第10話 Aパート
【前書き】
楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。
人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。
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■■■■ 第10話。
▼ サブタイトル。 ▼── ──▼
これでも楽器なのか。
▼ OP曲前。 ▼── ──▼
OP曲前の定型。他の登場人物は知らない、過去の出来事。
ハル(小学2年生の頃)、ミッツ(小学3年生の頃)。
ハルの一人称は、ミッツに対しては「俺」だが、ここでは小学生時代なので「僕」としておく。
ミッツの家。表札の「蜜霧」。ミッツの顔だけのセリフ「あたしは蜜霧多岐(みつきり・たき)。ハルの従姉だよ」。
台所で並んで、食器を洗っている。従姉弟同士なので、互いの家では、家事を手伝う。
ハル「昨日は、誰も遊んでくれなかったから、シメジ婆さんの所に行って来た」
ミッツ「あ、あたしも誘ってくれれば良かったのに」
ハル「ああ、そうだけど、友達と一緒に来てる奴は、ほとんどいないな」
ミッツ「そうだね、どうしてだろう?」
ハル「最後までまあ君が残ってたな」
ミッツ「お母さんの帰りが遅い子って、いつまでも残っているらしいよ」
ハル「僕も聞いた。そして、夕飯を食って帰るんだろ?」
ミッツ「違うよ。ご飯は、家族と食べなさいって。それでね……」食器洗いが終わって、手を拭く。「……おかずを作って、お土産にするんだって。お母さんが夕食を作る手間が減るからって」
ハル「へえ、そうなんだ」
ミッツ「はい、終わり。あたしの仕事は終わったから、あとはヨロシク」
ハル。わかったの意味で「ンー」のような声。
ミッツ。台所から離れて、ソファに身を投げる。「ついでに、シンクも擦り洗いしてねー」
ハル。少し不機嫌に「ンー」のような声。
ハル。洗い終わったコップで、グラスハープ。水を入れたタライの上で、コップの縁をこすっている。
ミッツ「ねえ、なあに? 今の音」怪しむ。
ハル「テレビでやってた」
ミッツ「何の音?」台所に近付く。「ああ、コップだ」
ハル「知ってた?」
ミッツ「音が出るのは知ってたけど、こんな風に、ずっと鳴らそうとは思わなかった。ハル、面白いじゃなーい」軽く肘でつつく。
ハル「こうすると、音が変わる」
水を入れたコップを、斜めにする。水を捨てて、タライの水に半分沈める。伏せる向きで沈めて、斜めになって水が入り「コポ」と鳴る。
ハルとミッツ。図らずも面白くて、笑って噴き出す。ミッツが鼻水を手で拭く。
▼ Aパート。 ▼── ──▼
校外で、美術の写生。ハルとステラが並んで写生。トロール将軍が見回っている。
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
美術室で美術の授業。先生はトロール将軍。ここで初めて、トロール将軍が美術教師だと明らかになる。
ハルとステラは、同じクラスなので、一緒に授業を受けている。
トロール将軍はジャージを着ている。首からは紐で、体育の授業で使う笛をぶら下げている。
身長2メートルの大柄。とても恥ずかしがり屋で、斜め下を見ながら話す。それなのに、言葉がはっきり聞こえる。
髭が、手品師のジョニオ、映画『ハリー・ポッター』のハグリッド(森番)、閻魔大王、または、それ以上。
髪はボサボサ。頭頂部よりも少し後ろ側のハゲは、逆さハートマークで、生徒からは「頭にケツ」「ケツハゲ」と呼ばれている。
恥ずかしがり屋で、怯えたような声と動きなのに、顔は戦っている将軍のような険しい表情。
生徒達は、トロール将軍を「面白い人」とは思っているが、馬鹿にすることは無い。美術の技術がすごいことと、言っていることに意外性がありながら、的確だから。
トロール将軍「来週は、近所の川原に行って、外で絵を描きましょう。外に出られるんですよ、嬉しいですね、天気が良ければ」
トロール将軍「みんながいつも使っているのは、シャープペンシルとか、鉛筆とか、ボールペンとか、硬いものですね」
トロール将軍「だから、外では、色鉛筆を使います」
トロール将軍「近くの公園には水道もあるので、水彩絵の具でもいいんですが、不慣れな場所で、普段は使わない不慣れな道具では、不本意な出来になって、ストレスの原因になりますからね」
話しながら、首から下げている笛を、指でつまんで、こすっている。
トロール将軍「それから、ちょっと困るんだけど、ほら、横着(おうちゃく)してさっ、川の水で筆を洗ったりすると、困るからね」
トロール将軍「ご近所さんから、僕が叱られるだけじゃなく、お魚さんに申し訳ないからね」
ちょこまかと、歩き始める。
生徒。小声で「ばれなきゃいいよな」
トロール将軍「ばれなきゃいいってもんじゃないよね。それって、ばれてもいいって居直ることもあるから」
トロール将軍。笛をつまむ。
トロール将軍「シメジ婆さんが言ってたもん。ばれたらまずいってのは、ばれなくてもまずいって」
トロール将軍「わざと良い人になってみようよう」
生徒。トロール将軍の「ようよう」に反応。
トロール将軍「1人だけなら隠れてそっと悪いことをする。「一部の人のマナー違反」だって、人数が多ければ大変だし」
トロール将軍「2人以上なら、ふざけ過ぎることもあるよね」
