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依存と移譲

作者: 時流 幌

  俺は典型的な面倒くさがりな人間だ。

  洗い物が面倒くさいので、紙の皿・コップで済ませているし、

 部屋の掃除も面倒なので、“自動で動く掃除機”という奴を買った。

  出勤前にセットしておき、後はかってに床を動き回って掃除してくれるらしい。

 便利な時代になったもんだ。

  それからまた、彼女など作らない。

 ――考えても見ろ、時間も、せっかく稼いだ金も使われちまう。

 それになによりも――これは恋愛に限ったことではないが――人付き合いという物は疲れる。

  しかし、友人関係だけは維持している。

 心地よい社会生活を送るのに不可欠だからだ。


  そして、ある日。

 朝起きて、あることに気づいた。

 部屋がきれいになっているのだ。

  いつも使っている自動掃除機でもさすがにたんすの上のほこり、

 そして雑多に置かれた私物の整理は管轄外だ。

 従って、いつもはそのような所は汚くなっている。

  しかし、一晩経った今

 たんすの上のほこりも無くなり、

 部屋の物も片付けられていた。

  妙だとは思ったが朝起きた直後の判断力では何もできないし、

 なにより、この居心地のいい空間に妙に満足していたからだ。

  結局、強引に気のせいだと思うことにした。


  しかしこの後、ほかにも不思議なことが続く。

 ふとすると、布団敷きが済んでいたり、

 ある時は、洗濯物がたたまれていたり……

 最初は気味が悪かったが特に害がなく、むしろ良い働きをもたらしていると思うと、

 そんなことは小さなことに思えた。


  しかし、そんなことが続くとやはり気になってくる。

 なぜこんなことが起こっているのか、だ。

 こんなことをする泥棒もいるわけがない。

 また、侵入した者のいた痕跡もない。と、なると訳が分からない。

  何らかの病気ということも考えられる。

 しかし、健康診断ではどこにも異常がないとのことだ。

 となると、身体的でない、

  突飛だが別の人格の仕業だとか、本当は自分でやったが覚えていないだけとかだろうか。

 しかし、その場合どうしようもないだろう。

 まさか精神科に

「すいません、自分でもわからないうちに部屋が掃除されているんですが……」

 なんていうわけにもいかないだろう。

 それに何よりも、もしこの 症状(・・)が治されたとしよう。

  困るのは自分だ。

 なにしろ、面倒なことを全てやってくれる 病気(・・)だ。

 わざわざ手放すという手はない。

  ただ一つ問題なのは、俺が仕事に行っている間には何もしてくれない事だ。

 なので自動掃除機だけは手放せなかった。


  それから、俺は紙の食器を普通の陶器の食器に変えた。

 自分で洗わなくてよくなったからだ。それに、紙の食器は金がかかりすぎる。

 それにしても便利なもんだ。

  しかし、これが面倒なことを全てやってくれればもっと楽になるのに……


  それからしばらく経っての事だ。

 彼は変わった。

 家のこともきちんとやるようになったし、

 面倒な仕事もこなすようになった。

  そして彼の以前を知る人間はそんな彼の変わりようを見ると、口をそろえてこう言うのだ。

 「人が変わったようだ」

 と。




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― 新着の感想 ―
[良い点] オチが良かったです。すばらしかったです。
[一言] ゾッとするお話でしたね・・・。 私もめんどくさがりで、夢遊病でも何でもいいから寝てる間に面倒事を全部やってくれないかと思ったものですが、なるほど、こうなるとまた怖いものがありますw 内に巣く…
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