第11話 Bパート
【前書き】
なぜ記号だらけの楽譜を見て、音にできるのか?
楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。
人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。
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▼ Bパート。 ▼── ──▼
ハルの自宅。
このBパートは、ハルの自室場面だけなので、気分転換に、他の登場人物の自宅の場面を挿入しても良い。
自室でギターを弾いている。父親が入って来る。
ハルはベッドに座っているので、父親は勉強机の椅子に座る。
父親がギター演奏をする場面の音源収録では、ギタリストのサービスで、多彩な表現を行うことが推測できる。以下の脚本には無い表現を行った場合、脚本に追加するのも良い。
ハルは、クラシックギター曲の楽譜集を見て弾いているが、話の流れで、歌とギターの、ギター弾き語りの楽譜を出す。
ここでは、どっちの楽譜を話題にしているかは、明記しない。
父親「どうだ、楽しんでいるか?」
ハル「まあ、ぼちぼち楽しんでいるよ」
父親「スティール弦ギターで、クラシック曲の演奏は、弾きにくいだろう。ナイロン弦ギターも買おうか?」
ハル「いいよ、まだ。上手な演奏が目的じゃないから。ところで、ここ、コードが2つ書いてあるけど、どっちを弾けばいいの?」ギター弾き語りの楽譜には、「D/A」と、横並びの表記。
父親「これは、Dはコードで、Aはベース音だ」
ハル「ベースと合奏なの?」
父親「いや、そうじゃない。ギターでコードを鳴らす時、「ラを一番低い鳴らし方で」という指示だ」
父親「これは「分数コード」といって、本当は、分数のように上下に書きたいが、こうして左右に書くこともあるんだ」
ハル「分数?」
父親「そう。計算しないが、分数っぽく上下に書く。上の方には普通のコードネームで、和音の指定。下の方にはベース音で、単音の指定。ここでは「A」は「ラ」の単音だが、「A」と書けばコードにも使えるから、勘違いを誘う」
ハル「ベースギターで、コードは弾かないの?」
父親「ここで言う「ベース」は、楽器の「ベースギター」じゃなく、「ベース音」の意味だ。だから、必ず単音だ」
補足として、「お父さんは、アッパー・ストラクチャを知りません」「アッパー・ストラクチャは、第12話で、話題になります」を表示する。
これにより、視聴者に「必ず単音」以外の表記があると、予告できる。
ハル「え? コードのDは、「レ、ファ♯、ラ」が鳴っていれば、いいんじゃない?」
父親「和音構成音はそうなんだが、特別に「最も下の音」だけ指定することがある。それがベース音。ほら、楽譜でも、そうなっているだろう」楽譜は「4/4拍子」で8分音符のアルペジオ。
ハル「まあ、そうだけど、Dを押さえたら、自然にそうなるでしょ。第6弦は押さえなくて、ミは和音構成音じゃないから、第5弦のラが最も低い音になる」
父親「ところが、ただのDが書いてある場所なら、一番低い音はレのはずだ」
ハル。確かめる。「あ、ほんとだ。気付かなかった」楽譜。レで始まる小節ばかり。ここも、ここも、ここも。
父親「これからは、楽譜を読む時に、コードを押さえて楽譜の通りに弾くだけでなく、コードネームとベースの関連を見ると、納得できるよ」
ハル「あれ? これは、ただのDなのに、レよりも低いラが使われている」楽譜。3拍目に5弦のラがある。
父親「ああ、これは、和音の一部というより、ベースのメロディだな。ギターなのに、ベースギターの演奏も兼ねている」
