第5話 Bパート
【前書き】
楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。
当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。
人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。
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▼ Bパート。 ▼── ──▼
吹奏楽部。
ステラ「これが、新しい曲ですか」楽譜をしげしげと見る。
ステラ。先輩に質問。「これ、音符の上に休符があるんですが、鳴らすんですか? 鳴らさないんですか?」第1トロンボーンと第2トロンボーンが、1枚に書かれているパート譜。
トロンボーン先輩「これは、2声を1段に書いたもの。ホラ、こっちの楽譜と同じだろ」
ステラ「ほんとだ。いつもは先輩の方が忙しいのに、この楽譜は全く同じ」
ステラ。先輩に笑顔を向けて。「お揃いですね」
トロンボーン先輩「ここを見てごらん」パート名の部分を指す。「「Tb.1.2.」と書かれているだろう。「第1トロンボーンと第2トロンボーン」の意味だから」
画面で、2種類の楽譜。いつものは、先輩の楽譜には「Tb.1.」、ステラの楽譜には「Tb.2.」で、中身が違う。文字で「いつもの楽譜は、先輩の方が忙しい」を添える。
今日のは、どちらにも「Tb.1.2.」で、中身も同じ。
トロンボーン先輩「楽譜は、1人の歌手が見るための、1人分の音符だけのものもあれば、AさんとBさんが掛け合いのようにする、2人分の音符があったりするよ」
ステラ「へぇ。そこで、この、音符の上の休符は、音を鳴らすのか鳴らさないのか、どっちです?」
トロンボーン先輩「鳴らさない。Aさんの担当は休符だから」
トロンボーン先輩「こういった楽譜の場合、上側が第1トロンボーンで、下側が第2トロンボーンだから、第1が休符、第2が音符を担当する」トロンボーン先輩が指でなぞると、魔法のように、楽譜の第1担当分と、第2担当分が、色分けされる。
トロンボーン先輩「音符の棒が、上向きが第1、下向きが第2の担当だったり、ホラ、ここでは棒は下向きで、玉が2つあるだろう、第1が上の玉、第2が下の玉を演奏する」
ステラ「なるほど。ありがとうございます。あれ? ここは、玉が1つだけ」
ショージが、振り返って何か言おうとしたので、トロンボーン先輩が遮る。
トロンボーン先輩「ここに「a.2」とあるから、「1つの玉を2人で」の意味だ。他には、「一緒に」のユニゾンの「unis.」と書いてあったり、2人に分ける時は「分割」の「div.」と書いてあったりする」
背景に、「分岐」「合流」の表記あれこれ。
ステラ「はい、わかりました」
吹奏楽の先生「みなさん、譜読みは終わりましたか? では、最初はゆっくりと、このテンポで、やってみましょう」背景に「譜読み」と、そのフリガナ。
ステラとトロンボーン先輩が、急いで楽譜を譜面台に置き、構える。
演奏は、所々、上手くいかないが、それなりに最後まで行く。
吹奏楽の先生「はい、初見ながら、よくできました。では、改めて個人練習にしましょう。あの時計で、30分までとします」
ステラ「初見って、何ですか?」背景に「初見」と、そのフリガナ。
トロンボーン先輩「初めて見た楽譜で演奏すること」
ステラ「そんなことが、できるんですか? 日本語でも難しいのに、初めて見た楽譜を演奏できるんですか?」
トロンボーン先輩「要するに「慣れ」って言えばそれまでだけど、慣れるってことは、パターンをたくさん知ってるってことだから」
ステラ「パターン?」
トロンボーン先輩「日本語の文字だって、デタラメに文字が並んでいたら、ゆっくりでも読めない。日本語として書かれていたら読める」
トロンボーン先輩「「甘さひかえめの」と書いてあれば、次は何か食べ物か飲み物が来ると予測できる。「ケーキ」「カフェオレ」「大福もち」とか」
ステラ「そうですね」
トロンボーン先輩「まあ、食べ物じゃなくて、「甘い言葉」ってのもあるけど」
トロンボーン先輩「譬えれば、将棋のプロ棋士は、棋譜を暗記できても、デタラメに並べられたものは暗記できない。丸暗記といっても、手掛かりが必要だってこと」
トロンボーン先輩「臨時記号で♯があったら、次は上がることが多い。♭だったら、次は下がることが多い」
ステラ「本当ですか?!」
トロンボーン先輩「何となく、そんな気がする。まあ、曲ってのは出逢いだから、たまたまなのかも」
ステラ「そしたら、円周率を暗記する人って、すごいですね」
ショージ。振り返って「円周率! って……」
トロンボーン先輩。ショージを遮って。「そう、すごい。けれど、丸暗記のためには、やはり手掛かりとして、独自の物語などを作っているらしいね」
ショージ「丸暗記ってマルの面積は、にーパ……」
トロンボーン先輩「さ、練習しよう」
▽ 場面変更 ● ── ●
先生ちゃん。難解な曲で知られるラフマニノフ。
説明用の別世界。背景は無地。
先生「私は作曲家のラフマニノフだ」急に怒鳴り声で「誰だ! 私の顔を見て、スパイのリヒャルト・ゾルゲだと思った奴は!」
ゾルゲは冗談に使わない方が良いかも。
先生「「曲として」なんて言い方は、余計な誤解を誘うが、よく使われる手法を知っておくと、楽譜を読みやすくなる。とても頻繁に使われる手法には、名前も付けられているから、名前を知っておくと会話にも役立つ」
背景に、いくつかの音楽用語が飛び交う。「解決」「半終止」「ドッペルドミナント」「平行調」などなど。
先生「これらの音楽用語を調べたり、誰かに聞いたら、知らない音楽用語を使われて困ることがある。そんな時は「完全に理解できる超人」「全く理解できないド素人」のどちらかってのは、窮屈な考え方だ」
先生「学んでいる最中は、誤解は付きものだ。他の何かを縁として、誤解が解けることがある。だから、窮屈な考えよりも、「誤解しているかも知れないが、何となく安心」を増やそう」
先生「例えば、曲の終わりが「ああ、終わった」という感じがするなら、それは「完全終止」という終わり方です。完全終止ではなくても、「これは落ち着く」という感じがしたら、「解決した」と言うことがあります」
先生「音階スライドで、ドを根音とした和音、ソを根音とした和音、ファを根音とした和音の3つを「主要三和音」と呼んで、この3つだけで作られている曲も多い」
先生「音階に選ばれた音を、このように積み上げた和音は、よく使われる」ダイアトニックコードの楽譜。
先生「細かい音符が続いているから、覚えるのが大変だと思ったらファとシを使わない「四七抜き」だと気付いて、気が楽になることもある。曲の、ほんの一部分だけ「四七抜き」ということもあります」楽譜のヨナ抜き。
先生「音階に選ばれた音や、ペンタトニックに選ばれた音が使われている部分があって、それ以外の音が使われていても違反ではないよ。珍しいなと思ってみよう」
先生「「珍しい」と思うってことは、「覚えやすい」ってことだね。「珍しい」と思えるのは、「よく使われる」を知っている、「パターンを知っている」、これが「慣れ」だな」
