第3話 Aパート
【前書き】
楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。
人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。
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■■■■ 第3話。
▼ サブタイトル。 ▼── ──▼
コードネームは、スロットマシン。
▼ OP曲前。 ▼── ──▼
OP曲前の定型。他の登場人物は知らない、過去の出来事。
ハルが小学1年生の頃。
シメジ婆さんの玄関。
少し大きめの、平屋の民家の玄関。「シメジ助産院」の看板がある。看板の余白に、小さく「香り松茸 味シメジ」と書いてある。
ここではまだ、「シメジ助産院」は表示しなくても良い。会話の中で「シメジ婆さん」が何度も出て、「シメジ婆さんって、誰だ?」を長引かせても良い。
シメジ婆さんは、声と手だけ。
まあ君「シメジ婆さーん、ごめんくださーい」
シメジ婆さん「はい、いらっしゃい」
まあ君。定型の挨拶の口調。「昨日は、ごちそうさまでした。お母さんが、よろしくと言っていました」数枚のお皿を手渡す。子供に持たせるので、焼き物のお皿より、弁当箱やタッパーの方が、割れにくくて、現実的かも。
シメジ婆さん「はい、お粗末様。遊んで行くかい?」
まあ君「はーい!」
廊下には、貼り紙がある。「あっちは、赤ちゃんと、お母さんの部屋です。子供は、行ってはいけません」フリガナもある。イラストで、子供がくしゃみをしている姿が添えてある。これは、感染症への注意喚起。
広い和室では、数人の子供が、あやとり、読書、百人一首などをしている。
ここで、当アニメの地域は未定だが、さり気なく知らせることも可能。上毛かるた、下の句の百人一首、「どちらにしようかな」の歌、「せーの!」の掛け声、など。
シメジ婆さん。みんなに呼び掛ける。「さあ、まあ君だよ」
まあ君。和室に入り、振り返って。「シメジ婆さん、今日のね、褒めてほしいことはね、学校のトイレを汚しちゃったけど、ちゃんと自分のウンチを拭いたよ」
背景に、まあ君の話の理由として、「シメジ婆さんは、子供達に「ほめてほしいことを、おしえてください」と言っている」を表示する。
シメジ婆さん「そうかい。前の人からはきれいなトイレを受け取って、次の人にはきれいなトイレを渡したんだね」まあ君の頬を、コチョコチョする。
ハル(小学1年生)「まあ君、飛行機を飛ばそうぜ」折り紙飛行機を持っている。
まあ君「えー、家の中で飛ばしたら駄目だよ」
ハル「大丈夫だよ、お仏壇の扉は閉めているし、香炉も中に入れているから」背景に香炉の絵と、ひらがなの「こうろ」に、漢字の「香炉」を添える。ただし、香炉が宗派に直結すると、気にする視聴者もいる。
ハル「新しい飛行機を発明したんだ」上向きの垂直尾翼があり、その上端は水平の翼。
紙飛行機を手に持った状態で、場面は現在に。飛行機を持ったハルの手と袖が、小学生から中学生に変わる。これにより、場面が過去から現在に変わったことを示す。
ハルはテスト中だが、時間が余ったので、紙飛行機を作った。
ハルの席は、教室の後ろの方。
問題用紙で作った紙飛行機。シメジ婆さんの家で作ったものと同じ。
教師。チャイムが鳴ったので「はい、終了。後ろから集めて」
教師。集まった回答用紙を揃えながら「早坂ァ。時間が余って、以前はトランプをやっていたが、やめたんだな、前よりはおとなしくなったな」
教師「しかし、その紙飛行機は飛ぶのか? 垂直尾翼があって、随分とかっこいいな。飛ぶんだったら、ここに当ててみろ」黒板の上のスピーカーを指す。
ハル。紙飛行機を飛ばす、スピーカーの上に載る。綺麗に飛んだので、生徒達が、どよめきと拍手。
この描写は、画面を上下2つに分ける。下半分は教室の全景で、ハルからスピーカーまでを含む。上半分は、更に左右に分割し、飛んでいる紙飛行機を追う画面と、到着を待つスピーカー。紙飛行機が到着すると、左右の画像が1つになる。
教師「紙飛行機は、普通はこんな風に、角(かど)が外側になっているが……」黒板に、将棋の駒のような輪郭を書く。「……逆に、角が内側になり、先端が尖るような形はできるか?」黒板に書く。
教師「しかも、ハサミで切り込みを入れないでな。もちろん、ちゃんと飛ぶように」
教師「これは宿題だ」
教師。表情が「できるもんなら、やってみろ」の雰囲気。
▼ Aパート。 ▼── ──▼
放課後。職員室の隣の教員室。これにより、音楽の先生が職員ではないことを、暗に示す。
ハル。音楽の先生に会いに来た。「先生、先週の授業で、ギターでコードをやりましたが、コードって、どうしてあんな形なんですか?」
音楽の先生「ふむ。コードの図の通りに演奏すれば、ちゃんと演奏ができるという、あの形の謎解きをしたいのですね」
ハル「そうです。音楽って、なんというか、音が低い方から高い方にっていう、一直線なのに、ギターなら、2次元QRコードのようで」思い描く。指し棒で「鍵盤はバーコードに似ている」「ギターコードはQRコードに似ている」を表示する。
思い描いたQRコードは、アニメのサイトのURLでも良い。
注意。「QRコード」は、商標名。
音楽の先生「では、音楽室に行きましょうか」
廊下から音楽室の窓を見ると、ヤッ子がピアノの前に座っている。束ねている髪を解き、弾き始める瞬間、髪がふわりと浮く。映画『魔女の宅急便』(ジブリ)で、キキの髪が浮くように。
ヤッ子の顔を正面でアップ。稲妻が走り、妖怪のような不気味な雰囲気。おどろおどろしく広がった毛髪で、各所に悪魔の顔、音楽記号などが描かれる。
ヤッ子。弾き始める。本気のジャズを演奏。
音楽の先生とハル。ヤッ子の演奏を、廊下から見ている。ヤッ子は、静電気で髪がまとまっていない感じ。ちょっと、静電気の火花が見える。
ハル「静電気が光っていますね」
演奏が終わる。
音楽の先生。拍手しながら入室。「お見事です」
ハル。音楽の先生に続いて入室。「テストで暇だからって、弾いたんですね」
ヤッ子。髪を束ねながら「新しいコンディショナー(またはシャンプー)は、どうも私には合わなくてな」ここで、世代によって「リンス」や「コンディショナー」があるので、広い世代を考慮したセリフにする。
セリフは「新しいコンディショナー」の代わりに、「コンディショナーを変えたのだが」でも良い。
ヤッ子の入浴シーンで、洗髪の描写があっても良い。その場合、注意書き「撮影のために、バスタオルを使用しています」を表示する。ヤッ子は、ボロアパートに住んでいるので、浴室は狭く、壁のタイルが少し割れていたりする。
音楽の先生「ちょうど良かった。早坂君が、ギターのコードは2次元QRコードのようで、ピアノが1次元で鍵盤が並んでいるのと、どう関連があるのか、謎解きしたいそうです」
ハル「そもそもコードって、暗号ですか?」
音楽の先生「暗号のコードではなく、和音のコードですよ。「コーラス」の「コード」です」
ヤッ子。黒板に、「CODE」と「暗号」、「CORD」と「電線」、「CHORD」と「和音」を書く。「CHORD」の下には「CHORUS」と「コーラス」を添える。
ヤッ子「紛らわしいといえば、洋菓子のプリンと、痛風の原因にもなるプリン体もそうだな。外国語を自国の文字で表現すると、このようなことがある」背景に、スペル「pudding」「purine体」と、そのフリガナを表示する。
音楽の先生「小学校の時に、「ドミソの和音」を習いましたね。和音とはそのように、ある基準で選ばれた音のグループです」
ハル「デタラメに鳴らしたら、「和音」ではないのですね」
音楽の先生「はい。その場合は「重音」と呼んだり、「広い意味では」を添えて「それも和音」と言ったりしますが、言い回しの工夫の前に、シンプルな話をしましょう」
音楽の先生。黒板の五線に、1本加えて、ギターの指盤の絵を書く。20フレットまで。12フレットは、区切りのために少し太い線で。左端にギターの糸巻き(ペグ)、右端にギターのボディの、簡易な絵を添える。
ギターの絵の上には、フレット番号を「0」から「15」も添える。フレット番号は、フレットの位置(フレットとフレットの間ではない)。
0フレット目から糸巻きの絵まで、弦の間隔が広がるようになっていて、弦の番号「1」から「6」を重ね書きする。
音楽の先生「左側に糸巻きがあるのは、弾いている人の目線だからです」
ドローン画像のように、画面のアングルが変わる。弾いている人を正面に見て、そこから、弾いている人の目線になり、ギターを見下ろす。ギターを膝の上に寝かせて、弾いている人が少しずつ透けて行く表現も良い。
音楽の先生「弦を押さえる指の場所は、このフレットとフレットの間ですが、弦が振動する長さは、右の端からフレットまでですね。ですから、番号はここに書きました。番号は、フレットとフレットの間に書く場合もあります」
フレット番号を記す位置を、2種類、表示する。
音楽の先生「ギターの弦は6本ありますね。それぞれの弦は、鳴る音の高さは違いますが、「全く相容れない」のではなく、鳴らすことができる音の高さは、重複があります」
黒板に、第6弦の音域を表現するための、縦長の帯を書く。配置は、黒板の左下から、黒板の高さの3分の1程度まで。
音楽の先生「6本の弦の関係を、イメージするためですから、具体的な音の高さは省略します。最も低い音の弦である第6弦が、この範囲の高さを鳴らせるとします」
音楽の先生。縦長の帯の、下端を指し、少しずつ上に移動する。移動しながらギターの真似の声を出す。「ボンボンボンボン……」
