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ぬいぐるみのぼくと、はじめてのまほう

お久しぶりです、葉月天です。

幼い子どもから大人まで楽しめる物語をイメージしました。


世界が「ふしぎ」で満ちた子どもには夢を、世界の「現実」と戦っている大人には、ほんの少しでも優しさを届けられますように。

「おやすみなさい、くまさんと一緒によく寝るのよ」

ママの声が聞こえて、隣で眠るきみからすぅすぅと寝息が聞こえた頃。ぼくはむくりと起き上がる。

きみとママがかけてくれたお布団から抜け出し、ぴょこんときみの顔の近くに立った。


お昼にたっぷり日向ぼっこしたぼくの、ふわふわの両手でお顔をすりすり。

ぼくのお鼻と、きみのお鼻がこっつんこ。

そしたら、あれれ、きみの心が「悲しい」って泣いているのが聞こえてきた。


どうしたの? なんで悲しいの?


ぼくは、ぽふぽふときみのほっぺを撫でながら聞いてみる。


――あのね、おともだちにひどいこといっちゃったの。でもね、ごめんなさいっていえなかったの。


そう言って、きみの心はえーんえーんと泣き出した。


どうしよう。

きみの心に元気をあげたいな。


頑張れー! っておててを握ってもだめみたい。

ほら、楽しく歌おう! ってぼくのお腹をぽんぽこ叩いても、きみの心はずっと泣いたままだった。


うーん、とぼくが悩んでいると、本棚から声が聞こえた。


――こっちにおいで、こっちにおいで。


図鑑の中の、くじらさんがぼくを呼んでいた。


くじらさん! どうしたの?


くじらさんは、図鑑でお勉強しているからぼくよりずっと頭がいいんだ。


――あの子を元気にするにはね、虹の端っこに行くといいよ。


くじらさんは、そう教えてくれた。


虹の端っこ? ぼくはそう質問する。


――そう。虹の端っこはね、天使の虹工場に繋がっていて、そこには虹の材料になる色々なリボンがあるんだ。その中にあるオレンジ色のリボンには元気の魔法がかかっていて、もらった子はみぃんな元気になるんだよ。


オレンジ色のリボン! くじらさん、ありがとう。


ぼくは窓辺に行って、さっそくお空に行こうとする。

けれど、ぼくの背中には羽がないから、お空を飛べないんだった。


どうしよう、君を元気にしたいのに。


そしたら、くじらさんがまたぼくを呼んだ。


――わたしがお空に連れて行ってあげるよ。


え、いいの? ありがとう、くじらさん!


――いいともさ。けれど、代わりにひとつわたしのお願いを聞いてくれるかい?


もちろんだよ、とぼくは答える。

くじらさんは、お菓子の国に行きたいんだと教えてくれた。くじらさんは身体が大きくてお菓子の木からお菓子を摘むことができないから、代わりにぼくが取ってきてほしいみたいだった。

お菓子の国なんて楽しそう! と、ぼくも飛び上がる。


じゃあ早速出発しよう!


図鑑から抜け出してきたくじらさんの背中に乗って、夜のお空へと飛び立った。


夜のお空は、暗いのに明るくて不思議な感じ。

きらきら光るお星さまの金平糖をぱくり。

お月様が手を振ってくれたから、ぼくも手を振ってこんばんはをする。


わたがしの雲をぬけたら、なんだか甘い匂いがする。


あ、あれはドーナツの門だ! きっとあそこが、お菓子の国なんだ。


ドーナツの門を潜り抜けると、くじらさんがぼくを降ろしてくれる。ここまで連れてきてくれてありがとう。


――お安い御用さ。さて、じゃあこの道をまっすぐ行くと、マシュマロの実がなった木が並んでいる道がある。そこで、たくさんマシュマロをとってきてくれるかい?


もちろんさ! 両手から溢れるくらいのマシュマロを持ってくるよ! 


