらしく、『魚活』に着くなり予約制の個室へと案内された。
「他には誰か来るのか?」
「誘ったんは、洸と玲やけどな。洸はあかんわ。かなりこたえとる。玲は少し遅れるいうメールきとったわ」
七色機関教育課総責任者━━森堂玲。
私や蒼乃介、それにザッハ、紫於など。私達、初代〈七極彩〉は、彼女が総責任者になるよりも昔から酒を酌み交わす仲だった。
とは言っても、当時の私はまだ未成年だったから、奢りで美味いものにありつけた印象しか残っていない。
そういえば、あの頃はまだ味覚も残っていたんだな。
掘り炬燵式の個室は、襖で仕切られており、店内にはゆったりとした琴音が流れている。
私も蒼乃介もスーツ姿だ。
ネクタイはそれぞれ〈七極彩〉に基づいた色合いを成している。
「菜子ちゃんは大丈夫なんか?」
「さっき遅くなると伝えておいたよ」
「そうやない」
潜めた声で、蒼乃介は私の返答に首を振った。
「〈無咏の蝶〉や。どうなんや?……思い出したりはしてへんのか?」
あの日……〈永久切〉が押切市に襲来し━━〈銀〉の残り火が私の心臓を蝕んだ日。
私の狼狽はかつてない程に膨れ上がった。
〈銀〉のEins〈浄化〉には、他のEinsを沈静化、或いは消滅させる能力が秘められている。そして、対象のEinsを滅するまで決して燃え尽きない。
つまりは、私が施している禁呪〈無咏の蝶〉が失われた可能性もあったのだ。
「学校には通っているみたいだし、別段、変化は見られないな」
「ほんなら……ええんやけど」
あれから数日、菜子に急変は認められていない……現時点、危惧していた事態は避けられたのだと判断していた。
だが、肝心の〈銀〉の正体が━━何故、今更になって残り火が活性化したのかが分からない。
謎は依然として深闇に包まれたままだ。
「これはまた……随分と懐かしい面子ですね。なんですか?同窓会ですか?」
雪兎の毛並を連想させる真っ白いコートにマフラー、それにマスクと……初冬にしては些か重装備とも見て取れる装いで、彼女はやってきた。
「おう、玲。遅いねん、ほら、はよ座れっ」
「仕方ないでしょう。私は仮にも総責任者なんですから」
玲は溜息交じりにコートを脱ぎ、私の隣へ腰掛けた。
マスクを剥げば、薄っすらと紅色に染まった唇が露わになる。
気の強さを仄めかす尖り気味の眼尻に、日本人離れした高めの鼻頭。
脱色した焦げ茶色の頭髪は丹念な手入れを欠かしていないのか、蒼乃介に劣らず滑らかな輝きを放っている。
「なんや、総責任者っちゅうのは仕事しないもんとちゃうんか?」
「馬鹿にしてるんですか?今は寝る間も惜しいぐらいです」
彼女の言い草を肯定する様に、目元には薄っすらとだが隈が滲んでいた。
「疲れが顔に出ているな……玲、睡眠ぐらいはしっかり取れよ」
「叶子、貴方も変わらないですね。年上にはもう少し気を遣ってください」
蒼乃介と玲はどちらも今年で28歳。私より四つ上になる。
「せやで。ほんま叶子がきついんは昔から変わらんな」
「蒼乃介もですよ。どうして押切区なんですか?電車は嫌いだと言っているでしょう?」
玲はさいたまの仮本部に出勤している筈だから、押切区に店を構える『魚活』は歩いて行ける距離じゃないだろう。
「ええやん。僕らが集まるなら、やっぱここやろ」
「〈災厄〉以来ですかね」
かじかんだ指先を解しながら、玲は感慨深そうに呟いた。
「そうだな」
私達が『魚活』で最後に談笑したのは、もう四年も昔の話だ。
その席ではザッハと紫於が欠け、代わりに灯真とミニスが座っていた。
「皆ビールでええ?あとは枝豆か?」
「いや、枝豆はいいだろう」
なぜ寿司専門の居酒屋に来てまで、枝豆を頼むのか……もうザッハも居ないのだ。
「そうですね。もうザッハも居ませんから」
玲も同じ感想を漏らしている。
「そやったな」
と、複雑そうな面持ちで頷く蒼乃介。