先生「和音外音が、いきなり鳴ったら、和音構成音に行きたがる」
先生「なんていうような、こじつけでもいいから、自分なりの「よく使われる手法」を、自分勝手に見つけよう。「名前は知らないが、あの曲にあった手法に似ている」とかね」
先生「音楽理論を学んだら、これまで普通にしていた手法に、仰々しくも名前が付いていて、「え? わざわざ、これを学ぶのか!」と、驚くこともある」
▽ 場面変更 ● ── ●
先生ちゃんの説明が終わり、さっきの続き。
ステラ。恐る恐る話しかける。「あのお、先輩、ここのところ、音符が多いと思います。1小節の時間から、溢れています」
トロンボーン先輩「あ、ほんとだ。すごいね、よく見つけたね。これはきっと、16分音符が4つじゃなく、32分音符が4つだろう」
ステラ「それから、ここの辺り、前のページと似ているんですが、前のページは♯があるのに、こっちはありません」
トロンボーン先輩「それは、似ていても、別な箇所だから、それぞれの通りに演奏するんだろう? あ、ちょっと待って」先生のところに行き、総譜を確認する。
トロンボーン先輩と、吹奏楽の先生が会話している。先生が驚きと喜びの表情。
トロンボーン先輩。大きな笑顔で戻って来る。「さすがだよ。両方に♯が付くのが正しい」
吹奏楽の先生「皆さんにお知らせです。トロンボーンの星山さん、ああ、ステラさんと呼んだ方がいいのかな、ステラさんが見付けてくださいました。楽譜の誤りが、あります。Cメロの……」
注意書きを表示。現在では、コンピュータを用いた楽譜作成も増え、誤りは少なくなっています。
ステラ。トロンボーン先輩に。「ありがとうございます」
ステラ。手で♯を記入するが、玉の左上に書く。
トロンボーン先輩「あ、そこじゃないよ」
ステラ「え? ♯は左側に書くんですよね」
トロンボーン先輩「左側なのは正しいけど、♯や♭は、玉と同じ高さに書くんだ」背景に、誤りの例と、正しい例。
トロンボーン先輩。自分の楽譜に、正しく♯を記入し、ステラに見せる。楽譜が画面に大きく表示され、音符の玉と「♯」が同じ高さであることを、ぼんやりの色と差し棒で示す。
ステラ「はい、ありがとうございます」消しゴムで、誤った♯を消して、書き直し、トロンボーン先輩に見せる。
トロンボーン先輩。差し出された楽譜を見る。「そう、それで正しい。でも、小さな「♯」だね」ステラが書いたのは、「♯」の横棒2本が共に水平で、五線の間よりも小さくなっている。縦の線が斜めになっている。
ショージ。立ち上がり、割り込んで見る。「ああーっ、本当だ。ステラちゃんは、シャープも可愛い、可愛いシャープ」ショージの鼻に花が咲く。
トロンボーン先輩が、トロンボーンを吹きながらスライドを延ばし、ポルタメントのボケのスライド演奏で、ショージの花を直撃。この時、スライドの先端に、ボクシングのグローブ(コミカルなデザインで)があるのも良い。
トロンボーン先輩「ステラちゃんが書いたのは、シャープじゃなくて、井桁だよ」
ステラ「イゲタ?」
トロンボーン先輩「そう」楽譜の余白に、「#」と「♯」を書く。「これが井桁、これがシャープ」背景に、「水平、斜め」「斜め、鉛直」と説明。
ステラ「これって、違うんですか?」
トロンボーン先輩「違うんだよ。ひらがなの「へ」と、カタカナの「ヘ」は、見た目の区別はできないけど、井桁とシャープは、はっきり違うだろ」
ステラ「ありがとうございます。書き直しますっ!」
ショージ。振り返って。「ステラちゃんは、いつも「ありがとうございます」って言うね」
ステラ「え? はい。え? おかしいですか?」
ショージ「おかしくない、おかしくない。感謝されるのは、こっちも嬉しい」
ステラ。ショージの言葉を無視する。今度こそ正しく書こうとする意気込みで、不二家のペコちゃんのように舌を出して、真剣な眼つきで書き直す。トロンボーン先輩に見せる。
トロンボーン先輩「そう、綺麗に書けたね」言いながら、トロンボーンのスライドを伸縮させる。ショージが振り向こうとするのを、牽制している。
トロンボーン先輩「場合によって違うけど、ちょこっとしたことを、大袈裟にすると、綺麗になることがあるよ。例えば、漢字では「成」の、ここや、ここって、意外と線が長いんだ」
背景に、漢字の「成」が表示される。右下の、上に向かうはねが、意外と長い。次の、線を切るような「ノ」の線も、意外と長い。この2つの「意外と長い」を、ぼんやり色で示す。「ここが、意外と長い」の文字も表示する。
ステラ「イゲタって、何に使いますか?」
トロンボーン先輩「番号の「ナンバー」のように使ったり、電話のボタンに使ったり、普通に使われているよ。それと比べて、シャープは音楽専用」
ステラ「電話のボタンは、みんな「シャープ」って言ってますよ」
トロンボーン先輩「正しくはないけど、井桁と言うよりも伝わりやすいからだと思う。まあ、俺は違和感があるけどね」
▽ 場面変更 ● ── ●
先生ちゃん。ジョン万次郎。
説明用の別世界。背景は無地。
先生「はっはっは、英語の「今は何時ですか?」を「掘った芋、いじんな」と記したのは、この僕なのだよ」
背景に、英語の「WHAT TIME IS IT NOW」、カタカナのフリガナ「ホワッタイム・イジット・ナウ」、ひらがな「ほったいも・いじっ・な」、漢字「掘った芋、いじんな」を、順番に。
先生「シャープと井桁は、よく似ていて紛らわしいよね。これ以外にも、似ていて紛らわしい文字は、多いよね。特に、カタカナが多いと思うけど、どうかな?」
先生「手早くメモすると、後で解読が難しい。楽譜に手早くメモして、でも、このメモは残しておきたいから、後で書き直すか、丁寧に書くかで、迷うよね」
先生「カタカナの発祥は、お経の漢字の隙間という、狭いスペースに、発音記号を書いたことなんだ」
先生「お経の意味や、漢字の意味とは無関係でもいいから、狭い場所に単純な線で表現したんだよ」
先生「でも、デザインの参考にしたのは漢字であることと、単純な線で表現したことで、似ていて紛らわしい文字もできてしまった」
先生「紛らわしいから、デザインを変えてくれないかなあ。今のうちに変えたら、やがて50年か100年もしたら、「昔は、このように書いていた」というものになるかもね」
以下の、紛らわしい例は、先生ちゃんが話しているところで、背景を飛び回るようにする方法もありそう。
カタカナの「カ」と、漢字の「力」。
カタカナの「ロ」と、漢字の「口」。
カタカナの「タ」と、漢字の「夕」。
カタカナの「エ」と、漢字の「工」。
カタカナの「チ」と、漢字の「千」。
カタカナの「ト」と、漢字の「卜」。
カタカナの「ニ」と、漢字の「二」。
カタカナの「ハ」と、漢字の「八」。
カタカナの「ヒ」と、漢字の「匕」。
カタカナの「ヒ」と、漢字の「七」。
カタカナの「ホ」と、漢字の「木」。
カタカナの「オ」と、漢字の「才」。
カタカナの「ヌ」と、漢字の「又」。
カタカナの「カロ」と、漢字の「加」。
カタカナの「タト」と、漢字の「外」。
カタカナの「ムロ」と、漢字の「台」。これら、2文字の例は、とにかく多い。