トロール将軍「だからさ、みんながうっかり……」机上のメモが視界に入る。来週の写生の注意点がいくつか書いてある。その中に、「偶然の風景を利用して」と書いてある。
トロール将軍「ボク、面白い形の石に、顔を描いたりするのが、好きなの」
生徒「知ってまーす」何人かが笑う。
トロール将軍「うん。自然の石だったら、形を変えることはできないけど、見た風景だったら、好きなように形を変えることができるよね」
生徒「それって、写生ですか?」
トロール将軍「見たままを絵にするなら、写真を見ながら、こうして机の上の方が、上手にできるよね」
トロール将軍「近所の、見慣れた風景だけど、絵を描くつもりで見ると、新鮮な発見があって、時間内に面白い思い付きをして、描き終わるのが、大変なんだな」
生徒「面白い思い付きって、なんですか?」
トロール将軍「風景を見て、無理に見れば、寝そべった猫っぽいなぁーって思ったら、隠し絵のように、風景画の中に、寝そべった巨大な猫を描いちゃっちゃりして」
生徒。トロール将軍が上手に言えず「ちゃっちゃり」になったので、くすくす笑う。
トロール将軍「踏切の警報機のランプの向こうに、カマボコ屋根の倉庫があって、この角度から見たら、おかっぱ頭の顔にサングラスっぽく見えたりするね」
黒板に、絵を描く。倉庫の正面入り口の大きなシャッターが、口のように見える。これだけなら、目が無いので、顔のようには見えない。そこに、踏切の警報機のランプを書き加える。
美術教師なので、妖精ちゃんの手助けが無くても、話しながら、描くのが速い。
トロール将軍「まあ、実際には、そのように重なって見える場所は無くても、絵だから自由に、重ねて描くこともできるよね」
トロール将軍「スポーツは練習をするけど、芸術の感性は、自分の内から湧き出るものだから学ぶものではないとか、天から降って来るアイディアをひたすら待つとかって話があるよね」
トロール将軍「でも、感性を磨くのは、豊かな経験だって話もあるよね」
トロール将軍「奇跡的に、良いアイディアを思い付くこともあるけど、それは運が良かったんだ。実力ではないけど、喜ばしいね」
トロール将軍「意外だと思われるだろうけど、いい思い付きも、練習で上達するんだな」
トロール将軍「技術は表裏一体で、殺し屋さんの能力は、お医者さんの能力と、似ているところが多いらしいよ、よく知らないけど」
生徒。トロール将軍の「殺し屋さん」に、くすくす笑う。
トロール将軍「人付き合いも練習だよね、ボクは、練習しても苦手だけど」
生徒「知ってまーす」何人かが笑う。
トロール将軍「殺し屋さんと、お医者さんの、表裏一体と似てるけど、人付き合いが上手になっても、悪い使い方じゃなく、いい使い方をしてほしいですね」
生徒。トロール将軍の話が迷走したので、戻そうとする。
生徒「感性を磨く練習って、どうやるんですか?」
トロール将軍「え? ああ、うーんと……」
生徒「ほら、しゃべっているのを邪魔したから、トロール将軍がうろたえた」
生徒「トロール将軍って、用意していることが話せなくなったら、迷子になるんだ」
ステラ「トロール先生。先生は、どんな練習をなさっているのですか?」
トロール将軍「絵は、一瞬で全体が見えて、音楽は時間の順番がありますね。時間と共に、嬉しい驚きのある音楽を、どうやったら絵でもできるかなって考えたり」
トロール将軍「考え続けるのは大切だよね。でも、休みも大切だよね。考え続けて、疲れたら、休んで、そしたら、いいアイディアが出るんだな」
生徒「休んでいる時に、良い案が出るって、本当ですか?」
トロール将軍「うん、僕の経験だけど、1時間に1回の休憩したら、いい感じ。でも、いいアイディアのための資料が、頭の中に無いと、休んでも、何も出て来ない」
トロール将軍「考えて、資料を仕入れて、考えて、資料を仕入れてって、行き詰まったら休憩」
トロール将軍「それとか、何人かがダンスの掛け合いをしていて、どうやったら、彫刻で表現できるかなと考えたり」
が~まるちょば(がーまるちょば、パントマイム)が2人組だった頃の芸や、空転軌道(3人組ジャグリング)から、「合いの手」のアイディアを得るとか。
この話は、第10話で美術のアイディアの例と、第12話で編曲のアイディアの例で、共通している。
ステラ「考え続けるんですね」
トロール将軍「そう、いつも考える。何か、いいアイディアがないかなって」
トロール将軍「そうしてると、アイディアを思い付くのが、素早くできるようになる。これが、練習」
トロール将軍。話が繋がったので、安心する。
トロール将軍「理屈はわかっているのに、思い通りにならないのは、スポーツと似ているよね。当たり前に、自然にできるように、練習する」
トロール将軍「駄作ばかりだったとしても、山のように、描いて描いて描きまくる」
トロール将軍。話の筋が変わって行く。
生徒「先生、風景画の中に何かを見付けるのも、練習ですか?」
トロール将軍「そう、来週になっていきなりじゃ、大変だよね。今のうちから、練習を始めたらいいね」
トロール将軍「例えば、野に咲く花の群生があったら、電柱をこんな風に描いて、右半分にお花畑、左半分を住宅密集地に……、あ、ちょっと待っててね」
美術準備室に行く。生徒たちは雑談。ハルはぼんやりと天井を見て、何かを考えている。
トロール将軍。戻って来る。画集を広げて「これだよ、これ、見てみて」雪舟の画集の、『秋冬山水図(冬景)』のページを広げている。