〈七極彩〉の初代〈橙〉ことザッハ・ヴァリア・レイン。彼は日本酒と枝豆をこよなく愛していた。
酒気を帯び始め、三人が三人、酔いを自覚しだした頃になって、話題はとうとう先日の〈赤〉失踪へ向いた。
「なぁ玲。灯真について、何や知らんのか?」
玲は七色機関教育課総責任者━━つまりは三本柱の頂点〈三森〉の一人だ。
蒼乃介は彼女の権威、情報網を頼りに問い掛けていた。
しかし、玲はふわふわとメトロノームの様に揺れていた頭を、髪の毛を振り乱しながらぶん回した。
「しらなぁい。こっちが知りたいぐらいだってば」
玲が酔うと豹変するのは相変わらずだった。
彼女はビールから離れ、今や焼酎をお湯で割って飲んでいる。
私は白ワインに移り、蒼乃介はミルク系のカクテルだ。
「六課は何て言っているんだ?」
警視庁過適合対策課。通称━━六課。
Eins過適合者による犯罪を取り締まる独自捜査班だ。
彼等は七色機関を目の敵にしており、私達『ヒーロー』にも辛辣な態度を貫いている。
菜子の話によると、灯真を連行したのは六課所属の警察官だったらしい。
「〈永久切〉との関与が疑わしいとか何とか。こっちが幾ら弁明しても聞く耳持たずって感じだったの。で、それからすぐに、灯真消えちゃったでしょ?やっぱ疑われてるみたいねぇ」
「あいつ、どうやって逃げたんやろな」
例え完璧超人と名高い灯真であっても、Einsを奪われてしまえば、ちょっとだけ筋肉質なただの一般人だ。
自力で拘束を破る手段があったとは、俄かには想像できない。
「大臥の遺体も持ち去ったんだろう?」
「らしいねぇ。だから共犯者が居るんじゃないかって。それぐらいはさぁ、誰でも思うじゃん?けど、あいつら、あたかも七色機関の中に共犯者が居る筈だって、決め付けてきてんのよ。冗談じゃないって話よねぇ。こっちだってさぁ、灯真が連行されただけで、とんでもない風評被害受けてるっつーのにさ、これ以上、自分達で首を絞めるような真似する訳ないじゃんね。どうせ冤罪なんだしさ」
玲が語るには、赤神灯真の連行、それに続く失踪により、Eins資格取得の為に教育支部へ足を運んでいた教習者の数は著しく減少したらしい。
それが僅か数日の出来事なのだ。
これから先、まだまだ被害が広がる事は火に油を注ぐよりも明白に思われた。
色の頂点に位置する〈赤〉こと赤神灯真の影響力というのは、予想以上に大きかったのだ。
六課としても七色機関の勢いを削ぐ絶好の機会だと悟ったのだろう。
ここぞとばかりに猛追を仕掛けてきている。
駄目押しとなったのは、報道陣に対する洸の開き直りだ。
『ヒーロー』の印象も、七色機関の収入も、右肩下がりとなっている現状。
決壊し、溢れ出た負は容易には止まらない。
これから先、いかにして余計な傷口を広げずに済ますか。今はもう、その段階での対策が求められている。
それに……。
「聞いたぞ。〈永久切〉の件」
私の曖昧な口ぶりを受けて、真意を測ろうとしているのか、目を細める玲。
蒼乃介は元より目が細いので、それこそ変化が曖昧だ。
「〈永久切〉の件言うたら、仁衛やろ?」
私の投げた変化球の軌道をやんわりと修正する蒼乃介。
「菜子達の言葉を信じるなら、彼……〈罪色樹〉と名乗っていたらしいじゃないか」
「仁衛君については機密事項だからねぇ。幾ら〈七極彩〉でも。幾ら、私が━━酔っていても、うっかり滑らしたりはしないよぉ」
蒼乃介に目配せすると、彼もまた同じ感触を抱いているらしき事が、上辺だけの笑顔の断片から嗅ぎ取れた。
玲は━━私達の目論見を看破している。
赤神仁衛の存在は、世間にあまり知られていない。
私も世間一般に漏れず、同じ〈七極彩〉でありながら、一度も面識がない彼について語れるとしたら……それは、〈災厄〉まで〈七極彩〉の〈赤〉を冠しており、次代〈赤〉を戴いた赤神灯真の兄だということ。