カタカナの「ヘ」と、ひらがなの「へ」。
カタカナの「ベ」と、ひらがなの「べ」。
カタカナの「ペ」と、ひらがなの「ぺ」。
カタカナの「レ」と、ひらがなの「し」。
カタカナの「ヒ」と、ひらがなの「と」。
カタカナの「フ」と、ひらがなの「つ」。
カタカナの「ニ」と、ひらがなの「こ」。
カタカナの「ユ」と、数字の「2」。
カタカナとひらがなの長音「ー」と、記号の「-」と、漢字の「一」。
カタカナの「リ」と「ソ」。
カタカナの「リ」と「ン」。
カタカナの「ソ」と「ン」。
カタカナの「ナ」と「メ」。
カタカナの「シ」と「ミ」。
カタカナの「シ」と「ラ」。
カタカナの「ク」と「ケ」。
カタカナの「ア」と「マ」。
カタカナの「ヤ」と「カ」。
カタカナの「ヤ」と「セ」。
カタカナの「コ」と「ユ」。
カタカナの「シ」と「ツ」。
カタカナの「ス」と「ヌ」。
カタカナの「ル」と「ノレ」。
ひらがなの「わ」と「ゆ」。
ひらがなの「に」と「しこ」。
ひらがなの「に」と、数字の「12」。
カタカナの「ワ」と「ク」と、数字の「7」。
カタカナの「フ」と、数字の「7」。
カタカナの「メ」と、記号の「×(バツ)」。
先生「古い資料を見ると、今とは違う文字があって、「昔は、このように書いていた」を見付けることがあるよね。今の時代にカタカナのデザインを変えたら、50年後の人が驚くかも。このアニメが歴史を変えたってさ」
先生「余談だけど、ひらがなの発祥は、カタカナとは別なんだよ。ひらがなとカタカナは、別々に広まって、現在に至ったんだ。どちらも、意味よりも音を優先した表音文字だね」
先生「日本と同様に、中国から漢字を輸入した朝鮮は、今は韓国と北朝鮮になっていて、そこで使われているハングルも、表音文字だ」
先生「発音を文字にしたのだから、ハングルで漢字を表現した場合、別な漢字なのに、読みが同じだったら、どちらも同じハングルになるものがあるよ。これは、日本語のひらがなで、漢字の読みを表すのと同じだよね」
先生「漢字は、2つ以上の漢字を組み合わせて、1つの漢字にすることもあるね。でも、意味とは無関係に、読んだ音で組み合わせたものもあるよ」
先生「例えば「語」だ。これは「言」と「吾」だけど、「吾」は「私の」の意味とは関係ない。「言葉がお互いに通じる」で「言」と「互」を合わせればいいのに、なぜか「互」と同じ音の「吾」と合わせた」
先生「この場合、「「吾」は「互」の音符」と言うよ。音符だけど、楽譜とは関係無いね」
▽ 場面変更 ● ── ●
音楽室。
放課後。
ハルがピアノで、ペンタトニックを確認している。音階スライドをずらしながら、各調のヨナ抜き。
鍵盤モノサシは、鍵盤が3オクターブ、音階スライドが2オクターブ。音階スライドは上半分を向こう側に180度折り曲げて、鍵盤モノサシにかぶせるように工夫している。こうすると、譜面台に立て掛けられる。
ヤッ子「おお、早坂君。ピアノで遊んでいるな」
ハル「あ、ヤッ子先生、ピアノをお借りしてます」
ヤッ子「私はいいが、音楽の先生の許可はとったか?」
ハル「もちろんです。ところで、今、ペンタトニックで作曲しようとしているんですが、うまくいかなくて」
ヤッ子「作曲か、面白いな」
ハル「どうしても、ペンタトニック以外の音も使いたくなって」
ヤッ子「ペンタトニックは、目安のひとつだ。芸術に制限はいらない。ペンタトニックで選ばれた音以外も、気分次第でどんどん使いたまえ」
ハル「いいんですか?」
ヤッ子「もし、ペンタトニックだけという課題なら、それ以外の音を使うのは反則だ。しかし、芸術では、制約は不要だ。ペンタトニックからも、音楽理論からも、自由になって良し」
ヤッ子「奔放な発想の妨げになるのは、「普通はこうだ」というのが、最初に思い描かれることだ。その呪縛から、解き放たれるのが大切だ」
ハル「でも、それが面白くなかったら?」
ヤッ子「出来上がりが面白いかが、芸術だ。呪縛から解き放たれるのはいいが、デタラメだったら面白くない」
ハル「ですよねぇー」
ヤッ子「そこで、迷走したり行き詰まったら、「普通はこうだ」を思い出したり、音楽理論を思い出すのも、脱出の方法のひとつだな。奇抜に思われる表現、安定していると思われる表現、手法は様々だ」
ハル「課題じゃなくって、奔放な発想の指針に、「普通は」とか、音楽理論が役立つんですね」
ヤッ子「芸術は、単体で評価されることもあれば、状況を含めて評価されることもある。思い付いた時につまらなくても、別な状況では面白くなることもある」
ハル「状況によって評価が変わるって、ずるくないですか?」
ヤッ子「場所柄ということだな。例えば、何かの冗談を言って、ある場面でウケたから、「この冗談は、いつでも面白い」と思うのは、気を付けたいな」
ハル「なるほど。場所柄を誤って、ウケないからと言って、「冗談も通じない、下らない人達」と、周囲を恨むのは、誤りですね」
ヤッ子「音楽に限らず、映画や書籍も、期間を経て、見たり読んだりすると、感じ方が違うこともあるだろう」
ハル「年齢によって、人生経験によって、好みが変遷することって、あるらしいですね」
ヤッ子「デタラメは面白くないとは言ったが、デタラメや失敗の中から、思わぬ効果が見つかることもある」
ハル「失敗なのにですか?」
ヤッ子「そう。例えば、ピアノの鍵盤で「ド、ミ、ソ、ド」を弾こうとして、高い「ド」を弾くのを失敗して、「ド、ミ、ソ、シ」になったらどうだ?」
ハル。弾いてみる。「あ、きれい」
ヤッ子「失敗やデタラメから、そんな思わぬ効果が発見できる場合もある」
ハル「思わぬ効果が、これまでに無い、新しい音楽理論が発明されることもありそうですね」
ヤッ子「そういうことだ」
ハル「でも、あまり期待はできないような気がします。そうだ、演奏が下手な今だからこそ、新たな発見がありそう」
ヤッ子「ははは(笑う)、そうだな」
ハル「そういえば、岡本太郎も、「デタラメをやってごらん」って、言ってましたね」背景に、岡本太郎の似顔絵や、太陽の塔などを表示する。
ヤッ子「その話は、私も聞いたことがあるが、「デタラメが正しい」という意味なのか?」
ハル「そうだと思いますよ。だから、推奨したんだと思います」
ヤッ子「私の解釈は、別だ。デタラメや失敗から、面白い効果が出ることもあるから、行き詰まったら、デタラメから、突破口を見付けられることもあるというのが、意味の一つだと」
ハル「デタラメに助けられるんですね」
ヤッ子「そうだが、デタラメに助けられることは、珍しいことなんだ」
ハル。少し驚く。「そうなんですか?!」
ヤッ子「衒いも無く(てらいもなく)言うが、私は演奏よりも、作曲が好きで、デタラメは作曲の敵なんだ」
ハル。更に驚く。
ヤッ子「デタラメをしていたら、つまらない、面白くない。楽しむために考える、努力するのが楽しい。だから、「デタラメをやってごらん」に続くのは、「デタラメばかりなら、つまらないと気付くから」というのが、私の解釈だ」
ハル「デタラメじゃないってのは、音楽理論に従うってことと、違うんですか?」
ヤッ子「違うということは、もう知っているじゃないか」
ハル「そうですね」