父親「ギターじゃなくて、ピアノなら、ソロ演奏なのに、ベースでメロディができる」
ロックンロールのベースのメロディ。「ド、、ミーソラソ」を父親がギターで弾き、ピアノ演奏に滑らかに移動し、エレキベースを含むバンド演奏に滑らかに移動する。
ハル「そんな風に、ベースでメロディを演奏すると、どれが和音のベース音なのか、わからないよ」
父親「そうだな。まあ、今のは、比較というか、わざとややこしい例を出した。簡単に、メロディっぽい、よく使われるといえば、これだな」
父親。軽く演奏。コードのDで、「4弦、1から3弦」の繰り返しをする。コードのDで、「4弦、1から3弦、5弦、1から3弦」の繰り返しをする。
父親「このうち、ベースはこの演奏だ」4弦と5弦を交互に。
画面の下部に、コード図。鳴らした瞬間の弦は色が変わる。弦の全体の色が変わるのではなく、押さえたフレットの右側、振動する範囲だけ色が変わる。
画面の上部に、楽譜。文字の「1から3弦」「4弦」「5弦」を差し棒で示しておく。鳴らした瞬間の音符は、色が変わる。
父親「だから、ここは、ただのDでいい」
父親「だが、こうする時は、「D/A」と書く」5弦をベースにした「5弦、1から3弦」の繰り返し。
父親「ストロークで弾く時は、和音構成音が鳴っていればいいってだけじゃなく、一番低い音に気を付けるといいな」
父親。ノートにコードポジションを書く。Dでは5弦と6弦に×、D/Aでは5弦を○の開放弦にする。
父親「コードを押さえた弦は、必ず弾く。では、押さえていない弦は、弾くのか、弾かないのか」このセリフと共に、コード図に説明の矢印が表示される。
父親「ここにマルがあれば、開放弦といって、押さえていないけど弾く」コード図の4弦に「開放弦」と、そのフリガナ。
父親「ここにバツがあれば、この弦は弾かない」
ハル「必ずしも、6本の弦の、全部を弾けばいいってもんじゃないんだ」
父親「そうなんだ。出版社によって、うーん、銘柄によってと言った方がいいかな、押さえていない弦に、「○」や「×」が書いてあるものと、書いてないものがあるんだ」
ハル「このコード表を使うのは、和音構成音とかを、よく知らない時期だから、僕もそうだけど、押さえない弦こそ、弾くのか弾かないのかを明示してほしい」
父親「普通は、ベース音は、コードの根音を鳴らす。でもな、時々、根音以外をベース音にしたい時がある。作曲者のこだわりだな」
ハル「そんなに違うもんかな」
父親「人によっては大した違いは無いと感じることもあるし、でも、そのほんのちょっとが、気付かなくても、なんかいいもんさ。料理の隠し味みたいなもんだ」
父親。楽譜で、「C、G7、C」と「C/G、G7、C」を書く。「これは完全終止のコード進行だが、ただのCよりもC/Gを使った方が、ぐっと終止感が強い」
ハル「ほんと?」
父親「本当さ。今度、多岐ちゃんの所に行ったら、確かめてみるといい」背景にミッツの顔を描き「蜜霧多岐(みつきり・たき)」「ハルの従姉」と添える。
ハル「わかった」
父親「ついでに、『アルルの女』の『メヌエット』も弾いてもらうといい」
ハル「うん、よくわからないけど」
父親。五線ノートに「『アルルの女』の『メヌエット』ビゼー作曲」と書く。
父親。五線ノートに、Aメロを、かなり省略した楽譜を書く。音符の玉が無い。
ハル。笑いながら「これって、かなり省略してて、音符の玉が無いでしょ」
父親「ちゃんとした楽譜なら、多岐ちゃんが持ってるから、これで大丈夫。今は、正確なことがわからないから、こんな書き方をした」