それに、灯真が以前「僕と兄は一卵性双生児なんですよ」とだけ、ぽつりと呟いていた部分ぐらいだ。
公には〈災厄〉の犠牲者リストに名が連なっている赤神仁衛。
その彼が生きていた事実。〈罪色樹〉との関与を匂わす言動。〈永久切〉の逃走を手助けした疑惑。
赤神灯真の失踪とは無関係だと思え。などと言われてもさすがに無理がある。
今回の飲み会はただの息抜きな訳もなく、蒼乃介の狙いは、〈三森〉の一人である森堂玲から、情報を引き出す事にあった。
私と蒼乃介は、決して表に出さないが……内心、疑っている。
その対象と言うのは、単一なものには置き換えられない。もっと大雑把な……言うならば陰謀論だ。
現状、接触したと思われる六課でさえも、赤神仁衛の生存確認について、一切の公表を行っていない。
更なる上の権力から圧力を掛けられているか。もしくは六課にとっても、その真実が不都合なのか。
どちらにせよ、赤神兄弟については、私達の想像を超えた陰謀が渦巻いている様に思われる。
〈災厄〉における〈金〉と〈銀〉騒動の裏で、異なる何かが起きていたのだとすれば……。
もし、隠蔽したい事実から目を逸らさせる為の〈金〉と〈銀〉であり、そのまま歴史の闇へ葬る為の〈緑〉だったのだとすれば……。
小説の読み過ぎによる単なる妄想なのだろうか。いや、そうだと切り捨てられない材料が揃いつつある。
師走の月が陰る頃にでも、〈災厄〉を見つめ直すべきかな。
無味なる杯を呷る一方で、私は言外なる秘め事を、新たにその身へ宿していた。
〈茜〉
あれから、もう一週間も経つのか……。
茜色に染まる帰路を終え、無人の部屋を覆う薄暗さに混じり込むと、俺は鞄を脇へ投げ捨てて、静かに天井を仰いだ。
色々あった━━本当に色々あった。
記憶喪失による自暴自棄や、英語のテスト10点台からの巻き返し受験戦争よりも、心は遥かに沈んでいた。
たぶん、過程や家庭なんてものを全部ひっくるめて、俺の過去は、周囲と比べて色彩に乏しいだろう。
たった一文字……。〈災厄〉後の俺を表現するならたった一文字で事足りる。
『孤独』だ。
両親や自身の幼少時を覚えていない。人生における彷徨の時期を逃してきた。
天涯孤独なんて言い方をすれば、どこか気取っている錯覚がして嫌いだが、それでも、やっぱり独りだった。
けど、そんな俺をどん底から救い上げてくれた少女が一人。
━━それが雨頃葵だった。
今年で12歳。体躯は小動物に似てちんまりとしており、幼さを残す肌はふっくらと愛らしく、何かにつけてすぐ紅潮する。
日本の伝統的な風俗を写す黒髪は、左右それぞれを耳の後ろで結んでおり、流れ星の様に滑らかな軌跡を肩へ落としていた。
目元はやや丸っこく、瞳孔には純真さを象る微光が散りばめられている。
容姿相応に無垢な性格をしており、見てるこっちが不安になるぐらい人懐っこい。
だからこそ、葵は俺との距離を━━俺が頑なに拒んだ心の不可侵領域へ、いとも容易く踏み込んできたのだ。
俺が葵に抱く感情は、きっと恋とも愛とも違う。
従妹だとか、年齢差だとか、そういう柵も抜きにして、俺にとって雨頃葵という少女は、何にも代えられない……唯一無二の大切な存在なんだ。
ほんと天使。いや、冗談じゃなくて。
〈災厄〉を絶望と変換するならば、雨頃葵は、俺を絶望から救い上げてくれた〈天使〉だ。
たった四年という奔流の中に出会えた小さな奇跡。
あいつに出会えたから、俺は失った記憶から解放された。
あいつが傍に居てくれたから、俺は独りじゃなくなった。
あいつの為に、俺は生きる意味を見出せた。
高校進学と共に一人暮らしを始めたが、それでも俺は独りじゃなかった。
孤独だとは、もう思えなかった。
幸せなんだ。
〈災厄〉の地に近い高校を選んだのは乗り越える為であって、囚われる為なんかじゃないんだ。
そのつもりだったのに……。俺は選択を間違ったのだろうか?