トロール将軍「こんな風に、2つの世界を1枚にして、お花の群生と、住宅密集地を1枚の、2つの世界を、一緒に1枚にしても面白いね」
生徒「そんなアイディア、すぐには出ません」
トロール将軍「だから、来週の写生の日までに、アイディアを思い付くシミレーションをしていてくれたら、嬉しいな」
生徒達「「シミレーション」って」くすくす笑う。
ハル。挙手して「先生」
トロール将軍「はい、どうぞ」
ハル「隠し絵と言うので、トリックアートの見本かと思いました」
トロール将軍「あ、ごめんなさい。ぱっとこれを思い付いたからね。トリックアートや、エッシャーのようなものもいいですね」
トロール将軍。笛をつまむ。
▽ 場面変更 ● ── ●
回想が終わり、さっきの続き。
ハルとステラが並んで写生。
二人とも、時間に余裕がある。
ハル「ステラは、転校してから、音楽を始めたんだろ」
ステラ「そう。それまでは、普段の生活に、楽譜なんて使わないし」
ハル「ステラなら、わかるかなあ」
ステラ「何?」
ハル「音楽のテストで、「ト長調の音階を書きなさい」の問題で、「ド、レ、ミ、ファ♯、ソ、ラ、シ、ド」って書いたら、バツだったんだ」
背景に問題用紙。五線とト音記号。そこに手書きで、♯が1つの調号と、音符は下第1線の「ハ」から、1オクターブ上の第3間の「ハ」まで。手書きがわかるように、鉛筆の先で順番にトントンと叩きながら出現する。
ステラ「あたしはマルだったよ」
ハル「何ぃ、何でだよ」
ステラ「同じ回答じゃないよ。「ソ、ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ♯、ソ」って書いたの」ハルと同じ問題用紙。調号はハルと同じ。音符は、第2線の「ト」から、1オクターブ上まで。
ハル「どっちだって、同じだろう」
ステラ「音階は、「どこから始まって、どこで終わる」も一緒に、テスト問題になってるの」
ハル「いや、どこからだって、同じだろう」
ステラ「あたしも、そう思うんだけど、トロンボーン先輩が「とりあえず、そういうもんだ」って言ってた」
ハル「なんか、いい加減だな、トロン先輩。三三七拍子の話も、4拍子だって説明が不十分だし」
ステラ「先輩は、ちゃんとしてるよ」
ハル「ちゃんとしてないから、「とりあえず」なんて言い方なんだろ、トロン先輩」
ステラ「どうして、そんな言い方するの! 信じられない」
ハル「トロンボーン先輩だから、トロン先輩。ステラに、ちゃんと教えてくれないかな」
ステラ。急に黙る。絵を描くペンが震える。涙を拭きながら、立ち上がって、どこかに行く。
▽ 場面変更 ● ── ●
放課後。音楽室。
ハルとミッツ。
ハル「音楽のテストで、ト長調の音階で「ド、レ、ミ、ファ♯、ソ、ラ、シ、ド」って書いたら、バツだったんだ」
ミッツ「当たり前でしょ、ト長調なんだから」
ハル「何が当たり前なんだよ」
ミッツ「音階は、「どこから始まって、どこで終わる」が決まってるんだから」
ハル「とりあえず、そういうもんなのか?」
ミッツ「「音階を答えなさい」って問題でしょ? だったら、音階スライドの、左端から右端までを答えればいいんだよ」
背景で、鍵盤モノサシの上を、音階スライドが左右に移動する。念のため、指し棒で「鍵盤モノサシ」と「音階スライド」も表示する。
ハル「あ、そういうことか」
ミッツ「ト長調の音階で「使われる音は何か」って設問なら、ハルの答えだって正解。でも設問は「音階は何か」だからね」
ミッツ「ピアノの白鍵だけなら、ハ長調でしょ」
ハル「そうだな」
ミッツ「ハ長調の音階は、ドから始まって、ドで終わる」ピアノで、ドからドの1オクターブを弾く。素早く何度も往復。
ミッツ「これが、普通の音階」
ミッツ「これを、白鍵だけのハ長調なのに、例えばミから始まったり、ソから始まったりすると、こうなる」ピアノで、ミからミの1オクターブを弾く。素早く何度も往復。ピアノで、ソからソの1オクターブを弾く。素早く何度も往復。
ミッツ「どう?」
ハル「え? それって、本当にハ長調か?」
ミッツ「ハ長調で使う鍵盤だけ、つまり、白鍵だけだよ。でも、始まりを変えただけで、ハ長調っぽくないでしょ。だから、どこから始まるかってのも答えるのが正解」
ミッツ「第6話での、長調と短調の話で、ヤッ子先生が言ってたよね。教会旋法は白鍵だけだから、ハ長調と同じ鍵盤だけど、主音が違うと印象が変わるって」話しながら、ちょっと憤慨したように、足音を大きくして、書棚に行く。
ミッツ。書棚から、学校に配布される副読本を取り出し、『グリーンスリーブス』のページを開く。
ミッツ「ホラ、この曲は、調号のシに♭がある、ニ短調の曲。だけど、せっかく調号でシに♭を付けたのに、メロディではナチュラルになっている」
ハル「本当だ。だったら、調号に♭なんて、付けなくていいのに」
ミッツ「調号に♭が無ければ、ハ長調と勘違いするでしょ。主音がレ、つまり、音階はレから始まってレで終わる。それを知らせるために、♭があるの」
ハル「そうか。だから、ぱっと見て、すぐに「レが主音」とわかるのか」
ミッツ「でも、ニ短調のように見せて、本当は教会旋法の「ドリア調」だから、ヤッ子先生は、「乱暴な言い方だが」って前置きして、「長調」と「短調」のどちらかに集約って言ったの」
ミッツ「音階は、どこから始まって、どこで終わるかってのが重要。主音から始まって、主音で終わる。ト長調だったら、「ト」が主音だから、「ト」の鍵盤から始まって、「ト」の鍵盤で終わる。わかった?!」