ぼくは、ふわふわの手で胸をぽふん! と叩く。

たったか、たったか、キャンディーの街灯が照らすチョコレートの石畳を抜けてぼくは走っていく。真っ暗でちょっぴり怖いけど、ぼくが頑張れば、あのこに元気の魔法を届けられるんだ。

 

すると、たくさんのマシュマロの実がなった木が見えた。


わぁ、おいしそう!


んしょ、んしょと木に登り、マシュマロを一つずつ摘んでいく。たくさんたくさんとっていたら両手がいっぱいになって、木から降りられなくなっちゃった。どうしよう。

下を覗き込むと、思ったより高かった。


だめだ、だめだ。下を見たら怖くなっちゃう。

えいってジャンプすれば大丈夫。

マシュマロを落とさないようぎゅっと抱きしめて、いち、にの、さん! えーい、とぼくはジャンプした。

ぽすん、とちょっと転んじゃったけど大丈夫。マシュマロを抱えて、さっきの道を戻る。


くじらさん、お待たせ!


――おや、もう戻ってきたのかい? 早いね。


うん、だって早くオレンジ色のリボンを取りに行きたいからね! はい、これ、マシュマロだよ。


ぼくは、短い腕をいっぱい伸ばして、マシュマロを見せてあげる。


――たくさんとってきてくれたんだね、ありがとう。


くじらさんは、ぼくの手からマシュマロを食べる。ちょっぴりくすぐったいや。


――ふぅ、お腹いっぱいになったところだし、虹の端っこに行こうか。さぁ、わたしの背中に乗って。


ぼくはぴょこんと飛び上がって、くじらさんの背中に乗る。もう少しできみを元気にできる! ぼくの心はわくわくしていた。


わたがしの雲を抜けて、またお月様にこんばんはをする。


――珍しいお客さんだね、夜の大冒険かい?


うん、ぼくの大事なこが泣いちゃわないように、魔法のリボンをもらいに行くの。


――おや、それは大事な任務だ。頑張っておいで。


わぁ、ありがとう、お月様!


それからずっと飛んでいると、くじらさんが声をかけてくれた。


――見えるかい、あれがリボンの虹だよ。


え? どれだろう……。


――ほら、目をつぶると真っ暗になるだろう? 夜は虹さんも眠って真っ暗になっているから、少し見えづらいみたいだね。でも大丈夫、わたしは見えるから。


そっか、あれが虹さんの夜の姿なんだね。起こしちゃったらごめんなさいしなきゃ。


ちらり、と虹さんは目を開けた。ほんの少しだけ、ぼくの知っているカラフルな虹の色が見えた。


――可愛らしいお客さん、ご用があるのね?


眠っているのに起こしちゃってごめんなさい。でも、ぼく、虹さんじゃなくて、虹工場にいる天使さんにご用があるの。


――そうなのね、虹工場はもう少し下にあるわ。ふぁあ……。

教えてくれてありがとう、虹さん。おやすみなさい。


また真っ暗になった虹さんに手を振って、ぼくはくじらさんと一緒に少し下の方へ飛んでいく。

すると、雲に隠れるみたいにして、天使さんの虹工場が見えてきた。


天使さん、こんばんは!


天使さんは、突然現れたぼくにびっくりしていた。


――こんばんは、あなたはだぁれ?


こんばんは、ぼくはくまさん。あのね、天使さんが虹さんのために作っている、オレンジ色のリボンをもらいに来たの。

 

――オレンジ色のリボン?


うん。あのね、すぐそこにいるぼくのお友達のくじらさんがね、天使さんが作っているオレンジ色のリボンには、元気の魔法がかかっているから、元気にしたいこにあげるといいよって教えてくれたの。……ぼくといつも一緒に遊んでくれる大切なこがね、今とても悲しいって泣いちゃったから、ぼく、その子を元気にしてあげたいんだ。


すると、天使さんは困ったお顔をして、お友達同士で相談していた。


――ごめんなさい。オレンジ色のリボンはあげられるんだけれど、まだ元気の魔法はかかっていないの。


え、天使さんが魔法をかけているんじゃないの?


