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第6話 Bパート

【前書き】


楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。


当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。


人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。


◆ ご感想を頂けると嬉しく思います。ログイン不要ですので、お気楽に一言をお願いします。


◆ 「評価」はログイン必要ですが、「感想」はログインせずに、どなたでも書けます。



▼ Bパート。   ▼──   ──▼


吹奏楽部の練習の終わり。


ステラがトロンボーン先輩に相談。「あの、先輩。相談があります」


トロンボーン先輩「え? 相談って、恋愛相談なら、お門違いだよ」


ショージ「ステラちゃん、相談なら、のるよ」


ステラ「あ、では、ショージさんも」


ショージ。心の中で歓喜。「( )やった、ステラちゃんに頼られた)」


トロンボーン先輩「うーん、どこか、場所を変えようか」


ショージ。心の声。「( )どんな相談かは知らないけど、トロンボーン先輩よりも役立つことを言いたい!)」ガッツポーズのような誓い。


3人で廊下を歩いている。


ヤッ子。帰宅の準備をしていたが、暗い表情のステラが2人の男に挟まれて歩いているのを見て、声を掛ける。


ヤッ子「どうした? 星山君」背景に注釈文「ヤッ子先生は、生徒同士のトラブルを、とても心配している」を表示する。


ステラ「ヤッ子先生。相談があります」


ショージ。能天気な表情だったが、落ち込み、心の声。「( )また人数が増える)」


▽ 場面変更 ● ── ●


理科準備室。ここには、台所( )水道)がある。


ヤッ子。コーヒーを差し出す。ヤッ子とステラはマグカップだが、ショージとトロンボーン先輩はビーカー。


ヤッ子「悪いな、来客用のカップは、1人分だけなんだ」


ステラ「ごちそうになります」


ヤッ子。椅子に座り、コーヒーを一口飲み、ゆっくりと鼻から息を吐きながら、「肯定」「納得」のような声を静かに出す。


ヤッ子「星山君は、それが心配なのか。吹奏楽部の練習が終わったばかりなら、吹奏楽部の先生に相談するのが、すぐに思い付くが、吹奏楽部の先生に心配を掛けたくない、そういう気持ちもあるのかもな」


ステラ。首から上が動く頷きと、腰から上が動くお辞儀の、両方を合わせたような、小さな動き。


ヤッ子「生徒のカウンセリングは、私はド素人だ。単に、音楽に詳しい、年上の人が、相談仲間に加わっていると思ってくれ。ついでに、ゆっくり話ができるための、この部屋の提供者でもある」


ヤッ子「音楽もスポーツも、真剣にするのは楽しいが、なんとなくするのも楽しい。青春を謳歌する道具だって、いいじゃないか」


トロンボーン先輩「星山さんが、そんなに悩んでいるとは知らなかったけど、僕は君を、お荷物だとは思ってないよ」


ショージ「コンクールの入賞は、「できたら嬉しい」ってことだけど、学校の部活だから、1年後には部員の3分の1が入れ替わり、別な楽団になっているものさ。それが学校の部活だよ」


トロンボーン先輩「自分だけの力か、部活としての力かって言えば、僕の従兄の話があるよ」


トロンボーン先輩「僕の従兄は、通信制高校で、全日制高校と違って、人数が少ないし、部活動も消極的」


トロンボーン先輩「その地方の、通信制高校のためのイベントがあって、音楽部は無かったけど、従兄は先生から誘われて、学校代表として出場することになったんだ」


トロンボーン先輩「従兄は趣味で作曲していて、先生からは「自分で作ったピアノ曲を演奏するように」って。でも従兄は、自分では演奏しないって言ったんだ」


ステラ「どうしてですか?」


トロンボーン先輩「自分で演奏したら、学校の名前を借りた、自分の発表になるからって。音楽の先生からピアノを弾ける生徒を紹介してもらって、その人に演奏してもらったんだ。そうしたら、学校の発表になるから」


