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第6話 Aパート

【前書き】


楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。


当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。


人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。


◆ ご感想を頂けると嬉しく思います。ログイン不要ですので、お気楽に一言をお願いします。


◆ 「評価」はログイン必要ですが、「感想」はログインせずに、どなたでも書けます。



■■■■ 第6話。


▼ サブタイトル。   ▼──   ──▼


音楽を自由に楽しんで、何が悪い!


音楽を自由に楽しみたいんだ!


音楽を自由に楽しみたいのに。


音楽を自由に楽しみたいだけ!


この中から1つだけ採用する。


▼ OP曲前。   ▼──   ──▼


OP曲前の定型。他の登場人物は知らない、過去の出来事。


OP曲は無く、この場面にクレジットが表示される。


BGMは、蟻地獄のような、不安な曲。


ヤッ子の姉、鍵宮美音( )かぎみや・みね)が、ポピュラー音楽のバックバンドのメンバーとして、リハーサル中。


服装は、まだ私服のまま。


受け取った楽譜は、略式で書かれている。コードネーム、ちょっとした音符、リピート記号など、手書き。


美音。心の声。「( )どうやって弾けばいいの?)」


美音。バンドのメンバー( )演奏者)に尋ねる。「あの、これ、音符が書かれていないんですけど、どうやって弾けば……」


メンバー「あ、ほとんど、コード弾きでいいから。いきなり呼んで申し訳ないから、簡単なものにしといたから」


メンバーは、演奏中にはそれぞれの表情( )笑顔、怒り顔、凝視、のほほん)をする。演奏に真剣なため。しかし、美音に向かう時は、必ず笑顔。顔が不細工で、笑顔が恐い人もいる。


美音のスタッフ「鍵宮さん、コードはわかるよね」


美音「あ、コードですか、わかります」


メンバー「バッチリだよ。ほとんど白玉で、雰囲気に合わせて、邪魔しないように音が埋まればいいから」


メンバー「それから、聞いてると思うけど、ウチはジャズっぽいものが中心だなんて言われてるけど、実は広く色んなジャンルをするんだよ。だから、クラシックの基本ができていると、とても助かるんだ。頼んだよっ!」自分の立ち位置に戻る。


リハーサルの演奏が始まる。


メンバー。美音に向かって「ああ、そこんとこ、★★( )CDのタイトル)の、★★( )曲名)の、イントロのように」


美音「え? あ、はい。でも、その曲を知りません」


メンバー「じゃあ、8ビートで和音を鳴らし続けて、2拍目だけ強くして、こんな風に」メンバーが、ギターで模範演奏。


美音「はい、わかりました。( )8ビートって、8分音符のことだったんだ)」背景に説明文「8分音符を基本としたリズムを、8ビートと呼びます」を表示する。


メンバー「あと、E♭7ってあるけど、そのままじゃなく、キーに合わせて適当にテンション入れて」


美音「テンション? って、何ですか?」


一同、言葉を失う。BGMも、一瞬だけ止まる。


美音のスタッフ「あ、ごめん、鍵宮さんは、音符があった方がいいんだよね。僕が書くから、少し待っててもらえるかな」


リハーサル中に裏拍のレッスン。すぐには身に付かないので、キーボードのエフェクトで、誤魔化し、ドラムスとベースが裏拍効果を提案。「なんだ、これも面白いじゃないか」と、メンバー達は美音に気遣う。


メンバーの気遣いは、コンサートが成功することを優先しているため。


美音のスタッフ。急いで音符を書く。「玉を全部は書けないから、ここには全部の玉があるつもりで。前の小節からの、このタイは、裏拍、「ンタタンターンタ」の、最後の「タ」で鳴らし始めて。スウィングする感じで」


美音。心の声。「( )スウィングって、この単語も知らない)」


メンバー「それから、さっきの8ビートのはさ、2拍目にアクセントって言ったけど、2拍目と、それから、3拍目の裏にアクセントをくれるかな」


美音。慌てて、「さっきの」の楽譜を探す。「あ、ありました。こうですか?」2拍目の裏と、3拍目の裏にアクセント。


美音。頑張って弾いてみる。心の声。「( )なんだか、変な感じ。でも、これでいいんだよね)」


メンバー「違う違う。そんなアクセントだったら、乗れないよ」


美音「2拍目と3拍目の裏ですよね」


メンバー「2拍目の頭と、3拍目の裏……」ギターで模範演奏。「……こう、いい感じでしょ。こっちが、今みたいにストロークでメロディもするから、キーボードも一緒に」


美音「あ、はい、わかりました。メモします。えっと、ペンは……?」ペンを探しながら、心の声。「( )あたしができるように、変えてくれたのは嬉しいけど、元々ちゃんとしていない楽譜から、更に変わるのなんて、無理)」


美音。右往左往する。ペンは、美音のスタッフが持ったまま、バンドのスタッフと話している。


メンバー「やってみよう」


メンバーのリズムに合わせて、美音も弾く。楽譜を見ながら、心の声。「( )どんな感じに変わったんだっけ? ここのリズムが……)」見ている楽譜に、さっきの記憶の楽譜が、ふわふわと漂いながら、迷いながら重なる。


メンバー「ま、何とかなるよ。無理しない程度に、丁寧に、頑張ろうよ。じゃっ、次の曲、始めるよー!」


美音。小声で「はい、済みません」


美音のスタッフ「鍵宮さん、リハーサルの途中だけど、今のうちに着替えて」


美音「はい。あ、でも、まだ確認が」


美音のスタッフ「急がないと、間に合わないよ。スタイリストさんを待たせちゃ悪いし」


美音が苦手なジャンルとして、ボサノバや、タンゴでも良い。


美音。心の声。「( )ボサノバかあ。これ、苦手なんだよな)」


美音。心の声。「( )タンゴなら、少しはできる。ハバネラと似ているから。あれ? でも、このタンゴ、あたしの知っているのと違う。それに、速度も速い。え? なに? ついて行けない)」


▽ 場面変更 ● ── ●


回想。


美音の音楽事務所に、キーボード奏者のヘルプ電話。クラシック出身の、技術が確かな人で、スケジュールに支障の無い美音が選ばれる。


事務員。急遽の出演依頼の電話を受けながら。「鍵宮さんちの美音さーん」


美音「はい」


事務員「美音さんは、簡単なポップスだったら、初めての曲でも、楽譜を見ながらすぐに演奏できますよね」背景に「簡単なポップス」を表示したままにしておく。


美音「まあ、簡単な曲なら」


事務員「転調とかも無いし、ポップスだから、大丈夫ね」


事務員。電話の続き。「はい、大丈夫です。クラシック音楽出身で、基礎はしっかりしています。ポップスなら何でも、対応できます。よろしくお願いします」背景の「簡単なポップス」が、矢印で「ポップスなら何でも」に変わる。


ポピュラー音楽なので、美音は不安で断るが、「急な要請で、他のキーボード奏者がいない」「チャンスだから」と無理強いされ、コンサート会場に。


会場に着くと、ピアノだけではなく、複数のキーボードも。


美音。心の声。「( )こんなの、どうすればいいの?)」


メンバー。20枚程度の楽譜を手渡し。「急な呼び出しなのに、来てくれてありがとう。一緒に楽しもうね」


美音「はい、よろしくお願いいたします」


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


舞台衣装に着替えている。ステージでリハーサル。時間切れで幕が開く。


美音。足首が動かないようなブーツは、底が高い。襟や袖から延びているたくさんの紐が邪魔。どことなく、SMの女王様や、悪魔っぽい。


ピアノを弾くための椅子も無く、立ったまま演奏するもの。


美音。心の声。「( )こんなの着て、演奏しろなんて)」


美音のスタッフ。美音に耳打ちする。「キーボードの音色などの設定は僕がするから、鍵宮さんは、鍵盤演奏に専念して大丈夫だよ」


美音のスタッフは、キーボードのエフェクト操作、時には演奏し、美音を補佐。


コンサート中の、メンバー紹介もされる。こんな自分が紹介されるのは苦しい。MCは「急遽、呼んだのに、快く承諾してくれて、どうもありがとう」


▼ Aパート。   ▼──   ──▼


理科室の外の廊下。ヤッ子の授業が終わったところ。


ミッツ「ヤッ子先生。ピアノの先生から、ジャズもやってみなさいって言われたんですが、何か、お勧めの曲はありますか?」


ヤッ子「いきなり、そう言われてもな。「ジャズには名演はあるが、名曲は無い」という言葉もあるし」


ミッツ「そうですか。ピアノの先生は、クラシックが専門だから、ヤッ子先生のアドバイスが欲しいって」


ヤッ子「だったら、楽譜店で、ジャズアレンジを探したらどうだろう」


ミッツ「ジャズアレンジですか」


ヤッ子「元々ジャズの曲、流行歌やクラシック曲のジャズアレンジなどがあるから」


ミッツ「あ、そうですね」


ヤッ子「もし、予算が許せば、楽譜集だけでなく、ジャズピアノの教則本もいいな。『ピアノでジャズにトライ』とか『なんとなくジャズ』とか、そんなタイトルのもので」


以上の書名は、架空のものなので、実在していた場合、別な名前にする。


ミッツ「初心者向けですね」


ヤッ子「楽譜集は、初心者向けの簡単アレンジのものと、「こんなの弾けないよ」という難しいものの両方があると良いかも。同じ曲が、2冊でどう違うのかを見比べるとか」


ミッツ「弾けないアレンジは、初心者ですから無理です」


ヤッ子「弾けない楽譜を弾くんじゃなく、弾けるように自分で簡単にアレンジするんだ」


ミッツ「どういうことですか?」


ヤッ子「初心者向けの楽譜は、せっかくの和音の良さが無くなっているものもある。かといって、そこに和音の音符を自分で付け足すのは無理だろう?」


ミッツ「無理無理!」


ヤッ子「だから、既に難しくたくさんの音符が書かれている楽譜を使って、そこから音符を消したりするのなら、できるだろう」


ミッツ「あ、そうですね。2冊の、難しいアレンジと、簡単なアレンジを見て、中間のアレンジの楽譜を、自分で書くんですね」


ヤッ子「クラシック曲に慣れている人には、弾きにくいという部分もあるだろう。弾きやすいように、1オクターブ移動させたり、左手の補佐を右手でするなど、勝手に書き直すだけでも、弾きやすくなることもある」