父親「正確な音符を知らないだけでなく、お父さんはヘ音記号が苦手なんだ」
父親「でも、曲によっては「演奏者に任せる」の意味で、これが正式な場合もある」
父親「今は、玉をちゃんと書いてはいないが、和音構成音を同時ではなく、ばらして弾く方法を、アルペジオだ」
ハル「アルペジオ?」
父親「和音を、ジャラーンと演奏したり、ポロンポロンと演奏すること」楽譜の例と演奏例。ジャラーンでは、上向きと下向き。
ハル「あ、これって、アルペジオって呼ぶんだ」
父親「そう。「アルペッジョ」と書いてあったりもする。和音構成音を、同時ではなく、時間差を設けて鳴らすから「分散和音」とも呼ぶ」背景に「分散和音」と、そのフリガナ。
ハル「今まで普通にやってたことに、実は名前もあったりするんだね」
父親「時間差を設けない弾き方は、ストローク」楽譜の例と演奏例。
ハル「テレビでやったね」第7話での、スタジオ収録の場面を思い描く。
父親。第7話のことには触れない。「ストロークでも、アルペジオでも同じだが、よく使うコード進行には名前が付いていて……」
ハル「あ、音楽理論。よく使う手法には、名前が付いている」
父親「おお、すごいな」
父親。『メヌエット』の楽譜の、コード「B♭」の部分の2小節は、左手の伴奏は共にシ♭から始まっているが、レも書き加える。シ♭とレに矢印を付けて「どちらか」と記す。
父親「この曲のコード進行は、普通は「E♭→B♭→Cm」なんだ。ベース音は、根音をそのまま使った「ミ♭→シ♭→ド」だな」
父親「根音をベースに使うのが普通だから、コードネームは「B♭」だけでいい。根音以外をベースに使うなら、コード表記は「B♭/D」とか、ベース音はこれだと明示する」
父親「これを「B♭/D」にすると、ベース音は「ミ♭→レ→ド」となる。根音のシ♭の代わりにレを使う。このコード進行は「カノン進行」と呼ばれている」
ハル「うん」
父親「多岐ちゃんに、弾いてもらいなさい。それぞれ、どんな雰囲気なのか」
ハル「わかった。でも、これでわかるかな?」
父親「きっと、弾いたことがあるから、これでも伝わるよ」
ハル「そうかなあ」
父親「これで面白いのは、B♭の箇所の雰囲気が変わるのは勿論だが、次のCmの箇所の方が、雰囲気が大きく違う」
ハル「Cmは、変えていないのに?」
父親「そうなんだ。楽譜の通りに演奏すると、Cmのここが、柔らかく、しっとりした雰囲気になる」楽譜の、Cmのメロディの先頭「ミ♭」を、マルで囲む。指し棒で「柔らかく、しっとり」を書く。
父親「もし、カノン進行にすると、この部分が、淡々と曲が進んでいるような雰囲気で」
ハル「へえ、そうなんだ」
父親「不思議だろう? しかーし! ……」ちょっと偉そうに。「……この不思議な話のために、どこかに、ギターは無いかな? ああっ、偶然にも、こんなところにギターがある」
ハル「なんの茶番なのさ」
父親「ギターは、弦を直接弾くから、音色を変えるのは簡単だ。例えば、このように、どこを弾くかで音色が変わる」右手で弦を弾く位置を、ブリッジの近くか、12フレット目の近くかを変える。
ハル「あ、やっぱりそうだったんだ」
父親。ニヤリとする。「それから、爪やピックといった硬い物で弾く場合と、指先の柔らかい部分で弾く場合でも、音色が違う」指先にはめるピックを掲げる。弾き比べる。
父親「ピックでも、あちこち向きを変えて弾くと、それも音色を変える効果がある」
ハル「そうだね」
父親「しかし、ピアノで音色を変えるのは、鍵盤を叩く強さしかない。鍵盤とハンマーを介して、音を鳴らすからな」
ハル「そうなんだよね。まあ、ペダルで変えられるけど」