ステラ「なるほど」


ショージ「怠けたり、わざと邪魔をするのは困るけど、それぞれの生活の中で、時間や練習場所を工夫して、頑張っているんだから、何も引け目を感じることはないよ」


トロンボーン先輩「楽器を習うというのは、マッサージやエステと違うよね」


ショージ「どういう意味ですか?」


トロンボーン先輩「マッサージやエステなら、ただ横になるだけで、効果を受けられる。吹奏楽部の合同練習は、自宅での練習方法を教わるんだから、合同練習以外の時間で、自分で練習しなければならない」


ショージ「上手くなるコツ( )骨)は、人によってそれぞれで、それを知ったからって、瞬時に上手にはならない。コツは、地図や案内図のようなもので、迷ったり遠回りは、しないで済むけど、道のりが短くはならない」


トロンボーン先輩「何が原因なのか、他人である僕達には、わからないこともある。もしかしたら、手に持った地図の向きが違うのかも知れないし、ギターだったら、演奏技術は良いのに、6本の弦の調律がバラバラだから、下手に聞こえるのかも」


ステラ「やっぱり、練習が足りない……のでしょうか……」ステラの声は、小声であるが、はっきりと聞こえるように、丁寧に発音。小声なので、音量は大きく調整。


トロンボーン先輩「その、工夫の方法は、もしかしたら、他の人は自分より良いアイディアを持っているかもしれない。だからこうして、相談するのは、正しい判断だよ」


ステラ「そうですか……」


ショージ「仕事じゃなくって、部活動である限り、コンクール入賞は絶対条件じゃないよ。目標なんだ」


ステラ「その、目標の邪魔になっているんじゃないかと。部活動といっても、プロを目指している部員の将来を、邪魔しているんじゃないかと」


ショージ「部活動って、ジャンルは何でもいいけど、目標に向かって努力したり、協力したり、そんな経験をすることが、教育なんだ。プロを目指している人なら、部活以外で個人的に楽団に参加したり、個人でコンクールに出るさ」


ショージ「人によっては、個人レッスンのために、遠くまで行くことも、あるかも」


トロンボーン先輩「人によって、部活動に重きを置く人もいるけど、部員の全員が、部活動を最優先にすべきというのは、今の時代には無いよ。会社だって、昔は家庭より会社が、いつでも必ず優先というのは、見直されているよね」


ショージ「部活動を最優先にした基準で、少しでも「完全じゃない」部分があれば、「やる気が無い」とかって言うのは、言い過ぎだと思うよ」


トロンボーン先輩「人は、たった一つのコミュニティにいるとは限らない。部活動、学校全体、家庭、友人や恋人。どれもが「こっちを最優先して」なんて求めるのは、不可能の強要だよ」


ショージ「みんなから、完璧を求められて、ゼロか百かの選択を迫って、幸せが崩壊することが、これまでもあったから、見直される時代になっているんだろうね。なんだか、相手が生身の人間であることを忘れているみたいだ」


トロンボーン先輩「安心していいよ。以前もあったけど、「吹奏楽部を最優先」と思われる発言が、練習中にあったから、先生が注意したんだ。「コンクールは目標だが、絶対ではない」と」


トロンボーン先輩「これまでの先生の言葉から、推測できると思うよ。コンクール入賞を目指さない部員がいてもいい。入賞を目指している人の邪魔をしなければ、部員として認める。そんな部員を「やる気が無い」と責めてはいけない」


トロンボーン先輩「部活動と関係無い時間を、徹底的に排除するために、友達と遊ぶ時間を否定したり、入浴時間を極めて短縮すべきってのは、歩くために必要な地面は、足跡の大きさと同じで足りるってのと似ている」


ヤッ子。これまで黙っていたが、ここで会話に加わる。ショージとトロンボーン先輩が、「部活優先ではない」「練習方法」を中心としていたので、ステラ自身の希望の話題にするため。


ヤッ子「星山君は、吹奏楽を続けていたいのか? それとも、誰かの無理強いで続けているのか?」


ステラ。ヤッ子に向かって、はっきりした口調で。「自分の意志です。みんなと一緒に、音楽を作るのが夢なんです」


ヤッ子「それならいい。音楽は楽しいものだ。苦しみながら音楽をすることはない」


ヤッ子「私には、3歳上の姉がいてね、ピアノを習っていた。私はピアノを習わせてもらえなかったが、大学に入ってバイトで稼げるようになってから、自分で専門の先生に習いに行った」