ヤッ子「自分の現在の感性で、精一杯の作品でも、音楽の先輩が参考として、少しアレンジしたら、途端に良くなることもある」
ハル「そりゃそうですよ。ちょこっと手直しできるのは、きっとミッツのように幼少の頃から専門教育を受けて、クラシックの音楽理論も学んで、息をするように音楽ができるんでしょう」
ここで、映画『アマデウス』(モーツァルトのことを、サリエリ目線で描く)の、サリエリが頑張って作曲したものを、モーツァルトがその場で手直しする話を挿入しても良い。
ヤッ子「その推測の中には、的中している箇所と、外れている箇所があるぞ」
ハル「そうですか?」
ヤッ子「時々、誰かを褒める言葉で、「他人が遊んでいる時間を、勉強や練習をして来た」と言うが、日常生活の雑多な作業に忙殺され、息抜きの遊びを揶揄することがある」
ヤッ子「長期間、音楽をしていても、日常の雑多な中で、片手間にしか音楽ができない人もいる」
ヤッ子「ついでに言うが、音楽、スポーツ、料理、分野は様々で、それぞれの人に「他人が音楽をしている時間に、スポーツの練習をして来た」のように褒めることもできる」
ヤッ子「さっきの、ちょこっと手直しできる、音楽の先輩も、音楽の専門教育は受けずに、片手間に独学しかできなかった人だ。クラシックの音楽理論ではなく、既存の音楽作品の解析や、自分なりの工夫が、主な音楽理論だった」
ハル「実践から培った理論ですね。料理に譬えれば、冷蔵庫の、余り物の食材で、名前も付いていない料理を作るような」
ヤッ子「まさに、その通りだ。音楽の人を料理の人に譬えると、きっと、その人は、料理教室に通うことも無く、料理が楽しいものだと知り、専業主婦なら掃除の片手間にテレビの料理番組を見て、アレンジの空想を楽しむのだろう」
ハル「楽譜の通りに演奏するクラシック音楽では、その場でアレンジとは、あり得ないですね。ジャズなら、アドリブで、名前の無い曲をその場で演奏しますけど」
ヤッ子「それは誤解だな。クラシック曲でも、アレンジは多い。第一、例えばピアニストが楽譜の通りに演奏するのに、たくさんのピアニストがいるのは、アレンジも限られている以上に多様だからだな」
ヤッ子「ピアノ曲をオーケストラアレンジするなら、楽譜に無い音を付け加える。オーケストラ曲をピアノアレンジするなら、ピアノは鳴らすと音が減衰するだけだから、どうやってフルートのクレシェンドを表現するか、工夫する」
ハル「なるほど。別な楽器用に書き換えるアレンジもありますね」
ヤッ子「オーケストラなら、ベートーベンの頃のトランペットでは無理な演奏を、「きっとベートーベンは、こうしたかったんだろう」と、現代のトランペットだからできる演奏にアレンジすることもある」
ハル「それって、ベートーベンの曲の再現ではありませんね」
ヤッ子「だから、意見が分かれている。意見が分かれているとはいえ、対立ではなく、お客様も好みで選ぶ」
ハル「クラシック曲でも、意見が分かれるということは、分かれるような意見が誕生した瞬間は、試行錯誤した瞬間ですね」
ヤッ子「そうだ。試行錯誤とは、面白いことを目指すことだ。予測が正しいかの確認、予測の段階では思い付かなかった要素に出逢うのが実験。そこに、失敗も加わり、予測だけでは得られなかった面白さも発見する」
ハル「さっきの、「ド、ミ、ソ、ド」を失敗して、「ド、ミ、ソ、シ」になったりですね」言いながら、「ド、ミ、ソ、ド」と「ド、ミ、ソ、シ」を弾く。
ヤッ子「デタラメは作曲の敵だと言ったが、デタラメを、面白さに繋げることもできるぞ」
ハル「どうやって?」
ヤッ子「デタラメに、3つの音を弾いて、そこから始まる曲を作るとかな」
ハル。納得する。「面白そうですね」
ヤッ子「それから、デタラメとは違うが、人の名前をメロディにするとか」
ハル「名前をメロディ?!」
ヤッ子「そう、音名の「A、B、C」を選ぶために、名前のアルファベットを使う」背景に、このような手法をしたクラシック曲と作者の例をいくつか表示する。
ハル「でも、音名は7つですよね」
ヤッ子「だから、このように、改行して何度もなぞるんだ」背景に、「A」から「G」それぞれを四角で囲って、7つの四角を横並び。その下に、色違いのアルファベットを、7文字で改行しながら並べる。
ハル「トランプとアルファベットのようですね」背景に、トランプの13枚を横並びに。その下に、アルファベット26文字を、13文字で改行して並べる。
ハル「推理ものの話では、トランプの暗号で、赤なら「A」から「M」まで、黒なら「N」から「Z」までとしたり」さっきの背景の文字を、赤と黒にする。
ヤッ子「サイコロを使うのも、クラシック曲にあるぞ」
ハル「サイコロで、作曲をするんですか?!」
ヤッ子「作曲ではなく、組み合わせに、サイコロを使う。予め、2小節くらいの曲を、たくさん用意しておく。勿論、2小節なら中途半端だが、どれを使うかを、サイコロで選ぶ」
ハル「面白い!」
ヤッ子「どの組み合わせになっても、それなりに曲として聞こえる」
ハル「偶発性を前提とした作曲ですね。誰の、何ていう曲ですか?」
ヤッ子「誰だったか覚えていないが、モーツァルトとか、こんな遊びをしたのは、何人もいるぞ」
ハル「そんな偶発性も、広い意味でのデタラメですね」
ヤッ子「デタラメだって、楽しいだろう」
ヤッ子「デタラメばかりしていたら、飽きるだろうし、面白い作品になる期待も薄いから「敵だ」とは言ったが、頼れないっていう意味だ。失敗から面白いことになることもあるように、デタラメを禁止する理由は無い」
ハル「だから、「やってごらん」なんですね、気付けるように。デタラメをしても、誰かが怪我をすることもありませんし」
ヤッ子「岡本太郎やピカソの絵から、デタラメを感じる人もいるだろうが、作者の意思や、様々なことを感じる人もいる。感じ方は自由だ」
ハル「万華鏡とか、ルービックキューブとか、あっ、宝くじの番号もそうですが、組み合わせが多いのはわかりますが、デタラメなのは、違いがわかりません」
背景に、「何億通りの組み合わせ」とはいえ、似たり寄ったりを表示する。
ヤッ子「その中から、面白いと思えるのは、極めて稀だろう」
ハル「まあ、息抜きとか、行き詰まった時とか、それから、デタラメが好きになることもあるかも知れませんし」
ヤッ子。ニンマリする。「その通り。デタラメが好きになることもあるから、さっきの私の言葉、「デタラメは作曲の敵だ」というのは、誤りだと認識してくれ」
ハル「早速、自己否定って」
ヤッ子「教育の手法には、このように「何かがおかしい気がする」を提示し、納得できる理由を探すように促すという方法もある。大っぴらにすると、非難されることもあるがな」
ハル。意味不明なので、小刻みに、少しずつ大きくなりながら、頸を傾げる。
ヤッ子「ピアノを前にして、好きな鍵盤を鳴らしていいよと言われても、どの鍵盤がどんな高さか知らないので、最初はデタラメしか無いだろう」
ハル「そうですよ、困ります」
ヤッ子「芸術として面白い音しか、出してはいけないのなら、困るだろう。しかし、大昔からの音楽の成り立ちは、試行錯誤だっただろう。そこから、面白い方法が発見され、生み出され、広まった」