父親「え? ピアノって、ペダルで音色が変わるのか」
ハル「まあまあ……」話題が変わりそうなので、抑える仕草。
父親「そんなピアノなのに、曲によって音色が違って聞こえるのは、前後関係の工夫があるからだ」
ハル「ああ、なるほど、前後関係か。音符だけでなく、休符も、前後関係で印象が変わるって」
父親「本当か? 音を出しているのなら、違いがあるが、音を出さない休符でも、前後関係があるのか?」
ハル「うん」背景に、第7話での、テレビ番組の収録の場面で、休符の重要性を扱った場面を表示する。収録場面のセリフは、音声を出すか、文字で表示するか、両方にするかは、未定。
父親。気分を変えて。「そう。さっき言った、ベースの進行を「ミ♭→シ♭→ド」と「ミ♭→レ→ド」の、どっちにするかを決めて楽譜に書いたり、演奏の時に強弱をどうするか工夫したり」
ハル「ミッツが言ってた。ショパンを弾くと、下手なのにショパンっぽく聞こえるって」
父親「お前はまだ、多岐ちゃんのことを、苗字の蜜霧で呼ぶんだな」
ハル「うん、いつからだろう? 多分、最初から」
▽ 場面変更 ● ── ●
軽くエピソード。
ミッツ(蜜霧多岐(みつきり・たき))の「蜜霧」は母親の姓。父親の旧姓が「早坂」(ハルと同じ)。両親は大学時代に、同じサークルにいた。
卒業後も、機会があると、大学時代のサークル仲間が集まる。そのうちの一人は、ミッツの母親に抱き付き、「ミッツー、久し振りー」と言う。
娘の多岐(ミッツ)が生まれた時も集まり、「ミッツー、久し振りー」と言い、「かわいい、この子が、ミッツ2号か」が由来で、ミッツの父親が面白がり、「多岐」「ミッツ2号」を用いていた。
子煩悩で、家族3人で外出することも多く、近所の子供には、多岐のことを「ミッツ」と紹介していた。
ハルも近所(同じ公立中学校の学区)で、親戚同士が集まっての「多岐」の呼び名と、「ミッツ」が混同し、現在の「ミッツ」の呼称に落ち着いた。
▽ 場面変更 ● ── ●
父親「ショパンは、前後関係の選び方が上手なんだろうな。もちろん、前後関係だけでなく、単体での音の重ね方とか」
ハル「単体で?」
父親「ドミソの和音で、メロディがミの時、メロディ以外はどうするか」メロディとして、第1弦の開放弦を鳴らす。伴奏で、第5弦のドだけを鳴らす方法、第5弦と第2弦を鳴らす方法など、いくつか。
ハル「じゃあ、ショパンの選び方を変えたら、どうなるんだろう?」
父親「ショパンっぽさが減るだろうな。曲を演奏する時、いたずら心で、わざとちょっと変えてみるのも面白いぞ。楽譜の通りが最も良かったり、ちょっと変えた方が面白かったり。さっきの『メヌエット』のように、実験するのもいいな」
ハル「へえ……」
父親「ベースのメロディとして、根音以外に多く使われるのは、Dの時はラ、Cの時はソ、Gの時はレ。わかるか?」
ハル「えーっと、5番目」
父親「そうだ。根音の、完全5度上の音で、ベースで使うから、1オクターブか2オクターブ、低くする。まあ、基本だから、覚えておくと役立つ」
父親「あ、そうそう、忘れてた。ベース音に、根音以外の和音構成音を使うと「転回形和音」と呼ぶんだ」
ハル「根音って、コードネームの最初に書かれている音だよね」
父親「そう」
ハル「Cならそのままドが根音。Amならラが根音、F♯m7ならファ♯が根音」背景に、コードネーム。音名の箇所を強調し、指し棒でイタリア語の音名。
父親「根音以外ってことは、こういうことだ」
父親の説明に合わせ、楽譜。見ながら理解する時間が必要なので、ゆっくり説明。
父親「根音以外の、どれをベース音にするかには、2種類あるんだ。「和音構成音から選ぶ」と「和音とは無関係な音から選ぶ」だ」