ヤッ子「それまでは、姉が私にピアノを教えてくれた」


ヤッ子「姉はピアノよりも、絵を描くのが好きで、上手で。それなのに、親からはピアノを辞めることを許されなかった。姉は、自分のしたいことができずに、したくないことを強要され続けたんだ」


ヤッ子「姉の性格は、今から思えば、じっくり描いた絵を見せることに向いていた。みんなの前で何かをするという性格ではなかった」


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


ヤッ子小学3年生、姉の鍵宮美音( )かぎみや・みね)小学6年生。


ヤッ子の子供の頃の姿は、トリック写真として、第1話で描かれている。キャラデザインを合わせる。


美音の古いピアノ楽譜の、『エリーゼのために』( )ベートーベン)のページの余白に、白雪姫のような絵が描かれている。色鉛筆。


ヤッ子「お姉ちゃん、絵が上手だね」


美音「ありがとう。この曲は、白雪姫だと思ってね」


ヤッ子「白雪姫?」


美音「うん。最初は、美しくて、明るく楽しく、優雅に暮らしていて、別な場所では、7人の小人も楽しく暮らしていて」


ヤッ子「あ、ここだね」楽譜のBメロ( )ヘ長調)の部分に、小人達が跳ねるような絵がある。


美音「それぞれ、会うこともなく、別々に暮らしているけど、白雪姫は騙されて、毒リンゴを食べさせられて、森の奥に捨てられる」楽譜の、該当するところを指す。それぞれの箇所には、色鉛筆の絵が描かれている。


美音「最後は、静かに眠りながら、王子様が来るのを待っている」


ヤッ子「王子様は来ないまま、終わるの?」


美音「きっと、白雪姫であるエリーゼのところに、王子様であるベートーベンが、まだ行っていないって曲じゃないかな」


ヤッ子「すごーい。そうだね、白雪姫だね」


美音「まだあるよ。見る?」


ヤッ子「見せて見せて!」


美音。スケッチブックを出す。スケッチブックには、色鉛筆、水彩画、貼り絵、コラージュなど、様々な表現方法で、曲名と共に描かれている。


美音「絵を描く余白が小さいのと、演奏の書き込みのせいで、絵が描けないから、もう楽譜に絵を描くのを辞めちゃった」


『エリーゼのために』が載っている楽譜集の、別な曲のページは、色とりどりの書き込みがびっしりだが、文字だけ。


ヤッ子。スケッチブックの『英雄ポロネーズ』( )ショパン)のページを見る。蒸気機関車が描かれている。


タイトルには、「英雄ポロネーズ」の文字に並べて「憧れの蒸気機関車」と書かれている。難しい漢字なので、文字の大きさはアンバランス。


ヤッ子「英雄なのに、機関車?」


美音「暗い車庫の中に、鎮座まします機関車。竈の火が熾り( )かまどのひがおこり)、様々なカラクリが連動し、車庫の扉を開けば、晴れた広場でお祭り。大道芸人がいて、機関車のお披露目を喜ぶ」


美音の絵が広がり、画面全体に、美音が色鉛筆で描いた絵の世界が広がる。美音とヤッ子のセリフは、絵の世界のナレーションになる。ヤッ子と美音が、絵の世界を歩いたり、空を飛んで見下ろしても良い。