ハル「そういうことかぁ?」考え込む。
ミッツ「納得できないの?」
ハル「あ、そうじゃなく、ミッツの答えは納得できたけど、なんでステラが泣いたのかな」
ミッツ。憤慨して、ハルを責める強い口調で。「ステラちゃんを泣かせたの?! ねえ、あんた、泣かせたの?! ひっどーい!!」
ハル「だから、わからないんだよ。始まりが違えば、雰囲気は変わるのはわかったけど、それで泣くのかなあ。トロンボーン先輩は、そこまで教えてくれたとは思えないしなぁ……」
ミッツ。ハルの「トロンボーン先輩」の言葉に反応する。「ちゃんと話してごらん、お姉さんが聞いてあげるから」
ハル。考え込む。「何がいけなかったんだ」悩んで、髪の毛に、指を入れる。
ミッツ。ハルにヘッドロック。「だーかーらー。ちゃんと話してごらんって、言っ! てん! のー!」
……ちょっと、間。
ハル「……というわけです」
ミッツ。呆れて、鼻から大きな溜息。鼻水が出たのを隠すために、鼻の下にぼかし。
ハル「何か、鼻から出たぞ!」
ミッツ「そういう時は、気付かないふりで会話を続けて、行動ではそっとティッシュを渡しなさい。いい! よく聞きなさい。女の子には、気付かない素振りで、そっとティッシュ。これは、鉄則!」
ミッツ。自分でポケットティッシュを出して、鼻を拭きながら「女心をまるで知らないんだから」
ハル「でも、最も身近な女は、ミッツだし」
ミッツ「それが何だっていうのよー!」
ミッツ。ハルの胸倉をつかみ、大きく前後に振る。そのままコブラツイスト。
ヤッ子。廊下を歩いている。通り過ぎようとしていたが、音楽室のドアの窓を一瞥し、中のコブラツイストの姿を見て、気になって、音楽室に入る。
ヤッ子「何をしているんだ?」ハルとミッツの髪の毛を、軽く鷲掴みする。
ハル「ミッツから、女心を教わっています」
ヤッ子。心の声。「(大声が聞こえたが、トラブルじゃなくて良かった)」背景に注釈文「ヤッ子先生は、生徒同士のトラブルを、とても心配している」を表示する。
ヤッ子「そうか。しっかり学べ、若者よ」音楽室を出る。
ハル。小声で「女心とは思えない……」
ミッツ「なんだってー」力を強くする。
ハル。苦しそうな表情。
ミッツ「いい、ステラちゃんはね、トロンボーン先輩が、好! き! な! の! よ!」この、「好! き! な! の! よ!」一文字ごとに、体を揺らす。
ハル。驚いて、茫然とする。ハルが急に力を抜き、体は、骨が柔らかくなり、関節とは無関係にフニャフニャになる。コブラツイストが解けて(ほどけて)倒れる。
2人とも尻餅で、足が上向きになり、画面が天井を向く。
ハル。小声で「クマさんのパンツ」
ミッツ「バカ。短パンを履いてるよ」
▽ 場面変更 ● ── ●
吹奏楽部の練習。
ステラ。元気が無い。
トロンボーン先輩「どうしたの? 今日は元気が無いね」
ステラ「うん」
トロンボーン先輩「息の吸い方が、いつもより少ない」
ステラ「先輩は、ちゃんと私のことを、わかってくれてるんですね」
トロンボーン先輩「かわいい後輩のことだ、当たり前だよ」ステラの頭を、軽くポンポン叩く。
ステラ「先輩……。先輩はデタラメじゃないですよね。ちゃんとしてますよね」
トロンボーン先輩「そう言われて、「そうだよ」とは答えられないよ、わかるだろ」
ステラ「でも、先輩は、音階とか、色々教えてくれてます」
ショージ。ステラがトロンボーン先輩と親しく話しているから、嫉妬して会話を邪魔する。振り返って。「先輩、彼女は元気ですか?」
ステラ。ショージを睨む。
トロンボーン先輩「お前、俺の彼女のことを知ってるのか? どこで会った?」
ステラだけでなく、ショージも驚く。ショージは、トロンボーン先輩がステラと親しく話しているので、嫉妬して、意地悪な質問をしただけ。
ステラとショージが同時に思う。「(先輩には、彼女がいたんだ)」
トロンボーン先輩。心の声。「(あいつと付き合っていることは、秘密にしているのに)」背景に、ステラと一緒にストローオーボエをした、ムギ(大吠麦穂、おおぼえ・むぎほ)の、第3話の「もう一回シャワー浴びてから」を表示。
ステラにとっては、片想いしている相手であるトロンボーン先輩と、仲の良い同級生であるムギが、付き合っているということは、夢にも思っていない。
ショージ「相手は、誰ですか?」
トロンボーン先輩「秘密だよ!」
ステラ。たった今、失恋したばかりで、放心している。吹奏楽の先生の話も、聞こえていない様子。
吹奏楽の先生「前回の練習の後、ちょっと質問を受けたので、ここで皆さんにも、お知らせします」
吹奏楽の先生「吹奏楽団と、オーケストラと、ビッグバンドの違いです」
吹奏楽の先生「吹奏楽団と、オーケストラの違いは、ストリングスなど、楽器の数の違いです。吹奏楽は、その名の通り、吹奏楽器が中心です」
吹奏楽の先生「吹奏楽器は管楽器で、そこにバイオリン属の弦楽器が加わると、管弦楽団です。クラシック音楽でオーケストラと言えば、管弦楽団を最初に思い描きます」
吹奏楽の先生「とはいえ、「カラオケ」という言葉があるように、「オケ」と言えばいくつかの楽器があるという意味もあります」
画面で、吹奏楽団(打楽器は少し)。そこに、ストリングス、ハープ、木琴、多彩な打楽器が、出現したり消えたりして、「吹奏楽団」と「オーケストラ」の文字が、交互に強調される。
吹奏楽の先生「オーケストラの中でも、交響曲、シンフォニーを演奏できる規模なら「交響楽団」「シンフォニック・オーケストラ」と呼ばれたりします。コンサート用に、曲目によっては、演奏者や楽器を、一時的に増やすこともあります」