ミッツ「そんな、勝手に変えてもいいんですか? 著作権の問題とか」


ヤッ子「勝手に書き換えたものを、販売するのなら、まずいだろうな」


ミッツ「ピアノの練習のために書き換えるんですから、大丈夫ですね」


ヤッ子。微笑む。「わからないことがあったら、また聞きにおいで」


ミッツ「ありがとうございます」


▽ 場面変更 ● ── ●


翌日。


1時限目の前に、ミッツが職員室に走る。手には、昨日買った教則本『ジャズっぽいピアノレッスン』を持っている。


以上の書名は、架空のものなので、実在していた場合、別な名前にする。


ミッツ。ヤッ子の席に行く。「ヤッ子先生、シャッフルとスウィングの違いって、何ですか?」


ヤッ子「お前なあ、時と場所を考えろ。その話なら、昼休みにいくらでも聞いてやるから」


ミッツ「はい、済みません」


▽ 場面変更 ● ── ●


昼休み。


ミッツが職員室に走る。


ミッツ。ヤッ子の席に行く。「ヤッ子先生、シャッフルとスウィングの違いって、何ですか?」


ヤッ子「お前なあ、職員室が悲惨なのは、わかるだろう。飯を食いながら、仕事をするんだぞ」


ミッツ「でも、昼休みにって」


ヤッ子「ああ、そう言ったかも知れないが、済まん、今は、ヒントだけだが」メモ紙を出す。8分音符2つをシャッフルする指示の表記を書く。


ヤッ子「これがシャッフル。スウィングは、気分のノリだ」


ミッツ。メモ紙を受け取る。「はい、済みません」


ヤッ子「放課後には、この仕事も落ち着くから、音楽室においで」


▽ 場面変更 ● ── ●


放課後。


ミッツが来る少し前、音楽室にハルとヤッ子。


ヤッ子「早坂君、私のピアノで、踊ってみないか」


ハル「え? まさか、社交ダンス?」


ヤッ子「それもいいが……」髪を束ねているバンドを外し、長い髪がなびく。「……スウィングを感じてくれ。まずは、脱げ!」


ハル「は、はいぃー?」


ヤッ子「今、脱ぐのが嫌なら、踊りながら脱げ」ヤッ子の髪の毛が、静電気で広がる。


ハル「は、はいぃー?」


ヤッ子「さあ、私のピアノで、心のおもむくまま、踊るのだ!」ピアノを弾く。髪の毛が妖怪のように広がり、静電気の放電が、音楽室の全体に広がる。


曲は、ブギウギやラグタイムをシャッフルしたもの。


ヤッ子。弾きながら、髪の毛が顔に付いたり、髪の毛の先が口に入り、ますます怪談の幽霊や妖怪のようになる。


ハル。曲の雰囲気に合わせて踊るが、下手。


踊りが長時間であることを表すために、学校の敷地内の風景などを挿入する。風景の挿入と、ハルの踊る姿を交互にする度に、ハルが薄着に変わる。


ミッツが廊下から、音楽室のドアの窓から中を見る。


手には、1時限目の前に、ヤッ子に見せた、ジャズピアノの教則本を持っている。


ピアノに向かったヤッ子が、ノリの良い曲を演奏。ヤッ子の顔のアップは、髪の毛が広がり、稲妻が光る。いつもの、妖怪っぽい様子。


廊下にいるミッツから見ると、ヤッ子は静電気で髪がボサボサ。


ヤッ子の演奏に合わせて、ハルが踊っている。それなりに、上手になっている。近くの生徒用の机には、脱いだワイシャツが無造作に置かれている。


ヤッ子。ミッツが室内に入って来て、少しの時間、見ていたのを確認し、演奏を終わらせる。


ハルは汗だく。上半身はシャツ( )下着)姿になっている。


ミッツ「素敵、かっこいい、ヤッ子先生も、ハルも」


ヤッ子「わかったか、早坂君の踊りがスウィングだ」


ミッツ「え? 踊り?」


ハル「え? 僕?」


ヤッ子「そうだ。シャッフルは3連符で弾む演奏方法のこと。スウィングは、気分のノリってことだ」


ヤッ子。話しながら、髪を後ろで束ね、短時間でいつもの髪型になる。妖精ちゃんが集まって、櫛で髪を梳くなどの世話をしても良い。


ハル「僕は、ミッツのために、踊らされていたんですね」


ミッツ「あたしのため?」


ハル「それで、暑くて、ワイシャツも脱いだんだ」


ミッツ「スウィングは、気分?」


ヤッ子「そう。3連符でシャッフルしていても、ただ聞くだけの演奏は、こうだ」ノリの無い演奏。


ヤッ子「しかし、聞いていると、自然に体を動かしたくなる演奏は、こうだ」さっきと同じ楽譜のはずなのに、ノリのいい演奏。


ハル「あ、ほんとだ」


ヤッ子「スウィングってのは、こんな風に、聞いている人の体も、自然に動かすもんだ」


ミッツ「だから、スウィングが気分のノリなんですね」


ハル「ヤッ子先生。さっき、何でシャッフルって、言ったんですか? ちょっと聞き取れなくて」


ヤッ子「スウィングのことか?」


ハル「いいえ、それではなく、何か、数字、3? が何か……」


ミッツ「3連符じゃない?」


ハル「そう! それ」


ヤッ子「ああ、済まなかった。初心者がいるのに、うっかり、「まるで一般常識のように」という言い方をしてしまった。気を付けてはいるのだが、申し訳ない」


ハル「いえいえ」


ミッツ「第2話で、音符の音価は、半分の半分の……だけって、言ったでしょ」


ハル「おんか?」


ミッツ「音符の、音を鳴らし続ける時間」


ハル「ああ、あれか。全音符の時間の、2分の1の時間は2分音符、4分の1の時間が4分音符。思い出した」


ミッツ「その時間を、「2分音符の音価」とかって言うの。あの時、ハルが、3分の1の時間は無いのかって聞いたでしょ?」


ハル「聞いたかなあ……」


ミッツ「また、忘れている。その時、あたしが「3分音符は無いから、特別な書き方をする」って、それが3連符」


ハル「ああ。その時のことは覚えていないが、3分の1には興味がある」


ミッツ「ヤッ子先生。演奏をお願いできますか?」


ヤッ子「はははっ。任せておけ」指をパチンの鳴らす。


ヤッ子「左手は、単調に鳴らし続ける。右手は「2分の1」「3分の1」のようにしようか」


ミッツ。ヤッ子に向かって。「お願いします」


ミッツ。ハルに向かって。「今は、シャッフルが主題だから、連符の詳しいことは、第8話まで待ってね、坊や」指を顔にあてるなど、色っぽい表情。


ハル「ヤッ子先生、お願いします」


ヤッ子。シャッフルに使えるテンポで、左手は「ド」を単調に鳴らす。右手は、「ドを左手と同時」、「ド、ミを繰り返す」、「ド、ミ、ソを繰り返す」、「ド、ミ、ソ、ドを繰り返す」と進む。


ミッツ。ヤッ子の演奏に合わせて、黒板に音符を書き足す。最上段に、4分音符を1つ。その下に、8分音符を2つ。その下に、8分音符を3つの3連符。その下に、16分音符を4つ。符桁を使った書き方。


ここでは音価の説明なので、「ドミソド」の音高は無視し、音符の玉は横並び。


ヤッ子の演奏が終わる。


ミッツ「詳しい、書き方の規則は、第8話で教えるから、今は、シャッフルに「慣れるだけ」にすること。ハルの得意な「気になったから、尋ねる」はしないように」


ハル「わかった」ちょっと、不満顔。


ハル。ヤッ子に向かって。「これが、スウィングの……、じゃない、シャッフルの、一般的な書き方なんですね」


ヤッ子「そうだ。ついでに言えば、ロックって何だ? 早坂君」


ハル「石のように、あ、「石」は「ストーン」か。えっと、岩のように、硬い意志がある音楽。あ、これは駄洒落じゃなくて」


ヤッ子。微笑んでブザー音。「そう思っている人も多いと思うが、ブッブー、違うんだ。まあ、駄洒落はいいが、ロックは岩じゃなく、「揺れる」ってことだ」


ミッツ「岩が揺れる?」床にある、ボウリングのボール程度の石が動いている様子を、両手で表現する。スカートの中が短パンだと、はっきりわかる。


ハル「岩だから、もっとでかい」


ミッツ「じゃあ、これくらい?」立ち上がって、着ぐるみの岩になる。男梅( )ノーベル製菓)のCMや、漫画『Dr.スランプ』( )集英社、週刊少年ジャンプ、鳥山明)のニコチャン大王のように、岩の全体が顔になるのでも良い。


ミッツ「岩が揺れるんだ」ゆらゆら揺れる。


ハル「オカルト。超常現象」


ヤッ子「だから、岩じゃない。ロッキングチェアがあるだろう、揺り椅子だ。スペルは同じで、音楽のロックは、聞いているだけで、体が揺れるってことだ」


背景にロッキングチェア。「ROCKING Chair」の「ROCK」の色を強調。「揺れる椅子」と添える。


背景に「ROCK」「ロック」「岩」「揺れ」と、「LOCK」「ロック」「鍵」「固定」を表示する。


ミッツ「じゃあ、石巻市をロックンロールって言うのは、間違い?」


ヤッ子「間違いというより、言葉遊びを用いて楽しもうという気持ちを汲みたいな」


ハル「ロックとロックンロールは、違うの?」


ヤッ子「ああ、そんなに質問続きは、疲れるぞ。音楽のジャンルは、明確な境界線は無くて、境界はぼんやりしている。ロックンロールのスリーコードは、主要三和音が使われている」


ハル「スリーコード? 主要三和音?」


ヤッ子「先に言っておくが、スリーコードは、ロックンロールの特徴のひとつであって、定義ではないからな。ブルースのスリーコードだって多いぞ」


ヤッ子「そこで、スリーコードだが、調によって、基本的によく使われる3つの和音は、「主要三和音」なのは知っているな」


ミッツ「主和音、属和音、下属和音ですね」


ハル「なんじゃ、そりゃ」


ヤッ子「音階スライドで、主音、属音、下属音があって、それぞれを根音とした和音だ」


ミッツ「音階スライドのうち、特に大切な和音があって、その根音に使われる音ってこと」


ハル。考え込む。「根音って……、聞いたことがある。あっ、コードネームのスロットマシンだ」背景に、第3話のスロットマシンを表示する。「根音」「和音の種類」「補足の数字」のうち、「根音」が明るく点滅。


ハル「根音から数え始めて、音符の玉を積み上げるんだ」ここで思い浮かべるのは、音符の玉が3つ、積み重なったもの。


ヤッ子「その通り。よく思い出せたな。頼もしい」


ヤッ子。ピアノを弾いて説明。ハ長調の音階を1オクターブ。ドを鳴らして、主和音を鳴らす。ドレミファのファで止まって下属和音。ドレミファソのソで止まって属和音。


ヤッ子。主和音、下属和音、属和音の順に、2回鳴らす。


ヤッ子。『きらきら星』を、左手で和音だけ演奏。右手のメロディを加えて演奏。


ここまで、背景に楽譜。


ミッツ。黒板に、ハ長調でダイアトニックコードを書き、主要三和音をそれぞれ四角で囲む。


ミッツ「ハルが理解しやすいように、音階スライドを、ハ長調に合わせたつもりで説明するよ」


ハル「ハ長調って、「C」の鍵盤に、音階スライドの「ド」を合わせるものだな」


画面に、「ハ長調」を、日本語、英語、ドイツ語で、並べて表示。英語とドイツ語には、カタカナでフリガナを添える。日本語、英語、ドイツ語の、「ハ」「C」「C」を囲み、単語が同じ意味だとわかるようにする。


ミッツ。黒板に追加。「ド」に差し棒で「主音」、「ファ」に「下属音」、「ソ」に「属音」と書く。主要三和音に、それぞれ差し棒で「主和音」「下属和音」「属和音」と書く。


ミッツ「これって、見たことが無い? ダイアトニックコードっていうんだよ」背景に「ダイアトニックコード」の文字を表示する。


ハル「ああ、どっかで見たことがあるが、単に音階があって、その上に和音になるように積み重ねているだけだろう。何の謎解きにもなっていない」


ヤッ子「では、原子の周期表はどうだ?」


ハル「あれこそ、意味不明です。時々、壁に貼っているのを見ますが、行と列の表になっている国語の五十音表と比べたら、分類ではない並び方をされている「いろは歌」のようです」


ヤッ子「生徒がそのように答えるのは、理科の教師としては、喜べないな」ヤッ子に指し棒で「理科の先生。専門は化学」と表示。


ハル「あ、ごめんなさい。そういえば、ヤッ子先生は、理科の先生でしたね。理科室や、自分の教室なら、理科の先生だと思い出しますが、ここ、音楽室にいると、音楽の先生のように、勘違いしてしまいます」


ヤッ子「しかも、私の専門は化学なのでな。まあ、まだ原子の周期表は習っていないからな。実は、あれも、縦と横の並び方には、理由のある分類がされているのだよ」


ミッツ「この、ダイアトニックコードも、説明も無く見せられても、意味不明だよね」


ミッツ「ダイアトニックコードは、よく使う和音を見せたもの。だって、和音ってどっさりあるから、その中で「よく使う」があると、便利でしょ」


ハル「あ、そうか。また「よく使う」のお知らせか」


ミッツ「その中で、「特によく使う」のが3つあって、それが「主要三和音」なの」


ヤッ子「特によく使うから、名前があると、会話に便利だ。漢字が苦手なら、カタカナの方を覚えるのもいいな」


ヤッ子。指をパチンと鳴らすと、黒板の「主和音」「下属和音」「属和音」に、それぞれ「トニック」「サブドミナント」「ドミナント」が付加される。


ヤッ子。再び『きらきら星』を弾く。左手で和音をジャーンと弾き、その後にメロディという順番で弾くことで、和音の説明であることが強調される。


ミッツは、ヤッ子の演奏に合わせ、黒板のダイアトニックコードの、主要三和音のどれが鳴っているかを指しているが、ハルはヤッ子の手元を見ている。


ミッツ「ハル。ねえ、ハル。こっちを見なさい」


ハル「え? ああ、そっち?」


ミッツ「今、どの和音を弾いているか、指すから」


ハル「あああ、わかった」


ミッツ「ヤッ子先生、もう一度お願いします」


ヤッ子。演奏する。演奏が終わる。


ヤッ子「主要三和音を、それぞれ変形させて、こんな感じにしたものが、ロックンロールだ」サンプルを演奏する。


ハル「あれ? 主和音が、何か変ですね」


ヤッ子「よく気付いたな。ただの「C」じゃなく、シ♭を加えた「C7」なんだ。主和音の、こんな使い方も、面白い」


ミッツ。黒板の和音に、セブンスを加える。


ハル「不協和音が主和音って、面白いですね、しかも、臨時記号があるってことは、音階ではない音を使っているんですね。」


ヤッ子「それだけ、音楽は自由だってことだ。ただし、C7は「不協和音」よりも適した呼び方があるぞ」


ハル「え? 「7」があるから、不協和音だって、何かに書いてありましたよ」


ヤッ子「もちろん、不協和音と呼んでも誤りではないが、もっと適した呼び方がある」


ハル「適した呼び方ですか」


ヤッ子「そう」黒板に「協和音」と「不協和音」を横並びに書き、その下に「協和和音」と「不協和和音」を並べて書く。


ヤッ子「こうすると、意味がわかりやすい」黒板の文字に、下線を添える。「協和・音」「不協和・音」「協和・和音」「不協和・和音」と分ける意味で、「不協和」と「和音」の下線を分離。