絵の世界に、『英雄ポロネーズ』がBGMとして使用される。適宜、楽譜の対象の箇所が表示される。BGMは、美音の話す場面に合わせ、飛び飛び。


ヤッ子「わぁ……」


美音「車輪が線路の継ぎ目でガタンゴトンと鳴る」


美音「規則的な蒸気機関の音が続き、通り過ぎる時にはドップラー効果で半音、下がる」


機関車は、画面の左から右に進む。ホ長調の最後の小節の、最後の2つ16分音符は、左手が急に迫り、嬰ニ長調の直前の16分音符は右手が先に半音下がるため。


ヤッ子の頭の後ろに、「ドップラー効果?」が表示される。


美音「救急車と同じで、通り過ぎたら、音が低く聞こえる」


ヤッ子「あっ、そうか」


美音は、きちんと調べていなかったが、『英雄ポロネーズ』の頃には、既に蒸気機関車は商業営業しており、ドップラー効果で半音下がるスピードで走っていた。


美音「蒸気機関車が去った後は、あちこちに花が咲いている広い草原。空は晴れていて、遠くからカリヨンの音( )ね)が届く」


美音「ディズニーの、白雪姫と、鏡の国のアリスは仲良し。花を摘み、冠を作って、お互いの頭に載せる」


美音「爆弾が飛んで来ることもなく、何を心配することも、誰を疑うこともない」小学生の美音が、ここまで考えることは、非現実的なので、このセリフは無くても良い。


美音「やがて陽光に包まれてうたた寝。でも、「ド」と「ファ♯」のアクセントで、居眠りの夢はちょっと悪夢」


美音「再びテーマが現れる。この駆け上がりは、これで4回目だけど、抜けるような青空を、天に昇って行く龍」


美音「ショパンは、この曲を作った頃は療養していたけど、もしかすると旅行したかったのかも」


ヤッ子「すごーい!」


美音「でも、こんな勝手な曲想は、冒涜だって」


ヤッ子「冒涜って、何?」


美音「神様を汚すような、悪いこと。曲想は、研究者が苦労して導き出したものがあるから、それに従えって」


室内のテレビから、声が聞こえる。


テレビ「この資料の発見により、歴史の教科書が書き換わることになりますね」


テレビ「そうです。歴史は過去のことではありますが、歴史は変わることがあるんです。解釈や、推測が変わることがあります。これまで「正しい」と思われていたことが「誤り」に変わることもあるのが歴史です」


テレビ「その当時の人に会えませんから、推測をしますが、推測だから、変わる可能性があるのですね」


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


鍵宮美音、中学生の頃。


自宅。茶の間。


母親。美音に向かって。「ピアノはやったの? もうすぐコンクールがあるんでしょ!」


美音「指遣いが難しいところがあって、できないから面白くない」


ヤッ子( )小学生)。茶の間で、五線ノートに楽譜を書きながら、姉と母親のやり取りが気になり、書けない。眼鏡をかけて、姉と母親を見る。


母親「そんなんじゃ、コンクールでは恥をかくよ。先生に申し訳ないじゃない」


美音「コンクールには、出たくない。人前でピアノなんて嫌」


母親「何を言ってるの。もう申し込みをしたんだから、出なくちゃ駄目」


母親「美音って名前の通り、美しいピアノだねって、みんなが褒めてくれて、前はあんなに喜んでいたのに」背景に「鍵宮美音」の名前に、フリガナを添える。


美音。心の声。「( )そりゃ、子供が弾いたら褒めてくれるでしょ。褒められて笑うのは、くすぐられたら嫌でも笑うのと同じ、嬉しくはないのに)」


ピアノレッスン。


美音「どうしても、ここができなくて」


先生「お母様から聞いたんだが、できなくて、面白くないから、やりたくないんだって? だったら、練習してできるようになれば、面白くなる。簡単な理屈もわからないのか」


美音「できないから面白くないんじゃなく、練習したくないんです」


先生「練習しないから面白くないんだ。できるまで頑張れば、できるようになる」


美音。心の声。「( )本当は、漫画家になりたいのに)」楽譜には、絵は描かれていない。


自宅。


母親「クラシック音楽からポピュラー音楽に転向した人はいるけど、その逆の人はいないでしょ」


美音「でも、みんなが歌ってる曲を演奏したい。同級生と楽しみたい」


母親「そんなことをしたら、変な癖が付いて、下手になる」


美音「友達と、ほんの少しだけ、ポピュラー曲を弾いて楽しみたい」


母親「ポピュラー音楽は、大人になってからにしなさい。今は、クラシック曲だけ」


美音。母親に反論できない。口には出さないが、心の声。「( )今なのに。大人になる前の今、みんなと楽しみたいのに)」


コンクール。


ここで演奏する曲は、そのままBGMとなる。既存曲に悪い印象を付与することを避けるため、当アニメのオリジナル曲が良さそう。


ピアノ曲に悪い印象を付与することを避けるため、美音のピアノソロが、途中からオーケストラに変わるのが良さそう。


美音。演奏中。心の声。「( )失敗しちゃいけない、失敗したら叱られる)」呼吸がおかしくなる。


美音。精神の圧迫により、演奏しながら、怖ろしい幻覚。


曲の最後の強い打鍵は、無音で表現。拍手の中、お辞儀もせずに走り出す。顔に当てた両手の脇から吐瀉物がこぼれる。トイレに駆け込み、両手で受け止めた吐瀉物を洗面台に流す。口の周囲は、吐瀉物で汚れている。