音楽の先生「次の弦は、この範囲の音を出せるとします」隣に、第5弦の音域を表す、縦長の帯を書く。高さは、さっきより少し高い。同様に、指で下端から上に向かい、歌う。
音楽の先生「この高さの範囲は、2本の弦の、どちらでも出すことができます」
ハル「あれ? ということは、低い音の弦がこの高さを鳴らして、高い音の弦がこの高さを鳴らすこともできますね」黒板に近付く。第6弦が高く、第5弦が低い音を鳴らせる。
音楽の先生「その通りです」
ハル「でも、指が届くかどうか」
音楽の先生「さすがです。鳴らしたい音と、指の都合で、作曲者は悩むものです」
ヤッ子。微笑みながら見ている。
ハル「その他の弦も、こんな感じですか?」黒板の左側の帯に、第4弦から第1弦までの、縦長の帯を、書き足す。
音楽の先生「その通り。ギターの6本の弦の関係が、わかったので、次は……」少し迷う。「……ああ、コードの前に、オーケストラの楽器のお話しをしましょう」
ハル。驚く。「無茶ですよ、いきなりオーケストラだなんて」
音楽の先生「ご安心ください。僕がいきなり、難しい話をすると思いますか?」
ハル「それはそうですが」
音楽の先生「話を続けますよ。中学校になって、アルトリコーダーを始めましたね」
ハル「はい。「アルトリコーダー」と聞いて、初めて、小学校で習ったリコーダーの名前は、本当は「ソプラノリコーダー」だって知りました」
音楽の先生「リコーダーの音域も、これに似ています。ソプラノリコーダーが、この範囲の高さを出せる、音域だとしますと、アルトリコーダーの音域は、これです。少し重複していますね」
ソプラノリコーダーを第2弦の音域に譬え、アルトリコーダーを第3弦の音域に譬えて、言いながら指す。
音楽の先生「この譬えでは、さらに高い「ソプラニーノ」のリコーダーもあって、ギターの第1弦に譬えるのも良さそうです。楽器の音域には、重複があるというのが、ここでの比喩の主旨です」
ハル「そういうことですか。教科書に、楽器の音域の帯があって、それは、この関係を示していたんですね」
音楽の先生「そうです。単に、図が載っている教科書を渡されただけでは、実感が薄いですが、このようになっています。ただし、音の高さは同じでも、少しだけ音色が違うので、どっちの楽器を使うのか、作曲者は苦心します」
音楽の先生「リコーダーだけでなく、サックスやクラリネットなども、そうですよ。バイオリン属は、「バイオリン」「ビオラ」「チェロ」のように、名前が違いますが、「ストリングス」の仲間です」
ハル「「ソプラノストリングス」「アルトストリングス」なんて呼べそうですね」
音楽の先生「そうですよ。ただし、そのような呼び方はされていませんが、考え方として正しいです」
ハル。とても納得したような、満足な顔。
ヤッ子。心の声。「(早坂君が誤った言い方をした場合、「(a)肯定して、誤りを指摘する」「(b)誤りを指摘して、肯定する」の、どちらの順にすべきか迷う)」
ヤッ子。心の声。「(しかし、音楽の先生は、「(c)肯定して、誤りを指摘して、肯定する」の返答をした。これにより、早坂君は、自己肯定を経験できた)」
音楽の先生「オーケストラの話ですが、わかりましたね」
ハル「はいっ!」
ヤッ子。音楽の先生の教え方を間近に見て、とても勉強になったという顔。
音楽の先生「では、ギターの6本の弦の関わり合いの、構造がわかったところで、この6本の帯が、ギターではどのように調律するか、説明しましょう」
ハル「調律って、チューニングですね」
音楽の先生「そうです。同じ意味の言葉、「調律」と「チューニング」のように、いくつか知っていると、他の人との会話で役立ちますね」
音楽の先生。黒板の、五線に1本加えたギターの図に近付く。「ギターの第6弦は、こうして少しずつ音が高くなります」指を、0フレット目から5フレット目に、少しずつ移動しながら、ギターの真似で「ボンボン……」と歌う。
音楽の先生「そうして、ここ、5フレット目の高さは、次の弦でどこも押さえない音と、同じ高さです。ということは、2本の弦で重複するのは?」ハルの返答を誘う。
ハル「ここの範囲ですね」片手の指で、第6弦の5フレット目から上を行ったり来たり。反対の手の指で、第5弦の0フレット目から上を、行ったり来たり。ハルの体が邪魔なので、手だけ、または、腕だけを残して、透明人間になる。
音楽の先生「ご名答」
ハル「さっきの話で、低い方の弦でここを鳴らして、高い方の弦でここを鳴らせば、低い弦が高い音、高い弦が低い音を鳴らせるんですね」
音楽の先生「そうです」
ハル「指が届けば……、ですね」
音楽の先生「そうです。それを知った上で、作曲者は、「この曲のこの部分は、どっちの弦を使おうか」と悩むこともあります」
ハル「音色が違うんですね」
音楽の先生。にっこりして、頷く。
ハル「この6本の弦は、譬えれば、それぞれがソプラノリコーダー、アルトリコーダー、テノールリコーダー、バスリコーダーのようなものですね」背景に、「テノールリコーダーは、テナーリコーダーです」と表示する。
ヤッ子。とても感心して、大きく息を吐く。心の声。「(すごい。これが、生徒を半歩先に誘う(いざなう)教え方。半歩先とは、「音色の違い」の伏線回収の手法もあるんだ)」
音楽の先生「では、お待たせしました。「ドミソの和音」の話です」
ヤッ子。小さく息を吸いながら、無声音の「あっ」と言ってしまう。心の声。「(何という、滑らかなストーリー運び。この授業は、芸術。いきなりコードの話に続けるよりも、オーケストラの話に迂回したことで、こんなに興味を惹く)」
ヤッ子。心の声。「(単に、ギターの6本の弦の、音域の重複の話ではなく、同じ種類の楽器での音域の重複の話に迂回して、より深く、知識の伝授をする)」
ヤッ子。心の声。「(こうして、自然に前提知識を得たことで、ギターの6本弦の、あちこちに、ドミソがあることに、違和感が無く受け入れられるだろう)」
ヤッ子。心の声。「(早坂君なら、楽器の音域のカラクリを教えるだけで良い。詳しく、個別の楽器の音域は、必要であれば自分で調べるだろう。主旨であるギターのコードから逸脱せず、他の知識を調べる糸口も渡す)」
ヤッ子。心の声。「(早坂君からの発言を促す。早坂君の発言に、誤りがあっても、誤り指摘だけでなく、誤り指摘を肯定で挟むようにすることで、「否定」ではなく「導き」となる)」
ヤッ子。心の声。「(やはり、この授業は、芸術だ)」
ヤッ子。音楽の先生とハルには悟られないが、深い感動。
音楽の先生「「ドミソの和音」ですから、「ド」と「ミ」と「ソ」が鳴る場所に、印を付けましょう」
音楽の先生「ギターで、「ド」はこことこことここと、「ミ」はここと……、「ソ」はここと……」それぞれのフレットに「ド」「ミ」「ソ」を記入する。
書き加える場所が多いので、妖精ちゃんが手助けする。妖精ちゃんは、時々誤ったりしながら、完成させる。複数の妖精ちゃんが、互いに資料を見ながら、誤りを訂正し合う。
ハル「こんなに?」
音楽の先生「オクターブ違いも含めて、「ドミソ」の全部に印を付けましたよ」
音楽の先生「1オクターブは、音程で「ドレミ」を指折り数えて、8番目で、また同じ名前に戻りますよね」
ハル「はい。8本脚のタコがオクトパスの話に繋がります」
音楽の先生「ピアノの白鍵だけで数えたら8番目で同じ名前に戻りますので、7種類の鍵盤があり、8番目から、また同じパターンが始まります」
音楽の先生「ピアノには黒鍵もありますから、12個の鍵盤で1つのパターン、13番目から、また同じパターンが始まります」
ハル「ということは、黒鍵から数え始めても、12番目で区切りがあって、13番目から次のパターンの始まりですか?」
音楽の先生「そう、ギターでも同じです。白と黒の色分けはしていませんが、12で1つのパターンです」黒板のフレットを数える。
音楽の先生「ですから、この絵をご覧になって、おわかりのように、13フレット目からは1フレット目と同じですね。実際には、もっと高い位置のフレットも使いますよ」
音楽の先生「左端、フレットの外側は、弦を押さえないで弾きます。「開放弦」と呼びます」背景に「開放弦」と、そのフリガナ。
音楽の先生。第2弦を指す。「ほら、この1フレット目のドは、13フレット目で同じくドになっていますね」
音楽の先生。第1弦を指す。「0フレット目のミは、12フレット目で同じくミになっていますね」
ハル「本当だ。その弦は、途中のフレットには、ミがありませんね。えーっと、第1弦の中で、0フレット目から12フレット目まで、重複無しですね。第2弦も……重複無し」
ハル「第2弦の、5フレット目のミは、第1弦の0フレット目と、同じ高さなんですね」
音楽の先生「そうです。0フレット目、つまり開放弦と同じで、早坂君が先程、指摘したように、ここからは同じ高さの範囲です」
ヤッ子「ギターでは、5フレット目を押さえると、次に高い弦と同じ高さの音が出るから、ミがこんなにたくさんになるんだ」第2弦の5フレット目を指す。
ヤッ子「第3弦と第2弦の関係だけは、4フレット目だが、それは、実際にギターを弾くようになってから、思い出せばいいだろう。これは、ちょっとした間違い探しだな」
背景に、別なギターの図。5フレット目と、次の開放弦が同じ音高と記す。第3弦だけは「なぜか、ここだけ4フレット目」と指し棒。
ハル「そうなんですか?」第3弦の、5フレット目の「ド」と、第2弦の1フレット目の「ド」を見る。
ハル「あれ? 本当ですね。「ドミソの和音」だから、「シ」は書かれていませんが、これとこれが同じく「ド」ということは、4フレット目で同じ高さですね」