ハル「あっ、そうか。試行錯誤はデタラメから始まったんですね」
ヤッ子「必ずしも、デタラメからとは言えないが、先人の試行錯誤が音楽理論で紹介されている。別な面白さに、デタラメと試行錯誤が役立つ」
ハル。大きく頷く。
ヤッ子「デタラメや、音楽理論とは、違った場面から、新しい手法の話をしようか」
ハル「はい」
ヤッ子「牛乳などの紙パックは、リサイクルとして回収するから、中を水洗いするだろう」
ハル「はい。「洗う」とは言いますが、「すすぐ」ですが、要するに、きれいにします」
ヤッ子「空っぽになった容器に、水を入れて、容器の口を閉じて、よく振るのだが、どのように振る? 真似て見せてくれ」
ハル「はい」パントマイムのように、わかりやすく動作。左手の手の平を上向き。左手の上に紙パックが成長するような動きを、右手で。右手の指をすぼめて、容器の口を閉じる様子。左右の手の位置の、上下を逆にして、振る。
ハル「こうです」
ヤッ子「なぜ、上下を逆にしたんだ? 誰かに教わったのか?」
ハル「母がしていたのを、真似しました。容器の口が上向きだと、口から漏れた水が飛び散るから」
ヤッ子「そうだな。このように、先人の真似をすれば、失敗は少ない。真似をしなければどうなるのか、実験する前からわかることもあれば、実験して発見することもある」
ハル「これは、実験しました。容器の口を、しっかり閉じていなかったので、水が飛び散りました」
ヤッ子「では、もしも、多くの人が、口を上にして振るのが普通だったらどうだろう。子供に教える時は、容器の口はしっかり閉じるものだ、緩いと漏れるが、仕方ない。そのように教えるだろう」
ハル「そこで、僕なんかは、実験が好きだから、容器の口を下にする方法を発見します」
ヤッ子「仮に、腕がねじれて、やりにくければ、腕がねじれない持ち方など、あれこれ工夫するだろう」
ハル「工夫は大好きです」
ヤッ子「腕がねじれて困るなら、最初のうちは、せっかく容器に入れた水がこぼれるから、急いで指で閉じるとか、工夫の途中は失敗も多い」
ハル「いきなり、うまい具合にはできません。愛こそはすべて」
ヤッ子「早坂君は工夫しているのに、その試行錯誤を誰かが見たら、失敗だらけのデタラメと思うかもな」
ハル「あ、デタラメと思われるんだ」
ヤッ子「それから、コードの「C」、「ドミソ」の和音で、メロディが「ドミソー」を思い付いたが、メロディの「ミ」と「ソ」の間に、何かを入れたくなった。ここで、試行錯誤だ。あれこれやってみる、これを「音を探す」と言う人もいる」
ヤッ子「ピアノを借りるぞ」
ハル。席を立ち、ヤッ子に譲る。
ヤッ子。左手はコード「C」を鳴らし、右手で試行錯誤を表現。「ドミソー」「ドミファソー」「ドミファ♯ソー」「ドミファファ♯ソー」「ドミラソー」「ドミシ♭ソー」「ドミシ♭ラソー」「ドミシ♭ファ♯ソー」などなど。
ヤッ子「試行錯誤だから、順番に上がるばかりではない、下がる方法、ちょっと飛ぶ方法など、やってみる。これが「音を探す」であり、気に入ったメロディになれば「やっと音が見付かった」とか言う人もいるな」
ヤッ子。会話が途切れて、少し間ができたので、口調を変える。「ところで、さっきの「制約」の話に戻るが、課題ではなくても、制約がある場合はある」
ハル「例えば?」
ヤッ子「リコーダーでは低い音を出しにくいだろう」
ハル「はい」
ヤッ子「子供が演奏することを前提とした行進曲では、低い音を使わないといった気遣いだ。歩きながらでは、低い音は特に難しい」
ハル「あっ、そういった気遣いもするんですね」
ヤッ子「気遣いだから制約とは違うがな。他には、みんなで歌うもの、校歌、応援歌などは、音域を狭くするとか」
ハル「狭くとは?」
ヤッ子「人によって声域は違うが、大体1オクターブから、1オクターブ半くらいは出るもんだ」背景に鍵盤と、「1オクターブの範囲」が移動する。「1オクターブ半の範囲」が移動する。
ハル「そしたら、1オクターブ以内の歌なら大丈夫ですね」
ヤッ子「自分だけが歌うなら、自分の声域に合わせればいいだろう。しかし、みんなで歌うのなら、ある人にとっては、歌うのが大変なこともある」
ハル「あ、そうですね。校歌や応援歌を歌うのですから、大変じゃなく歌いたいですね」
ハル「それらは、音楽理論とは、ちょっと違いますね」
ヤッ子「広い意味では音楽理論と、言えなくもないな」
ハル「クラシック音楽では、ちゃんと演奏者への思い遣りがあるんですよね」
ヤッ子「それがな、そうでもなかったりする」
ハル「え?」
ヤッ子「オーケストラの中の、ある楽器だけ超絶技巧で大変で、しかも主役でもないから、目立つのは失敗した時だけ」
ハル「うわっ……」
ヤッ子「クラシックの音楽理論は、気遣いとは違う理由で「禁止」ばかりがあるという噂があるし、早坂君が以前、言っていた、芸術は理論ではなく感性だという理由から、音楽理論を否定する意見がある」
ハル「否定する意見? そうなんですか? 食わず嫌いのようにも思えます」
ヤッ子「逆に、音楽理論をとにかく勉強して、それに従って作曲することを重要視する人もいるな。音楽活動をしていると、色んな人がいて、面白い」
ハル「以前も聞きましたが、音楽理論は、守らなきゃいけないんですか?」
ヤッ子「課題だったらそうだが、課題でなければ、守らなくてもいい。ただし、「先生」と呼ばれる人の中には、音楽理論に反していることを理由に、作品の面白さを無視する人もいるから、気を付けたいな」
ハル「なんだか、嫌だな」
ヤッ子「美術が好きだった姉が言っていたんだが……」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
ヤッ子が小学生の頃を思い出す。ヤッ子小学3年生、姉の美音(かぎみや・みね)小学6年生。
美音の古い楽譜の、『エリーゼのために』(ベートーベン)のページに、白雪姫のような絵が描かれている。色鉛筆。
ヤッ子「お姉ちゃん、絵が上手だね」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想が終わり、さっきの続き。
ヤッ子「美術ではこれまでに無い手法が褒められるのに、音楽ではこれまでに無い手法を「そんな方法は無い」「やってはいけない」と評価するらしい。誰にも迷惑ではないのに」
ハル「シメジ婆さんが言ってました。「自分が生まれる前からあったものは、安全で正しいと思うのに、自分が生きているうちに新しいものが出て来たら、害悪で誤りだって思うことがある。後の時代の人は、どう思うのだろう」って」
ヤッ子「その通りだな。電子レンジ、紙おむつ、即席麺、新語。無論、歓迎される新しいものもあるが、理性よりも先に雰囲気や感性で正邪を決め、自分の意見を正当化するために、こじつけでも科学を用いる」
ハル「父が話していたんですが、コンピュータが演奏した音楽や、CDのようなデジタルで音楽を聞いていると、耳が悪くなるという話がありました」
ヤッ子「あったな」
ハル「もし、それが本当なら、これからの時代の音楽家は、耳が悪い人がどんどん増えそう」