脚は弱々しく震え、顔は洗面台に。蛇口からの水が、美音の顔に容赦なく注がれる。美音は、声も出せず、ただ、喘ぐだけ。


床に座り込む。美音の、不規則に痙攣した喘鳴。


表彰式の終わりには、美音はコンクールの客席にいる。


母親「ほら、やっぱり、あの失敗が悪かったんだ」


先生「難しい箇所は及第点なのに、簡単な箇所で失敗するのは、気が抜けたんだな」


美音。客席で、俯いたまま、棒読みのように。「先生、あたし、人前で演奏なんてできません。あたしがしたいのは、絵を描くことです。本当は、あたしより、妹の方が、ピアノが上手です」


先生と母親。少し無言。


母親「申し訳ありません、先生。本当に、この子も妹も、無謀なことを言い出して」


先生「いえいえ、子供のうちは、叶うことのない夢を持つものです。現実を知らないからこそ、かわいいものです」


ヤッ子。表彰式が終わったので、先に通路に出て、待っている。


母親「妹の方は、作曲家になりたいだなんて言い出しますし」


先生「作曲の基礎であるピアノを習っていませんから、まず、無理でしょう。ピアノを自己流で弾いているのなら、どんなに上手に聞こえても、認めることはできません」


母親「そうですよ。世の中には、いい曲がたくさんありますから、わざわざ新しく作ることもありませんのに」


先生「クラシックの歴史上の作曲家の名前で、グリーグやヴェルディの名を知らない人は多いですね。歴史上に名を遺すのも難しいのに、多くの人にも知られるのは、私たち凡人には無理です。作曲家になる努力は、無駄でしょう」


この、ピアノの先生は、クラシック曲や、オーケストラ曲、それから、いくつかの映画音楽の話をしています。それ以外の、商業作曲家は、意識にありません。


母親「自己満足で、趣味で作曲しても、それだけでは無意味だってのが……( )呆れたように、一息を吐いて)……わからないのよねえ、やっぱり子供ねえ」先に通路で待っているヤッ子を、侮蔑の目で見る。


先生「ピアノが上手だと、自己満足で思うのは傲慢です。正式に音楽に携わる者にとっては、失礼以上に、迷惑です。そもそも、正式に習っていないのですから、音楽ではありません。子供の遊びの範疇を外れないうちに、やめて頂きたい」


美音。心の声。「( )妹は、音楽が好きで、ピアノも弾けるけど、一度も自分から上手だとは言っていない。音楽が好きな妹が音楽をやめるように言われて、ピアノを弾きたくないあたしがピアノを強要されるなんて)」


ヤッ子。脳内の音楽で、小さなダンス。歩き回らず、上半身を揺らす程度。


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


鍵宮美音、大学生の頃。


母親「美音ちゃん、急なことだけど、来週オーディションだって」開封した封筒を見せる。


美音「オーディション? 何の?」


母親「音楽事務所の、ピアニスト募集のオーディションよ。書類審査が通って、実技オーディションだって、今日、通知が届いたのよ」


美音「どういうこと?」


母親「美音ちゃんが、二の足を踏んでいたから、親として背中を押したってことよ」


美音「だから、あたしはピアニストにはならないって」


母親「あなたみたいに、ちゃんとピアノを弾けるんなら、みんなはもっと、演奏活動とかして、スカウトから声が掛かるようにするものよ」


美音「あたしは自分で楽しく弾きたいの。誰かを楽しませる演奏はできない!」


母親「自分の怠けでしょうに。プロは誰だって、ギリギリの努力で、お客様を喜ばせて、お金をいただいているのよ」


美音「だから、あたしはそんなことしたくないし、できないし」


母親「甘えないで!」両手で美音の頬をぴしゃりと挟む。


母親「世の中にはね、ピアノをしたくても、どんなに望んでも、家庭の事情で無理な人もいるんだよ。美音のように、好きなだけピアノが弾ける贅沢がありながら、それが嫌だって言ったら、ピアノができない人に悪いと思わないのかい?」