ハル「はい、ここまではわかりました」
音楽の先生「左手で弦を押さえて、「ド」「ミ」「ソ」が鳴れば、どの押さえ方でもいいのです。もちろん、指が届く範囲で」
ハル「ということは、この辺りでも、この辺りでも、いいんですか?」黒板を指で円く指す。
音楽の先生「いいのです。ギター演奏の工夫ですが、この辺を……」7フレット近辺を指す。「……押さえて、この弦だけ開放弦のソを鳴らすことだって、あるんですよ」
ハル「へえ、面白いですね」
音楽の先生「「ドミソ」の和音を、「C(シー)」と呼びます。Cがドミソの和音を示すことを知らなくても、楽譜を読めなくても、Cの形を覚えれば、演奏に参加できますね」
音楽の先生「オクターブ違いの重複があってもいいのです。楽譜で表現すれば、細かく指定できますが、楽譜を使わず、文字だけで頑張って表現したのが「コードネーム」ですから」
ハル「ということは、コードの「C」だけでは、どの辺り……」黒板のギターの絵の、あちこちを指す。「……なのかを、指示することはできないんですね」
ヤッ子「初心者にとっては、意味なんてどうでもいい。「C」を1種類、「Am」を1種類、「G」を1種類。というように、コードの形だけを5つか、多くて10くらい覚えれば、初心者でも参加して楽しめるってことだ」
音楽の先生「授業で使った押さえ方は、たくさんある押さえ方のうち、この辺りを使った押さえ方です」
黒板のある壁の上の方には、いくつかのギターコードの図が貼られている。音楽の先生とハルが見上げる。
ハル「バンドを組む話で聞くんですが、どれとどれを覚えるべきって、あるんですか?」
ヤッ子「覚えるべきというより、出逢った順にというのが、現実的だろうな。バンドで練習する曲で使うコードが、その人にとっての覚えるべきコードだな」
音楽の先生「コードの意味は、コードの研究には必要です。とりあえず、下手でもいいから一緒に演奏するのが目的なら、意味よりも先に、「とりあえず演奏できる」を優先します。それが、ジャズの楽しみだったのですが」
ハル「「だった」って、今は違うのですか?」
音楽の先生「一部の人達だけのようですが、コード理論を知っていることを競って、負けた人を蔑んだり嘆いたりする風潮があります。「とりあえず演奏できる」の経験を経た人なのでしょうか」
ヤッ子「一緒に楽しめるようにと、ジャズはコードを大いに活用した。なのに、せっかくジャズがそのように広げたコードネームを、音楽愛好家の中には、一緒に楽しめない道具にコードを使う人もいるってことだ」
音楽の先生「音楽は楽しいものです。謎解きを楽しみましょう」
ハル「先週の授業は、意味が分からなくても、演奏を楽しめたんですね」
音楽の先生「そう。Cだけでなく、Amなら「ラ、ド、ミ」、E7なら「ミ、ソ♯、シ、レ」が鳴れば良いのです。そんな、「和音構成音」を知らなくても、形を真似して、演奏ができましたね」背景に「和音構成音」と、そのフリガナ。
ハル「「和音構成音」ですか」
音楽の先生「和音に使われている音なので、和音を構成する音、「和音構成音」です」
ハル「和音に使われていないのは、「非構成音」ですか?」
音楽の先生「ここでは「和音外音」と言うようになっています」背景に「和音外音」と、そのフリガナ。
音楽の先生「ところで、音楽では「3+3=5」となりますが、この謎解きをしましょう」
ハル「お願いします。すごく、気になっていたんですよ」
音楽の先生「音程は、ド、レ、ミと、指折り数えて、1度、2度、3度と言うことは話しましたね。ミからラまでなら、指折り数えて4度です」
音楽の先生「和音の基本は、音符の玉をこのように、隙間無く積み重ねます」
音楽の先生。黒板に書こうとしたが。ハルの方を向いて「これからお話しするのは基本ですから、これ以外の和音もあることは、覚えておいてください」
ハル「はい」
ここで、視聴者を安心させるために、「転回形」「ベース音」「テンション」といった単語が、背後で飛び回っても良い。
音楽の先生「「ドミソ」であっても「ラドミ」であっても、指折り数える音程は、こうです」
音楽の先生。積み重ねた3つの玉の、左側に、根音から3度音までが「3度」、3度音から5度音までが「3度」と書く。3つの玉の右側に、根音から5度音までが「5度」と図示。
「ドミソの和音」なら、「ド、レ、ミ」で3度、「ミ、ファ、ソ」で3度、「ド、レ、ミ、ファ、ソ」で5度。
ハル「ミがダブっている」
音楽の先生「これが「3+3=5」の謎解きです。3度でも、長3度と短3度があります。それを、頑張って文字だけで表現したのが、コードネームです」
ハル「先日いただいた鍵盤モノサシで、長3度と短3度の違いですね」背景に、音楽の先生が、ノートの1枚に書いた、鍵盤と音程の紙を表示する。回想のように、その場面を表示するのもいい。
ヤッ子「コードネームでAmと聞いただけで、どっちの3度を使うのかわかるので、和音構成音である「ラ、ド、ミ」がわかる」
ハル「やっぱり、暗号のコードじゃないですか」
▽ 場面変更 ● ── ●
先生ちゃん。バッハ。なぜか広島弁。ただし、ここでは肩の力を抜く効果もあるため、「ニセモノの、大袈裟な広島弁」とする。広島弁以外でも良い。
説明用の別世界。背景は無地。
顔は、輪郭の大きさと、顔面(目鼻口)の大きさがアンバランス。
話の区切りで、顔の輪郭はそのままで、目鼻口の配置の窮屈さが「キュキュ」の音と共に変わる。目鼻口が、時々、顔の輪郭からはみ出しても良い。
先生「おっす。皆どもは、わしのことを、メロディの伸縮や、裏返しばかりしていると思っちょらんか? わしは、和音もよく使っているぞ」
先生「コードネームは、「根音」「コードの種類」「補足の数字」で形作られている。それぞれ、スロットマシンのように、入れ替えできる」
先生「このような、スロットマシンのような表現は、コードネームに限らず、電話番号や、列車の型番など、あらゆる使い方をしているぞ」
背景に、いくつものスロットマシンのような表現をいくつか。電話番号、列車の型番、レジ用バーコード、家電品の商品番号、学校の生徒番号、などなど。
スロットマシンのように、根音、コードの種類、補足の数字が、ゆっくりと、くるくる入れ替わる。スロットマシンの窓の外側は、透けていた方が、見やすいかも。
スロットマシンの、コードの種類には、「(無し)」「m」「aug」「dim」があるが、やや小さな文字で「長3度+長3度=増5度(改行)増和音」なども書かれている。
先生「根音は「ルート音」とも呼ばれ、「ここから数え始める」の、音の名前です。和音の基準となる、1つの鍵盤を示します」画面の下段に鍵盤、上段にはコードネームがいくつか。コードネームの根音が、それぞれ1つの鍵盤を指す。
先生「コードを覚える前は、根音だけを鳴らしても、演奏に参加できる」
先生「では、根音だけの演奏と共に、わしが歌おう」
楽譜とコードネーム。『主よ、人の望みの喜びを』(バッハ)。バッハがスキャットで歌っている顔と、バッハがベースをオルガンで指1本で弾いている手元。バッハの歌は、最高音で裏返る。
コードネームには、根音にイタリア語を添える。弾いている箇所は色を変えて強調。
先生「このように、コードネームの根音だけでも、伴奏はできる。コードを覚える前は、これでもいいじゃろ」
先生「和音の基本は、音符の玉が3つ、隙間なく積み上がっている。これが根音で、コードネームの最初に書かれている。これが3度音、これが5度音」積み重なった3つの玉に、それぞれ指し棒で「根音」「3度音」「5度音」と示す。
先生「なぜ、「3」「5」なのかと言えば、音符の玉をこのように斜めに並べると、根音から数えて3番目と5番目だから」
五線を用いない。画面左に、玉を3つ重ねた和音を書いておく。画面中央から右上方向に、玉を階段状に並べる。階段の玉は全音符で、玉に「根1」「2」「3」……を書くことで、マル数字のように見える。
階段状の音符を、左右の両側から板で押され、現実ではあり得ない、一直線に積まれるが、弾力で「プニュ」と反発し、ジグザグに積み重なる。
先生「和音の基本は、この3つの玉のそれぞれに、♯や♭を付けたり付けなかったりする」背景で、積み重なった3つの玉のそれぞれに、♯や♭が出現したり消えたりする様子を表示する。
先生「例えば、Cmは「ド、ミ♭、ソ」で、音符ではこう、鍵盤ではこう」
先生「ミ♭はレ♯と同じ鍵盤だからって、音符でこう書くと、Cの仲間ではなくなる」音符で、「ド、レ♯、ソ」とする。
先生「では、根音が……」コードネームのスロットで、根音がくるくる回り、「F♯」で止まる。「……F♯はファ♯だから、玉はこのようになる」ト音記号の第1間から、玉が3つ積み重なる。ファには♯が付けられている。
先生「この3つの玉に、♯や♭を、付けたり付けなかったりする。根音がファ♯だから、ここの♯は決まった」
先生「残った2つの玉には、♯や♭が、付くのか付かないのか。それは、次の「和音の種類」で決まる」
先生「次、種類は何だ……」スロットマシンが「m」で止まる。「……マイナーだから、根音から数えて「短3度」と「完全5度」だな。残った2つの玉は、このようになる」玉のドに♯が付く。
先生「和音の種類は、たった4種類」
先生「(1)根音から3度音までが、短3度か、長3度か」
先生「(2)3度音から5度音までが、短3度か、長3度か」
積み重なった3つの玉の上に、表を表示する。
音符の(1)の左側から、表の1列目の、最下行までを、曲線で繋げる。
音符の(2)の左側から、表の2列目の、最下行までを、曲線で繋げる。
表の、1列目と2列目が、記入される。エクセルに譬えると「セル結合」を行うかは未定。