吹奏楽の先生「ブラスバンドの「ブラス」とは金管楽器のことで、金管楽器だけならブラスバンドという定義があります。日本では、木管楽器を含めた吹奏楽団でも、ブラスバンドと呼ぶことがあります」
画面で、画面左側に、金管楽器。上側に、文字の「金管楽器」に、「ラッパの仲間」を添える。下側に「「ブラス」とは、これ」を添える。右側に、木管楽器と、いくつかの打楽器。
全体の下段に、「プラスバンド」の文字を囲む、横長の長方形。「日本では、木管楽器も含める言い方がされる」を添える。
吹奏楽の先生「ここは吹奏楽部で、吹奏楽器以外に、打楽器もあります。ということは、「吹奏楽団」は「吹奏楽器だけの楽団」に限定しません。広く、多くの曲目に対応できるのが、便利ですね」
吹奏楽の先生「吹奏楽団とビッグバンドの、大きな違いは、ビッグバンドはジャズ発祥で、演奏曲はジャズを中心としていることです。ジャズだけ演奏すると宣言している楽団もあります」
吹奏楽の先生「ジャズでは、楽器に不慣れな人達が、身近にある楽器を用いた、人数の少ない楽団が多かった時代がありました。その後、充実した和声が出せるように、人数を増やしたのが、ビッグバンドです」
吹奏楽の先生「どの楽団の編成も、使用する楽器や人数などは、一応の「標準」や「基本的には」というのがありますが、厳密ではありません」
▽ 場面変更 ● ── ●
音楽室。さっきの続き。コブラツイストで転んだ後。
ミッツ。ピアノで『月の光』(ドビュッシー)を弾いている。
ハル。後ろから楽譜を見ている。「これって、Bさんの声部が、左手から右手に担当が移動するんだろう?」左手の速いアルペジオが始まった箇所を指す。
ミッツ。手を止める。「そういうのって、曲が終わってからにしてくれない?」機嫌が悪くなったミッツが、急にペダルを離した「ガコ」という音があっても良い。
ハル「あ、悪い。気になって」
ハルが楽譜に見入っているのを、ミッツが「仕方ないなぁ」という顔で見ている。
ヤッ子が入って来る。「おお、女心はわかったか?」
ハル「あ、ああーんと、痛いってこと」
ヤッ子「よしよし。それも女心の部品のひとつだ」
ヤッ子。心の声。「(良かった。もう、普通に仲良くしている。やはり、トラブルではなかったんだな)」
ハル「ヤッ子先生に見てほしい楽譜があるんです」ポケットから、コピー1枚の楽譜を出す。
ハル「これって、間違いですか? 父が、中学生の頃に先輩からもらったという楽譜なんですが」
見せた楽譜は、市販の流行歌の楽譜集の1ページ。歌とギター伴奏の2段。タイトルなどは活字だが、楽譜部分は手書き原稿から作成したらしい。
ハル「歌とギターで、タイミングが合っていないんですが」
下段のギターは、8分音符が8つのアルペジオ。上段の歌は、16分音符が8つ、続けて2分音符が1つ。
下段は1小節の横幅を、8等分したような書き方。上段は、16分音符が密集しているので、横幅の半分を超過している。そのため、2分音符の位置が、小節の横幅の半分よりも、右に押されてずれている。
このため、上段の2分音符の位置は、下段と比較し、右にずれている。
ヤッ子「これは、許容しよう。この時代の手書きであり、廉価ということで」
ヤッ子「本来なら、歌とギターに限らず、オーケストラのスコアでも、同時であれば、縦を揃えるのが正しい」
ヤッ子「揃えるのは、手拍子のタイミングだけでなく、音符なら「音が鳴り始める瞬間」、休符なら「音を止め始める瞬間」、どちらにしても、同時であれば、楽譜では縦を揃えて書く。無論、下書きならば、その限りではない」
ヤッ子「合奏では、全員が手拍子を合わせるのが大前提だ。手拍子を合わせるというのは、楽譜では、全員分の楽譜が、同じ進み具合をする。手拍子だけでなく、音符も休符もだ」
ヤッ子。黒板に楽譜を書く。上半分には、ハルが持参したずれた楽譜を模写。下半分には、その楽譜を縦に揃えたもの。縦に揃えた方は、16分音符が密集した部分は横幅がやや広く、2分音符の部分はやや狭い。
黒板の上方と下方の2つの楽譜は、共に1小節だけ。小節の横幅は同じ。
ミッツ。下方の楽譜を指して。「そうなんですよね。1小節の中で、横幅が変わることがあるんですよね」
ハル「横幅が変わる?」
ミッツ。上方の楽譜の下段の、8分音符が8つある箇所を、指でまるく指す。「ハルが持ってきた楽譜では、ここが、小節の横幅を、8等分するようになっているよね」
ハル「そうだな。細かいことを言うと、余白があるから、数学の図形としての「正確な8等分」ではなく、等間隔に8分音符が並んでいるな」
ミッツ。下方の楽譜の下段の、8分音符が8つある箇所を、指でまるく指す。「でも、こっちは等間隔じゃないでしょ」
ハル「確かにそうだな。第2話では、音符が多い小節は横幅が広く、音符が少ない小節は横幅が狭いと言っていた。1つの小節の中でも、横幅は自由なのか」
第2話で話していた楽譜の例を表示する。16分音符が16個の小節は横幅が広い。全音符だけの小節は横幅が狭い。
ミッツ「そう。こっち、下の楽譜は、左半分と右半分で、間隔は違うけど、上段と下段、歌とギターでは、同時」
ハル「同時に鳴る音は、縦を揃えて書くのが、大前提か」
ヤッ子「その通りだ。では、進み具合が、どう違うのか、色を付けると、わかりやすい」
何度か、演奏を繰り返す。演奏の音と、楽譜の進み具合を、黒板に書いた五線の小節の長方形の、色が変わる方法で表示。