いいえ、と天使さんは首を横に振った。


――元気の魔法をかけているのは太陽なの。こうして夜に作ったリボンを、朝太陽が起きた後に届けて、元気の魔法をかけてもらった後に虹を作っているんだけれど……。今は夜で太陽も眠っているから、元気の魔法をかけることはできないの。


すると、ぼくの後ろからくじらさんが声をかける。


――今日のお昼に魔法をかけたリボンは、もう無いのかい?


くじらさんの言葉にも、天使さんは悲しそうに首を横に振る。


――魔法をかけたリボンは全部虹にしちゃったの。ごめんなさい……。


うぅん、ぼくの方こそごめんなさい。泣いちゃいそうな天使さんに、ぼくはぎゅっとした。


でも、どうしよう。オレンジ色のリボンはもらえるみたいだけど、元気の魔法はかかっていないみたい。

えーんえーんと泣いているあのこの心を、元気にしてあげたいのに。


――ねぇ、くまさん。


ぼくがぎゅっとしていた天使さんは、ぼくに声をかける。


天使さん、どうしたの?


――もしかして今日のお昼、太陽を浴びたんじゃないかしら?


ぽふ、とぼくは手を合わせる。


うん、今日、ぼくたくさん日向ぼっこしたんだ。


すると、天使さんたちの顔が明るくなった。


――なら、あなたにかかった元気の魔法をリボンに分けるといいわ!


はっとぼくも気づいた。そっか、お昼にリボンにかけていた元気の魔法がぼくにもかかっていたんだ。


でも、どうやったら魔法を分けられるの?


――難しくないわ。このリボンをぎゅっと抱きしめて。ずっと抱きしめていれば元気の魔法がリボンにもかかるわ。


天使さんはぼくにオレンジ色のリボンをたくさん渡してくれた。


ありがとう、天使さん! これであのこを元気にしてくるね。またね!


ぼくはくじらさんの背中に乗って、オレンジ色のリボンをぎゅっとしながらあのこの眠るベッドへと急ぐ。


急げ、急げ。

朝、起きるときまでにきみを元気にしなくちゃ。


きみの家の窓に着いた頃、太陽さんはまだ眠っていた。

くじらさん、ここまでお手伝いしてくれて本当にありがとう。


――わたしこそ、マシュマロをたくさん食べさせてくれてありがとう。また何かあったらわたしを呼んで。


くじらさんにありがとうをもう一回言うと、ぼくはきみの顔の近くに立つ。お顔をぽふぽふ撫でて、お鼻をこっつんこ。そしたら君の泣いている心がぼくのところまで出てきてくれた。

でもね、今のぼくには素敵なプレゼントがあるんだ。

ぎゅっと抱きしめていたオレンジ色のリボンを、きみの心に結んであげる。ぼくが分けた元気の魔法がきみの心に伝わって、ほかほかに温まってきたみたいだ。

ほかほかになって勇気が溢れてきたきみは、ぼくにこう言ってくれたんだ。


きょうあったら、おともだちにごめんなさいする。


そう言ってくれたから、もうちょっと元気の魔法がぼくからも伝わるよう、がんばれー!って身体いっぱいにきみの頭をぎゅっとした。

眠ったままのきみが少し微笑んだら、あ、なんだか空が明るくなってきた。

太陽さんも起きてきて、そろそろママが起こしに来るかな。んしょんしょと、ぼくはお布団の中に戻る。


きみが今日も、元気で過ごせたらいいな。

心が泣いちゃっても大丈夫だよ。ぼくはいつでもきみに、オレンジ色のリボンを届けに行くから。

ここまでお読みくださりありがとうございます。


子どもの頃は夢や不思議がたくさん溢れていたのに、大人になるにつれ忘れ去ってしまいます。若輩者ながら人生とはそういうものだと思いますが、時には頑張っている現実でも少しお休みをとることも大事だと考えています。


辛いときには、この物語の「くまさん」に会いに来てください。そしてもしよければ、あなたの思い出の中にいる「くまさん」のような存在にも「くまさん」を紹介してあげてください。きっと「くまさん」達はあなたの心が泣いてしまったとき、そのふわふわの身体で大冒険をしながら、魔法をかけに来てくれます。

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