先生「組み合わせで、この4種類だけだな。根音から、5度音までは、自動的に決まる」表に、「完全5度」「増5度」「減5度」が記入される。「完全5度」のセル結合はしない。
音符の右側から、表の3列目の、最下行までを、曲線で繋げる。
先生「コードネームの話だから、スロットマシンの表記と並べよう。
スロットマシンを開いて(解体して)、表の4列目にする。
先生「補足の数字も、根音から、音符を指折り数えた数字を使う」全音符を階段状に並べたものを、再表示する。スロットマシンで「-5」「7」「M7」「♭9」「11」などが、ゆっくり回る。
ここで、「M7」の別な書き方「maj7」や、「-5」の別な書き方「♭5」のように、別な書き方の紹介をしても良い。
先生「「補足の数字」は、根音から数えて「この数字の音も鳴らす」「この数字の音を変える」などといったものだ。とにかく種類が多いだけでなく、書き方も統一されていないものもある」
▽ 場面変更 ● ── ●
先生ちゃんの説明が終わり、さっきの続き。
ヤッ子「コードネームは英語でいうことになっていて、長和音は「メジャーコード」、短和音は「マイナーコード」と呼ぶ」
ハル「野球の大リーグ? と、関係あるのかな?」
音楽の先生「正解です。メジャーは「主要」、マイナーは「主要ではない」の意味。そのうち、ドイツ語やフランス語の「ドゥア」と「モール」、これは「硬い」と「軟らかい」の意味ですが、これも使うことになるでしょう」
ハル。ヤッ子に向かって。「モールが柔らかいって、飾り付けのモールですか?」
ヤッ子「それは知らない。専門家に聞いてくれ」ちらりと、音楽の先生を見る。
音楽の先生「外国語の単語が、日本でどのように使われているのか、専門家に尋ねたいという、新しい楽しみができましたね」
ヤッ子「外国語では、硬いとかの意味が付いているが、日本語ではそのまま「長い」「短い」の名前だな」
ハル「あ、その、根音からの距離が長いか短いかって意味ですね」
音楽の先生「こんなカラクリがあると、知っておくことは良いでしょう」戸棚から、楽譜雑誌を出す。
音楽の先生「このような雑誌には、ギターとピアノの、両方のコード表があるものです」
ハル「へぇ」
コード表は、見開きの左ページにギター用、右ページにピアノ用がある。どちらも、最上段が見出しで音名が左から右に向かって「C」「C♯/D♭」「D」「D♯/E♭」……となっている。
音楽の先生「表の、上の見出しは「根音」です。表の、左側の見出しは「和音の種類」と「補足の数字」です」
ハル「この「Major」は「メジャー」ですか? 数字が無ければ、補足の数字が無いという意味ですね」
音楽の先生「そうです。スロットマシンの組み合わせを、「行列の2次元」にしたものです。この表は、すぐに見慣れると思います」
ハル。コード表のうちの1つを見て、心の声。「(あ、これは、先週の授業の形だ)」黒板の近くの壁のコード図と見比べる。
ハル「ここには、コードの「C」は、1種類だけ書かれていますよね。さっき……」黒板の、ギターの図に近付く。「……この辺りでも、この辺りでも、指が届けばって言ったうちの1つが、ここに書かれているんですね」
ヤッ子「その通りだ。いくつもある押さえ方の、全部を載せると、情報が多過ぎて困るだろう。「C」の形を1つ、「Am」の形を1つ、という覚え方でいい。カラクリを知らなくても、演奏に参加できるのが目的だからな」
音楽の先生「カラクリをお教えしましたが、カラクリを先に覚える必要はありません。かといって、このコード表の全部を暗記するのも、目的ではありません」
ハル「では、この表は、何の役に立つんですか?」
音楽の先生「好きな曲を、コード表を見ながら鳴らして楽しむのが目的です。そのうち、よく使うコードから、いつの間にか覚えるでしょうし、いつの間にか覚えたら、カラクリも身に付き、便利になりますよ」
音楽の先生「しかし、演奏を目的としてない早坂君にとっては、「よく使うコード」よりも、「共通の間違い探し」で「規則性を見付ける」が、好みに合いそうです」
ハル「間違い探し?」
音楽の先生「ピアノの鍵盤のコード表を、見てみましょう。「C」と「Cm」は、名前が似ています。「D」と「Dm」も、名前が似ています」
音楽の先生「ここで、「どのように似ているか」を見付けて、「m」があるのと無いのとで、共通して変わっているのは何かを探します。これが「共通の間違い探し」で、変わり方の「規則性を見つける」です」
音楽の先生「「C」の仲間と、「D」の仲間での共通を見つけたら、「E」の仲間や、「F♯」の仲間でも、同じ規則性があるかを確認できます」
ハル「では、ピアノのコード表があれば、ギターのコード表は、いらないんですね」
音楽の先生「いえいえ、実は、ギターのコード表も、重要ですよ。ギターのコード表は、「m」の仲間、「7」の仲間で規則性を探します」
ハル「そうなんですか? ピアノのコード表があれば、ギターのコード表は不要だと思うんですが」
音楽の先生「ギターでは、ポジションの都合があります」
ハル「ポジションの都合? ですか」
音楽の先生「そうです」
ハル「もしかして、指が届くかですか」
音楽の先生「その通り。指が届くかの都合です」
ハル。ヤッ子に向かって、小さなガッツポーズ。
ヤッ子。ハルのガッツポーズに対して、表情で褒める。
音楽の先生「ポジションの都合には、もうひとつの理由があります」
ハル「え?」ヤッ子を見る。
ヤッ子。表情で「挑戦してみろ」を表現する。口をしっかり結んで、口角を上げる。眉は、怒ったように眉尻を上げて、上下する。
ハル。少し考える。
ヤッ子「ヒントだ。ピアノでは、1つの音の担当は、1つの鍵盤だけだ」
ハル。心の声。「(当たり前のことだ。でも、今はギターの話。ミスリードで、わざとピアノの話をしたが、ギターで考えよう)」
ハル「わかりました。ギターでは、同じ高さでも、違う弦で鳴らすことができる……ですか?」
音楽の先生「正解です」
ヤッ子。音が出ないように、拍手する。
音楽の先生「ピアノでは、1つの音に1つの鍵盤があります。けれど、ギターの弦は6本だけです。ということは……」ギターの第1弦で、「ファ」と「ソ」を示す。「……このファとソを、同時に鳴らすことはできません」
ハル「勿論、わかります。ええーっと、それが、ポジションの都合ですか?」
音楽の先生「そうなんです。あるコードでは、ファとソの、両方を使いたい、でも、この第1弦では、どちらか片方しか使えない」
音楽の先生「ということは、第1弦がファを担当したら、どこか別な弦がソを担当する必要がある。といった、どの弦が、何を担当するかといった工夫が必要な楽器なのです」
ハル「うーん、難しい」難しいことを喜ぶように、眉と目は怒ったように、口は不二家のペコちゃんのように舌を出す。
音楽の先生「しかも、指の都合もあるので、担当する弦の選び方は、もっと難しくなります」
ハル「そ、それを先に知る必要が、あ、あるんですか」
音楽の先生「いいえ。ここでは、コードの形を考案するのではなく、表に書かれている「m」の仲間の違いの、規則性を発見するのが目的です」
ハル「でしたら、ポジションの都合って、知らなくても良さそうですが」
音楽の先生「知っているべきです。というのは、「どんな都合があるのか」ではなく、規則性から逸脱しているように思えるものがあった時に、気分が楽になります。「きっと、ポジションの都合だろう」と」
音楽の先生「そこで、「規則性が壊れている」は勘違いで、「規則性が壊れているように見えるのは、ポジションの都合だ」と思ってほしいのです。ポジションの都合で、形が異なっていても、和音構成音は揃っている、だから、これでいいと」
ハル「あっ、そういうことですね。ポジションの都合があると知っていれば、僕が迷走しないでいられます」
ミッツが入って来る。
ミッツ「お邪魔しまーす」
ハル。たった今、コードを教わったので、少し得意気にミッツを見る。
ハル。少し鷹揚な態度で。「いいところに来た。俺は今、コードを習ったんだ。コードネームはスロットマシンなんだ。知ってたか?」
ミッツ「コードネームは、よくわからないけど、Cだったらドミソでしょ?」
ハル「なんだ、知ってたのか」
ミッツ「クラシックピアノの楽譜に、コードネームは書かれていないけど、何となくでもいいから知っていたら、役に立つよって、ピアノの先生が言ってた」
ハル「え? クラシックピアノだったら、歌の伴奏ではないから、コードなんて使わないだろう」
ミッツ「ポピュラー曲の楽譜なら、コードネームが載っているよ」
ミッツ「クラシックピアノの楽譜には、コードネームが書かれていないものが多いけど、コードは役に立つよ」
ミッツ「コードのCはドミソだから、「この小節は、ドミソだらけ」って思えば、覚えやすい。あたしのピアノの先生は、クラシックが専門だから、詳しいことは知らないけどって、言ってた」
ハル「ドミソだらけ?」
ミッツ「そう。もちろん、Cでもドミソ以外の音は使うけど、ドミソのどれかを基準として通り過ぎるだけって考えたり、ドミソのどこかに行きたがるって考えたり」
ヤッ子。ピアノで『花のワルツ』(『くるみ割り人形』、チャイコフスキー)の、イントロの数小節を弾く。イントロの16小節目からの「カデンツァ・アドリブ」の部分を弾く。
アルペジオの部分は、鍵盤だけの絵で、和音構成音の鍵盤、弾いている瞬間の鍵盤は、色を変える。
ミッツ「あ、そう、それ」
ハル「何が?」
ミッツ「これはA7っていうコードで、ラ、ド♯、ミ、ソだらけ。それ以外の音は、本当に珍しいくらい」
楽譜を表示し、和音構成音以外の音符の玉が、赤く点滅。
