第24話 「泳がせる者」
防衛情報局・特別観測課。
巨大スクリーンには二つの地点が表示されている。
赤:山岳地帯
青:太平洋異常海域
オペレーターが言う。
「海域の異常体、深度一二〇〇へ下降。追跡困難です」
「山岳側は?」
「依然として微弱反応あり。ただし変動パターンが“自然寄り”に変化しています」
室内に沈黙。
鷹宮は腕を組んだまま、画面を見続けている。
部下が口を開く。
「課長、どちらを優先しますか? 海は国際問題化しています」
「山は?」
「掘削申請を出せば通る可能性はあります」
沈黙。
数秒。
鷹宮が言った。
「――どちらも追うな」
室内がざわつく。
「え?」
「監視は続ける。だが刺激はしない」
「ですが課長、もし地下に何かあるなら――」
鷹宮は静かに遮る。
「“ある”と仮定しよう」
部下が息を呑む。
「その存在は、我々を攻撃したか?」
「……いいえ」
「都市を破壊したか?」
「いいえ」
「ではなぜ今、海に“別の異常”を出した?」
誰も答えない。
鷹宮がゆっくり言う。
「注意を逸らすためだ」
沈黙。
「つまり山に“触れてほしくない何か”がある」
オペレーターが呟く。
「なら尚更掘るべきでは?」
鷹宮の目が鋭くなる。
「違う」
一拍。
「掘れば、相手は本気で抵抗する」
部屋の空気が重くなる。
「だが今は違う。相手は“牽制”で済ませている」
海の映像が再生される。
巨大な発光体。
だが攻撃性はない。
鷹宮は低く言う。
「向こうは戦争を望んでいない」
「……なら?」
「泳がせる」
その言葉が落ちる。
「掘削は凍結。だが監視は強化」
画面に新たな計画図が映る。
山岳地帯周辺に、目立たぬ形で観測装置を増設。
偽装通信塔。
気象観測名目のセンサー。
「相手が隠れるなら、隠れさせる」
部下が戸惑う。
「それでは進展が……」
「進展はある」
鷹宮が海斗の写真を表示させる。
「失踪者・須藤海斗」
沈黙。
「彼が鍵だ」
「生存の可能性を?」
「ゼロではない」
部屋が凍る。
「地下に文明があると仮定する」
誰も否定できない。
「彼は“接触者”だ」
一拍。
「もし生きているなら――戻ってくる」
その言葉に、空気が変わる。
「戻らなければ?」
鷹宮は淡々と答える。
「戻らせる状況を作る」
地下都市
アインが報告を受ける。
「地上側、掘削計画凍結」
マドラーが眉をひそめる。
「罠だな」
「高確率で」
海斗が言う。
「やっぱり優秀だな」
アインがうなずく。
「強引ではない。理性的だ」
マドラーが低く言う。
「理性的な敵ほど厄介だ」
スクリーンに表示される。
山周辺の観測装置増設。
「包囲は続いている」
海斗が写真を見る。
鷹宮。
「……俺を待ってるのか」
アインが静かに言う。
「その可能性が高い」
沈黙。
マドラーが問う。
「どうする?」
海斗はゆっくり息を吐く。
「決まってる」
一拍。
「帰る」
アインの瞳がわずかに揺れる。
「今か?」
「泳がせるなら泳いでやる」
ニヤリと笑う。
「でも溺れない」
マドラーが低く笑う。
「本当に危険な男だ」
アインが静かに言う。
「地上帰還準備を開始する」
地下と地上。
互いに待つ。
だがその“待ち”は、静かな衝突の助走だった。