ハル「無関係な音を、ベース音に使っても、いいの?」
楽譜。ト音記号の第2線のソからのソドミを、4つ並べる。基本形和音には、下第1線のドを付加。転回形和音は第1線のミを付加と、下第3間のソを付加。それ以外のベースとして、下第1間のレを付加。
それぞれ、付加した玉には、差し棒で「ベース音」を示す。全部のドには、差し棒で「根音」を示す。
基本形和音には「根音をベース音に使っている」、転回形和音には「根音以外の和音構成音を、ベース音に使っている」と示す。
ハル「転回形?」
父親「そう、和音がコロコロ。ベース以外の音の積み重なりは、どうでもいい。オクターブ違いで、ダブっていてもいい。ベース音が根音なら基本形和音、根音以外の和音構成音なら転回形和音」
ハル「あっ。だから転回形か」
父親「ん?」
ハル。通学用の鞄から、鍵盤ドーナツを出す。
ハル「これ、このドーナツの、「ド、ミ、ソ」を、鳴らすとして、「ド」が根音だから、普通は、根音である「ド」を、ベース音に使う」
ハル「けれど、ドーナツだから、回転できる」鍵盤ドーナツを、縦にして、くるくる回す。
ハル「第3話で、『花のワルツ』(『くるみ割り人形』、チャイコフスキー)の話で、あった。ただし、そこでは、「ベース音」ではなく、「和音構成音だらけ」の話題だったけど」
父親。微笑む。
ハル「和音構成音以外がベース音なら? 名前は?」
父親「和音外音がベース音の和音は、何だと思う?」
ハル「んっ、それは……」
父親「それは……名前は無い」
ハル「無いのっ?」
父親「まあ、名前や定義は、誰かが勝手に設けて、単にそれを知らないだけかもな」
生物学の用語の「キャッチ結合組織」は、現在では用語として定着している。命名者の本川達雄は、未定義状態のような発言をテレビでしたことがある。
ハル「だったら、このアニメで、定義したら?」
父親「それは……」言い淀むが、ニヤリと笑う。「……面白いな」
ハル「「外ベース(そとベース)」「外ベース(がいベース)」「他ベース(ほかベース)」とか」
父親「ベース音が根音以外の場合で、和音構成音の転回形か、和音外音なのか、曖昧なこともあるな」
楽譜。ト音記号で、下第2間のシ♭、第1線のミ、第2線のソ、第3間のドの和音を、2つ並べる。それぞれの上には「C7/B♭」と「C/B♭」と書く。
父親。左のコードネームを指す。「このコードがC7なら、ベースのシ♭は和音構成音なので、転回形だ」
父親。右のコードネームを指す。「このコードがCなら、ベースのシ♭は和音外音なので、転回形じゃない」
ハル「なるほど。CなのかC7なのか、その違いが大切なんだ」
父親「大切なのかどうかは、わからない」
ハル「え? 転回形か、そうじゃないかって、大切じゃないの?」
父親「コード理論に厳密な人なら、大切なんだろうけど、お父さんは演奏を工夫して楽しむだけだから、理論は「楽しめればいい」ってだけ」
ハル「ははは……」
父親「なんてことを言うと、なぜか勘違いする人がいる。お父さんは「大切じゃない」とか「どうでもいい」なんて、言っていないからな」
父親「大切にしている人もいるだろうが、お父さんには実感が無いから「わからない」と言っているんだ」
ハル「大切にしている人を、蔑ろにはしていないんだ」
父親「これが、「ジャンク音楽」の、お父さんの本音だ」
ハル「ジャンク音楽?」背景に、注意書き「ハルは、両親の出逢いの話を知りません」を表示する。
「ジャンク音楽」とは、ハルの父親が、結婚前にしていた音楽活動で、自らの音楽ジャンルを、そう呼んでいた。