ハル「そうだったんだ」
音楽の先生「ちょうど、面白い出逢いですね。コードネームに接する方向が異なります」
ハル「面白いとは?」
音楽の先生「蜜霧さんは、実践から、和音構成音の「ドミソだらけ」に気付き、コードネームに至りました」
音楽の先生「早坂君は、ギターのポジションと、コードネームの意味から、和音構成音に至りました」
ハル「へえ、それだけ、広く便利というか、基本というか」
音楽の先生「西洋音楽の三要素の「リズム」「メロディー」「ハーモニー」のうち、ハーモニーです」
ヤッ子「ドミソのどれかに行きたがるの例はこれだ。早坂君、鍵盤を見てくれないか」
ハル「はい」ピアノの近くに行く。
ヤッ子「まずは、ドミソド、ミソドミ、ソドミソ。こうして、オクターブ違いの重複を含めて、順番に弾くと、こうなるな」和音をダラララッ、ダラララッと弾く。
ハル「はい」
ヤッ子。『ラプソディー・イン・ブルー』(ガーシュウィン)の一部を用いて説明する。
ヤッ子「最初の音の、左隣の鍵盤は和音外音だから、和音構成音に行きたがる」
ハル「和音非構成音……じゃなくて、和音外音ですね」
ヤッ子。和音の「ドミソド」を弾き、シを加えた「シドミソド」を弾く。「ミソドミ」を弾き、レ♯を加えた「レ♯ミソドミ」を弾く。「ソドミソ」を弾き、ファ♯を加えた「ファ♯ソドミソ」を弾く。
鍵盤だけの絵で、わかりやすく表示。
ヤッ子「これを使った曲は『ラプソディー・イン・ブルー』だ」その部分を弾く。
ハル「わーお、面白い」
ミッツ「ヤッ子先生。『アルルの女』の『メヌエット』をお願いします。「♪ターンターンタ、タラララ……」のを」軽く歌ってお願いする。
ヤッ子「では……、そうだなあ……、知っている曲だと思うから、コードの変わり目で、見本として左手でコードを鳴らして、右手はメロディにしよう」
ミッツ「お願いします」
ヤッ子「ああ、それから、今はコードに使われている音と、そうでない音のことが、主題だな。だから、馴染みのある「C」、「ドミソの和音」で説明しよう。オリジナルとは違うが」
ハル「わかりました」心の声。「(オリジナルと違うのに、説明になるのかなあ)」
ヤッ子。Aメロだけ演奏する。和音構成音は全部ピンク色。弾いている瞬間の鍵盤は赤とするなど、わかりやすく。
ヤッ子。和音が変わる瞬間は、一度止める。「次は「G」、「ソシレ」の和音だ」「次は「Am」、「ラドミ」の和音だ」というように。
ハル「本当だ。コードじゃない音は、通り過ぎるだけですね」
音楽の先生。ミッツに向かって。「今日、初めてコードを習ったので、シンプルな役立ち方の例を、出してくれましたね」
ミッツ。音楽の先生を見ていたが、ハルとヤッ子の方を見て「え? あたし、褒められてる?」
ヤッ子。微笑む。「偶然とはいえ、早坂君にとっては、いい勉強になったぞ」
ハル。手で「Good」のサイン。
音楽の先生「もちろん、音楽は多様ですから、これ以外の効果的な使い方もあることは、覚えておいてください。メロディが、和音外音ばかりの効果もあります」背景に改めて「和音構成音」「和音外音」と、そのフリガナを表示する。
ハル「はい」
ヤッ子「コードを教えたり、教わったりすると、なぜか似たような話が起こるようだ」
ハル「似たような?」
ヤッ子「コードを教える側は、「コードは、規則性があるから簡単だ」と言うんだ」
ハル「確かに、スロットマシンで、規則性がわかりやすいですね」
ヤッ子「ところが、少しややこしいコードで、質問すると、大概は「違うよ」の返答なんだ」
ハル「ど、どういうことです?」
ヤッ子「音符が「ド、ミ、ソ」だから、「コードはCですね」と質問する」
ハル「それは絶対、Yesでしょう」ミッツの方を見て、同意を求める。
ミッツ「そうですよ」
ヤッ子「ところが、「違うよ」になることがある」
ハル「ど、どういうことですか?」
ヤッ子「直前に、「ミ、ソ♯、シ、レ」のE7があるから、「Am7の根音省略」が正しいという答えだ」
ミッツ「あっ、そうですね」
ハル「根音省略?」
ヤッ子「ピアノをしている蜜霧君だって、「ソ♯」の場合があるとは、すぐに思い出せなかったんだ。早坂君は今日、教わったばかりだから、意味不明に思うだろう」
ヤッ子「コードの基本は、3つの音を選ぶのだが、工夫して、あれこれと音を増やすことがある。「テンション」と呼んで、根音から数えた数字を、コードネームに加える」
ハル「3度音と5度音のほかに?」
ヤッ子「コードネームのスロットマシンの、「補足の数字」に、「7」や「9」が見えただろう?」
ハル「はい。ちらっと見えただけですが」
ヤッ子「あれは、「加える」「変える」の2つの意味がある。どの数字も根音から数える。根音から「7度音を加える」「5度音を変える」といった使い方をする」
ハル「なるほど」
ヤッ子「7度音でも、「長7度」と「短7度」があるな。この2つを、どんな書き方で区別するのかなど、多様なんだ。補足の数字の書き方は、「同じ意味で違う表記」「同じ表記で違う意味」もある」
ヤッ子「和音構成音が、4つ以上、または、5つ以上なら、それを「テンション」と呼ぶ。テンションに限らず、前後関係も含めて、質問したら「違うよ」の返答になることがある」
ハル「それが、コード理論を競うことにも繋がるんですね」
ヤッ子「そうだ。コードには規則性があるから、簡単だと言うのだが、難解、誤解、不可解でもある。早坂君にとっては、規則性で謎解きしたいのだが、資料によって揺らぎがあるからだ」
ハル「難解、誤解、不可解?」
ヤッ子「まあ、そんなことも、コードが敬遠される理由なんだろうな」
ハル。困った蛸のような顔をする。
音楽の先生「学者ではないので、正確なコードネームとか、そういったことは、誤りがあっても、誰も困りません。質問して、答えを頂きますが、人によって答えが異なることもあるのです」
ハル「不可解ですね」
音楽の先生「異なった答えであっても、嘘や誤りではありません。それぞれ、きちんとした理由がありますから」
音楽の先生「コードは、小節の区切りで変わることが多いのですが、細かく変わることもありますし、曲は多様なので、正確さにこだわらなくてもいいでしょう」
音楽の先生「演奏の目安として、楽譜に手書きで「ドミソだらけ」などを書くだけでも、十分に役立ちます。コードネームは便利な道具ですが、万人に便利とは限らないことも、覚えていてください」
ハル「そうですね。難解、誤解、不可解だったら、迂闊に誰かに勧めるのも、気を付けます」
ヤッ子「まあ、心配するな。早坂君が私に質問する時は、「こうですよね?」ではなく、「これはなぜですか?」だろうからな」
ハル「例えば?」
ヤッ子「「ド、ミ、ソ」なのに、「Am7」と書いてあるのはなぜかと思うだろう?」
ハル「そうですよ。「C」ですよね?」
音楽の先生「早坂君でしたら、Cではない理由は、なぜなのかを知りたいから、ご質問なさるでしょう」
音楽の先生「先程「学者ではないので」と言いましたが、それは、「一般の人には、猫に小判だ」という意味ではありません」
音楽の先生「より、しっかりした理論を踏まえたうえでというのは、慣れていない現在では無理なことです。しっかりと理論を理解できる頃には、慣れているでしょう」
ハル「つまり、理論が必要な頃には、慣れている。慣れていない頃なら、理論は理解できない。理解できる範囲で楽しめばいい。無理すれば楽しくない。ということですね」
音楽の先生「譬えれば、言葉を話し始めた幼児に、正しい文法や語源を理解させるのは、荷が重いでしょう。正しい文法や語源を知りたくなるのは、言葉に慣れてからの時期です」
ハル「なるほど、そうですね。学者でない僕には、理論は不要とか、理論を軽視する意味ではないんですね」
音楽の先生「そういうことです。」
ハル「はい、わかりました。そのうちに質問させていただきます。でも……、その前に、今、疑問があります」
音楽の先生「何でしょうか?」
ハル「ギターの弦って、上が低い音、下が高い音で、なのにどうして、高い音の弦から、第1弦、第2弦って、数えるんですか?」
ギターの全体を表示する。糸巻きが上、ボディが下の向き。そこに、演奏する人間を加える。人間は、頭が左側の向きになっている。画面が、ギターの1フレット目の近くに寄り、「第1弦」から「第6弦」を記す。
音楽の先生「誰がそう決めたのかは知りません。これも、「なぜか、そう呼ばれている」のうちの、ひとつでしょう。いつか、答えが見付かるといいですね」
ハル。少し意気消沈して。「そう、ですか」
音楽の先生「数えるのは、物理的に上から。進むのは、音の高さの低い方から。その方が自然ですね」
ハル「そうですよね」
音楽の先生「ここからは、情報元がはっきりしない、未確認の余談です。音楽教師からではなく、雑談のひとつとして、聞いてください」
ハル「あ、はい」
音楽の先生「昔の音階は、音の高い方から低い方に進んでいたそうです。それを、低い方から高い方に進むようにしたのは、イブン・スィーナー(イブン・シーナ)だそうです」
ハル。喜んで。「本当ですか? なぜ、向きを変えたんですか? イブン・スィーナーって、いつの時代の人なんですか?」
音楽の先生「興味がありますか?」
ハル「はい。確かに、その進み方なら自然だ。でも、僕は子供の頃から親しんでいたからなのかな。向きを変えたら、戸惑う人も多かったのかも」
音楽の先生「なるほど、僕も謎が解けました」
ハル「謎?」
音楽の先生「音楽に対して、特段の興味を示していない早坂君が、なぜ楽譜に興味を持ったのか。それは、鍵宮先生が、生徒をよく観察し、理解し、協力しようとなさっているからでしょう」