ヤッ子「若者が使い始めた新語を、「そんな言い方は無い」と叱ったら、実は古い言い回しを若者が復活させていたこともある」
ハル「「事故を起こす」を「事故る」とする使い方を非難する人でも、「サボる」を普通に言いますね」
ハル「もし、今の時代に眼鏡が発明されたら、眼鏡を必要とする人には歓迎されて、眼鏡が不要な人からは、「余計に目が悪くなる」「肩こりや腰痛の原因になる」「成長期の子供は、顔の形成に悪影響だ」なんて言われそう」
ヤッ子「譬えれば、ボウリングで、親指を穴に入れず、両手で投げるのはどうだ? 邪道か?」
ハル「うわっ、やりにくそう。なんだか、「邪道」だなんて言われそうですし、やりたくないというより、そもそも思い付きません」
ヤッ子「そう言われるかも知れないな。しかし、競技のルール違反かどうかはルールに従えばいいし、邪道かどうかは主観だ」
ヤッ子「これまで、誰もしなかったことを初めてやって、それが効果的なら、新しい手法だ。さっきの、牛乳などの紙パックを洗う場合、上下を逆さまにすると、腕がねじれて、やりにくいことに似ている」
ヤッ子「ボウリングで、親指を使わないのは「サムレス」と名前も付けられた手法だ」
ハル「サムレスなら、高得点になりますか?」
ヤッ子「人に拠るんだろうな、プロボウラーでも、サムレスをする人が少ないから。サムレスを試す人、最初はやりにくいからと練習する人、上手になるまで練習を続ける人、これまでの方法に不満が無いからサムレスをやめる人。それぞれだろうな」
ハル「変な方法と言えば、テレビで、鍵盤ハーモニカを、こんな持ち方で、両手で弾いているのを、テレビで見ました」近くにあったノートか楽譜を、縦に半分に曲げ、手に持ち斜めに抱える。
背景に、鍵盤ハーモニカを演奏する姿。または、手に持ったノートが、アニメ表現として鍵盤ハーモニカに変わる。右手は普通に白鍵側から鍵盤を弾く。左手は、黒鍵側から弾く。
ミッツ。ハルの後ろから、耳に少し近付いて。「ヤッ子先生に叱られそう」
ハル。急にミッツの声が聞こえたので、驚く。「わあっ、いつの間に、いたんだよ」
ミッツ「うん、さっき。話に熱中していたから、気付かなかったんでしょ」
ハル「ヤッ子先生に叱られそうって、どういうことだよ?」
ミッツ「ギターを乱暴に扱ったでしょ」背景に、第1話の場面を表示。ハルがギターを、乱暴に扱い、ヤッ子から叱られた場面。
ハル「恥ずかしいことを思い出させるな。あれは、気の迷いだ」
ハル。ヤッ子に向かって。「僕もうっかりしていました、済みません」
ヤッ子「いやいや、あの時に理解して謝ったのだから、今はもう責めはしない」
ミッツ「また、楽典を習ってるの? もう、だんだんと、ハルに追い越されるようだ」
ヤッ子「大丈夫だ。一つくらい早坂君に追い越されても、君の価値が脅かされることはない」
ハル「今は、音楽理論から、新しい手法の話をしていたんだ」
ヤッ子「鍵盤ハーモニカを、ふざけて、机に逆向きに置いて演奏することは、あるだろう。子供の頃は、ふざけることも大切だが、大人になってくると、その影響も気付けるようになる」
ハル「そうですね。これこそ、呪縛からの解放ですね」
ミッツ「ピアノを習って来たあたしにとっては、そんな弾きにくい向きで、しかも左手でって、絶対に思い付かない」
ハル「そういえば、水泳のバタフライは、ルールに従いながら、新しい泳ぎとしてやったら、良い記録が出たから、別な泳法に分けられたって」
ヤッ子「野球では、日本で初めてカーブを投げたら、「ボールは、同じ速度で、直線に投げると決まっている」と抗議されたらしい」
ハル「え? 本当ですか?」
ヤッ子「私が子供の頃に読んだ書籍では、抗議したが、直線に投げるルールは無いと書いてあった」
ハル「抗議した人が、その時に思い付いた、勝手なルールだったんですね」
ヤッ子「まあ、新しいことをしたら、否定されることもあるな」
ヤッ子「蜜霧君。料理の味を、甘くするには、どうしたらいいと思う?」
ミッツ「そりゃ、えーっと、砂糖とか、みりん? とか、サツマイモとか、甘いものを入れる」
ヤッ子「そうして、甘くなったのは良いが、美味しくはならず、甘ったるいばかりになったら、どうする?」
ミッツ「えっと……他の味、塩気とか辛味を減らす」
ヤッ子。ハルが言いたそうなので、表情で促す。
ハル「塩を入れる」
ミッツ「塩? 塩を入れるなんて、逆でしょう。甘くするんだから、塩を入れていたら、減らすでしょう、普通は」
ハル「お汁粉には、少しだけ塩を入れるから、美味しい甘さになるんだ」
病院での入院患者用の食事は、病状に合わせた個別のものも用意される。そこでは、塩が入っていない(極めて少ない)お汁粉が用意されることもある。調理の工夫はされているものの、惜しいことに「美味しい甘さ」ではない。
ミッツ「少しって、スプーン1杯くらい?」
ハル「入れ過ぎだ!」
ミッツ「お椀にスプーン1杯じゃないよ。お鍋にスプーン1杯」
ハル「それでも多い。塩は指でつまんで、1回だけ」
ヤッ子「早坂君は、料理ができるのか?」
ハル「シメジ婆さんから、基礎は教わりました」
ミッツ「え? いつ教わったの?」
ハル「ああ、正月に遊びに行った時、子供達が少なかったから、一緒に料理をしたんだ」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
シメジ婆さんの自宅。いつも、近所の子供達の遊び場、たまり場になっている。
ハル。小学生。
遊びに来ている子供は3人。
シメジ婆さん「ハルくんは、これ」など、それぞれの子供に指示。
シメジ婆さん。わざとらしく、独り言。「さて、味付けの仕上げをしましょうか。お汁粉は甘いけど、ちょっとだけ塩を入れましょうかね」
子供達は、自分の仕事をしながら、シメジ婆さんを見る。
シメジ婆さん「塩は、ほんのちょっと、ほんのちょっと。ほんのちょっとの、2本指でつまんで、パラパラと」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想が終わり、さっきの続き。
ミッツ「それで、お汁粉を作ったの? いいなー」羨ましがる。
ハル「ああ。お汁粉と、ちょっとしたおせち料理。食べ終わったら、嫌っていうくらい、うがいさせられた」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
シメジ婆さんの自宅。いつも、近所の子供達の遊び場、たまり場になっている。
ハル。小学生。
シメジ婆さん「よーっく、すすぐんだよ。右のほっぺ、左のほっぺ、上の前歯、下の前歯」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想が終わり、さっきの続き。
ヤッ子「楽しい思い出があるってのは、いいな」
ハル「料理によってアドバイスと効果が違うように、音楽理論も、アドバイスと効果が様々なんですね」
ヤッ子「そうだ。お汁粉や、塩キャラメルでは、塩が効果的だったが、いつでも、どんな料理でも効果があるとは限らない」
ヤッ子「情熱的な、乗りの良い曲で、ずっと激しい曲調ではなく、ゆったりした箇所があるのも、いい感じだ」BGMに、『カルメン』(ビゼー)の一部。曲調が急激に変わる部分。