ヤッ子「不協和な音、不協和音を含んだ和音が、不協和和音ということだ」ピアノで、「シ♭、ド」を鳴らす。


ヤッ子「C7という和音は、この不協和な音が含まれているから、不協和和音なんだ」


ハル「面白いのに、不協和ってのは、納得できない気もします」


ヤッ子「では、これはどうだ?」ピアノで、「シ、ド」の短2度を鳴らす。


ハル「これは汚いです。僕でもわかります」


ヤッ子「隣の鍵盤だから汚いと思うのなら、離してみるか」ピアノで、「ド、シ」の長7度を鳴らす。


ハル「やっぱり汚いです」


ヤッ子。にやりと笑う。「では、これはどうだ?」ピアノで、「ソ、シ、ド、ミ」を鳴らす。「ド、ミ、ソ、シ」を鳴らす。


ミッツ「あ、綺麗。美しい」


ハル「音楽って、すごい」


ヤッ子「不思議だろう」


ハル「色が汚いとか、味がまずいとか、そこに、更に何かを加えると、どんどん汚くなるのに、音楽では綺麗になるんですね」


ヤッ子「音楽だからというのは、分野毎の実験も集計もしていないから、よくわからないが、私はこれを「和音のツナ缶効果」と呼んでいる」


ミッツ「ツナ缶?」


ヤッ子「そうだ、ツナ缶だ」


ヤッ子「若者というのは、とんでもない思い付きを流行させることがある。ご飯にマヨネーズを掛けて食べるなんて、昔は「寄食」といって、若者のとんでもない、おかしな食べ方だった」


背景に「寄食」と、フリガナ「きしょく」を表示する。


ここに、更に、デブがマヨネーズのボトルを吸いながら「マヨネーズは飲み物だよ」を加えても良いが、面白さで昇華できないとも思える。


ヤッ子「そこに、更にツナ缶や、海苔などの海産物を加えると、美味しくなった」


ハル「コンビニの、おにぎりのメニューにもあります」


ミッツ「タルタルソースは?」


ヤッ子「よく気付いてくれたな。ご飯にタルタルソースだけなら、やはり物足りないだろう」


ハル「そうですよね。やっぱり、魚のフライトか、海苔とか。あっ、やっぱり海産物」


ミッツ「ドリアって、マヨネーズでしょ。外国には、ご飯とマヨネーズの組み合わせって、普通なのかも」


ハル「ドリアは、チーズが使われている。でも、マヨネーズを使っても良いかも」


背景に「ドリアは、各国にあり、日本とは異なったマヨネーズを使うものも、あるようです」を表示する。


ヤッ子「「ところ変われば品変わる」で、日本国内だけでも、「ご当地ラーメン」があるように、ドリアも、様々だろう」


ハル。ミッツに小声で。「広島風お好み焼き」


ミッツ。ハルに小声で。「広島の男は、いいなあ」


ヤッ子。軽く咳払いして、話を戻す。


ヤッ子「「ドシ」だけなら、物足りないし、響きが良くない。そこに、「ミ」と「ソ」を加えると、綺麗になる。でも、これは「CM7」というコードで、不協和和音に分類される」


ここで、「M7」の別な書き方「maj7」を紹介をしても良い。


ミッツ「綺麗なのに?」


ヤッ子「まあ、分類や命名と、使い方による実態が違うという例のひとつだな」


ハル「シクラメンは豚の饅頭、北極圏にあるのにグリーンランド、フルートは金属なのに木管楽器」


ヤッ子「ははは、さすがだな」


ヤッ子「ところで、ロックンロールの話に戻るが、ロックンロールのコード進行には、形式があるんだ」


ハル「自由な音楽って言いながら、形式があったら、窮屈じゃないですか?」


ヤッ子「破らずに守れという目的の形式ではない。作曲の初心者に、「好きなように作曲して」と言っても、難しいだろう。だから、こんな風に、コード進行の形式を提示して、そこから作曲すると、初心者でも楽しめる」


ヤッ子「譬えれば、猫の顔は、円形の顔の輪郭の上に三角の耳を2つ。犬の顔は、長い顔の輪郭の左右に、横に垂れた耳を添える。これだけで、絵を描き始められるから、ここから絵を発展することもできる」


背景に、猫と犬の、簡単な絵。


ハル「ここで、「犬の耳は、猫と同じように、上向きもある」ってツッコミは、無粋ですね」


ミッツ「初心者でも楽しめるって、いいですね」


ヤッ子「そうだ! 音楽は楽しむものだ。職業としてするのは、それなりの才能と努力が必要なんだろうが、職業じゃなく音楽を楽しんで、何が悪い!」


ハル「なんで怒ってるんですか」


ヤッ子「ただし、これはどんなジャンルでもそうだが、形式のせいで、「似たり寄ったり」の懸念がある」


ミッツ「それは確かに」


ハル「そうか?」


ミッツ「並べて比べたら、違うってわかるけど、1曲だけなら「曲名は知らないけど、ロックンロール」って気分」


ハル「それって、クラシックのオーケストラの曲でも感じる。聞きなれていないから」


ミッツ「そういえば、ハルが吹奏楽部の見学の後、言ってたもんね。クラリネットとオーボエの、音色の区別ができないって」


ヤッ子「さっきも言ったが、似たり寄ったりは、どんなジャンルでも、ある。ロックンロールは形式のせいで、クラリネットとオーボエは、木管楽器の、リード楽器という発音構造のせいで」


ハル「クラシックのオーケストラの曲なら、バイオリンとかが中心で、打楽器はあるけどドラムスは無くて、強弱の変化が大袈裟」背景に、「ハルは、「ストリングス」の意味で「バイオリンとか」と言っています」を表示する。


ミッツ「馬を見て、「美人だねー」って言う人がいるけど、馬に慣れていないから、何が美人なのか」


ヤッ子「さっきの、犬や猫を、簡単に描く方法を話したが、動物も楽器も、どんなジャンルでも、特徴がある。ロックンロールにはロックンロールの特徴がある」


ヤッ子「作曲する時、ロックンロールの雰囲気を考えながら、スリーコードを使う。「スリーコードのせいで、似たり寄ったり」とは言ったが、似たり寄ったりの大きな理由は、ロックンロールの雰囲気を思い描きながらだな」


ハル「逆に言えば、ロックンロールの雰囲気を持って、スリーコードを使わないこともあるんですか?」


ヤッ子「あるぞ、あるぞ。きっとある。多分ある。あってもおかしくない」


ミッツ。軽く噴き出す( )笑う)。


ハル「それを、スリーコードを使っていないから、定義から外れているから、ということがあるんですね」


ヤッ子「そうだ。ジャンルには、ジャンルの特徴がある。猫には猫の特徴、馬には馬の特徴。慣れれば、個性も見分けられる」


ハル「犬って、すごいですね。チワワと、えーっと、名前は知らないけど、大型犬で、耳の垂れたものって、見た目はあんなに違うのに、犬だってわかるのがすごいですね」長毛種の例は、コモンドール、アフガン・ハウンド、ボルゾイ、などがある。


ミッツ「すぐには思い出せないけど、「これも、あれの仲間なのか?」って、驚くことがあるよね」意外な例は、クリオネが貝の仲間。タラバガニはエビの仲間。


ハル「ジャンルは、特徴があるからジャンルなのかな? 明確じゃないけど、大きな書店に行って、ジャンル分けがされているから、探しやすい。時々、同じ本が、別なジャンルの両方に置かれていたりする」


ミッツ「あっそうか。旅行のコーナーに、旅行の漫画が置かれていたりするもんね」


ヤッ子「このコード進行、スリーコードは、ロックンロール以外でも使われている」演奏例。ブギウギ、ブルースなど。『子象の行進』もスリーコード。


ヤッ子「さっきの演奏で、スウィングしているのとしていないのは、こんな違いがある」黒板に、必要な部分だけの簡単な楽譜を書く。


または、ミッツが持っているジャズピアノの教則本から、サンプルになりそうな曲を探して開く。


ミッツ。楽譜の先頭のシャッフル記号を指す。「これが、シャッフルですね」


ヤッ子「そうだ。「シャッフルした演奏で」の指示だ」


ハル「でもこれって、イコールではありませんよね」


ミッツ「イコールじゃないのを、イコールとしてってことでしょ」


ハル「イコールとしてって?」


ヤッ子「記号として略しているから、言葉にするのは難しいな」


ヤッ子。イコールの左を指して。「この書き方があったら……」イコールの右側を指して。「……このように演奏してくれという指示だ」ヤッ子が指すタイミングに合わせ、セリフと同じことを吹き出し表示する。


ハル「曲の全体が、こんな、タララタララ……の雰囲気でってことですね」背景に、8分音符の3連符が、いくつか、画面を横に流れて行く。


ハル「なぞなぞで、ありますよね。「科学( )かがく)」をキーとして、「買い物( )かいもの)」を読むと、「食い物( )くいもの)」になるって」


ハル。黒板に「かがく」と書き、その右下に「かいもの」と書く。


ハル「「かがく」だから、「か」と書いてあると、「く」と読みなさいというなぞなぞ」黒板の「かいもの」の「か」に消し線を加え、「く」にする。


ミッツ「ハル、天才!」


ヤッ子。ハルが書いた「かがく」の、すぐ上に、シャッフル記号を書き加える。位置的にこのような意味を示すように、「8分音符2つ」と「か」を囲み、「=」と「が」を囲み、「4分音符と8分音符の3連符」と「く」を囲む。


ハル。ヤッ子の書き加えたシャッフル記号を見て。「なるほど。欄外に、こんな書き方をするのか。地図とかの凡例のようだ」背景に漢字の「凡例」と、ひらがなの「はんれい」を表示する。


ミッツ「丁寧に、4分音符から書くと、こうなるよ」


ミッツ。黒板に説明。同時に鳴る音符は、縦に揃えるように。


一番上に、( )1)4分音符が1つ。


その下に、( )2)8分音符2つを符桁で繋げる。


その下に、( )3)8分音符の3連符を符桁で繋げる。


その下に、( )4)同じく8分音符の3連符だが、1番目と2番目がタイで繋がる。


その下に、( )5)4分音符と8分音符に、3連符の印があるもの。


その下に、( )6)8分音符2つを符桁で繋げる。( )5)と( )6)をまとめて囲む。


ミッツ「最後の、これだけが、シャッフル用の特別な書き方」


ヤッ子「気付くだろうが、( )2)と( )6)が同じだ」


ハル「わざわざ書き方を変えると、ややこしいだろう。頭の中で「このように書いているから」ってのを、「演奏はこのように」って変換するのが面倒だ」


ミッツ「知らないよ、昔の人が考えたことなんて。だって、これを考えた人に会ったこともないし」


ヤッ子「イコールは、左側と右側は同じはずなのにという気持ちがあるから、シャッフル記号の説明のために、丁寧に6つも段階を経たわけだ」


ヤッ子「蜜霧君の教え方が優れているのは、早坂君が「わかり切っている」と思うことで、証明されている」


ハル「え?」


ヤッ子「もしも、これを、もっと簡素にすると、「わからないから質問したい」になるか、もっと悪いことに「やっぱり楽典は面倒だ」となるだろう」


ハル。疑わしそうにミッツを見る。


ヤッ子「イコールを使う書き方と、使わない書き方の、どちらの書き方でも正しい。自分が書く時には、自分の好きな方を書けばいい。ただし、シャッフルの書き方に慣れている人もいるのは、承知しておくと優しいな」


ハル「まあ、そうですね」


ヤッ子「シャッフルの書き方も、あちこちに連符を示す「3」があれば、見づらいから、これが良いと感じる人もいれば、演奏の時に頭の中で3連符に変換するのが面倒だから、「3」があるのが良いと感じる人もいる」


ハル「うーん、確かに、3連符だってわかってるから、うんざりするかも」


ミッツ「あたしも、最初はシャッフルの書き方に違和感があったよ。でも、何曲か弾いているうちに、慣れちゃった」


ハル「ふうん、そんなもんかな」


ヤッ子「ところで、シャッフルの書き方で、ちょっと惑うのがある」黒板に音符を書いて説明。


さっきの、ミッツの( )1)から( )6)とは別な位置に書く。


一番上に、( )1)8分音符、4分音符、8分音符。


その下に、( )2)8分音符4つを、2つずつ符桁で繋げる。中央の2つの8分音符( )符桁は違うセット)を、タイで繋げる。


その下に、( )3)8分音符の3連符だが、1番目と2番目がタイで繋がる。これを左右に並べて2セット。左のセットの右端と、右のセットの左端を、タイで繋げる。


ヤッ子「基本は「タンタタンタ」だが、これがタイで繋がっているので、「タンタアンタ」となる」手拍子しながら、タイで繋がっている歌い方と、繋がっていない歌い方の中間のように、「タンターンタ」ではなく「タンタアンタ」と歌う。


ハル「複雑だ」


ヤッ子「このように、手拍子とずれているのが、シンコペーションだ。シャッフルしていても、していなくても、このようなずれがシンコペーションだ。きっと、何気無く聞いている曲の中にも、こんな曲はあると思う」