たくさんのヒーローとの出会い、ひとりのヒーローとの別れ。
七極彩に六課、永久切に罪色樹。
そして与えられた〈銀〉の符丁。
克服したつもりでいた〈災厄〉はまだ、俺を解放してくれない。
どうすればいいのか━━分からなかった。
答えが見つからない。
「透叔父さんと葵の元に帰ろっかな」
怖かった。
あの時━━Eins無き変身を遂げた時に俺を襲った憎しみの渦。
強迫観念にも似た殺戮衝動。
俺は……〈災厄〉で、何をしていた?
知ってしまえば、もう戻れなくなる。
逃げてしまえば、もう進めなくなる。
━━茜君、君はさ『ヒーロー』になりたいかい?
思い出すのは、大臥さんの一言だった。
『ヒーロー』ってなんですか?
大臥さんみたいに正義の味方として死ぬことですか?
赤神灯真みたいに疑われてでも、誰かを救おうとすることですか?
「人々が発信するSOSに答えるのが『ヒーロー』なんだよ。救う事を生甲斐にできる。……こんなに素晴らしい仕事はないさ」
でも、俺は憎んでいた。
理由は分からないけど、失われた俺は、確かに過適合者を憎んでいた。
━━〈災厄〉で過適合者を何人も殺した〈浄化〉の過適合者。それが〈銀〉だよ。
猟奇的殺人者〈永久切〉は気だるそうに教えてくれた。
もし、俺が〈銀〉と呼ばれる存在なのだとしたら、
俺は〈永久切〉を否定できない程の人を殺めてきたって事になるのか?
だとしたら、俺はそんな重罪を忘れて、のうのうと生きているって言うのか?
懐に潜ませていた携帯が震えている。きっと苗だろう。
この一週間、菜子は病欠扱いで登校を拒んでいた。
結果、押木駅無差別惨殺事件に対するクラスメイトの注目は俺へと集中した。
配慮に欠けた質疑へ、怒りで喉を震わせたのは、俺じゃなくて、親友の苗だった。
俺の場合、落ち込んでいるとは微妙に異なる精神状態だったが……端から見れば、塞ぎ込んでいるのと大差なく映ったみたいで、苗は気色悪いぐらい優しくしてくれた。
「うちの父ちゃんってさ、放蕩主義っていうか、なんとかして息子と会話しようとか、そういう情に薄かったんだ。でもさ、小さかった頃にインフルエンザでダウンした事あってさ、そん時だけ、すげー口達者になったんだよ。食べたいものはないか?とか、氷枕交換するか?とか、挙句の果てには、汗、気持ち悪かったら着替えさせるか?なんて気持ち悪い事まで言い出しやがって。けどさ……すげー嬉しかったんだ。家族って、本当に大切なんだなって思った。茜、今、大好きな葵ちゃんとも離れ離れだろ?俺なんかじゃ代わりにならないと思うけどさ、こういう時に優しくしてくれる存在ってのは絶対必要だと思うんだよ。な?俺の出番だろ?失ってしまったものは戻らないけどさ、こうやって得るものだってあるんだぜ。俺もなんとかあの家庭教師に代わる新作手に入れたし、やべーよ、今度はブルーレイだぜ?もしあれだったら看病ついでに持ってくか?」
後半台無しだったし、笑って誤魔化したが、内心、嬉しかったりした。
ミニスは〈七極彩〉の一人として片付けなければならない事案がたくさんあるらしく、菜子同様、この一週間は一度も学校に姿を見せなかった。
それにしても〈七極彩〉が『ヒーロー』以外の仕事をするのってあんまり想像できないな。
まぁ『怪人』絡みの犯罪なんて滅多に起きないし、むしろ、事務的な仕事の方が多いんだろうけど……謎だ。
今度、ミニスに聞いてみようかな。
そんな事をぼんやりと考えていると、今度は来訪を告げるチャイムが薄闇に響いた。
「……苗の奴、まじで持ってきたのか?」
明日は土曜日、学校も休みだ。泊まるつもりだな。
呆れ半分、しかし、残り半分期待してしまうのは、哀しいかな。思春期の男子にとって避けられぬ道だ。
「ったくよー、持ってくるなら、3Dになるのとかにしろよ」
扉を押し開けると、ふわりと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった。
「やっほー、あかね、遊びに来たよー……で、3Dってなに?」
「いや、なんでもないです」
目の前に立っていたのは、3Dってなによー?と怪訝そうな眼差しで繰り返し問う少女━━〈七極彩〉の〈橙〉ことミニス・ヴァリア・レインだった。