ヤッ子「作曲していて、もし、一瞬でも嫌な音を出したくなければ、あらゆる音楽理論を知らなければ、作曲できない」
ヤッ子「作曲は試行錯誤。アドバイスが多くて迷走することもあるし、偶然に良い感じになることもある」
ミッツ「だから、「理論」って名前がおかしいんですね」
ヤッ子「くれぐれも言っておくが、「音楽理論」の「理論」という呼び方がおかしいと思うのは、私の考えだからな。「理論」で納得している人もいることは忘れるな。思想は自由だからな」
ミッツ「何をやっても自由だって、憲法で保証されていますものね」背景に「保証」の文字。この文字は、ヤッ子のセリフと見比べるので、表示したまま。
ヤッ子「それは違うぞ。憲法では、迷惑を掛ける自由は、認められていない」
ミッツ「え? 憲法では、表現の自由とかが、保証されていますよね」
ヤッ子「教科書に憲法が載っていないか? 読んでみたまえ。憲法で保障されている自由は、公共の福祉に用いる責任がある」背景に「保障」の文字。
ハル。背景の「保証」「保障」を見比べて「どういう違いがあるんですか?」
ヤッ子「漢字のことは、自分で調べてくれないか。私が言えるのは、迷惑を掛けることを目的としてはいけないってことだ」
ミッツ「理論かどうかは別にして、これまでのアドバイスに無い、新しい手法で、面白い曲ができたり、美味しい料理ができたら、それが新しい音楽理論になるんですね」
ヤッ子「そうだ。そのように、芸術、ひいては文化は進化するのだが、音楽理論を用いて批判することで、虐めの構図と似てしまうんだ」
ハル「虐めの構図ですか?」
ヤッ子「音楽理論の禁止事項には、なぜそうなのか、納得できないことがあるが、それを強要するのが、虐めの構図と似ている」
ヤッ子「何かの行動を強要され、納得しないから断ると、断ったことを理由にして責める。断らなければ、行動したことを責められる」
ミッツ「老人に席を譲ったら「老人扱いするな」と叱られて、譲らなかったら「人間としてどうなんだ」と責められる」
ヤッ子「そのようなことが、日常のあらゆる事柄で起こり、いつでも非難されると……」少し大きな息をして「……日常生活すら、臆病になる」
ハル「だったら、理由を聞けばいいんだよ。老人に「席に座りますか?」って」
ヤッ子「そのように、「これで簡単に解決する」というようなアドバイスは、慎みなさい」
ミッツ「初めてじゃないですか?」
ヤッ子「何がだ?」
ミッツ「いや、ヤッ子先生が、指導ではなく、命令するのは」背景に、ヤッ子のこれまでのセリフを、いくつか表示する。「まあ、心配するな」「気を付けたいな」「大切にするもんだ」など。
ヤッ子「それ程のことなのだ。簡単に解決するなら、虐められることは無くなるだろう」
ハル「他人からの非難の言葉なんか、気にしなきゃいいのに」
ヤッ子「それが既に、無理難題なんだ。非難をされ続け、非難に敏感になっていたら、気にしないでいるのは不可能だ。そのアドバイスそのものが、気にする方を責める」
ミッツ「ハルは花粉症じゃないよね」
ハル「ああ、全く感じない」
ヤッ子「私は花粉症だ。長い年月、花粉に晒されていたから、アレルギーが過剰になっている。しかし、花粉症になる前の私は、太古からの、普通の自然の空気に苦しむなんて、不思議に思っていた」
ヤッ子「だから、生来の体質なら仕方ないが、友人が高校生になってから花粉症になるなんて、冗談だと思っていた。肌寒い季節なのに薄着しているせいだろうと、的外れな推測をしていた」
ミッツ「虐めは精神的アレルギーでもあるから、ハルには気にならない非難でも、非難され続けて来た人には苦しいんじゃないかな」
ハル「花粉症の人に、「みんな同じ空気を吸っているから、お前も我慢しろ」とは言えないように、虐めを受け続けていた人に、非難されても我慢しろとは言えないんだな」
▽ 場面変更 ● ── ●
校内のどこかで、偶然にも、関連する話をしている。
生徒A「先週、親戚が来て、ウチで宴会をしたんだ」
生徒B「へえー」
生徒A「終わり頃に、母さんが焼きおにぎりを出したんだ」
ここの「母さん」は、「ばあちゃん」が良いか? 「母さん」の場合、2人の伯父のきょうだいとなる。
生徒B「うん」
生徒A「そうしたら、伯父が2人で、焼きおにぎりは、うんざりだってのと、焼きおにぎりは大好きだと、意見が分かれて」
生徒B「ん? どういうこと?」
生徒A「伯父さんが2人いて、1人は「子供の頃に、ほとんど毎週、焼きおにぎりでうんざりだ」って言うんだ。もう1人は「毎週、休みの日には焼きおにぎりを、家族みんなで食べて、楽しかった」って」
生徒B「ははーん、食べ物は、思い出と共にってことか」
ここで焼きおにぎりを用いたが、他の食べ物を用いても良い。
生徒A「そうなんだよ。そうなんだけど、それをウチで持ち出されて、喧嘩を始めても困るんだよ」
生徒B「つまり、焼きおにぎりが美味しいか、美味しくないかは、焼きおにぎり、そのものの味だけではなく、個人の思い出も、評価に大きく影響するってことか」
生徒A「個人の思い出で、評価が大きく変わるんだから、悪い思い出と連携される人には、評価をお願いすると、低評価になるんだろうな。料理に限らずさ」
生徒B「それもあるけど、伯父さんのうちの1人は、経験の多くを、悪い思い出とセットにされたんなら、幸せを感じるのが難しくなるな」
生徒A「同じことでも、人によって感じ方が違うってものだよね」
生徒B「そうそう。例えば、ただ待つだけの時間も、人によっては「その時間も楽しい」にできる人と、「無駄な時間が苦しい」という人もいる」
生徒A「他人から見たら、「ちょっと待つのが、そんなに嫌なのか!」って怒ったり呆れたりするけど、無駄に待って、結局は無駄だった経験が多ければ、待つのが苦痛になるよね」
▽ 場面変更 ● ── ●
音楽室。さっきの続き。
音楽理論を用いた強要は、虐めの構図と似ているの話。
ハル。この場の雰囲気を変える。「美しい曲で、わざと美しくない箇所を入れることがありますね」背景に、ハルの心の声の文字「この場の雰囲気を変えよう!」を、明るく表示。
ヤッ子「ビートルズの『愛こそはすべて』ではギターでわざと汚い音色を出している」背景に、英語のタイトルと、そのフリガナ、日本語のタイトルを併記。
これ以外には、椎名林檎がコンサートで、ラウドスピーカーで歌いながら登場する例がある。
ミッツ「日本の笛は、「サワリ」といって、わざと汚い音色になるように、手間を掛けているそうですね」
ヤッ子「汚い音を目的としているのかは知らないが、竹を割るという作り方のことか?」
ミッツ「そう、竹を縦に細く割って、それぞれを、元々の内側が外側になるように、反対側に向けて、またくっ付ける」
背景に説明動画。竹を縦に8等分のように割る。割った竹は倒れず、分離した状態で動画は停止し、分身の術で2つに分かれ、1つが続きの動作になる。
割ったそれぞれがくるりと裏返る。竹の内側と外側が裏返しになる。また一旦停止し、分身の術で更に分かれる。8等分された部品がくっ付き、筒の形になる。
ハル「へえ、そうまでして、音色を研究したんだ」