ハル「それなのに、楽譜を読むとこんなに複雑だったんだ。楽譜って、いやだな」


ヤッ子「時によって、人によって、場面によって異なるだろうが、楽譜を読めないから、誰かに模範演奏をしてもらってばかりなら、いつまでも楽譜を読めないままだぞと、非難する意見がある」


ヤッ子「確かに、模範演奏が無く、楽譜だけを資料とするなら、困ることになるだろう」


ヤッ子「将来を見据えて、真剣に音楽をするのなら、自分で楽譜を読み解く技術は欲しい」


ヤッ子「しかし、早坂君のように、演奏の練習を目的としていないなら、こうなるだろう」


ヤッ子。2頭身で、髪の毛だけハルと同じに、または、髪の毛と制服だけハルと同じになり、寸劇。


ヤッ子「知っている曲の楽譜を読んで、「へえ、楽譜では、こう書くのか」と面白がる」


ヤッ子「よっしゃ、「楽譜のままやってみようか」と、ゆっくり読む」


ヤッ子「そうしたら。「おおっ、本当だ、確かに聞いたのと同じ演奏だ」と喜ぶ」


ミッツ「ヤッ子先生の寸劇だ」


ヤッ子。2頭身が終わり、いつもの姿になる。シャッフルの「タンタアンタ」が2小節分、全部がシンコペーションの音符を書く。


ヤッ子「これを歌うと……」手拍子しながら歌う。「……こうなる」


ハル「いい感じですね。どこかで聞いたことがあるような」


ヤッ子「では、これを、シャッフルしなければ、どうなるか」シャッフルせずに、『木星』( )ホルスト)の一部を歌う。『木星』だが、誤魔化しの歌い方で、全部をシンコペーションにする。


ミッツ「あ……」


ハル「『木星』だ」


ヤッ子「そうだ。今は見本を示す理由から、ちょっと誤魔化しながら歌ったがな」


ハル「シャッフルするのとしないのとで、比較したいので、両方をやってくれますか?」


ヤッ子「私がしなくても、自分でできるだろう」


ハル。やってみる。何度か試行するうちに、できるようになる。「ああ、なるほど、こんな感じなんだ」


ヤッ子「私の姉は、シャッフルに慣れていなかったから、シャッフルしていないのなら演奏できたが、シャッフルしていたらできなかったんだ」


ミッツ「そうですか? あたしは、少し惑うけど、できますよ」


ヤッ子「蜜霧君は、ポピュラー曲もしていたから、慣れているのだろう。姉は、クラシック以外は禁止されていたから、大人になってから、急に楽譜を渡されたから、その場での演奏は無理だったんだ」


ハル「禁止って、そんなことが、あるんですか」


ヤッ子「意外と思われるだろうが、3連符のクラシック曲に慣れていても、姉にとっては、シャッフルは違うものだった」


ヤッ子「シャッフルは「タンタタンタ」で、クラシック曲は「タラタタラタ」だ」


ハル「違いがわかりません」


ミッツ「全然、違うでしょ」


ヤッ子「この違いだけでなく、シャッフル記号を見て、頭の中で3連符に変換するのも不慣れ、踊れるように裏拍のアクセントなんて、経験が無かった」


ミッツ「その場で、急にってのは、無理ですね」


ハル「ところで、この楽譜で演奏したら、どうなるんですか?」さっき、ヤッ子が黒板に書いた、必要な部分だけの簡単な楽譜。または、ジャズピアノの教則本から、サンプルになりそうな曲。


ヤッ子「そうだな。話が横道に逸れたか。この楽譜のまま演奏すると……」平坦な演奏をする。「……単に、ああ、演奏しているんだなっていう感じだな。シャッフルしているが、スウィングの感じがしないだろう」


ハルとミッツ「うんうん」


ヤッ子「ここに、強弱記号を付けると」楽譜に、色違いのチョークで、フォルテ、ピアノ、アクセント、sfz、フレーズを記入。「こうなって、演奏すると」演奏。


黒板の楽譜なら、色違いのチョークを使う。教則本の楽譜なら、ミッツから了解を得てから書き込む。


ハルとミッツ「ほぉー」


ヤッ子「普通は、楽譜にこんなに強弱記号は書かれていないが、演奏の工夫でこうなる」


ヤッ子「「楽譜の通りに演奏しても、面白くない」というのは、強弱記号の無い楽譜の通りにってことだ」


ヤッ子「ゴチャゴチャと強弱記号が書かれた楽譜を渡されたら、楽譜の通りに演奏しているうちに、強さの加減も工夫できるようになる。見本を示すことで、いわゆる「発想の殻を破る」の、きっかけが期待できる」


ハル「これがフォルテ、これがピアノ。フォルテやピアノは、「ここから」の場所に書くけど、「ここまで」の印は無いんですね」


ヤッ子「そうなんだ。新たな強弱記号が現れたら、「そこまで」が明確だな。AメロからBメロになる箇所までということも、あるだろう」


ハル「これは?」sfzを指す。


ヤッ子「スフォルツァンド。アクセント記号のひとつだな」


ハル「フォルテよりも強いんですか?」


ヤッ子「これは、フォルテやピアノの仲間ではなく、アクセント記号だ。アクセントは、「この音符だけ」だろう」アクセント記号を指す。


ヤッ子「スフォルツァンドは文字だから、フォルテの仲間のように思えるが、音符に付くアクセントだ」背景に、フォルテ「f」と、スフォルツァンド「sfz」を並べる。


無地の画面に、次々と記号が入って来る。範囲を示すフォルテ「f」などの仲間と、音符に付くアクセント記号などの仲間。スフォルツァンドが登場し、どちらの仲間か迷いながら、アクセント記号の仲間に合流する。


ヤッ子「これ……」別な箇所のアクセント記号を指す。「……と同じ意味だが、私はここでは、「とても強く」の意味で用いた」


背景で「sf」「fz」「sfz」の3種類の書き方を表示する。


ハル「あっ、そうだったんだ」


ヤッ子「楽譜には、音符だけでは表せない作曲者の気持ちを、様々な記号や、時には言葉を添えて伝えることがある」


ミッツ「「堂々と」とか、「元気よく」とか、短い単語が多いよ」


ヤッ子「「ねばしてね!」「歯痛で悩むうぐいすのように」「舌の上にのせて」「迷信的に」なんてのもある」


ハル「なんですか? それ」


ヤッ子「かと思えば、それらの記号などをほとんど書かない作曲者もいる。曲想は演奏者に委ねるのか、細かく書かなくても伝わると思っているのか、それは作曲者に聞かなければわからない」


ハル「作曲者の意図が明確なら、それに従うのが、「正しい演奏」なんですね」


ヤッ子「正しいかは、誰が判断するかは、わからない。私はただ、自分の好みに合うかということと、何らかの資料を紹介するだけだ」


ヤッ子「料理の書籍にカレーライスの作り方として、牛肉が書かれていても、地域という大雑把なことだけでなく、細かく個人の好みがあるのと似ている。「正しいカレーライス」じゃなくても、美味しいの感覚はそれぞれだ」


ヤッ子「カレーライスでは、豚肉が好きだという人もいるし、個人の好みで、私には信じられない食べ方をする人もいる」


ショージ。饒舌になる前の、紳士的な立ち居振る舞いで登場。


ショージ「何をしているんだい?」


ハル「ショージさん。今、フォルテとかの話をしていました」


ショージ「フォルテか。フォルテシモもあるな」


ハル「fを2つも3つも書いたものですね。ちょっと、一覧は、ありますか?」


ショージ「これだ」画面左側に、最上段の「fff」から、最下段の「ppp」まで。「mf」「mp」も含めて8つ。


ショージ。セリフに合わせて、画面に説明文が出現。「mfはちょっと強く、fは強く、ffはもっと強く、fffはもっともっと強く」


ここの説明は、「f」を「強く」、「ff」を「強く強く」、「fff」を「強く強く強く」でも良い。


「fff」の読み方は、「フォルテシシモ」と「フォルテフォルテシモ」の2つを書く。「ppp」も同じ。


ハル「弱くの方も、同じように、「ちょっと」から「もっともっと」までですね」画面の弱くの方には、全部が同時に文字が出現する。


ミッツ「前から不思議に思っていたけど、「普通の強さ」って無いのよね」


ヤッ子「知っていると思うが、楽器の「ピアノ」の名前は、この強弱が由来になっている」


ヤッ子「よく比較されるチェンバロは、キールという出っ張りが弦を弾く( )はじく)から、キールの大きさで、音の強さが決まる。鍵盤を強く叩いても、ゆっくり押しても、鳴る音の強さは同じだったんだ」


画面を2分割し、鍵盤を押す手元と、キールが弦を弾く箇所。キールの先端に差し棒で「キールがここまで弦を押して、キールが移動すると急に弦を離すことで音が鳴る。キールの移動スピードは、音の強さと無関係」と示す。


キールが元の位置に戻るまでの1連の動作を、3回程度。


説明文が長いので、セリフと協力して、読めるように工夫。


キールが弦を押す絵では、弦が遠近法で手前を太く、奥を細くするなど、立体的にわかりやすく。


ハル「テンポを指示する「ゆっくり」とか「歩くような速さで」と似ていて、音の強さも、人によって基準が違うのかな」


ショージ。ここから、調子に乗って饒舌になる。「教えてやろう。fなら……」急にテンションが上がり、ハルを抱きしめ「……ハルくん、好きー! これがフォルテ」


ショージ「続けて、フォルテシモは」


ショージ。ミッツを手招きして、二人で。「ハルくん、好きー!」ミッツは、少し及び腰。


ショージ「フォルテシシモは、ヤッ子先生も一緒に」


三人で。「ハルくん、好きー!」


ショージ。ここがチャンスと、とっさに判断し、ヤッ子の胸の方に顔を向ける。


ヤッ子「こら、ショージ、どさくさに紛れて、顔をうずめるな」


ミッツ「やだー」


ショージ。少し悔しそうなハルを見て、耳打ち。


ヤッ子。ショージの言葉が聞こえていることを表すため、片方の耳が巨大になる。


ヤッ子。心の声。「( )やっぱり中学生の男の子は、こういった下品な冗談が好きなんだな)」


ヤッ子「お前達は、アニメではなく、漫画の『ドラゴンボール』を知っているか? フォルテは「!」のようなもので、『ドラゴンボール』では、戦っている時のセリフに「!」がいくつも付けられているものがある」


ショージ。ヤッ子の言葉を無視して、ハルに再び、耳打ち。


ミッツ「何言ってんの?」


ショージ「あの日の夜を思い出してな。俺達の、熱い夏の夜。俺を眠らせてくれなかった」


ハル「誤解されるようなこと、言わないでください」


ショージ「布団の上で、おねだりしただろう、ねえ、もっともっとって。親に見つかって、大変だったんだ」


ハル「手品の、トランプの……」


ステラが入って来る。「なんだか、楽しそうですね」


ショージ「あ、ステラ、ステラ様。実は、ハルとの、布団の上での熱い一夜の話をしていたんだけど、俺は決して、男好きじゃないよ、女好きだよ」


ヤッ子「そうか」


ハルがショージの口をふさごうとする。逃げようとするショージを、ハルが床で抑え込もうとする。


ミッツ。ハルとショージが、やや暴れている状況を見て。「ねえねえ、シメジ婆さんが言ってたけど」


ミッツ。ハルとショージの動きが、まだうるさいので、大声になる。「子供が走って遊ぶと、大人は嬉しいけど、そうじゃない時もあるって。ねえ、聞いてるー?」


ハルがショージを抑えつけて、ようやく動きが静かになる。


ステラ「ヤッ子先生、長調と短調の話を聞きたいのですが」


ヤッ子。顔と手元のアップ。眼鏡を外して、レンズを拭きながら、落ち着いて「長調と短調か。その前に……」眼鏡をかけたら、眼鏡がキラリと光る。画面を引くと、ショージとハルの上にヤッ子が腰掛け、脚を組んでいる。


ヤッ子。やはり落ち着いた口調で、座ったままステラの方に顔を向ける。「……屁をこいてもいいか?」


ハル。ヤッ子の尻の下で「やめてくれー!」


▽ 場面変更 ● ── ●


校内のどこかで、雑談。


生徒A「ねえねえ、これできる? 1、2、3……」片手で10まで、指折り数える。閉じた状態から開いて行き、「5」でパーの形。「6」から折り返して、「10」でグーになる。