母親「これまで、あなたがピアニストになれるように、周りの人がどれだけ協力してきたか、今ここでやめたら、周りの人、みんなが迷惑する、迷惑どころか、これまでの努力が全部、無駄になってしまうの」


母親。美音の両手を握り、諭すように。「いい、これからはね、嫌だとか、できないとか言わないの、わかった?」


美音「でも……」


母親「仕事のお話があったら、「できない」とか「難しい」とか、消極的なことは言っちゃだめ。「できます、ありがとうございます」と答えること!」


母親「いざ、引き受けてみると、意外とできるものなんだから」


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


大人になった美音の自宅。マンションの一室で、独居生活。


美音。スマホで母親と話している。「でね、音楽事務所から仕事をもらったんだけど」今回の話のオープニングの、バックバンドの仕事の場面を思い出す。


美音「失敗しちゃって。やっぱりあたし、ピアノに向いていない」


母親「練習が嫌いだからって、ちゃんとやってなかったから、肝心なところで失敗するのよ」


美音「いや、そうじゃなくて……」回想。コンサートスタッフからのクレームに、美音とマネージャーが謝罪。「……うん、そうだね、練習を……( )ポピュラー音楽の裏拍の練習を)……してなかったの」


美音は、母親に言い返すことができない。どんなに自分の望みを言っても無駄であること、狂った理屈で否定され、数倍の苦しみを受けることを知っているため。


母親「あと少し、頑張ってみなさい。頑張って、美音がコンサートを開くのを、みんな期待してるんだから」


美音。心の声。「( )クラシック音楽の練習はしたけど、ポピュラー音楽の練習を、全然しなかった。ポピュラー音楽を、禁止されていた)」


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


美音。老人ホームの慰問。食堂で演奏する。


この場面の前に、老人ホームの入り口で、音楽事務所のスタッフの後ろに隠れるように立っている美音の姿や、場違いなドレスに着替える美音、演奏前に別室でお茶を出されて話し合う様子、食堂でキーボードのセッティング風景などがあっても良い。


司会者( )音楽事務所のスタッフ)「では、ピアニストの紹介です。あのアーティストのバックバンドでも大活躍した、鍵宮美音( )かぎみや・みね)です」


美音。キーボードの前に進み、座る。キーボードは、床に据え置く型の電子ピアノではなく、持ち運べる型。折り畳み式の会議テーブルに置いてある。


椅子は、高さを調整するために、雑誌や古新聞を重ね、座布団を載せている。


美音の衣装は、華美ではないドレス。リサイタル衣装という程ではないが、老人ホームの食堂では場違い。


美音。心の声。「( )大活躍じゃなく、クレームで、たった1回でクビになったんだけど)」


美音、にこやかに『ゴンドラの唄』『憧れのハワイ航路』など、懐メロを演奏。淀みない演奏。


老人達「上手だねぇ」笑顔でみんな歌う。


慰問の帰りの乗用車。キーボードは、ケースに入れずに、無造作に後部座席に置かれている。


音楽事務所のスタッフ。運転しながら。「鍵宮はトークが苦手なんだな。こうした慰問は、ウチのコマーシャルだ。演奏そのものは収入にならないが、鍵宮なら、もっと金になる仕事ができるだろう」


美音。小声で。「はい、すみません」


音楽事務所のスタッフ「僕が、最初の紹介だけでなく、トークすれば、もっと笑いももらえると思うけど、どうかな」


美音「あまり、無理なことを言わなければ……」


音楽事務所のスタッフが軽く舌打ちしたのを、美音が気付く。画面の左右で、スタッフの舌打ちの口と、美音がそれに気付く目を、同時に画面内に表示する。


ここで、音楽事務所のスタッフが、喫煙を始めるのも良い。煙を吐く、タバコの先の灰を落とす動作と共に、以下の心の声があることで、退屈の回避と、美音が大切にされていない状況を示す。