父親「それから、演奏は転回形和音なのに、転回形じゃないつもりということもある」
ハル「基本形のつもりってこと?」
父親「そうだ。合奏では、ベース音はベーシストに任せて、ギターでは和音構成音が鳴ればいいってこともある」
さっきの、Cの転回形などの楽譜で、ト音記号の第2線のソからのソドミに差し棒で「ギターが担当」、ベース音のド、ミ、ソ、ファの4つに差し棒で「ベーシストに任せる」と記す。
父親。基本形和音を指す。「これは、基本形和音だが、ギターは転回形を演奏している。ギターにとっては転回形でも、全部の楽器を合わせると基本形という状態だな」
ハル「あ、なるほど。コードネームは「ギター用」を書くのか、「合奏の全体」を書くのか」
父親「お父さんが知っているのは、合奏全体のコードネームを書くものだな」
ハル「へえ」
父親「他には、演奏の都合っていうのが、あるな」
父親「ギターでは、左手でちょこっと形を変えると、別なコードにできるけど、ピアノではピョンピョン飛ぶのが大変なことがあるな」
ギターとピアノのコード図。楽譜は1つ。
ギターのコード図で、Cは第5弦から第3弦の「ド、ミ、ソ」、Gは第6弦から第4弦の「ソ、シ、レ」を並べる。鳴っている弦は色を変える。交互に演奏の度に、弦の変色。
ピアノのコード図を並べる。交互に演奏。
ハル「ああ、そう……かな?」
父親。五線ノートに楽譜を書く。左側に「ド、ミ、ソ」と「ソ、シ、レ」のセット、右側に「ド、ミ、ソ」と「シ、レ、ソ」のセット。
父親「ピアノで、左側の和音を交互に連続するのは大変だろ。だから、右側の形で演奏することもある」
父親「こんな風に、演奏の都合で転回形になることもある。こんな場合は、わざわざ「G/B」とは書かないことが多い」
父親「勿論、シをベース音にしてほしければ、わざわざ「G/B」と書く」
ハル「そういうことか」
父親。ギターを抱え、弾き始める。
父親。別な曲。
父親。別な曲。ハルはベッドに座って漫画を読み始める。
父親。別な曲。窓の外は夕方の色。
ハル「いつまでいるの?」
父親「気が済むまで」
ハル「冗談じゃない!」
ハル「ところで、ギターでワルツの曲もあるんだね」
父親「ワルツじゃないぞ」
ハル「でも、3拍子だったし」
父親「ワルツの特徴のひとつが3拍子だが、ワルツ以外でも3拍子の曲はある」
ハル「でも、テレビでは「3拍子だからワルツ」って言ってたよ」
父親「その部分だけを取り出したら誤りだが、前後関係や場面によって、正しいセリフなんだろうな」
ハル「ワルツ以外の3拍子って? 具体的に」
父親「むむむ……」答えに困る。「走攻守の3拍子……、飲む打つ買うの3拍子……」
ここで、妖精ちゃんが助けても良い。
ハル。父親に気遣いして「ロックとロックンロールも、違うんでしょ」
父親「そう。ロックはこうだ」ギターで、パワーコードを多用する。
父親「これは「パワーコード」といって、和音のうち、3度音が無いコードなんだ」
ハル「え? そしたら、長和音か短和音か、わからないでしょ」
父親「そうなんだ。和音には「3度音が必要」という音楽理論があるが、音楽理論の種類によっては、別な音楽理論に反することもある」
父親。ロックンロールを弾く。
ハル「あ、これは知ってる。ロックンロールでしょ。主和音なのに、7の和音でしょ」
父親「そうだ。芸術は自由だから、セブンスなら、主和音ではないという規則は無い」
父親。弾き始める。『ハウンドドッグ』『ベートーヴェンをぶっ飛ばせ(ロールオーバー・ベートーヴェン)』など。著作権の関係で、既存曲が使えなければ、このアニメ用の、それっぽい曲でも良い。伴奏だけでもロックンロールは表せる。