音楽の先生「もしも、鍵宮先生が、謎解きを通じて楽典の紹介をしなければ、音楽というジャンルに縁することが、もっと遅かったでしょう」
音楽の先生のセリフに被せて、ヤッ子の横顔。ヤッ子は、ミッツと話をしているので、褒められていることに気付かない。
▽ 場面変更 ● ── ●
吹奏楽部の練習が終わり、先生が廊下に出ると、一般の生徒がいた。
女子生徒2人連れ。先生に用があるのは1人。もう1人は付き添い。先生との会話の中で、女子生徒同士で目を合わせることもある。
先生に用がある1人は、今回の話で再登場(楽器店の場面と、祖父との場面)するので、明確な特徴があること。
この2人は、第4話の吹奏楽部の見学会では、抽選で外れ、下校中に買い食いする場面で再登場する。
生徒「先生、次の吹奏楽部の見学に、参加しようと思っているんですが」
吹奏楽の先生「どうぞ、歓迎します。ただし、抽選ですので、外れたら、申し訳ないけどね」
生徒「何か、簡単にできる楽器って、ありますか?」
吹奏楽の先生「吹奏楽部とは無関係に、気まぐれに楽器をしたいのかい?」
生徒「そうです。最近、祖父がピアノを習い始めたって聞いたんで。あ、でも、ウチにはピアノは無いですし、専門の先生に習わなくてよくて、それから、楽譜が読めないんで」
吹奏楽の先生「そうか! 熱心な練習もせずに、軽く楽しみたいんだね」
生徒「そうなんです。済みません」
吹奏楽の先生「そんな面倒くさがりなら、ぴったりの楽器があるよ」
生徒「本当ですか? でも、手拍子とか、マラカスとか、そんなのは、つまんないので」
吹奏楽の先生「あはは。大丈夫。ちゃんと自分で演奏できて、専門の先生に就かなくても楽しめて、「楽譜をちゃんと読みなさい」と言われない楽器だよ」
吹奏楽の先生「お小遣いで買えそうな値段、いや、アルバイトして買えそうな値段かな? 中学生ならアルバイトはできないかな。家のお手伝いをして、買ってもらうのも良いでしょう」
生徒「そんな、夢のような楽器って、信じられません」
吹奏楽の先生「ウクレレ」
生徒「ウクレレ? ウクレレって、ギターの小さい、あれですか?」
吹奏楽の先生「そう、あのウクレレ。もちろん、ピアノのような壮大華麗な音は出ないけど。歌の伴奏に、ウクレレを鳴らすのは、楽しいですよ」
生徒「ウクレレには、楽譜って無いんですか?」
吹奏楽の先生「楽譜はあるけれど、コード弾きで十分でしょう。ただし、調律は自分でしましょうね」
生徒「調律って、チューニングですか?」
吹奏楽の先生「ええ、そうです。ウクレレを購入する時、楽器屋さんに教わってください」
生徒「はい、わかりました。ところで、コードって、あの、ギターの、すごく面倒な?」
吹奏楽の先生「コード理論とかではなく、最初は教則本に載っている曲を弾くんだよ。「楽譜をちゃんと読む」ではなく、弾いていて何か変だと感じたら、コードの絵を確認すればいい」
生徒「でも、コードっていうだけで、面倒くさそう」
吹奏楽の先生「弦は、たった4本だけなので、何曲か歌いながら弾いているうちに、理屈じゃなく、雰囲気で形が身に付くよ」
吹奏楽の先生「最初から、この世のコードの全部を覚えるんじゃなく、出逢った順に5つ、多くても10くらい、なんとなく慣れ親しんでいるうちに覚えちゃうよ」
生徒「そうなんですか? でも、コードって理屈だって聞きました」
吹奏楽の先生「理屈はどうでもいいよ。「なんだか、わからないけど、D7とAM7って、似てる」って思ったりね」背景に、2つのコード図を表示し、「似てる」を添える。
ここで、「M7」の別な書き方「maj7」を紹介をしても良い。
吹奏楽の先生「とりあえず弾けて、慣れたら理屈の意味がわかるってのは、分数もそうだよね」
生徒「分数?」
吹奏楽の先生「分数の割り算って、意味が分かりませんよね?」
生徒「そうです」頭の中で、3分の2のリンゴと、4分の1のリンゴを左右に並べ、その間に「÷」を置く。
吹奏楽の先生「でも、計算の仕方も教わったので、その通りにやれば正解になるから、まあいいかって」
生徒「そうそう、そうなんです、まあいいかって」
吹奏楽の先生「実は僕も、分数の割り算の意味が納得できたのは、大人になってからですよ」
生徒「そうなんですか!」
生徒「でも、音楽なら、意味がわからないと、叱られそうです。まあ、ウクレレなら大丈夫でしょうけど、クラシック音楽なら「意味をしっかり、理解しなさい」って、叱られそうです」
吹奏楽の先生「それは誤解です。クラシック音楽でも、意味は後回しということもありますし、最後まで意味不明のこともありますよ」
生徒「それって、「楽譜に込められた、謎解き」や「暗喩」の話ですか?」
クラシック曲の中には、暗号を込めたものがいくつかあり、背景で紹介しても良い。
吹奏楽の先生「いえいえ、ちゃんとしたクラシック音楽の、コンサートですよ」
生徒「本当ですか?」
吹奏楽の先生「この歌詞の意味は、わかりますか?」背景に、第九『交響曲第9番』(ベートーベン)の歌詞の、日本語の語呂合わせ「風呂出で 詩へ寝る 月輝る 粉健」を、フリガナ付きで表示する。
生徒「ええーっと、風呂から出て、詩はポエム? 月に照らされている? 働いて、身を粉にしても健康?」
生徒「意味がわかりません」
吹奏楽の先生「実は、これ、ベートーベンの『交響曲第9番』の合唱部分なんだ」
生徒「わっ、やっぱりクラシック音楽って、わからない」
吹奏楽の先生「いやいや、これはね、ドイツ語の歌詞を、簡単に覚えるために、無理やり日本語の語呂合わせにしたものなんだ。英語の「サンキュー」を、日本語の数字の「3」と「9」にしたような」背景に、英語とカタカナと数字を表示する。
吹奏楽の先生「楽譜が読めない、ドイツ語もわからない、かといって、カタカナがどっさりなら、暗記できない。そんな、音楽の素人さんたちが、それでも年末に合唱したい。そのための工夫で、こじつけでもいいから、歌えるんだもの、素敵だよね」
背景に、様々な職業の人達が、仕事をしながら、鼻歌で『第九』を歌う風景。どの人も、クラシック音楽という「高尚な趣味」とは、無関係な雰囲気。
吹奏楽の先生「もちろん、コンサートのために、何か月も練習して、先生である指揮者からは、歌い方の指導は受けるけどさ」
吹奏楽の先生「歌詞をカタカナだけで書いていたら、覚えるのも大変。でも、意味不明ながら漢字とひらがなで書いたら、なぜか暗記できた。カタカナでも、漢字でも、意味不明なのに、漢字を混ぜると覚えられたなんて、不思議だね」
吹奏楽の先生「色んな人が、色んな方法で、楽しむ工夫をしている。それを蔑んだり否定する人は、いないよ」
吹奏楽の先生「まあ、そういう感じで、ウクレレのコードだって、コードの絵の通りに弾けば演奏できるから、まあいいかってね」
吹奏楽の先生「気まぐれに、息抜きとして、ウクレレは長い友達になるかもしれないし、もっと音楽に詳しくなるとしても、ウクレレのコードは役立つよ」
生徒「そんな、壮大な将来は考えていません」
吹奏楽の先生「楽器は大切に扱いなさいとは言うけど、ウクレレなら、ソファの横に置いていて、テレビがCMになったらちょっと弾いて、またそこに置いてとか、気軽に生活の一部にもなる」
この発言が、CMを軽視する懸念があるなら、単に「息抜き」「勉強中の気分転換」などでも良い。
吹奏楽の先生「弦を直接触るので、おもちゃのような使い方もできるし、弾きながら時々、コツコツ叩いて、多彩な演奏を楽しむのもいいね」
生徒「ああ、そんな楽しみ方もいいですね。友達や親とも相談してみます」
吹奏楽の先生「そうだね」
▽ 場面変更 ● ── ●
音楽室。さっきの続き。
コードネームと、和音構成音の話。
ハル「ちょっと気になったんですが、音程は「短」「長」「完全」だけなんですか? 3度の長と短がありますが、完全3度はありますか?」
音楽の先生「良いところに気付きましたね。実は、「短」「長」を使う場合と、「完全」を使う場合は、はっきりと分かれているんです」
ハル「はい」
音楽の先生「「完全音程」は、響きが良すぎて、味気無いのです」
ハル「あ、やっぱり、そうですか」
音楽の先生「実際に音を出して、確かめましたね。その通りです」
ハル「そこで、鍵盤モノサシに書いてくださった「長6度」などを確認すると、1オクターブの距離で、半音が6つ分の距離だけが無かったんです」
音楽の先生「丁寧ですね」
ヤッ子「早坂君は、このように丁寧な確認をするんです」
音楽の先生「そうですか。大切な長所ですね」
ヤッ子。ハルが持っている鍵盤モノサシの紙を横取りし、裏返す。そこには、書きかけの、表形式の音程があった。
ヤッ子「このように、きちんと……って、きちんとしていないじゃないか」
ハル「あ、それは、どんな形の表にしたらいいのか、試行錯誤の途中です。出来上がりはこっち」ポケットから、折り畳んだ紙を出して、広げる。
音楽の先生とヤッ子。見て感心する。
ヤッ子「カラクリを理解しようとして、結果的に、虱潰しの空白が見付かったんだな」
ハル「そうです」
音楽の先生。黒板に向かって歩きながら。「小さなことでも、丁寧に行うのも、謎解きでは大切ですね」
音楽の先生。黒板に音程の長短系の「重減-減-短-長-増-重増」と、その下に完全系「重減-減-完全-増-重増」で、「重減-減」「増-重増」が合流している。
音楽の先生「ここで二股に分かれていますね。2度、3度、6度、7度は、こちらです」図の上の「重減」から「重増」の道をマルで囲む。
音楽の先生「1度、4度、5度、8度は、こちらです」図の下の「重減」から「重増」の道をマルで囲む。
音楽の先生「鍵盤モノサシで、短3度がありましたね」
ハル「はい」