音楽事務所のスタッフ。心の声。「( )クラシックの演奏技術は、及第点以上なんだから、潰しがきくと思っていたが)」


音楽事務所のスタッフ。心の声。「( )これだけ弾けるなら、トークの題材として、クラシック作曲家の意外な私生活とか、素人が喜ぶ話題も、あるはずなのに)」


音楽事務所のスタッフ。心の声。「( )音楽が芸術だってのは当たり前だが、こっちは、その芸術を使ったビジネスだってこと、わかってないのか?)」


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


音楽事務所。美音はスタッフになっている。


事務所内の風景は、OP曲前の風景と同じ。


美音。電話で。「どうしても、お願いしたいのですが」


電話の相手。怒鳴る。「無理だって言ってるだろ! 大体、いつもあんたのところは……」


美音。涙ぐむ。


▽ 場面変更 ● ── ●


ヤッ子の回想。生徒達に話す。


美音の自宅。マンションの一室。


美音。スマホで母親と話している。「もう限界。辞めたい」


美音。床に座り込んでいる。ソファに背もたれではなく、床に横座りし、顎をソファに載せるようにもたれている。


スマホを持っていない方の腕は、肘をソファに載せ、手は頭を抱えるように、指を櫛のように髪に入れている。顔は、髪の毛の陰になり、暗く見える。


母親「せっかく、あんなにピアノを練習したんだし、お世話になった先生に「ピアノを辞めます」なんて、言えないでしょう。もうちょっと頑張りなさい」


美音「でも、最近は全然ピアノを弾いていないし」


母親「今はそうでも、音楽事務所だから、みんな「いつかきっと」って、期待してるのよ」


美音「何もかも、うまくいかないし、元々あたしは、人前で何かをするのは厭だったし、今の部署で人を動かすのなんて、芸術家を束ねるなんて……」


美音の言葉の途中で、画面は数秒間、母親のいる茶の間の風景になる。ヤッ子も母親も立っている。大学生のヤッ子が、心配そうに、母親を見ている。


母親。きつい口調で。「わがままを言わないのっ!」


母親の言葉の途中で、画面は美音の顔のアップに変わる。美音の顔は、母親の言葉に「驚く」ではなく「即死」のように、一瞬で生気が消える。顔色が変わるだけでなく、ヘッドショットを受けたように、全身が「即死」となる。


美音。もう、幸せになれないと悟り、眼球は光沢の無い漆黒。


母親。静かに、しかし、無理強いの口調で。「意地でも、音楽の会社にしがみついていなさい。結論を出すのは、あと少し、もう少し頑張ってからでもいいでしょ」


美音。もう涙も出ない。スマホが力無く落ちる。四つん這いで進み、ソファにつかまりながら立ち上がり、ベランダに行く。または、スマホが落ちた姿勢のまま、宙に浮き、漂うようにベランダに。


ヤッ子の回想。生徒達に話す。ここまで。


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


理科準備室。ステラ、ショージ、トロンボーン先輩の3人に、ヤッ子が姉のことを話し終えた。


ヤッ子。目をつむったまま、やや上を向いている。


ヤッ子「生物とは、生き続けようとする。生き続けるのが正しい、それを疑わないようにできているのが生物だ。……姉は……」長い溜息。


ヤッ子「ポピュラー音楽も、クラシック音楽も、どちらも音楽だ。楽器がピアノで共通している。しかし、それは、卓球とサッカーのように、異なっている。球技という共通点がありながらも、相手との距離や、走る距離が違うように」


ヤッ子「クラシック音楽だけを強要されて来た姉にとって、「音楽」「ピアノ演奏」という共通性がありながらも、異なったことを、できもしないことを強要され、非難されるのは、自分の価値をマイナスにされた、いや、生きることを否定されたことになる」


ヤッ子「「もう少し頑張れ」は、無限ではない。限界まで高くバンザイして、あと1ミリ指先を高くする。たった1ミリでも、100回も繰り返すことは不可能。指示された幸せは、届く場所には無かった」