父親。別な曲。
父親。別な曲。
ハル。ベッドに寝そべって、漫画を読む。窓の外は夜で、カーテンを閉める。
ハル「いつまで歌うの?」
父親「気が済むまで」
ハル。ちょっと呆れて、溜息。「じゃあ、ジャズは?」
父親「音楽のジャンルは、国境線の無い文化のようなもんだ。街並みや食文化で、ここはあの国かと思ったら、隣の国だった」
父親「国境線があれば、ここはどの国かと決まっているが、国境線が無ければ、何となくあの国っぽい、この国にも似ていると感じる。近隣国では文化が似ることはあるだろう」
父親「かと思えば、和洋折衷というように、ずっと遠い国の文化を取り入れられていたり」
父親「音楽のジャンルも、ジャズっぽいなとか、ロック調だとか、そんな感じに思っておけばいいんだよ」
ハル「ジャンルには、定義は無い?」
父親「あったり無かったり。3拍子のマーチ(行進曲)もあるくらいだから」
ハル「行進曲なのに?」
父親「そう」
ハル。ショージを思い描く。ショージが「3拍子でも、3本脚では歩かないよ」と言っている。
父親「ジャンルは、大雑把なところもある。「広い意味では」とか「狭い意味では」とか、言うことがあるだろう。狭い意味での特徴を言って、広い意味の名前を言ったら……」
ハル「広い意味の名前?」
父親「そうだなあ。フリージャズとかの、狭い範囲での特徴として、楽譜が無くて、アドリブが多いという特徴を言って、広い意味の「ジャズ」と言ったら、ジャズに詳しい人にとっては、訂正したくなるんじゃ、ないかな」
ハル「じゃあ、アドリブが少なくて、楽譜にしっかりと書かれているジャズって、あるの?」
父親「ビッグバンドジャズが、そうだな。テンションを多用した和音を、しっかり考えて楽譜を書く」
ハル「へえ、ジャズも、大雑把な呼び方もあれば、細分した特徴の名前もあるんだ」
父親「ただし、ビッグバンドでも、ソロやアドリブも演奏するから」
ハル「うん。ジャンルの定義って、「それは外れている」って思われるような言い方は、気を付けるようにって、教わった」
父親「定義と言えば、アニメに使われていたらアニメソング。だけど、昔のヒット曲をアニメが使ったら、その曲は、途中からアニメソングになるだろう」
ハル「あっそうか」
父親「こんなアニメソングもあるぞ」ギターでエンディング曲を弾く。
▽ 場面変更 ● ── ●
エンディング曲。
父親がエンディング曲を弾いているところで、場面転換し、翌日のハルとステラの下校の場面と重なる。エンディング曲なので、クレジットが表示されている。
セリフと歌声が混じると聞きにくいので、メロディは別な楽器でも良い。ギターとメロディ楽器のアンサンブル。
エンディング曲が続いているまま、翌日になる。
ハルとステラの下校途中。歩きながら話している。
この場面の途中まで、父親のエンディング曲でも良い。
ハル「……ということがあって、父さんがギターを弾き始めると、止まらなくて」
ステラ「そうなんですか。楽しそうですね」
ハル「嬉しいけれど、過ぎたるは及ばざるが如し」
ステラ「ふふっ」
ハル「あ、でも、ヤッ子先生も、父さんも、迷惑じゃないからな」
ステラ「わかってますって。早坂さん、いつも楽しそうですし」
この場面で、ステラは軽い敬語だが、同級生なので、平易な言葉遣いでも良い。ステラがハルに片想いしているので、どのような話し方が良いか未定。
ハル「うん。父さんは意地悪でギターを横取りしたんじゃないし」
少しの間。
ハル「父さんは、意地悪でギターを横取りしたんじゃない。色んなジャンル、色んな表現方法を、実際の演奏で示したんだ。まあ、久し振りにギターを弾いて、楽しい気持ちにもなったんだろうけど」