色が変わりながら、下段のギターのアルペジオの、8分音符の位置を色の変化が通過する時、細い縦線が置かれる。これにより、「時間の等間隔」と「音符のバラバラの間隔」が示される。
ハルが持参した楽譜では、16分音符が密集している上段では色の変わり具合は速いが、8分音符で等分された下段では遅い。これにより、「同時に」が崩れていることを、視覚的に表す。
ヤッ子。何度かの演奏のうち、色の進み具合の違いを説明する。「ホラ、ここ、ここで、進み具合がずれる。わかるか? ここ、今、ここだ」
ハル「ヤッ子先生。ちょっと邪魔です」
ヤッ子。静かになる。その後、繰り返し演奏を何度か行い、演奏を終える。
ハル「僕が持って来た楽譜が、いつの時代のものか、わかりませんが、廉価ということもあって、誤りに気付かなかった振りをします」
ヤッ子「楽器によって拍子が異なる曲もあるから、その楽譜は「おかしい」と思われそうな書き方をしている。しかし、そのような特殊な曲の場合、「同時の音符や休符は、縦を揃えて書く」を、とても気を付けているのだろうと、私は推測する」
ミッツ「拍子が異なるって、『カエルの合唱』が、4拍子だったり、2拍子だったり、いくつもの版があるっていう話ですか?」
ヤッ子「その話ではないんだ。最初から、合奏のAさんは4拍子、Bさんは3拍子で演奏するように、書かれている」
ハル「3連符ではなく?」
ヤッ子「3連符が含まれていても、拍子は同じだ。拍子が違うと、小節線が、AさんとBさんで違うんだ」
ミッツ。大きく驚く。「そんな楽譜は、演奏できないでしょう」
ヤッ子「ジャンルの名前で、「ポリリズム」などを調べると良いだろう」黒板に、「4/4拍子」と「3/4拍子」の2段が、同時に演奏する楽譜を書く。
ヤッ子「ポリリズムだけでも、いくつもの種類がある。定義や名前は、誰かが勝手に決めて、普及するが、知りたくなった時に、知ればいいだろう」
ヤッ子「ほら、小節線がずれているが、同時に鳴らす音符は、縦を揃えているだろう。それから、既に話したが、複数の五線があれば、五線の左端が縦線で繋げられていれば、同時に演奏する」
ヤッ子の書いた2段の楽譜の左端は、カッコでまとめられていない。
ミッツ「本当ですね」
ハル「それって、こんな書き方をしませんか?」黒板に「4/4拍子」の楽譜に、8分音符3つを符桁で纏めたセットを書く。小節を跨る符桁もある。
ヤッ子「そうだ。代表となる拍子を、拍子記号で表して、それ以外の拍子を書くこともある。早坂君の書き方以外には、このような書き方のものもある」
ヤッ子。ハルと同じ楽譜で、符桁の繋げ方が違う、いくつかを書く。
ミッツ「ハルのお父さんも、第7話で言ってたでしょ、「読めるから、まあいっか」って」ここで、第7話のテレビ番組のスタジオ収録の場面を表示しても良い。
ヤッ子「同じタイミングで、縦を揃えるのが正しいが、全休符だけは例外だ」
ハル「全休符って、使い方がおかしいですよね」
ヤッ子「全休符がおかしいことに、気付いたか、さすがだな。全休符は、何拍子の小節であっても「この小節の全体が休み」にも使われて、その場合だけは例外的に、小節の横幅の中央に書かれる」
ハル「全休符は、小節の中央に書くのに、全音符は他の楽器と揃えるんですよね」背景に、3段の楽譜。1段目は全休符。2段目は全音符。3段目は4分音符が4つ。全音符は、1拍目の4分音符と縦が揃っているが、全休符は小節の中央にある。
ハル「全休符は除いて、オーケストラの楽譜も、全部の楽器で縦が揃っているんですか?」
ヤッ子「そうなのだ。楽譜浄書に、コンピュータが使われていなかった時代からそうだった」背景に「浄書」と、そのフリガナ。説明で「とてもきれいに楽譜を書くこと」を添える。
ヤッ子「ただし、これは推測だが、流行歌ではなく、クラシックのように販売期間が長いものだからなのだろう」
ハル「じゃあ、クラシック曲の楽譜は、誤りは無いんですか?」
ヤッ子「実は、あるんだ」
ハル「以前、話を聞いた、ドビュッシーの『月の光』の、連符の誤り以外にも、ありますか?」背景に、第8話の、連符のギュウ詰めを思い出すものを表示。
ヤッ子「珍しいと思うか、意外と多いと思うかは、人によるのだろうが、それなりに、見付かる。クラシックの分野で、楽器を続けている人に聞いてみると、参考になるかもな」
ハル「そうですか。例えば、どんな誤りがありますか?」
ヤッ子「例に出したら、出版社に対するクレームになるから、例は出さないでおこう」
ハル「え? 『月の光』は教えてくれたでしょ?」
ヤッ子「『月の光』は、昔からの誤りが引き継がれているから、どの出版社も同じだ。しかし、出版社の個別の誤りもあるから、ここでの紹介は望ましくない」
ハル「個別の誤りですか」
ヤッ子「楽譜の作成は、永く手作業の時代だったから、確認漏れを完全に無くすことは、難しい。出版社も、誤りを認知しておきながら、修正が難しい事情もあるだろうから、アニメで挙げるようなものではないだろう」
ハル「お願い、教えてください」
ヤッ子「もう、早坂君は、知りたがりだなあ。じゃあ、こっそり教えよう」
ヤッ子。画面に向かって。「早坂君は、余談が好きな性格だから、知りたがっているのだよ」
ハルとヤッ子が、こちらに背を向け、内緒話。
ヤッ子「ここは、和音の流れから、ここは「レ♭」ではなく、「シ♭」が正しい」
ヤッ子「ここの繰り返しの1番かっこは、1小節多い。オーケストラを聞きながら、この楽譜を読むと、この誤りがわかる」