ヤッ子「姉は、ピアノが嫌いではなかったが、他にも好きなものもあった。自分の意志とは違って、他の好きなものが犠牲にされてしまった」


ヤッ子「楽しいはずの音楽を用いて、多方面から強要され、抗いも否定されて来た姉は……」うつむいて、長い溜息。


ヤッ子「誰がどうすべきだったか、誰がどんな過ちを犯したのか。それを考えることが、私たち近しい者にとって攻撃になるのか、成長になるのかもわからない」


ヤッ子「しかし……」しっかりと生徒達を見る。


ヤッ子。おもむろに( )重々しく)。悲しみの中、発音ははっきりと。「生きとし生けるものが、何を差し置いてでも、やるべきことは……」目を閉じる。「……互いに! ……死なないことだっ!」震えながらも、涙声にならないように努めている。


このセリフの「……互いに! ……死なないことだっ!」の「!」の有無は、声優を中心として、話し合いにより決める。これは、ヤッ子の表情の、眉の形、口角の向きと形、目を完全に閉じるか少し開けるかなどとも連携する。


このセリフの「やるべき」の「や」は難しい。歌では、単語が「な行」で始まる独特の手法がある。「や」は、「な行」の効果を減らした文字であるが、強くすべきか、悩ましい。


ヤッ子。一度、目を閉じる。顔を下向きにする。少し目を開け、視線は生徒達の足元に向いているが、何も見ていない。浮かんだ涙で、ピンぼけのような視界が、二重か三重になり、それぞれ大きさが変わったり、揺れたりしている。


ヤッ子「プロの演奏家になるなら、演奏家として起床して、休日だって演奏家として過ごす必要があるけど、青春を謳歌する道具として音楽があってもいいと思うの」


ヤッ子「もし、楽器をしている全員が、その後の人生でプロになるのが絶対条件なら、怖ろしくて楽器なんてできない」


このセリフが、ステラの悩みを「肯定して、責めない」ということに、3人が気付くことを表すように、3人の顔を表示する。


ヤッ子「学校の部活は、青春を謳歌する場である。たくさんの苦難があって、乗り越えた喜び、乗り越えられなかった歯噛み。現実の後で思い付いた理想」


ヤッ子。はっきりと、生徒たちを見つめる。「人との関わりも、自分だけの時間も、あらゆる事柄が、青春のメインストーリーであり、サブストーリーだ。思い出を作れ、若者よ!」


▼ Cパート。   ▼──   ──▼


ハルとミッツ。下校途中。


偶然にも、ヤッ子、ステラ、ショージ、トロンボーン先輩が、理科準備室で話していたことに関連することを話し合っている。


ハル「俺の夢は、叶うかなあ」


ミッツ「なんだか、壮大な夢がありそう」


ハル「夢は……」拳を高々と上げて「世界征服だっ!」


ミッツ「それだけ?」


ハル「俺は若い。若いうちは、何にでもなれる。可能性は無限大。そう教わっただろう」


ミッツ「世界征服の他に、夢は無いの?」


ハル「世界征服、これに尽きる」


ミッツ「シメジ婆さんが言ってたよ。夢がたったひとつなら、叶わなかったら悲しいね。夢がたくさんあれば、どれかひとつでも叶えば嬉しいねって」


ハル「言ってたなあ」


ミッツ「だったら、もっとたくさんの夢を持て、若者よ!」激励で、ハルの背中を、「バシッ!」と叩く。


▼ 次回予告。   ▼──   ──▼


猫の肉球がプニプニで、


ハルは突然、すごくギターが上手になり、


ヤッ子がモーツァルトに一喝。


酔っぱらっちゃったぜい、ぐでんぐでんだー。


▼ 1コマ漫画。   ▼──   ──▼


ショージ。鏡の前で、女装して、何やらアイテムを持っている。


「俺の将来の夢は、魔法少女。叶うかなぁ」


ヤッ子。姉の美音がオープニング前で着ていた衣装に似ている。網タイツで鞭を持ち、床で倒れているハルとショージの上に座っている。SMの女王様のようなマスク眼鏡を持っている。「屁をこいてもいいか?」のセリフの場面のパロディ。


「こっちの眼鏡だったら、セリフが変わるだろうな」


これの、どちらかを採用する。



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