ヤッ子「先人による前例があれば正しい、これまでに無い方法だから邪道と言われることもある」
ミッツ「音楽理論に反すると、前例が無いとか」
ハル「それなら、前例があるのが正しいってことになる」
ミッツ「うん、言いたいことは、わかる。前例から外れたことが無ければ、進歩も進化も無い。そう、言いたいんでしょ」
ハル「ああ、それもあるけど、誰かがやっているから、自分もやっていい。世界中の人がみんな、悪いことをやめたら、最後に自分が悪いことをやめるってのに繋がる」
ミッツ「殺人事件があるんだから、小さな盗みは無罪ってこと?」
ハル「昔の人は、せっかくの風景を殺す「殺風景」って言ったんだっけ?」
少しの間。
ヤッ子。話が途切れたので、さっきの前例の話で再開する。「前例が無いから邪道と言われる例は、電子レンジが普及し始めた頃には、電子レンジでの料理は邪道と言う人もいたんだ。「温めなおす」ための道具だからという理由で」
ミッツ「電子レンジが無かったら、料理なんて絶対に無理」
ハル「ミッツは、そもそも料理ができないだろう」
ミッツ「いつかは、やってみたいって思ってんの!」
ヤッ子「まあ、辛い話を長くしてしまったが、音楽理論は法律ではない、実害が無ければ、違反していることを自分から話題にするのは、避けてくれないか」
ミッツ「わかりました」
ハル「僕も、実験がうまくいかない時、「それじゃ、うまくいかないだろう」と言われたことが、何度もあって、実験を始める時に、先に否定の言葉を想像して、気分が悪くなることがあります」
ミッツ「それ、あたしかな。だったら、ゴメン」
ヤッ子「ことわざの「岡目八目(傍目八目、おかめはちもく)」といって、頭の中がてんやわんやの本人より、第三者なら俯瞰できるからな」
ミッツ「ホントに、ゴメンねー」猫を相手にするように、ハルの顎を撫でようとする。
ハル。逃げる。
ミッツ「こら、逃げるな」
ハル。逃げて、ヤッ子の背中に隠れる。「ところで、ヤッ子先生。ドイツ語では、「シ」が「B(ビー)」じゃなく「H(エイチ)」なんですね」
ヤッ子「ああ、「H」は、ドイツ語の音名だな。「ハー」と読む。」
ハル「ドイツ語には「B(ビー)」の文字が無いんですか?」
ヤッ子「B(ビー)の文字はあるが、「シ♭」を指すんだ」
ハル。困惑して「え、ええー」
ヤッ子「ドイツで、和音の研究をしていたところ、白鍵の「シ」よりも、黒鍵の「シ♭」の方が大切だと考えたんだ」
ハル「なぜ? 音は平等ですよね」
ヤッ子「鍵盤モノサシと、音階スライドがあっただろう。それで、白鍵ばかりを使うのは、ハ長調。主音は日本語では「ハ」、英語では「C」、イタリア語では「ド」だな」
ハル「白鍵ばかりですよね。「シ♭」は黒鍵です」
ヤッ子「ピタゴラスの倍音の話があったな。あの説明では、ハ長調で倍音を説明した。「ド」を基準として、8倍音までは、こうだ」
黒板に、イタリア語の音名を並べる。「ド、ド、ソ、ド、ミ、ソ、シ♭、ド」を書く。
ハル。気付いたように。「あっ」
ヤッ子「この倍音列で、「ドミソの和音」が倍音から作られたと説明した。そこで、私はさっき、ドイツで和音の研究と言った。和音と倍音は、密接なんだ」
ハル「だから、この「シ♭」が大切なんですね」
ヤッ子「そうだ。そんな大切な音なのに、「Bの変位」とするのは、けしからんとなった」
画面下部に鍵盤を2オクターブ程度、画面上部にアルファベットを最後まで。アルファベットのAからGが、分身の術で白鍵に移動し、画面上部の使用済みのアルファベットは灰色に。
ヤッ子「そこで、この黒鍵に「B」という名前を与えたんだ」鍵盤の「B」の文字が、シからシ♭に移動する。
ハル「えっ?」
ヤッ子「しかし、名前を取られた白鍵は困ってしまった。そこで、アルファベットで、これまで使われていた「G」の次の「H」を、代わりに与えたというわけだ」画面上部のアルファベットのHが、分身の術で鍵盤に移動。
ハル。驚いて「あ、そうか、それで「H」なんだ」
ミッツ「「パンツ」って呼び方を、ズボンに取られた、下着みたい」
ヤッ子「それから、ドイツ語は、英語と読み方が違うから、ついでに覚えておくといいぞ」書棚から資料を出す。「ほら、ドイツ語では「H」は「ハー」と読む。「エー」と発音すれば、ドイツ語の「E」だろ」
ハル「これは、覚えなきゃいけないの?」
ヤッ子「楽典のついでに覚えておくと、会話で便利だってことだ。会話している相手が、もしかしたらドイツ語で話しているのかな、なんてな。楽典の謎解きの、一助になるだけで、必須ではない」
ヤッ子「見てわかるように、ドイツ語では「♯」も「♭」も使わない」
画面に、鍵盤、日本語、イタリア語、英語、ドイツ語を並べる。外国語にはカタカナでフリガナを添える。日本語には「嬰」「変」にひらがなでフリガナを添える。
ハル「推理小説みたいだな」
ミッツ「テレビドラマの名探偵って、「なんでお前、そんなことを知ってるんだ」という知識で、犯人のトリックを暴きますよね」
ヤッ子「気が向いたら、覚えてもいいが、ドイツ語の呼び方を知らないことを相手に伝えれば、それで事足りるしな」
ハル。資料を見ながら「デス、ゲス、アス……。「デスでーっす」日本語に似ている」
ミッツ「「愛す」なんてのも、あるよーん」ハルを肩で押す。
ここから、3人の俯瞰。
ヤッ子「それを使って、恋の告白もできるな。でも、セ……」
ハル。ヤッ子の言葉を遮って「わかってるよ」
▼ Cパート。 ▼── ──▼
吹奏楽部の、トロンボーン先輩。先生ちゃんのように、顔だけ、または2頭身。
説明用の別世界。背景は無地。
トロンボーン先輩。吹奏楽部で新たに受け取った、2声を1段に書いた楽譜を持っている。その楽譜を画面に向ける。
トロンボーン先輩「今回の楽譜は2声を1段に書いていたけれど、クラシックギターの楽譜では、3声を書くこともある」クラシックギター曲の楽譜。
トロンボーン先輩「上のここがメロディ、下のここがベース音、中間のここが和音」楽譜に色分け。それぞれの色を、指し棒で「Aさん、メロディ担当」「Bさん、和音担当」「Cさん、ベース担当」「3人分だから「3声」と呼ぶ」と記す。
トロンボーン先輩「ピアノでは、大譜表が使われているから、ギターでも2段にしても良さそうだけど、見たことが無い」ピアノの楽譜。左端の中カッコに差し棒で「この中カッコでまとめられている楽譜が大譜表」と記す。
「大譜表」にはフリガナを添える。
トロンボーン先輩「なぜ、2段の楽譜が無いのか、その理由はあれこれ推測できそう」
トロンボーン先輩「そこのキミ、気が向いたら、クラシックギターのソロの曲を、大譜表で書いてみないかい?」
▼ 次回予告。 ▼── ──▼
ヤッ子の姉には夢があり、
ステラは海老逃げし、
ハルはみんなから「好きー!」って抱き着かれる。
宇宙人には、どう説明すればいいんだ?
▼ 1コマ漫画。 ▼── ──▼
怪しい商品の店「GEORGIA」の店長が、涙を流しながら、ハル達を見ている。
「やっと店名を正しく「ゲオルギア」と読んでくれた」
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