生徒A「これを、両手で同じ動きで数える。1、2、3……」両手が同じ動き。


生徒A「これなら簡単だけど、片手だけ、1つずらして数える」片手だけ、2から始まる。


生徒B「なあに? 1つずれで、10まで数えるの?」やってみるが、できない。


生徒B「いつの間にか、両手が同じ動きになっている」


この場面の動きは、アニメでは難しいなら( )自然にならないなら)、実写でも良い。


生徒A「そうでしょ。あたしもできない。最後は両手が同じになるの」


生徒C「あ、あたしはそれができるよ」


生徒A「ホントにぃ? やって見せてよ」


生徒C。ピアノを弾くように、指で机をトントン叩き、できる。


生徒B「あ、できている……ような気がする」


生徒A「もう一回やってみて。スマホで撮影するから」撮影する。


生徒AとB。スマホでスロー再生し、確認。「すごーい、本当にできている」


生徒B「ピアノ弾けるの?」


生徒C「うん、ちょっとだけ習っていた」


▽ 場面変更 ● ── ●


音楽室。さっきの続き。


ステラから、長調と短調の質問を受けて、ヤッ子が説明を始める。


ヤッ子「1オクターブの中には、ピアノの白鍵と黒鍵を合わせて、12の音があるのは、知っているな」


ステラ「はい。13番目は、また1番目と同じになるんですよね」


背景に鍵盤を3オクターブくらい表示する。中央当たりの1オクターブに、「1」から「12」を記す。「13」は「1」と同じ、ここから、白鍵と黒鍵の並び方のパターンは、「1」からになると説明。


ヤッ子「「1」から「12」の中から、「よく使う鍵盤」の選び方は、数えきれない程あるな」


ハル「数学では、2の12乗だから、……、たくさん」


ヤッ子「そうだ。数ある「選び方」のうち、最も多く使われている選び方が、「長調」と「短調」だ」


ステラ「「長調」と「短調」って、鍵盤の選び方の名前なんですか?」


ヤッ子「そうだ。選び方の名前なのに、「なになに式」や「なになに型」とは呼ばず、「長調」「短調」と呼ぶのだ」


ヤッ子「どの鍵盤が選ばれたのか、音符を順番に並べると、階段状になるから「音階」だ。長調の音階なら「長音階」で、短調の音階なら「短音階」というわけだ」


ステラ「先輩から。「長調」と「短調」の、どっちなのか、二者択一で聞かれるんですが」


ヤッ子「たくさんの選択肢なら、回答が難しいだろう。先輩が星山君に聞くということは、学びの促しなのだろう。だから、選択肢を少なくしたのだろう」


背景に、音階の名が、いくつか飛び交う。「ブルーノート」「教会旋法」「全音音階」「五音音階( )ペンタトニック)」「琉球音階」「都節」などなど。


ステラ「なるほど」


ヤッ子「ただし、乱暴な分類をすれば、「長調」と「短調」以外の曲も、「長調」と「短調」のどちらかに集約できそうだが」


ステラ「そうなんですか?」


ヤッ子「乱暴な分類だからな。例えば、『グリーンスリーブス』は、ニ短調の曲で、調号で、シに♭があるのに、わざわざ臨時記号でナチュラルにしているな」


ハル「そうでしたっけ」


ヤッ子「この曲は、実は、長調でもなく、短調でもない。教会旋法のうちの、「ドリア調」なんだ」


ミッツ「教会旋法って、白鍵だけを使うものですか?」


ヤッ子「よく知っているな。教会旋法は馴染みが少ない人も多いから、こうして例を出すと、納得できるだろう」


ヤッ子「鍵盤の「D」が主音の短調である、「Dマイナー」「ニ短調」で楽譜を書くと、シに♭を付けることになる。「ドリア調」と「ニ短調」は、別なものだが、このように長調や短調の調号を使うと、わかりやすい」


ヤッ子「わかりやすいから、「ドリア調」と「ニ短調」が似ているから、「ニ短調の仲間」という印象で、「長調」と「短調」のどちらかに集約という、乱暴な言い方をした」


ドリア調とニ短調の違いは、第10話で「音階は、どこから始まるか」と似ている。


ヤッ子「「長調」と「短調」は、別なものだが、早坂君の、今の状態は、音楽の研究ではなく、楽典の謎解きをしているから、長調や短調の調号を使った方が、わかりやすい。その例が、『グリーンスリーブス』なんだ」


ヤッ子「性別の話にすると、何かの、記入する書類で、性別は男女のどちらかを選択するものは、今もあるだろう。「その他」や「回答しない」の選択肢が用意されることもあるが。しかし、トイレは男女の二者択一が多い」


ヤッ子「性別と同様、音楽も「長調」と「短調」のどちらかとすることはあるだろう」


ステラ「それは、乱暴ですね」


ヤッ子「乱暴ではあっても、自分や、自分の周囲で、実害が無ければ、気付かないこともある。世の中の「知っておくべきこと」のうちの、ひとつであり、あらゆる「知っておくべきこと」を知っている人は、いないんじゃないかな」


ステラ「そう言われたら、そうですね」


ヤッ子「ライオンは、オスにたてがみがある。鹿は、オスに角( )つの)がある」


ステラ「はい」


ヤッ子「小さな子供には、簡単に教えると、理解しやすい。だから、動物はオスとメスに分けられて、人間もそうだと教える」


ヤッ子「大雑把に分類することで、わかりやすく、馴染みやすい。動物に限らず、音楽でも、曲には長調と短調の2種類があるという、大雑把な分類なら、馴染みやすい」


ステラ「動物の雌雄は、見た目で見分けたり、行動で見分けたりします。曲にもあるって聞いたので」背景に「動物の雌雄」の「雌雄」にフリガナ「しゆう」。「雌雄」の「雌」に差し棒で「メス」、「雄」に差し棒で「オス」を添える。


ヤッ子「まずは、大雑把な分類で理解をしながら、「そうとは限らない場合もある」という知識も添えておく。これで、「この分類だけ」の誤解を避けられる」


ハル「それって、ショージさんの好きな余談が、後々、重要ということですね」


ヤッ子「曲は、色々な終わり方があるな。「ああ、終わった」という感じで終わったり、「なになに……なんだけど」と、含みを持たせた終わり方。空中に放り投げたような終わり方」


ステラ「はい」


ヤッ子「西洋音楽で、「ああ、終わった」という感じがするのは、「完全終止」と名前があり、完全終止には2種類ある。それが、長調の終わり方と、短調の終わり方だ」


ヤッ子「いくつかの条件というか、特徴というか、わかりやすく目立つことでは、メロディが「ド」で終わる長調と、「ラ」で終わる短調の、2種類なんだ」


ハル「え? 「♪さくらー、さくらー」って、ミで終わりますよね」


ヤッ子「おおっ、よく知っているな」


ハル「はい、何となく」


ヤッ子「そうなんだが、日本の音楽は、西洋音楽とはジャンルが違うから、『さくら』を「完全終始ではない」とは言えないな」


ステラ「じゃあ、今は気付かなかったふりをします」


ヤッ子「そうだな。学んでいる最中だから、まずはシンプルな例で、納得しておこう」


ステラ「では、「ド」で終わるか、「ラ」で終わるかで、簡単に長調か短調かって思えばいいんですね」


ヤッ子「まずは、そうだ。そこで次に、メロディ以外の話もしよう。何が長いのか、短いのかという、名前の由来だ」


ステラ「そう、それです。「ド」「ラ」の音と、「長調」「短調」って単語が、繋がらないんです」


ハル「繋がらないから、無味乾燥な「暗記しよう」で、面白く感じない」


ステラ「そうなんです!」


ヤッ子「安心しろ。ここから、繋がりを話すから。繋がりがあることで、早坂君の好きな「謎解きの納得」になるから」


ステラ「早坂さんは、そうやって勉強なさっているんですか?」


ハル「そうなんだよ。そうじゃなきゃ、覚えられないし」


ヤッ子「長調と短調の違いは、定義はあるけれど、はっきりと分けられない曲も多い」


ヤッ子「明確に「どちらかだけ」なんてものではないのは、文系と理系と同様だな。美術は文系だが、遠近法という理系が用いられ、それを知った上で逆らったら面白かったという文系もある」


ステラ「長調と短調も、はっきりと分けられないんですか?」


ヤッ子「星山君、君は、宇宙人に詳しいかね?」


ステラ「え、いいえ、私はどちらかといえば、生物学が好きです。もちろん、地球上の生物で」


ヤッ子「そうか、ちょうどいい。では、もしも宇宙人から、こう問われたら、どう答えるか。「地球人は、男と女がいるそうだが、どう違うんだ?」と」


ステラ「宇宙人にですか? 会ったことがないので」


ヤッ子「女好きの東海林君はどうだ? 君の考える女とは何だ」


適宜、注意書きを表示する「※この会話は、各登場人物のキャラ設定です。」


ショージ「女は、子供を産んで、優しくて、力が弱く、たおやかで、ええーっと……」


ヤッ子「それは、女の定義かい?」


ショージ「定義と言うか、特徴と言うか」


ヤッ子「では逆に、星山君に聞こう。君の考える男とは?」


ステラ「ええーっと、ふと気付いたら、いつもあたしをジロジロ見ている」


ミッツ「それは、ステラちゃんが可愛いからだよ」


ステラ。海老逃げ( )両手を前に突き出して、後退り)する。「そ、そ、そんなー」


ショージ「本当だよ、ステラ様」ステラに向かってひざまずき、『ロミオとジュリエット』のような仕草。


ミッツ「ジロジロ見たり、言い寄る人だけでなく、そのうち『竹取物語』のように、貢物が来るようになると、ただでは済まない状態に追い込まれそう」


ヤッ子「その通り」


ヤッ子「では、蜜霧君は、男をどう思う?」


ミッツ。無表情で。「バカ」自分で言っておきながら、自分で笑って吹き出し、鼻水が出る。


ハル「何だよ、俺のことか?」


ミッツ「まあ、ハルもそうだけど、男って恋愛はわからないのに、すぐにその次に行くことばっかり考えてる」


ミッツ、ショージを横目で見る。ショージ、ステラに向かって、大袈裟に首を振り「俺は違うよ」を伝えようとする。


ヤッ子「では、早坂君にとっての女とは?」


ハル。淡々と話す。「ずるい。弱さを利用したずるさは、究極の強さ」


ハル。ミッツに背を向けているが、チラチラとミッツを横目で見る。


ハル「裏の顔は、尊大な態度で、人を奴隷扱いするのに、表の顔は可愛い淑女を演じるしたたかさ。自分の得になる人には甲斐甲斐しく尽力し、あどけない表情で不器用を装う……」


ハルの背景に、ハルにとってのミッツの思い出を表示する。ミッツのいくつかの表情。無邪気な可愛さのポーズ。仕掛けたいたずらに、後が楽しみと、ほくそ笑むどころか、ケラケラと笑う。


ミッツ。ハルの目線に気付き、殴りかかろうとするが、ステラとショージが引き止める。


ヤッ子「みんな、それぞれ、色々な考えがあるな」


ヤッ子。画面の正面に向かって。「この場面をご覧の皆様、これらのセリフは、アニメの登場人物である中学生のキャラ設定ですので、目くじらを立てないように、お願いします」


ステラ。ミッツに向かって。「「目くじら」って何ですか?」


ミッツ「怒るってこと。だから、「怒らないでください」ってこと」


ハル「「目くじら」って言葉を使うんだから、大人に向かっての呼び掛けだね」


ヤッ子「さてと……」再び、4人に向かう。「……俗に、男っぽい、女っぽい、男らしい、女らしいなどと言うのは、ジェンダーというか、期待されているお約束事だ、わかってんのか、お前ら!」


ヤッ子の強い口調に、みんな怯える。


ヤッ子。急に甲高い声で「いやっ、虫、虫ーー!」何度も飛び上がる。


一同は、驚きながらも、笑う。


ヤッ子「虫というのは冗談だが、早坂君、私がこんな声を出したら、意外か?」


ハル「はい、そうですね」


ヤッ子「もしも、今のような声を、トロール将軍が出したら、どう思う? おかしいか?」背景に、トロール将軍の全身。体育教師だとすぐにわかるような、ジャージで首から笛をぶら下げている大男。ここではまだ、美術教師だとは明かさない。


ハル「おかしいです」


ヤッ子「初めて、この学校でトロール将軍を見た人は、体育教師だと思うだろう。見た目での推測が外れる、身近な例だな」


ステラ。ハルに小声で。「確かに、トロール将軍って、てっきり体育の先生だと思っていました」


ハル。ステラに小声で。「ジャージと、首から笛でも、体育の先生ではないっていう、見た目の推測とは違う例だな」


ヤッ子「日本人っぽい顔と、外国人っぽい顔。日本人っぽい名前と、外国人っぽい名前。日本人っぽい話し方と、外国人っぽい話し方。予測が外れることもあるな」


ヤッ子「男の特徴、女の特徴、親の特徴、大臣の特徴、僧侶の特徴。それぞれ、何となく期待している人間像がある。世の中の物語は、その期待像に沿っていたり、沿っていなかったりで、泣いたり笑ったりする」


ヤッ子「怪力の女や、子供を虐待する親を物語で描くことで、泣いたり笑ったりするのは、前提として期待像があるからだ」


ヤッ子「強要されて困るというのを……」ハルとショージを見る。「……君たちは、自分を、心身共に男だと思っているだろう?」


ハルとショージ「はい」


ヤッ子「では、学校祭などのイベントで、演劇として、ミニスカートで人前に出るのは、恥ずかしいか?」


ハル「恥ずかしいです」


ショージ「一回だけですから、笑っていられます」


ヤッ子「では、日常生活で、ミニスカートを強要されたらどうだ? 君たちの心は今のままの男で、しかし体だけが美女だとして、だから、周囲の人がミニスカートを期待して強要したら」


