2話 山中にて
書きたいところまで書きたいな〜って思うといつの間にか長くなっていたりします
なんでやろね
アナスタシアは、つまづいて丘を転げ落ちた。
小さい丘だったため、怪我もないのは幸いなことであった。
「うう…」
肺から空気を搾り出すように、彼女は呻いた。
普通の人であれば、なんてことなく起き上がってそのまま走り出したことであろう。
しかし、彼女は由緒正しきご令嬢、山で駆け上がったこともなければ、転げ落ちたこともなかった。
転げ落ちたという事実だけで、アナスタシアは打ちのめされた。
「あ…」
顔を上げた彼女が観た先には、誰かが野営していたであろうテント。しかも、まだ片付けられていない。
誰かがいるかも…
そういった希望が、脳裏によぎる。
「おい! 落っこちたぜ! 死んだかな?」
「アホか こんな高さで死ぬわけねえだろうが ボケ!」
丘の上で声が響く、あの黒ずくめの集団であろう。
アナスタシアにもはや時間は残されていない。彼女は意を決して、テントの中に飛び込んだ。
しかし、そこには誰もいなかった。
「ああ…もう…」
いい終わる間もなく、彼女は引き摺り出される。
再び泥だらけの地面に体が投げ出され、そこには6人の黒ずくめの男たちがいた。
その手には、ナイフが握られている。
アナスタシアの茶髪で整えられた髪の毛が乱暴に引っ張り上げられた。
「うう…や…やめて!」
「お前に恨みはないが 死んでもらう 悪いな」
男の声が冷たく言い放つ。喉元には冷たいナイフが触れた。
誰も助けてくれる人はこの場にはいない。
そう理解した、アナスタシアの目には涙が浮かんでいた。
「うっ…」
「モタモタすんな!」
「だ だってさぁ… あ?!」
突然、男たちの手が止まる。何かが走ってくる。
泥だらけの地面を蹴って何かが近づいてきていた。
そして鈍い音が響いた。アナスタシアはこの音に聞き覚えがある。
父親が死んだ時と同じ音であった。
アナスタシアが見上げると、髪を掴んでいた男の首に剣身の横っ腹が突き刺さっていた。
血飛沫をあげて男は倒れた。その瞬間、アナスタシアも解放された。
「な…っ! なんだお前は!」
「女の子を集団で襲ってるやつに 名乗る名前はないね」
アナスタシアは声の主に顔を向けた、この地域では観たことのない人間であった。
その人間は、多分男。何よりも特徴的なのはその髪色、金髪であった。
そして、その目はなんとも不思議な緑色をしていたのである。
「お前には関係のない話だろう 失せろ」
「いやそういうわけにもいかん もう攻撃しちゃってるし」
「じゃあ 死ね!」
一人が金髪の男?に突っ込んでいく、金髪の男は切り伏せるのだろうかとアナスタシアはぼんやり考えた。
しかし、金髪の男はサッとよけ剣の柄の先でボカっと男の首筋を後ろから殴りつける。
その一撃で、黒ずくめの男は気絶したらしい。そのまま崩れ落ちた。
「どうした? 他の四人はぼーっと突っ立ってるだけか? かかってきなさいよ」
金髪の男は他の4人に向かって笑いながら挑発した。それを聞いて他の四人は集団で一気に飛びかかる。
金髪の男の手際は素早いもので、サッと避けたかと思うと同時に攻撃。サッと避けて攻撃。
この繰り返しであった。
手際の良さから、きっと経験のある人物なのであろうことが伺える。
的確に一人ずつ、敵を減らしていった。
「さて 一人だが… どうする?」
「くっそおお!」
「そこは逃げなきゃ ダメだろ〜」
最後の一人の首筋に剣が叩き込まれ、戦いは終わった。
気絶したもの、死んだものが地面に伏せ。アナスタシアと金髪の男のみがこの場に立ち、頭を上げていた。
「…いっ やあ… さっきのはやばかったね! 流石に」
「…は?」
「流石にね 四人相手にするのはきついわ マジで」
と男は言いつつも、剣についた血を拭いながらセカセカと動いていた。
「あ…! あなた…」
「お嬢さん なんで殺されかけてたのか知らないけどさ さっさと逃げたほうがいいよ」
「あなた!!」
「な なんだよでけー声出して」
アナスタシアは自分の身につけていた、装飾品を取り、男に突き出す。
彼女の泥だらけになった指の中で装飾品は未だ輝いていた。
「??」
「あなた 私をリアム様のところまで連れて行きなさい! お金ならやるわ」
「…」
男はじっとアナスタシアのことを見つめているのであった…




