会話
「ふぁ」
目を覚ましたのと同時に情けない声が出た。何故か知らないが体を覆っていた痛みも取れている。
だいぶ気分が楽になったし自分の状況を確認する。
来てるものは部屋着だったジャージとTシャツ。右手は動く、左手も同様。両足もあるようだ。仰向けに寝ていたらしく視線の先にはのっぺりとした白い天井があった。
「あー...何処だここ」
上体を起こして周りを見渡す。なんと言うか...学校の保健室?なんか小ぢんまりとした部屋の中には俺が寝ていたベッド以外にガラス張りの戸棚、長机、まる椅子があった。
しかし俺はこの部屋には見覚えがない。
通っていた高校の保健室はもうちょい広いし病室だったらこんなに広くないはず。
ふと気づいたがこの部屋には窓がない。そのことは少しだけ不安に思えた。
「お、起きたな 体の調子はどうよ?」
ガラガラと音をたてて引き戸が開いた。思わず身構えてしまう。扉の向こうに土鍋の乗ったお盆を持ったセーラー服、と言っても制服ではなく水兵が着るような真っ白なセーラー服を着た少女がいた。
ショートカットのくすんだ金髪に青い瞳。どこか眠そうな表情をした、可愛らしい顔立ちの少女だった。
「まぁ、上々?」
「そうか元気か、よかったよかった」
少女は嬉しそうにはにかむとそのまま片足でドアを閉めて部屋に入ってくる。
声からしてこの小柄な少女が俺をここに連れてきてくれたのだろう。
「飯、作ったんだけど食えそうか?」
少女は机にお盆を載せるとそう訊ねた。
土鍋からいい匂いがしてくる。
「...いや、いい」
「そうか、食いたくなったら言ってくれよ? あっためるからさ」
今は食欲はないからあとで食べよう。
それよりも聞きたいことがあった。
「ここって何処なんだ?」
「あ? そっか、そうだよな ここは揚陸戦艦八番艦グレンスケイルの医務室だ」
「...」
きたよ、知らない単語。動揺を隠すように無表情を務める。
俺のことは気にもかけずに少女は言葉を続ける。
「お前はグレンスケイルの機関部、魔導タービン室に繋がる廊下に倒れてたんだ なんでか知らないけどボコボコの状態でな」
「あぁ、そうなのか」
何があったか思い出してきた。
俺は自室にいたんだ。
そしたら急にベッドの下からなんか黒い手が四本くらい出てきて引っ張られたから抵抗したら手の本数がさらに増えてボコボコに殴られた。そして意識を失って気がつくと体中の痛みと共にどこかに倒れこんでいた。
あの時は周りの様子を確認する余裕がなかったから気づかなかったけど。
「びっくりしたんだぜ? 艦内に侵入者の反応があったと思ったらボコボコのお前が倒れてた」
「あぁ」
少女はまだ何か喋っているが耳に入ってこなかった。
これはもしや俺が長年夢見てきた異世界召喚ってやつなのか?
いや、召喚って言うより引きずりこまれたって感じだ。
抵抗したらすげぇ殴られたし。
「...けよ 怪しいし折角だからちょっと調べてみたらお前この艦の適性があるってわかってさ、寝てる間に連絡いれたら連れてこいって...って聞いてんのか?」
「え、あぁ、ごめん ぼーっとしてた」
「他人の話くらいちゃんと聞けよな... まぁ、いいや」
ジト目で睨んでくる少女。
「その代わり聞いてなかったーって泣きついてくんなよ」
え、何それ不穏。
「お前、今から本国に戻ってこの艦の艦長に任命されるだろうから覚悟しとけよ」
「は!?」
「はっ、聞いてなかったのが悪い」
少女は鼻で笑うとまる椅子から立ち上がった。そしてそのまま部屋から出て行こうとする。
「え、ちょっと待って俺一般人だぞ!?」
「は?トボけんな 適性があるってことは少なくとも将軍クラスの魔力量を保持してるってことだ どこにそんな一般人がいるんだよ」
そう一気にまくし立てると少女は部屋を出て行ってしまった。
短いけど投稿頑張ります