ハルとショージ。とんでもない拒絶の表情。


ヤッ子「そういうことだ。周囲は期待していても、応えるか応えないかは、本人の意識だ。周囲が勝手に、体が女である君たちならミニスカートを拒絶するはずがないと、誤解するのだ」


ヤッ子「期待されている人間像は、「期待されている」に過ぎない。「期待するもの以外は存在しない」の意味ではないし、「期待に答えないのは罪悪」でもない」


ショージ「そんなのは、当たり前ですよ。理想と違うからって、否定しちゃ、いけない」


ヤッ子「そう思うのは、どーうしてもっ、我慢できないっていう程ではないからだな」この「どーうしてもっ」の部分は、力を入れた言い方。


ショージ「そうなんですか? 大人げない」


ヤッ子「この、どうにも我慢できないという呪縛は強力だ。なんと、あのアインシュタインも、その呪縛で、宇宙を表す数式を、誤って書いてしまったんだ」背景に「宇宙項」の文字を表示する。


ミッツ「アインシュタインも、理想にとらわれたんですか?」


ヤッ子「そうだ。アインシュタインは、後に、その誤った数式を、「生涯最大の失敗」と後悔したらしい」


注意書きとして、「この数式の正誤は、いくつかの議論があります」を表示する。


ショージ「宇宙の理想の数式って、意味がわかりません」この言葉で、ヤッ子のセリフで表示した注意書きが割れて粉々になる。


ヤッ子「これまでの経験から、男女の役割は、こういうのが多いと知っていて、その情報による予測が当たることが多い。しかし、個別の人に対する時は、予測は未確認情報だということを、自覚しているのがいいな」


ステラ「人に対する時は、ですか?」


ヤッ子「そう、失礼になることもあるからな」


ヤッ子「例えば、ビジネスの、初めて会う取引先の会社の人が、おっさんと、お姉さんだったら、おっさんの方が上司と予測する。しかし、お姉さんが上司ということもある。言葉遣いや態度で、お姉さんを蔑ろにするのは、失礼だな」


ヤッ子「音楽でも、書籍でも、これまでの経験から好みではないジャンルだからと期待していなかったが、いざ接してみると、個別の作品は、意外と面白いこともある」


ヤッ子「これまでの経験による予測は未確認情報。音楽も書籍も人も、予測が外れることもあると自覚しておきたいな」


ショージ「同性愛ってのは、結局は、本人の好みだから、「物好きな人もいるもんだ」とは思うけど、体は男か女の、どっちかだけですよね」


ステラ「それは誤解です」


ショージ「え?」ショージはヤッ子に向かって話しているのに、横からステラの訂正があったので、驚く。


ショージ「男が男を好きになるとか、精神的にどっちつかずはあっても、体は必ず、どちらかだろう?」


ステラ「いいえ、違います。もし、宇宙人に聞かれたら、まずは「大雑把に言えば」と前置きして、男女の別を言います。けれど、明確に分かれるのではなく、体の作りもグラデーションです」


ハル「え? そうなのか?」


ミッツ「あたしも、聞いたことがある」


ヤッ子「そのように、宇宙人に説明するのも、ひとつの方法だな」


ヤッ子。少し移動する。立ち位置を変えるなど、話の雰囲気に区切りをつけるように。


ヤッ子「ジェンダーのついでに言及すれば、年齢による期待もあって、年齢によって人徳が高くなりつつも、大雑把に価値が下がるというのを、文化として前提としている」


ハル、ショージ、ミッツが、それぞれの経験を思い出す。親( )両親ではなく、父親や母親だけでも良い)が、若く見られる努力や、「おじさん」「おばさん」と呼ばれると激怒する姿など。


ヤッ子「無論、期待像が主題ではない物語もあるが、期待像を知らない宇宙人は、意味不明のことも多いだろう」


ショージ「アルキメデスが、入浴中に、水中で物が軽くなる原理を発見した時、喜びのあまり、風呂場から全裸で町を走り回ったって話があるよな」


ミッツ「あの、「ユリーカ」の話でしょ。喜ぶのはいいけど、我を忘れる程って、信じられない」


ショージ「実は、当時は、猛暑の日に全裸で外出ってことは、普通のことだったんだ」


ミッツ「そうなの?!」


ヤッ子「当時のギリシャを知らない蜜霧君が、アルキメデスの行動を奇異に感じたように、宇宙人にとっては、なぜ蜜霧君がそう感じたのか、意味不明だな」


ステラ。ショージに向かって。「水に入れると軽くなるんですか?」


ショージ。大喜びでステラに教える。「そうなんだよ、王冠が押しのけた水と同じだけ、軽くなるんだ」


ステラ「その、押しのけたというのが、わからないんです」


ショージ。困る。「王冠の形は、複雑で、ええーっと」


ハル「1リットルの牛乳パックがあるよな」両手で、牛乳パックっぽい形を表現する。


ステラ「はい」


ハル「水が1リットルなら、重さは1キログラム。もし、1リットルの金属か何か、何でもいいや、その塊が5キログラムなら、水に入れたら4キログラムになる。何を水に入れても、1キログラム軽くなる」


ステラ「何を入れてもですか?」


ハル「そう。水がこの大きさで1キロだから。金属が、細長い針金でも、もっと複雑な形でも、王冠の形でも、金属じゃなくても、何がどんな形でも、1リットルの大きさなら、1キログラム軽くなる」


ステラ「押しのけるって、大きさなんですね」


ハル「そう。1リットルの物を、水に入れたら、1キログラム軽くなる。何かの軽い液体、油だったら、1リットルが800グラムの液体になら、金属を沈めても、木材を入れても、800グラム軽くなる」


ハル「もっと重い液体で、1リットルが1200グラムの液体になら、何を沈めても、1200グラム軽くなる」


ハル「液体に沈めて、重さがマイナスになったら浮く。プラスのままなら沈む。水に木を沈めたら重さがマイナスだから、木は水に浮く。水に金属を沈めたら、プラスのままだから、金属は水に沈む」


ステラ「じゃあ、1リットルの大きさで、重さが1キロよりも重ければ沈んで、軽ければ浮く。これで合ってます?」


ショージ。割り込む。「すごい、ステラちゃん。エグザクトリィ、トリビアーン!」ショージは、「トレビアン」をジョークで「トリビアン」と言ったが、誰もジョークと気付かない。単に誤ったと思い、誰も訂正しない。


ハル「水よりも、油の方が軽いよね。何かの液体が、1リットルで500グラムなら、そこに何かを入れたら、1リットルで500グラムより重いか軽いかで、沈むか浮くかが変わる」


ショージ。割り込む。「つまり、王冠がどんなに複雑な形でも、大きさの違いで、浮くか沈むかが決まる」


ショージ「金と銀の2つの王冠が、同じ重さで、水に沈めたら、軽くなる具合が違う。なぜなら、2つの王冠は、金と銀で、素材が違うからだ」


ヤッ子。話が横道に逸れたので、戻す。


ヤッ子。演技として、声を出して泣く。「理科の教師として、私は嬉しいぞ。お前達がこんなに、理科を理解して……」


ミッツ。笑いで、吹き出す。背景に「理科を理解」が表示される。ふりがながあると、わかりやすいかも。


ヤッ子。軽く咳払い。


ヤッ子「さっき東海林君が、良い例を出してくれたな。現代の日本と、古代ギリシャでは、裸で外出する文化が違う。期待象は、文化に依存する」


ヤッ子「文化に依存した前提の中で生活するから、無理して期待に応える演技を続けている人もいるだろうし、期待と無関係に自分の人間像を生きていたり、無理もせずに素のままで期待像の人もいるだろう」


ヤッ子「ドラマや漫画は、現実離れした事件が描かれながら、それ以外は理想的な家族像も描かれることもある。都合よくドラマの中から「理想の普通」を採用し、それと違う自分の境遇を憐れんでも……」


ヤッ子「男なら男らしく、先生なら先生らしく生きるとか、それよりも、自分らしく生きるとか……」


ヤッ子「星占いや血液型の性格付けは、科学的な根拠の議論はしなくても……」


ヤッ子。両手を出して、片方ずつ動かす。「……左利きと右利きは、脳味噌の右脳と左脳に違いがあるにしても、「得手不得手に、そういった傾向がある」という程度で、明確に分かれるのではない」


ハル「大阪の人だからといって」


ヤッ子。ハルの「大阪の人」に反応する。「大阪人だからって、必ずしも、いつも面白いことを言うとは限らない」


背景に、第4話のオープニング曲前に登場した、ヤッ子の彼氏。その彼氏の周囲にいる人が、心の声。「何か面白いことを言う」「わくわく」


ヤッ子「何か面白いことをと、期待されるのは、辛いぞ」


ヤッ子「大阪人であっても、納豆が平気な人もいる」ヤッ子の思い出。彼氏との食事。ヤッ子「納豆だけど、平気?」、彼氏「実は、好きなんだよ」。


ヤッ子「大阪人であっても、阪神タイガースのファンとは限らない」


ヤッ子「大阪人であっても、普通に「関西電気保安協会」と言える人もいる」


ヤッ子「大阪人であっても……」


ヤッ子は、例を1つ挙げる毎に、スーパーヒーローのようなポーズを、あれこれ。


ミッツ「ヤッ子先生、もういいです」


ヤッ子「ああ……そうか」


ハル「大阪への愛がなんだか凄い」


ショージ「静岡出身だからって、必ずしも、サッカーのリフティングが上手だとは限らない」背景に、静岡県の町中の、あちこちで、老若男女がリフティングを楽しんでいる風景。


ヤッ子。ショージの背景のリフティングに被るように。「ああー、しっ! ずおかぁぁ……」


ハルたちが、呆然と横目でヤッ子を見る。


ヤッ子。目を輝かせて、中腰で、コアリクイの威嚇ポーズのような姿勢で、哀願するような演説。「静岡県民はな、静岡県民はなぁ……」


ミッツ「はいはい、ヤッ子先生は、素敵な恋愛をして来たんですね」ヤッ子の背中や肩をさする。


ハル「ということは、それだけ、恋も終わったんですね」


ヤッ子。ハルを鋭く睨む。歯がギザギザでもいい。


ヤッ子に、指し棒で「実は、単に惚れっぽいだけ。いつも片想い」を表示する。


ヤッ子。仁王立ちで、少し大きな声で。「つまり!」みんなが息をのむ。「男女と言っても人それぞれで、定義や特徴に当てはまらない人がいるように、長調と短調も、曲によって様々だ。そこのところを、肝に銘じておけ! 返事はっ!」


一同「はいっ!」


ヤッ子。急に、にこやかに「ということを踏まえた上で、長調と短調の話をしようか」


ヤッ子。黒板に、長調と短調の説明を書く。


黒板の上段に「長」、下段に「短」と書き、それぞれの文字を横長の楕円で囲む。


黒板の上段の、楕円の右側には、上段と下段のそれぞれに、全音符を3つ重ねて、和音を表す。これは後に、「長3度」などの文字を追加する。


黒板の上段の、和音の右側には、上段に「ド」、下段に「ラ」と書く。


黒板の中段に、上下の楕円の横幅の範囲内に、「○調」「○和音」「○3度」を横並びに書く。


その右側( )上下段の全音符の位置)に、「主和音-主音」と書く。


ヤッ子「この○の中には、上の楕円の「長」か、下の楕円の「短」が入る」


ヤッ子「長調、長和音、長3度、ド。……短調、短和音、短3度、ラ」ヤッ子の言葉に合わせて、文字を強調するように、色が付く。


ヤッ子「長と短の、どっちが主和音に使われているか、これが、長調と短調の区別。理屈はこのように単純だが、単語の意味が漠然としているのが、もやもやするだろう」


ショージ。手で「もやもやぁ」とする。


ヤッ子「歌が「ああ、終わった」という感じで、しっかり終わった時、メロディは主音を歌い、和音は主和音を鳴らしている」黒板の「主和音-主音」を指す。


ヤッ子「鍵盤モノサシで、音階スライドをどの鍵盤に合わせていても、メロディは「ド」と「ラ」の、どちらか」


ステラ「それ以外は無いんですか?」


ヤッ子「それ以外は、ややこしいから、今の説明では割愛する」


ショージ。ハルの股間を触る。ハルに耳打ち「割礼する」


ヤッ子「宇宙人に男女の違いを説明するような状態だから、「必ずしも、そうとは限らない」に、話を広げることはしない」


ヤッ子「和音の種類は、大雑把に4つ「増和音、長和音、短和音、減和音」があり、完全終止の時は、長和音か短和音のどちらかで終わっている」


ハル「それも、コードネームのスロットマシンですか?」


当話の、ロックンロールのスリーコードの話で表示したスロットマシンを再表示する。根音に指し棒で「ロックンロールの主要三和音で利用」と表示し、次に、和音の種類に指し棒で「ここで長調と短調の説明をする」と表示する。