ミッツ。待ちくたびれている。「ねえ、ピアノを弾いていいかなあ」
ハル「あ、ごめん。『月の光』だったよな」
ハル。思い出したように。「そういえば、AさんとBさん」ピアノの譜面台から、『月の光』の楽譜を取る。
ミッツ。不機嫌。
ハル。ヤッ子に向かって、楽譜を指す。「これって、右手だけで、AさんとBさんの演奏ですよね。この「ウンポーコ・モッソ」から」
ミッツ。鼻で笑う声。ハルとヤッ子が、声につられて見ると、ミッツが背中を向けている。ピアノの上には、ポケットティッシュ。
ヤッ子。改めて楽譜を見る。「ああ、ここか、「ウンポーコ・モッソ」の……」
ミッツ。こらえきれず、大きな笑い声が破裂する。「ぶはっ!」
ハルとミッツが、驚いて振り返る。
ミッツが、笑って涙を出している。
ハル。表現豊かに。「ウゥーン、ポコッ。モッソモソ。ウッ! ポコッ! ウンポコウンポコ、ウンポコウンポコ」おかしな踊りを始める。
ミッツ。床に頽れる。
ヤッ子「話が進まないから、笑いを止めなければな」
ハル「これは、止まらないでしょう」
ヤッ子「蜜霧君。今の言葉を、東海林君が言ったと、想像してごらん」
ハル「?」
ミッツ。笑いが止まる。
ハル「魔法だ」
ヤッ子。少し得意気な顔。改めて、楽譜を見る。「どれどれ? ああ、そうだな」
ハル「ここ、BさんがAさんを邪魔しているようですが」
ヤッ子「そうなんだ。Bさんの最後の音と、Aさんの次の音が同じだから、邪魔になるんだな」
画面に楽譜を表示する。右手だけのAさん、左手から右手に渡されるBさん、左手だけのCさんを色分けし、指し棒で「Aさん」「Bさん」「Cさん」を示す。
ヤッ子「しかも、このテンポで、左手がこの跳躍をするのは、ああ、跳躍というのは、遠い距離にジャンプするのを、音楽では跳躍と言うのだが」
ハル「はい」
ヤッ子「この跳躍は無理だから、左手のBさんの最後の音符は、右手で鳴らして、続けてAさんの最初の音も右手だ。右手が同じ鍵盤を連打する演奏になる。これを、演奏で「違う声部だ」と表現するのは難しい」
ミッツ「それって、暗にあたしのピアノが下手だってこと?」
ハル「そう、聞こえたのか」
ヤッ子「この曲は、そんな曲だからって言ってしまえばそれまでだが、工夫することもできるな」
ハル「工夫って?」
ヤッ子「メロディが明確になるように強くする。または、メロディを別な楽器で演奏する」
ミッツ「別な楽器って、ずるい!」
ヤッ子「ずるいって……」
ミッツ「じゃあ、あたしがこれまで頑張って来たのが、無駄っていうこと?」
ヤッ子「そんな風に考えるのは勝手だが、他人の工夫を「ずるい」と言うのは気を付けたいな、芸術なんだから」
ミッツ。静かに「はーい」
ハル「静かな曲だから、静かな笛みたいな音色がいいかな」
ミッツ「笛?」
ハル「なんていうか、こう、ほわほわーんっていう」
ミッツ「コップの縁をこするような」
ハル「コップの縁?」
BGMで、『月の光』をイントロから演奏を始める。時間に合わせて、半分以上は省略するのが良さそう。
ミッツ「ほら、ずっと前、ウチでやったじゃない、台所で。コップを洗ってて、ハルがやったじゃない」
ハル「ああ、あれか」
ヤッ子「何の話だ?」
ミッツ「ハルが、コップをおもちゃにして、面白い音を鳴らしたんです。コップを水に浸して、濡れたコップの縁を指で、こう、くるくると」指を動かして表す。
ヤッ子「それは、グラスハープだな。楽器だぞ」
ハル「楽器なんですか?」
ヤッ子「楽器だ。ワイングラスをいくつもテーブルに置いて演奏することもあるし、機械化しているものもある」
ハル「機械化?」
ヤッ子「自転車のベルのようなドーム型のガラスが、大小たくさん重なるように並んで、串刺しになっている。「横向きに積み重なっている」とでも、言おうか。その串が電動で回転して……」思い描く様子。
ヤッ子「うーん、言葉で説明するのが難しいので、絵に描こうか」黒板に向かう。
ミッツ。ヤッ子が描き始めたところで「あ、そんな形ななんだー」
ヤッ子「どうして、私が思い描いた形がわかるんだ! ……」振り返って「……さては貴様、エスパーだな」
ミッツ。ハルがスマホで検索した画像を見ている。
ヤッ子。脱力し、スマホを見て。「エスパーの道具」
ハル「グラスハープって、傾けたりすると、音の高さが変わりました。そんな仕掛けは無いんですか?」
ヤッ子「あるかどうかは知らないな。グラスハープで『月の光』のメロディ担当か。それもいいな」
BGMが前面に。『月の光』の、「ウンポーコ・モッソ」に入る。メロディを、グラスハープ(シンセサイザーで代用可)で演奏。7小節目のE♭mまで。楽譜の、グラスハープの音符の色が変わり、音が鳴り続けていることを、玉から延びた色で示す。
▽ 場面変更 ● ── ●
夕方、ステラの家。CM明けは、夜の場面になるので、夕方であることを強調する。まだ電灯は点けずに、夕焼け色が部屋に満ちている。
ステラ。自宅で勉強中。しかし、教科書を開いたまま、イタリア語の音名「レ」の巻き舌の発音を練習。
メルヘンの小物を飾っているコルクボードには、トロンボーン先輩の写真(デコレーションされている)も貼っている。
この、トロンボーン先輩の写真の場所は、わかりやすくするために、コルクボード全体を見せ、目立つ何かがあり、その隣というようにする。
巻き舌の練習は、少し休憩。ふと、思い立ち、電灯を点ける。カーテンを閉める。