音楽の先生「短3度よりも、半音長いと、長3度です」指を「短」から「長」に移動する。
ハル「あ、その図は、半音長いと短いの並び順ですね」
音楽の先生「そうです、説明書きを忘れていました」図に大きな左右向きの矢印を記し、「半音短くなる」「半音長くなる」を添える。
音楽の先生「長3度よりも、半音長いと、増3度です」
ハル「え? それって……」鍵盤モノサシを見ながら「……完全4度と同じ距離ですよね」
音楽の先生「そうです。でも、完全4度とは呼ばずに、増3度と呼びます」
ハル「あ、なるほど、同じ距離なのに、呼び方が違うんですね。ミ♭と呼ぶか、レ♯と呼ぶかの違いのように」ヤッ子を見る。
ヤッ子「察しがいいな。コードのCの仲間で、Cmのミ♭を、レ♯と書いたら、Cの仲間ではないという話と同じだな」
音楽の先生「素晴らしい。そこまで理解していましたか」
ハル「鍵盤モノサシに無かった、半音6つの距離は、ドから数えると……えーっと、この黒鍵ですね」鍵盤モノサシを指す。
ハル「これだと……」黒板と鍵盤モノサシを交互に見ながら「……増4度、または……」黒板と鍵盤モノサシを交互に見ながら「……減5度、ですか?」
音楽の先生。感心して唸る。「丁寧さに感心します」
ハル「ありがとうございます」
ヤッ子「実は、ファからシも、増4度だぞ」
ここからの、ハルの確認手順と独り言を、ヤッ子と音楽の先生は、微笑んで見ている。
ミッツが、ハルの手元を見たくて、近付こうとするが、ヤッ子が制する。振り返ったミッツに、ヤッ子が微笑みながら、唇に指で「静かにしよう」を示す。
ハル「え?……ファ、ソ、ラ、シ。だから、4度で……」指折り数えて、4度と知る。
ハル「頂いた鍵盤モノサシで、4度の見本は、これだ。高いドから、下に向かって、ソまでは、「完全4度」だ」鍵盤モノサシの、ソから上のドまでの「完全4度」が、ぼんやり色変わりする。
ハル「今、知りたいのは、ファからシまでの4度は、「なに4度」かで、そのために、見本の完全4度と比べる」
ハル「ファからシまでは、この距離」鍵盤モノサシの黒鍵側を、ファからシまで、指でトントンと辿る。トンと叩くと、鍵盤モノサシに赤い点が付き、点と点の間が赤い直線で繋がる。水平の折れ線グラフっぽく見える。
ハル「ソからドまでは、この距離」同じく、指でトントン辿る。さっきの赤い折れ線グラフの、少し下の位置に、同様にソからドまで、青い点と直線が描かれる。
ハル「見本と比べて、同じなのか、長いのか、短いのか……。1つだけ長い」
ハル「見本が「完全」だったので、それより1つだけ長いのは……」黒板の、「完全」の右隣を見る。「増」と書かれている。
ハル「「増」だから「増音程」だ。今は、4度の話。「なに4度」かを知りたかった。「増音程」の「4度」だから「増音程」だ」
ハル。顔を上げて。「増4度です!」
音楽の先生「丁寧ですね」
ハル「ありがとうございます。これって、ややこしいから、「あれ? 今は何を知りたかったのか」を、時々、確かめながらしないと、迷子になります」
ヤッ子「ということは、シからファは、減5度だ」
ハル「もう、混乱します」
ヤッ子「その鍵盤モノサシは、音程の入門として、「下のドから上方向の白鍵は、長と完全だけ」「上のドから下方向の白鍵は、短と完全だけ」を、覚えたばかりの確認用だ。それ以外の範囲の確認は、これから自分でできるだろう」
ハル「はい、その話は、行く行く……」
音楽の先生「そうですね。ここからは、そのうちに親しんで来るでしょう。むしろ、ここで答えをお話しすると、「教わったから、今のうちに暗記すべき」といった気分になりそうです」
ハル「そうですよね。最初から全部じゃなくって」
ヤッ子「安心したまえ。学校の授業ではないから、成績に影響するテストも無い」
ハル「あっそうだった。頭が破裂しそうで、忘れていました」
4人で笑う。
ミッツ「じゃあ、あたしがテストを出そうか?」
ハル「よしてくれよ」
ヤッ子「とはいっても、早坂君が自ら、自信を得るために、「この理解で合ってますか?」と聞いてきたら、私も真摯に応えるからな」
音楽の先生「そうですよ。学ぶ楽しみには、応えたいと思っています」
ハル「ありがとうございます」
ヤッ子「では、早坂君の興味に沿った、おもちゃを紹介しようか」
ハル「おもちゃ?」
ヤッ子「鍵盤モノサシが、このように曲がって、更に曲がって、円形になったものだ」黒板に、1オクターブ(ドからシまで)の鍵盤モノサシを書く。鍵盤モノサシの奥側(黒鍵側)を内側にして少し湾曲した絵。もっと湾曲した絵。
この、湾曲した絵は、途中経過なので、鍵盤モノサシっぽいという略した絵にする。最後はドーナツの形になる。ドーナツの内側が黒鍵側、外側が白鍵側。
ヤッ子「こんな風に、鍵盤モノサシが曲がって、円形になった、鍵盤ドーナツだ」
ヤッ子「パズル、組み合わせ、パターンといったものが好きだろう?」
ハル「はい。コードもそれっぽいなと期待しています」
ヤッ子「半音6つ分の距離だけが無い、ということに、自分で地道に気付いたんだ。このおもちゃも楽しめるだろう」
ヤッ子。黒板に、ドーナツの輪郭のように、大小の同心円を書く。
ヤッ子「私が書くので、君も真似してくれ。きれいな図は、家に帰ってから、改めて再現するのが望ましい」
ハル「はい」
ヤッ子。話しながら、黒板に改めて、鍵盤ドーナツの絵を描く。
ハル。紙、または、ノートの1ページに、ヤッ子の絵を真似る。
出来上がりが、三重の同心円になる。内側が鍵盤の付け根、外側が白鍵の手前側、中間の円は黒鍵の手前側なので、途切れ途切れになる。
内側の円に、時計の文字盤のような12等分の刻みを、チョンチョンと書く。このチョンチョンは、はっきり目立つ程度に、内側の円と交差するように。
12等分の刻みから、外側の円に向かって、放射状の線を書く。放射状の線は、外側の円までは届かず、内側と外側の中間位置までで止まる。
12等分の刻みは、湾曲した鍵盤モノサシが円形になったもの。黒鍵を表すように、放射状の線を繋ぐ。これにより、円は3種類。内側の円、外側の円、中間の線は黒鍵の縁を表すために途切れ途切れ。
黒鍵を書き終わった後、12等分の刻みのうち、シとドの境界線は、内側の円から外側の円まで届くように延ばす。
少し寂しい感じに見えるのは、ドとレの境界線が足りないためので、付け加える。
ヤッ子「円形にしたから、黒鍵の形に違和感があるが、大切なのは、ここだ」内側の円の、12等分の刻みを指す。
ヤッ子「ギターのフレットが、12までで1オクターブの区切りになり、13番目からは、最初の1番目からと同じだな。だから、12等分なんだ」
音楽の先生「その刻みは、キーにも役立ちますよ」
ハル「キー?」
音楽の先生「ハ長調、Cメジャーキーなどです。ト音記号とセットで書かれている、♯や♭に関係します」背景に、調号の例をいくつか。
ミッツ。ピアノに駆け寄り、『メヌエット ト長調(♪レーソラシド、レーソーソー)』(バッハ)を、ちょっと弾く。
ミッツ「これの話をしたでしょ。その時、全部のファに♯が付くのは、強い絆って言ったよね」
ハル「だから、その、強い絆って、何だよ」
ミッツ「これが、キーの話」
ヤッ子「謎解きの予告編みたいなもんだな。楽しいじゃないか」
ハル「ありがとうございます」
ハル。気付いて、鍵盤モノサシを出す。
ハル「これって、右回りと左回りは、こういうことですか?」鍵盤モノサシで、低いドから上に向かってラまでの長6度。高いドから下に向かってラまでの短3度。
ミッツ「そんなこと、ピアノを弾く人なら、みんなやってるよ。さっきの『花のワルツ』の「ラ、ド♯、ミ、ソだらけ」のところで」
ミッツ。黒板に、コード「A7」の、基本形と転回形を書く。
ミッツ「『花のワルツ』は、これを弾いているの。ホラ、根音は、ここでは一番下だけど、次は一番上になって、そしたら、さっきは下から2番目だったのが、一番下になるでしょ。次は、これが一番上になる」
ハル「それって、鍵盤ドーナツでは、こういうことか?」
ハル。黒板に鍵盤ドーナツを模したドーナツ型(二重の同心円)を、4つ横に並べて書く。
左端のドーナツ型の、12時の位置に区切り線。その区切り線から、ドーナツを一周するように矢印を加える。
左から2番目のドーナツ型の、9時の位置に区切り線。その区切り線から、ドーナツを一周するように矢印を加える。
同様に、6時の位置に区切り線と矢印。3時の位置に区切り線と矢印。
ミッツ「区切りの位置が違う」
ヤッ子「位置が違うのは、この図が、正確なドーナツを主旨としているのではないからだな。理屈は正しい」
音楽の先生「『花のワルツ』の、今の箇所の和音構成音は、後でじっくり、確認してください」
▽ 場面変更 ● ── ●
川原。
会社の昼休み。ここは、会社(東海林商事)のすぐ近くの川原。
東海林商事は、ショージ(東海林翔児、しょうじ・しょうじ)の自宅。
1人は、兄役。東海林商事の社員で、CM明けに東海林商事のピアスを付けている社員として登場。昼休みなので、弁当を食べながら、社屋の近くの川で、のんびり釣りをしている。東海林商事の作業服を着ている。
1人は、弟役。兄役の友達で、会社とは無関係。屋外だが、正座して兄役の方を向いている。
兄役と弟役は、本当の兄弟ではなく、かつて一緒に行動していた頃に、弟役が「アニキ」と呼んでいたことから。2人共、ショージとの血縁関係は無い。
弟役「アニキ。今のアニキは、情けないです」
兄役。竿を上げ、餌を付け直す。「俺は自分で、情けないとは思ってないぞ」また、糸を川に投げる。
弟役「また、あの頃のように、バリバリ活躍しましょうよ」背景に、暴走族やら、何か暴れていた思い出。
兄役「無理を言うなよ」