ヤッ子「そうだ。和音の種類の、4つのうち、ここでは「長和音」と「短和音」だけを使う」


ヤッ子「完全終止の時、長調は、長和音が鳴って、ドで終わっている。短調は、短和音が鳴って、ラで終わっている」ピアノで、長調の終わり方と、短調の終わり方の例を演奏。


ヤッ子「早坂君。長和音と短和音は、覚えているな」


ハル「はい。英語では「メジャーコード」「マイナーコード」ですね」


上段( )長調)の全音符の、根音と3度音を示して「ド」「ミ」と書き加え、「長3度」とする。下段( )短調)にも、同様に「ラ」「ド」「短3度」と書き加える。


ヤッ子。音符を指して「長調は、メロディがドで、長和音で、長3度。短調は、メロディがラで、短和音で、短3度」


ヤッ子「長調も短調も、その時に鳴っている和音は「主和音」で、鳴っているメロディは「主音」という」


ヤッ子「このように、長調は長だらけ、短調は短だらけ。謎はいっぺんに解けて、清々しいだろう」


ハル「はいっ!」


ステラ「「3度」っていうのは、聞いたことがありますけど。音符の玉が、くっ付いているんですよね」


ショージ「指折り数えるんだよ。「ド、レ、ミ」とか「レ、ミ、ファ」とか、順番に」


ステラ「♯と♭は、どう数えるんですか?」


ショージ「まずは、数えてから。その後で、♯と♭を考える」


ステラ「先輩達が、長3度とか短3度とか言っていて、3度はわかるんですが、長とか短が、よくわからなくて」


ショージ「ドからミまでは、トロンボーンのポジションは、いくつ離れている?」


ステラ「えーっと、1、2、3、4。4つです」


ショージ「では、レからファまでは?」


ステラ「……3つです」


ショージ「4つ離れていたら長3度。3つ離れていたら短3度」


ステラ。弱気な声で。「はい……」


ショージ「ドからミ♭までなら、3つ離れているから短3度」


ステラ「?」


ショージ「だから、ド、レ、ミって数えて3度で、ピアノの鍵盤なら、その間に黒鍵が2つあって長3度。でも、レ、ミ、ファの3度なら、黒鍵が1つだけだから、短3度」


ステラ。不安そうに、ヤッ子を見る。


ヤッ子。微笑んでハルに言う。「早坂君なら、説明できるか? 「他人に説明できて、初めて自分で理解できる」といわれるしな」


ハル「はい」


ハル。他人に説明するのが初めてなので、少し緊張。「トロンボーンのポジションの刻みは、ギターのフレットの刻みと、意味は同じ。今は説明のために、刻みの幅は考えない、刻みの数だけで、えーっと、説明するよ」


ステラ「はい」


ハル「刻みのどこから始まっても、この幅……」両手で、4つ分の幅を表現。「……この幅が長3度だとすると、どこから始めても……」両手を移動させる。「……長3度。」


ハル「さっきより、少し狭いと短3度で、どこから始めても短3度」両手の幅を少し狭くし、同じように両手を移動させる。


ステラ「あ、距離ですね」


ハル「そう、距離。普通は、音痴だと「音程が悪い」って言うけど、ここでは「どれくらいの距離か」ってのが、音程」


ハル「今は、「長い、短い」で、曖昧に腕の幅で表現したけど、刻みの数を数える」


ステラ「じゃあ、必ず、刻みが3つ離れていたら、短3度なんですね」


ハル「そう! その通り! と、言いたいけど、ショージさんのド、レ、ミと指折り数えることとセットにする」


ステラ「セット?」


ハル「そう、セットにするってのを教わっていなかったから、バラバラに考えるから、よくわからない」


ハル「ド、レ、ミ♭なら3度。でも、ドからレ♯なら2度」


ステラ「2度ですか?」


ハル「そう、レ♯とミ♭は、ピアノでは同じ鍵盤だから、刻みの距離も同じ。でも、その前に指折り数えたから、同じ距離でも、2度と3度の、呼び名が違う」


ステラ「なるほど。よくわかりました。でも、すぐに忘れそう」


ハル。困ったように、頭を掻きながら、上体を起こす。「そうなんだよ。半音を、つまり、刻みを数えるのと、指折り数えるのを、両方を数えると、ややこしいんだよな」


ヤッ子「早坂君。音楽の先生からもらった、鍵盤モノサシを持っているかい?」


ハル「はい、あります」取り出す。そこには、左側の鍵盤には低いドから上に向かった音程が書かれてある。右側の鍵盤には、高いドから下に向かった音程が書かれてある。


ハル「あっ、そうだ、これだよ。ステラ、これを見てごらん」


ショージ「こらっ、ステラ様を、呼び捨てにするなっ!」


ハル「ああ、済みません。星川さん、これを見て」背景に「星川」の文字が表示される。


ステラ「星山です。呼び捨てでステラと呼んでください」背景の、ハルが誤った「星川」の文字が、ブルブルと振動して「星山」に変わる。「星川」の文字にバツ印を付ける手法はしない。


ハル「低いドから上に向かうと、必ず「長」か「完全」のどちらか。逆に、高いドから下に向かうと、必ず「短」か「完全」のどちらか」


ハル「必ず「長」か「完全」というのは、何らかの理由かは知らないけど、偶然にこうなっているから、暗記に大いに役立つ、利用できる」


ハル「だから、3度があったら、「この3度は、「ドからミ」と「ラからド」のどっちと同じか」で判断すればいい」


ハル「2度と3度以外の、4度とかもっと長い距離なら、トロンボーンのポジションで半音を数えるのが大変だから、この鍵盤モノサシが便利だね」


ハル「先に「何度かな?」と指折り数えて、どっちと同じかなで、長と短のどちらかを確認する」


ステラ「じゃあ、6度だったら、えっと、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ。ドからラまでの距離と同じなら長6度、ですね」


ハル「そう! ドから上に向かうのと同じなら長6度、短ければ短6度」


これまでの説明の背景では、ショージが嫉妬した顔で、何度か画面内に登場。ハルの説明を邪魔しないように、二人の向こう側から画面内に入る。ハル達の後ろから、画面の横から、画面の上から入って来る。


ヤッ子「ところで、早坂君。ここ、長和音なら、根音から長3度だから、3度音から5度音までは短3度だな」黒板の、全音符を3つ積み重ねた箇所を指す。


ハル「はい」


ヤッ子「だったら、説明をしっかりと、詳しくするためには、「3度音から5度音までは短3度」ということを書くべきだと思わないか?」


ハル「え? あっ……、ああ、そうかも、です」


ミッツ「決まっているんだから、書かない方がいいかも……ですか?」


ヤッ子「その通り」


ステラ「どういうことです?」


ミッツ「今は、できるだけシンプルな説明をしてるでしょ。長調のところに「短3度」って書くと、紛らわしい。「長」の話に「短」が混ざるから。どうせ決まっているんだから、紛らわしいのは、書かなかったの」


ステラ「決まっているんですか……」


ミッツ「そう。「犬が西向きゃ、尾は東」ってこと」


ショージ「犬が首を横に向けたり、寝転がったら、どうなんだ?」


ミッツ。きつくショージを睨む。「だから、今はシンプルに説明している時だから、余計なことは、言わないのっ」


ハル。ステラに補足説明をする。「今は、3度の長短の疑問から、鍵盤モノサシで確認する方法を知ったよね」


ハル「ここで、一旦は区切りとして、次は、音程の足し算の話にしたいんだ」


ステラ「はい」


ハル「それを、今にするか、何かの機会の時にするかだけど、せっかく長和音と短和音の話があるから、今にしようってこと」


ステラ「はい」


ハル「そこで、ヤッ子先生は「教えるべきか、どうするか」の問い掛けをして、ミッツは、「情報過多」を心配したってこと」


ステラ「ややこしいんですか?」


ハル「うん。ミッツが、「長」の話に「短」が混ざるからって言ったとおりだ。でも、頑張って説明してみる」


ステラ「お願いします」


ショージ。体中から、「嫉妬」「うらやましい」「ステラ様に」などの文字が放出している。


ハル「有名な「ドミソ」の和音を見てみよう」鍵盤モノサシを机上に置く。ステラと、顔が近付く。


ハルとステラは、向かい合わせ。鍵盤モノサシは、黒鍵側がハル、白鍵側がステラになるように置かれている。ステラ側からは正しく、ハル側からは逆さまに見える向き。


ハル「両手を使ってもいいから、3本の指で、「ド」「ミ」「ソ」の場所を指していてね。動かさないように」


ステラ「はい」


ハル「ドからミまでは、ここに書いてある通り、長3度だよね。それから、ドからソまでは、完全5度。これも、鍵盤モノサシに書いてある、そのままだ」


ステラ「はい」


ハル「そこで、ヤッ子先生が、教えたらどうかと言ったのは、ミからソまでの距離は、長3度か、短3度か。どっちだと思う?」


ステラ「これは……、どっちでしょう?」


ハル「3度には、長3度と短3度以外にも、種類はあるけど、答えは鍵盤モノサシにあるよ。というのは、鍵盤モノサシは、入門用として、よく使うものが書かれているから」


ステラ「あのぉ、言いにくいんですが」


ハル「どうした?」


ステラ「あたしの、自分の指が邪魔なので、指を離して数えたいんですが」ステラ自身の指が、鍵盤の下の音程を示す文字を隠している。ステラの指を透かして、音程の文字が点滅して、これを見たいと視聴者に知らせる。


ハル。慌てる。「あっ、ごめん。いいよ、離して」


鍵盤モノサシの向きが逆の場合、ステラは「早坂さんの指が邪魔なので」のセリフになる。


ステラ。指を鍵盤モノサシから離して、半音を数える。「ドからミ」の長3度とは違う。「ラからド」までの短3度と同じことに気付く。


ステラ。笑顔で回答する。「短3度です。この鍵盤モノサシには、「3度」が2つあって、「ラからド」までの短3度と同じ距離です」


ハル「その通り。さすが。今は、有名な「ドミソ」の和音だったよね。これを含めて、全部の長和音は、「長3度」と「短3度」の組み合わせは「完全5度」なんだ」


ハル「音程では、「3+3=5」という計算になるのは……」


ステラ。ハルの言葉に被せるように。「2つの「3度」を繋げるから、「ミ」が「のりしろ」のように、重なるんですね」


背景に2本の紙テープを表示する。それぞれ「ド レ ミ」「ミ ファ ソ」と書かれている。2本を繋げて、長い1本にする。その時、「ミ」が重なる。


ハル「そう。「ミ」が重なるから、「3度+3度=5度」になるんだ」


ハル。黒板に書かれている、音符の玉の近くに移動する。


ハル「これ、これだよ。どんな長和音も、これなんだ」


ハル。黒板の長和音の玉の、根音から3度音までの左側の「長3度」を指す。根音から5度音までの右側の「完全5度」を指す。3度音から5度音までの左側に、「短3度」を書き足す。


ハル「この、長和音なら必ず「長3度」「短3度」「完全5度」に決まっているから、「犬が西向きゃ、尾は東」ってこと」


ステラ「そういうことですか」


ハル「ああーっ、疲れたーー」電池切れのように倒れる。ステラ、ミッツ、ヤッ子が、スマホの充電器や、自転車の空気入れを使って、ハルを復活させる。


ショージ「ステラちゃん、こっちを見て。ホラホラ、短和音は、こうなんだよ」さっきハルが書き足したように、黒板の下段の短和音にも、「長3度」を書き足す。


ステラ。ハルを介抱しながらなので、軽く言う。「あ、そうですか」


ヤッ子「もちろん、曲によっては途中から長調と短調が入れ替わったり、長調かと思えば、短調の特徴があったりするがな」


ヤッ子「人間が、必ずしも男女のどちらかに分類できるとは限らないように、音楽も、必ずしも長調か短調に分類できるとは限らない」


再度、背景に、音階の名が、いくつか飛び交う。「ブルーノート」「教会旋法」「全音音階」「五音音階( )ペンタトニック)」「琉球音階」「都節」などなど。


ヤッ子「だから、宇宙人向けの、かなり限定的な説明をした」


ステラ「エビは、一生のうちで雌雄が変わったりするし、ナメクジとかは雌雄同体。深海魚では、1匹の雌に何匹も雄がくっ付くのもいる」


ショージ「ヤッ子先生は、女ですか?」


ヤッ子「女だが、文句あるのか?」


ショージ「じゃあ、男が好きですか?」


ヤッ子「恋愛対象は男だが、その言い方は不本意だな」


ショージ「じゃあ、俺のことも好き?」


ヤッ子「あーあ、女教師はゴミ箱であれっていうから、覚悟はしていたが」


ヤッ子「少なくとも、私の恋愛相手になるには、「先生にすごいと思われたい」という自己中心的な考えや、私におもねるようじゃ、駄目だな」


ミッツ「ねえ、ショージの好きな女の子って、どんなタイプ?」


ショージ「それはもちろん、ステラ様、あなたですよ」


ステラ。困った顔。


ミッツ「じゃあさ、ステラちゃん、絵がうまいでしょ?」


ステラ「え? まあ、メルヘンが好きなので、それなりに」


ミッツ「じゃあさ、ショージの言う、好きな女の子のタイプを、絵に描いてくれない?」


ステラ「はい、わかりました」


ショージ。黒板に背を向けて、話し始める。ミュージカルのように、自分に酔って歩きながらでも良い。ステラが、ショージの言葉の通りに、黒板に描く。


ショージ「顔の輪郭は、逆さまの卵型」


ステラ。黒板に逆さまの卵型を描く。


ショージ「顎は小さく、知性をうかがわせる広い額。目は大きく、黒目が大きい円らな( )つぶらな)瞳。挑戦的な少し上がり目に、長いまつげ。鼻は申し訳程度に小さい。口は、小さな顎に見合って小さい」