ステラ「楽器の演奏を始めたら、止まらなくなったんですね」
ハル「父さんと、ヤッ子先生と、それぞれが丁寧に教えてくれる。父さんも、ヤッ子先生も、どっちも、うーん、お父さんはヤッ子先生の教え方を否定しないし、ヤッ子先生もお父さんの教え方を否定しない」
ステラ「教える人が、何人かいたら、喧嘩になりそうな気もするけど、そうならないのは、嬉しいですね」
ここで、シメジ婆さんから聞いた話をするのは、2種類を用意している。『三人菩薩は修羅となる』と、イソップ童話の『狐と鶴』を狐の立場から解釈した話の、どちらかを使用する。
ハルが、シメジ婆さんから聞いた話を、ステラにする。
ステラ「早坂さんが素敵なのは、シメジ婆さんのお陰なんですね」
ハル「うん。みんな、シメジ婆さんが大好き。ステラにも会わせたかったな」
▼ Cパート。 ▼── ──▼
吹奏楽の先生の自宅。
本棚には、音楽関連の書籍が多い。身長より低い本棚の上、黒いリボンが巻かれたタロットカードの箱。それは、週刊誌サイズの額の手前に置かれている。
額には、吹奏楽の先生が子供の頃に描いた、誰かの顔の絵。絵の手前の右下部分には、誰かの顔写真が添えられている。顔写真は、ガラス面に光が反射し、よく見えない。
隣には、結婚式の写真。
この、黒いリボンのタロットカードは、次回(第12話)のOP曲前が初出でも良い。
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
吹奏楽の先生。新婚時代。
妻「結婚式の写真が届いたよ。ここに置いていい?」本棚の上の、夫が描いた絵の額の隣に、結婚式の写真の額を置こうとする。
夫「いいよ」
妻。額の絵を見る。幼少の頃に描いたシメジ婆さんの絵。絵には、幼児らしい下手な字で「シメジばあさん」「すき」と書いてあるが、妻の頭部などにほとんど隠れて見えない。
妻「あなたの、子供の頃の絵なの?」
夫「そうだよ。俺の初恋の人」
妻「へぇ、初恋の人を、描いたのね。かわいいね」幼少の頃の夫が、シメジ婆さんに甘えている様子を想像する。
夫。タロットカードを持ち出す。「そうだ、俺達の今後を、占ってみようか」
妻「もしかしたら、あたしが恋のライバル、あなたの初恋の人に、負けちゃうかも」
夫「ははは……」タロット占いする。
夫「おや、まずまずの結果だ。自分達を信じていれば、夢が叶うって」
妻「夢って?」
夫「俺達の夢は、決まっているだろう。家族みんなで、幸せになるってこと」
ロマンチックな気分でキス。
妻「ねえ、初恋の人を占ってみない?」
夫「占いなんてしなくても、幸せだよ。みんなに好かれているし、これからもずっと幸せだよ」
妻「そうね、何しろ、あなたが恋するくらいだもの」
夫。占う。カードをめくり、置き、めくり……。手の動きが遅くなる。口角が、どうしようもなく、どうしようもなく下がる。カードをめくり、置く。涙がボロボロと落ちる。
占いの場面では、妻は描かない手法が良いか、思案中。
▼ 次回予告。 ▼── ──▼
ハルがヤッ子に、ギターの弾き語りをして、
存在しない模様が浮かび上がり、
手拍子の数が、おかしくなるぞ。
ショージ、その手に持っているのは、何だ!
▼ 1コマ漫画。 ▼── ──▼
ミッツの質問に、音楽の先生が困っている。
ミッツ「目玉焼きには、醤油? ソース? 塩?」「カレーライスには、豚肉? 牛肉? 鶏肉?」
音楽の先生「ですから、それは、お好みで」
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