くるりと振り返り、コルクボードの、トロンボーン先輩の写真を剥がす。剥がした後のコルクボードには、日焼けの跡がある。転校後の短期間なので、日焼けの跡があるのは非現実的なので、無くても良い。
手に持った写真に向かって、あかんべぇをする。
写真を、手持無沙汰で団扇のように動かして、部屋の中を見渡す。
ステラ。独り言。「さあーってと、どうしようかなー」
押し入れから段ボール箱を出し、小学生時代の教科書の間に写真を挟む。段ボール箱は、元々はメルヘンの梱包箱、または、書籍取次店の梱包箱でも良いが、情報過多の懸念があれば、無地でも良い。
段ボール箱には、貼り紙で「教科書 小学校」「小学校の思い出」などと書いてある。
ステラ。独り言。「いつか、教科書を開いた時が、お楽しみっと」
ステラ。段ボール箱をしまい、押入れを閉めて、襖に向かって、腰に手を当て、仁王立ち。「ふー」っと、大きな息。泣き声。額を襖に付けてもたれる。
ステラ。回れ右し、立ったまま襖にもたれる。腕を顔に当て、顔は上を向いて、泣いている。涙が流れている。
この、襖にもたれて顔を上に向けることで、未来に向かう印象になる。額を襖に付けて、そのまま座り込む程には、失恋の疵は深くない。
机の上の教科書。隙間に、紙片が挟まっているが、ステラは気付いていない。
▼ CM明け。 ▼── ──▼
CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。
夜、ステラの家。
ステラ。自宅の台所。就寝前のパジャマ姿。
ステラの自宅の台所は、第9話で、大人の女性と料理を作る場面がある。
パジャマの例。パジャマなのに、ヤバいTシャツのように、文字が書かれている。大きな文字「さわるな危険」や、耳なし芳一のような小さな文字で四字熟語がたくさん。錯視でぼんやり動いて見える、陰影のある柄。
パジャマは、メルヘンのフード付きでも良い。旅館で着るような浴衣でも良い。
ステラ。怒った口調と表情。心の声。「(ふん! 男なんて、男なんて、男なんて!)」
背景で、2頭身のステラが、2頭身のトロンボーン先輩に背を向けて、怒っている。2頭身のショージも現れ、ステラは向きを変え、ショージに背を向けて、怒っている。
ステラ。マグカップにマシュマロを5つくらい入れている。背景に、「ステラ、就寝儀式中」を表示する。
ステラ。独り言。「マシュマロって、口にポイポイと放り込んで食べるより、温めた方が、断然おいしいんだよね。キャンプの焚火で焼いて食べるのも、楽しそう」
マグカップに、廉価の一口チョコ(「アルファベットチョコ」のようなもの)を、3つくらい追加する。電子レンジで温める。
ステラ。待っている間に、独り言。「もちろん、ガスレンジで焼いてもいいよね。焼き方は2種類。割りばしにマシュマロを刺して」背景に、空想で説明。
ステラ。独り言。「方法その1。焦げ目あり。燃えない程度に、焦げ目が付いたら、少し硬くなった表面をむくように。中はまだ温まっていないから、もう一度焼く」背景に、玉子焼きの「だし巻き」をほどくような絵。
ステラ。独り言。「方法その2。焦げ目無し。ガスを弱火にして、少し離れた高い位置で、ゆっくり温める。全体がまぁるく膨らんだら食べる」
ステラ。独り言。「どっちの方法も、熱いから火傷しないように」
ステラ。独り言。「もっと怖ろしいのは、衣服の、意外なところに、火がつくこと。長い時間、火のそばに手を出しているから、本当に、衣服の意外な所に、着火することがあるよ」
ステラ。独り言。「マシュマロは温めたら柔らかくなるので、割りばしからポトリと落ちる。小皿を用意しておくといいよ。ここで慌てたら、さっき言った事故の危険があるので、慌てないでいられるように、とっても気を付けてね」
ステラ。独り言。「あたしは、今は安全のために、火は使わない」
電子レンジが「チン」と鳴る。
ステラ。独り言。「我が家の電子レンジは、ピーじゃなく、チンって鳴ります」
マグカップから、スプーンでマシュマロを持ち上げる。チョコがからまって、伸びて、頬に少し付く。
ステラ。独り言。「あちち……。電子レンジでも、火傷に注意だよ」
口に入れて、この上ない幸せな表情。
食べ終わったら、マグカップの内側に、チョコとマシュマロが付いている。牛乳を入れて、再び電子レンジで温める。スプーンは、口にくわえている。
ステラ。スプーンをくわえながら、独り言。「このスプーンは金属なので、電子レンジには入れません」
自室に持ち帰り、のんびりと飲む。特に何も作業をしていない。部屋の中の風景。勉強机の椅子に座り、足で机を押して、椅子が少し後ろに傾いている。
ステラ。嬉しい口調と表情。心の声。「(ふん! 男なんてさっ、男なんて、男って……)」
ステラ。独り言。「さて、歯磨きを、もう一回しなきゃ」ステラが歩き去ると、コルボードのトロンボーン先輩の写真があった位置に、ハルからの手紙が貼られている。
この、手紙を貼る場所が、かつてトロンボーン先輩の写真があった場所であることを、わかりやすくするために、コルクボード全体を見せ、目立つ何かがあり、貼る場所に画面が寄って、目立つ何かの隣というようにする。
第12話にも、マシュマロの話があるので、ここでは別な就寝儀式でも良い。
第10話と第12話の、どちらであっても、ガスレンジの注意、電子レンジの注意は、しっかり伝える。
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