弟役「なんで、あんなに所帯じみた生活をしてるんですか?」背景に、兄役の、現在の家庭を持った生活。
兄役「家族が大切だからさ」
弟役「だから、そんな考えがおかしいんですよ。アニキがそう考えているのは、許せないです」
兄役「誰が何を考えていても、それは自由だ。憲法で保障されている」
弟役「だったら、昔のように、一緒に思い切り暴れましょう。自由なんだから」
兄役「憲法の自由は、わがままは駄目だって。自由はを使うのは、みんなの幸せのためにって」
弟役「そんな難しいことは、わかりません。とにかく、こんな昼間から働いているなんて、信じられません」兄役の作業服の、「東海林商事」の文字を見る。
兄役「昼でも夜でも、家族を養うために働くのは、当たり前だ」
弟役「だから、なんで働いているんですか! 昔は、学校も行かず、朝まで暴れまわったじゃないですか!」
兄役。時計を見て、釣り道具を片付け始める。「そうやって暴れていられたのは、親が働いていたからだ。そのために、存分に暴れていても、衣食住は用意されていた」
兄役「他人に迷惑を掛けているくせに、自分が怪我をしたら助けてもらえる。他人を危機に追い詰めても、自分の危機は助けてもらえる。随分と自分に都合のいいシステムだな」
弟役。意味がわからない顔をしている。
ここから、兄役の話が続くので、弟役のセリフを適宜挿入する。
兄役「快適な生活のために、金を出して買った設備、その設備を作るために働いた人、運んだ人、その人達のお陰で快適に生きているのに、無駄に壊したら、勿体無いよな」
兄役「家族と夕飯を食いながら、テレビでニュースを見るんだ。戦争や紛争で、せっかく作ったビルも、壊される」
兄役「普通に(「ふつーーーに」のような言い方)暮らすだけでも大変なのに、もっと大変にすることに、何の得がある?」
兄役「お前は、自分が被害者だから、声にならない叫びの代わりに、物を壊しているんだろうが、普通に暮らしていた住民は、八つ当たりを受けている。とばっちりだ」
兄役「もし、俺が精魂込めて作ったものが壊されたらと思ったら、しかも、自然災害でもなく、戦争でもなく、ただ壊されたらと思ったら、正気でいられない」
兄役「物を作る立場の俺が、そう思うのだから、物を使って普通の生活をしていた人にとっては、自然災害でもない、楽しみで壊されたら……」息継ぎ。「……壊した俺たちが得た楽しみより、遥かに大きな、絶望と憎しみが創られるだろう」
兄役「インフラやら、物が壊れて楽しいのは、フィクションだけだな」
兄役が考えているフィクションの例。ジャッキーチェンが、商店街を壊す。ルパン三世が、ビルなどを壊す。『ガールズ&パンツァー』の戦車が、町を壊す。
兄役「暴れなくてはいられなかったことは、俺自身だから理解できるが、そんな過去は、今も俺を苦しめている」
兄役「俺は、あの、暴れていた時期を、黒歴史と思っている。お前は、武勇伝と思っているんだろうがな」背景に、「黒歴史」の下に「悔やむ思い出」、「武勇伝」の下に「誇らしい思い出」を左右に配置し、間に不等号記号「≠」を記す。
兄役。歩き始める。「今は、俺にも家族がいる。あの頃、俺が好き勝手できたように、今度は俺が、家族の安穏を維持する」
弟役。立ち上がり、兄役を見送る。
兄役。振り返り、弟役に言う。「生きていると、好きなことが増えて行く。暴れるのは今も好きだが、迷惑を掛けないアウトドアのスポーツがしたいな。とはいえ、最も大切なのは、家族を支える側でいること。その喜びを覚えたんだ」
兄役。優しい口調。「暴れ疲れた体で帰宅して、雨風(あめかぜ)をしのげる部屋には、疲れた体を投げ出す布団があり、腹が減ったら冷蔵庫に何か食べ物がある。そんな生活を維持しているのは、誰なのか、考えてごらん」
兄役「洗濯機に投げ入れた下着は魔法のようにきれいになり、風呂場のシャンプーは永遠に空っぽにならない。感謝感謝ー」
兄役「小学校に入学したばかりの頃、朝は起こしてもらい、何時に家を出れば学校に間に合うかのスケジュールを決めてくれるのは親。子供は、よくわからないまま、従っていれば平穏にいられた」
弟役「そんなの、親だったら当たり前ですよ! 親は勝手に子供を産んだ責任がある。親は子供の奴隷なんだ」
兄役「故郷(ふるさと)である、ここを離れて、しばらく遠くに就職していた頃、年に一度の帰郷で、金が無いから、家に着くのはいつも夜中だ。玄関を開けると、みんな笑顔で、悪態を言われながらも、風呂を沸かして待っていてくれている」
兄役「慣れない生活で疲れて、悩んで帰っても、いつも風呂が沸いている。仕事を辞めて、泣いて逃げ帰った時も、風呂が沸いていた……」
兄役「責任を取る者は、奴隷ではない」再び社屋に向かって歩き始める。
兄役「親になる自由、結婚しない自由、俺にできることのうち、俺は親になったんだ」
これ以外の話。冗長になるので、用いない方が良さそう。
兄役「SFっぽい話だが、もしも、自分以外の全人類が消えたら、俺は寿命まで生きていられるのかと、考えたりする」
兄役「電気や水道は停止し、夏の猛暑の日も、冬の極寒の日も、快適に過ごせる場所に変えることはできない」
兄役「店舗にある食品は、冷蔵庫中のものは腐る。食べ終わったら別な店舗というように、日本中を旅しても、生鮮食品はすぐに尽きる」
兄役「移動は、ほぼ歩きだ。ガソリンスタンドにあるガソリンは、電気が無ければ取り出せない。太陽光発電の自動車があっても、故障したら修理ができない」
兄役「建物の中も外も、誰も掃除せず、汚れたまま。衣服の洗濯は季節を問わずに手作業。洗濯をしないなら、食べ物と同様、あちこちのデパートを旅する」
兄役「太陽光や風などがあるが、それを、使えるエネルギーにする方法はわからない。エントロピーは増え続け、エネルギーは枯渇する」
弟役「「えんこもぴー?」って、何スか?」
兄役「落差、簡単に言えば、水が落差で落ちることで、水車を回せる。水が全部落ちて、落差が無くなれば、エネルギーの枯渇になる」
通常、エントロピーは「でたらめさ」と説明されるが、兄役が理解できたのは、「でたらめさが増える」を言い換えた「落差が減る」ことをエネルギーに利用できることまで。
兄役「店舗には、どうせ店員がいないから、万引きができる。しかし、必要なものが店舗から枯渇しても、誰も補充しない」
兄役「店に商品を補充するために運送する人がいない。安全安心な商品を作る人がいない。商品を作る原料を作る人がいない。原料から商品を手に入れるまでのシステムを保守する人がいない」
兄役「これらは、通常の状態だが、俺が寿命まで生きているうちには、地震もあれば、豪雨もあるだろう。街が壊滅したら、被災していない地方がどこなのか、誰も教えてくれない」
兄役「自分がどんなに、気を張って生活していても、病気にもなる、怪我もする。しかし、医者はいない。寿命に至らないかもな」
兄役「「災害があった時こそ、このビルに」という施設があっても、俺の寿命までは生活できない。水も食糧も、寿命までは無理だろう。せいぜい、雨水を飲むだけだ」
兄役「お前の好きな、タンメンも、コーンスナックも、もう食べられない。お前の好きな消費と破壊も、それを支える衣食住が無い」
▼ CM明け。 ▼── ──▼
CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。
ショージの自宅。夜8時頃。
外観に、「東海林商事」の看板。
父親は東海林商事の社長。
居間で、数人の従業員と、賑やかな夕食。
ショージは、従業員から親しみを込めて「お坊ちゃん」と呼ばれている。
社員。若い男「お坊ちゃんは、見た目だけは、大社長だな」この社員は、CM前の兄役。見た目は、ビジュアル系ロックバンドっぽい。
社員。おばちゃん「見た目「だけ」ってのは、失礼じゃない?」
社員。おっちゃん「見た目なら、おめぇだって、エレキバンドっぽいじゃねぇか」背景に「エレキバンド」に差し棒で「昔は、エレキギターを含む4人程度のバンドを、こう呼んでいました」など。
社員。若い男「いやー、これ……」顔や体の、あちこちのピアスを指す。「……があると、女の子に、人気が出るんで」
大人が酒を飲みながらなので、下品な冗談も出る。ショージも少し参加する。
何らかの批判にならなければ、テロップ「ショージは、こうして、下ネタに慣れ親しんだ」があっても良い。
夕食が終わり、ショージは自室に移動し、テレビを見る。
部屋のポスターなどに、駄洒落、パロディ、その他、あれこれと小ネタをたくさん用意する。
自室には、AKBのようなアイドルのポスターやグッズなど。
ショージ。独り言の癖は無いが、アニメなので、わざとらしく独り言。
ショージ「吹奏楽部で、時々は流行歌もするけど、アニソンやアイドルはしないんだもんなー。つまんないや」
テレビドラマの声「あんたが学校で、どんなに優秀だったとしてもね、現場じゃ何にも役に立たないんだよ」
ショージ「何だ? このドラマのセリフは。学校は役に立たないのに、どうして行くんだろう?」
テレビドラマの声「何やってんだい! 学校で何を教わって来たんだ!」
ショージ「何だ? このドラマのセリフは。学校で教わることって、必要なのかな?」
ショージ「そもそも、先生は必ず、生徒よりも技術が上であるべきってのは、誤りだよな」
ショージ「オリンピックの選手だって、コーチがいるし。コーチの方が技術が上なら、コーチがオリンピックに出るんだろう」
ショージ「もし、生徒が必ず、技術が劣っているんなら、どんな分野でも、時代と共に、どんどん技術が落ちるだろう」
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