ショージの空想が、吹き出しで表示される。吹き出しの中に、ショージの言葉の通りに、絵が描かれる。


ショージの空想は、言葉に従って書き足される表現でも良い。最初は中庸な女の子が、ぼんやりと表示されていて、ショージの言葉に従い、変形して行く表現でも良い。


ステラも黒板に絵を描いているが、ステラの絵は、画面に表示しない。


ショージ「肩幅は、思わず抱きしめたくなるように小さい。首も、肩幅に見合って細い。指は白魚のように細く長い」ショージの空想の絵が、完成する。


手の形は、ダビンチが多用した、人差し指を出す形。『最後の晩餐』では、イエスの右隣で、顔と手だけが見えて、人差し指を上に向けている。『洗礼者聖ヨハネ』、『岩窟の聖母』でも、この形の手が描かれている。


ショージ「どうだ、これが俺の理想の女の子だ」出来上がった、空想の絵を掲げる。


ステラの描いた黒板の絵は、宇宙人のグレイ。指は、細いが節くれだっている。まつげが不気味に長い。


いきなり、グレイだけを画面に表示すると、ステラが描いたとわかりにくいので、ショージが掲げた絵から、カメラの向きを変えて、チョークを持ったステラ、ステラとグレイ、グレイのアップのようにする。


ショージ。愕然とする。


ミッツ「髪の毛のことを、言ってなかったよね」


ミッツ。黒板のグレイの指( )ダビンチが多用した形)と、「E.T.」のように指先を合わせる。くっ付いた指先が、ハートマークで光る。


ショージの話と、ステラの絵の、両方に、まつ毛など、メルヘンだが、グレイなら不気味になるものがあっても良い。


▽ 場面変更 ● ── ●


休日。


ストリートピアノ。


音楽の先生が弾き終わる。


続けて、20歳くらいの若者が弾き始める。


客の一人が、音楽の先生に話し掛ける。音楽の先生は、短い応対をするものの、すぐに会話をやめる。


音楽の先生「演奏を聴きましょう」


若者は流行歌を演奏している。ボカロ曲やアニメソングが、ここでの話題に相応しそう。


演奏終了。


音楽の先生。拍手をしながら、演奏を終えた若者に話し掛ける。「お上手ですね」


次に演奏する人がいない。少し、歓談の時間になる。


若者「でも、楽譜は読めないんですよ。ネットの動画で、ピアノロールを見て練習しました」


若者。スマホでYoutubeの動画を見せる。アプリ「シンセシア」のような動画で、ゲーム「太鼓の達人」のように、画面下部の鍵盤に向かって、上からピアノロールのような長方形がおりて来る。


若者が、かつて非難された回想。または、この場で、周囲の客から非難される。ピアノロールなら、楽譜が読めなくなる。ピアノを弾いているとは言えない、自分で楽譜を読んで演奏するのが正しいという非難。


音楽の先生「そんなことはありません。目の見えない人が、聞いた音を頼りにピアノを演奏するのは良くて、見える人は楽譜を読む義務があるとは、おかしいことです」


なお、楽譜には点字の楽譜もある。


音楽の先生「楽譜は、「最も普及している伝達手段」であって、「唯一の正しい伝達手段」ではない」


音楽の先生「「楽譜を読めなくなる」ではなく、「今はまだ、楽譜を読めない」。楽譜は、いつか必要になってからでもいい」


音楽の先生「気紛れにピアノを楽しむのも良いですし、必要であれば、先生に就いて、楽典を学びながら、演奏も学ぶのも良いでしょう。ご本人の需要によります」


音楽の先生「誰にも迷惑ではないのですから、楽しむことを非難する理由は、ありません」


音楽の先生「楽譜が読めるようになるには、慣れることを含めて、期間も掛かります。譬えれば、自動車運転免許の取得といった、初期投資とも言えるでしょう。その後、楽譜をスラスラ読めるようになることは、運転技術の向上に譬えられます」


音楽の先生「自動車と異なり、ピアノ演奏では、楽譜を上手に読めなくても、危険はありません」


若者「わかります。自分で運転しなくても、タクシーを使う方法もありますよね」


音楽の先生「そうです。自分で運転するのが好きなのか、好きでもないが、時々は必要になるのかにもよります」


若者「外出するなら、自動車にこだわらなくても、自転車や歩きでもいいですし」


音楽の先生「それが、あなたがご利用なさっている、ピアノロールということです。タクシーで観光をするなら「ドライブ」とは呼ばないだけで、邪道ではありません」


中年男性が弾き始める。曲目は、1950年から1980年代の映画音楽で、ゆっくりしたもの。弾けてはいるが、上手ではない。


中年男性。弾き終わって、音楽の先生と、若者の会話に加わる。


次に演奏する人がいない。少し、歓談の時間になる。


中年男性。若者に向かって。「おたく、上手だねえ」


若者。あまり話したくないのか、少しの笑顔で、伏し目がちに首を振る。


中年男性「俺なんかよ、子供が独立してから弾き始めたから、指も動かねえし」


音楽の先生。中年男性に向かって、若者が楽譜を読めないことを話す。「こちらの方は、音楽教育を受けずに、見よう見まねで練習なさったそうですよ」


若者。音楽の先生に促されて、練習に使っていたスマホの画面を見せる。


中年男性「ほう、そうか、頑張ってるな。こんな方法も面白いな」


中年男性「ピアノが上手な人に対して、俺が思っていることは、2つあるんだ。1つは、練習できる時間が、潤沢にあって、羨ましいってこと。もう1つは、その時間を、きちんと丁寧に練習したんだなってことだ」


若者。中年男性に向かって話すが、目線は下を向いている。「はあ、まあ、ピアノが好きなんで」


中年男性「そうか、好きなことがあるって、幸せだな。好きなことができるのも幸せだ。おたくが普段、どんな生活をしているのかは知らないが、少なくとも、好きなピアノが弾けるってことは、嬉しいな」


音楽の先生「楽器演奏に限らず、様々な技術、これには、人付き合いも含まれて、骨( )コツ)を教わりたくなります。骨を教われば、暗中模索よりも短期間で技術向上できますが、その場ですぐに、できるようにはなりませんね」


若者「はい、練習しました」


中年男性「立派だ! ピアノも、人付き合いも、勉強や練習できる環境が大切だな。その前に、そもそも嫌いにならない環境が大切だな」


音楽の先生「そして、先程も仰ったように、その環境の中で、きちんと練習したのが、素晴らしいです」


若者「褒められ過ぎるのは、ちょっと」


中年男性「あっはっは、そうか」


若者「自分なんて、まだまだ下手です。足りないところもありますし」


音楽の先生「1曲の演奏で、万人に喜ばれるのは不可能です。若者向けのお店では、高齢者からの人気が低く、高齢者向けのお店では、若者からの人気が低いのと似ていますよ」


中年男性「「好みじゃない」って言われるのは、悪口じゃない。俺なんかは、家族から「うるさいから、やめろ」って言われるんだぜ。泣いちゃうよ」


誰かが、ピアノを弾き始めたので、3人は会話をやめる。若者は退席。


弾いているのは、若い女性。ラフマニノフか何か、大衆向けではないものにするか、未定。「芸術的には高度でも、大衆向けではない曲を好む人」への、ステレオタイプは避けたい。


弾き終わった若い女性は、音楽の先生と、中年男性の会話に加わった。


音楽の先生「ラフマニノフですか。確か、前奏曲の……」


若い女性。曲目を言う。


中年男性「音色が違うように聞こえたけど、同じピアノだから、弾き方かい?」


若い女性「ええ、和音の美しさが、はっきりと聞こえるように弾きました」


中年男性「いくつかのハンマーを、使い分けたように聞こえたな。金槌に種類があるって、知ってるかい?」


若い女性「いいえ」


中年男性「そうかい。叩く面が、四角いものと円形のもの。平たいものと、少し膨らんだものがあるんだ。聞いていて、平面になった、膨らんだのになった、なんて、聞きながら思った」


音楽の先生「音大出身ですか?」


若い女性「はい。現在は……」音楽普及の活動を行っていることを話す。


中年男性「さっき、おたくが弾いていた時に見てた楽譜、あまりメモを書いていないね」


若い女性。訝しい( )いぶかしい)顔で。「はい」


中年男性「俺の勘違いが訂正されて、良かったよ。クラシック音楽の人は、楽譜に、すごく書き込みをしているってのが、間違いだったんだな」


若い女性「子供の頃は、たくさんしていました」


音楽の先生「人によりますし、年齢や、専門や、目的によっても違うようです」


中年男性「あんなに、ごちゃごちゃした楽譜を、よく読めるなあって、それだけ頑張ったんだなって思う」


若い女性「あまり、こういうことは、言いたくないのですが、みんな泣きながら、勉強しています」


音楽の先生「大雑把に言えば、「楽典」と「音楽理論」のうち、音楽理論という便利な道具を、使いこなせるように、皆さんは努力しているのですね」


中年男性「俺は、そんな難しいことは、わからん」


音楽の先生「僕が若い頃、音楽を教えるのが下手で、「音楽は面倒だ、難しい」と思わせてしまったことを、今も申し訳なく思っています」


中年男性「ほほう」


音楽の先生「楽譜は、高い低いは見てわかりますので、「どれだけ高いか」と、右に進むのは見てわかりますので、「どのタイミングか」だけです」


音楽の先生「けれど、あんなにたくさんの音符を覚えるのは大変なので、グループ分けなどを知ると、覚えやすくなります」


中年男性「将棋の記譜も、デタラメに並んだ駒は覚えられなくても、対戦の途中をプロが見たら覚えられるのと、似ているんですか?」


音楽の先生「まさに、その通りです。それらが音楽理論で、「ド」と「ミ」が一緒に使われることが多いのは、どんな場合が、前後関係はといった分類があります」


中年男性「そんなの、面倒くさいな」


音楽の先生「ですから、既に先人が書籍にまとめてくれています。音楽理論は便利な道具なので、必要な時に、ちょっとだけ利用するのも良いですし、先に、道具を使いこなせるように頑張る人もいます」


音楽の先生「便利な道具を使いこなすのは大変なので、「使わない」という選択肢もあります。それなのに、使うことを強要するのは、余計なお世話だと思います」


若い女性「「道具」というのは、思ってもいませんでした」


中年男性。若い女性に向かって。「おたくは、それを全部、覚えてるんですか?」


若い女性「全部ではありませんが、いつでも需要に応えられるように、覚えて使いこなせるように、しています」


中年男性。感心する。


音楽の先生「子供は、話し言葉から、ひらがな、漢字を覚えたり、鉛筆やハサミといった道具の使い方を学びます。そこから、専門的なことを覚えるのに似ています」


中年男性「そっかあ。外国人から見たら、俺達が、ひらがな、カタカナ、漢字、数字、ローマ字、あれこれ、たくさんの文字を使うのが、不思議だって言うが、俺が音楽理論が面倒だっていうのと、似てるかも」


若い女性「確かに、私が子供の頃は、友達から「特別な教育を受けている」と言われましたが、私自身は、単にそれぞれの家庭の個性と思っていました」


若い女性「子供の頃から、家業の手伝いをしている友達も、すごいなと思っていました」


▼ CM明け。   ▼──   ──▼


CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。


ミッツ。自宅の部屋で練習。


「ぶんぶんぶん、はちがとぶ」と歌いながら、歌に合わせて、右手で机をトントン叩く。右手で歌うようなもので、「はちがとぶ」は細かく「トトトトトン」。


ミッツ「うん、できる。歌いながら、手で単調に叩くのはできるんだよね。問題はここからだ。両手でできるか」


次は、左手で、単純に拍を刻むように、机を叩く。指し棒で、左手には「単純に拍を刻む」を、右手には「メロディと同じに叩く」を表示する。


背景には、楽譜を表示する。歌の楽譜と、手拍子の楽譜の、2段セット。歌の楽譜は、歌詞付き。パート名として、歌の楽譜に「右手」、手拍子の楽譜に「左手」と書き、机を叩く演奏に合わせて、楽譜の玉が光って膨れる。


両手での演奏ができない。「はちがとぶ」が「はーがーぶ」になる。


ミッツ「ああん、難しい。どうして、両手ですると、できないんだろう」


ハル。自宅の部屋で練習。


『ぶんぶんぶん』ができて、『ドレミの歌』ができない。しかし、何回か練習すると、できるようになる。


ハル「よし、じゃあ、今度は左右を逆に」



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