第23話 「偽装」
地下都市・戦略観測室。
巨大な立体地図に、地上の軍事衛星軌道が幾重にも描かれている。
赤いライン。
青い点。
無数の“目”。
アインが言う。
「地上の解析速度は想定より速い。このままでは三週間以内に掘削許可が出る可能性がある」
マドラーが即答する。
「ならば排除だ」
「違う」
アインは静かに否定する。
「恐怖を与えれば加速する。必要なのは――方向転換だ」
海斗が腕を組む。
「つまり?」
アインがスクリーンを切り替える。
別の地点。
数百キロ離れた海域。
「誤誘導を行う」
マドラーの目が細くなる。
「囮か」
「そうだ。地上の関心を別の“異常”へ移す」
海斗が少し笑う。
「UMAでも出すのか?」
アインは真顔で頷く。
「限定的に」
「マジかよ」
マドラーが低く言う。
「リスクが高い」
「管理可能範囲内だ」
アインは続ける。
「深海層に隔離している独立生態群。その一部を浮上誘導する」
海斗が顔をしかめる。
「暴れないのか?」
「制御タグを埋め込んでいる。短時間なら問題ない」
沈黙。
マドラーが問う。
「なぜそこまでする」
アインは答える。
「今は時間が必要だ」
そして海斗を見る。
「君が戻る準備を整える時間だ」
海斗の表情が引き締まる。
「……俺のためか?」
「違う」
一拍。
「両世界のためだ」
――数時間後
太平洋・未明。
哨戒機が異常波形を捉える。
「ソナー反応、巨大。潜水艦サイズを超えます」
「所属確認!」
「不明。どの国のデータベースにも一致なし」
水面が静かに盛り上がる。
暗い海の中から、ゆっくりと現れる影。
巨大。
滑らかな装甲のような皮膚。
発光する青い紋様。
「……なんだあれは」
カメラが捉える。
映像が本部へ転送される。
防衛情報局・特別観測課
鷹宮が映像を見つめる。
室内は凍りついている。
「新種の潜水艦か?」
「生体反応があります……が、金属質反射も」
映像が拡大される。
それは明らかに生物。
だが人工的な規則性を持つ。
「……海の怪物か」
誰かが呟く。
鷹宮は首を振る。
「違う」
低い声。
「これは“見せられている”」
沈黙。
「どういう意味ですか」
鷹宮は腕を組む。
「山の異常。失踪者。地下反応。そして今度は海だ」
一拍。
「話題を分散させている」
室内がざわつく。
「つまり意図的に?」
「そうだ」
鷹宮の目が鋭く光る。
「我々は誘導されている」
地下都市
モニターに映るニュース速報。
【未確認巨大生物出現】
海斗が苦笑する。
「うわ、世界中パニックだな」
アインは冷静だ。
「山岳地帯への注目度は六十二パーセント低下」
マドラーが低く言う。
「成功か」
「一時的にだ」
海斗が真顔になる。
「でもさ」
二人を見る。
「向こうにバレてる可能性あるぞ」
アインが答える。
「ある」
「それでもやったのか」
「必要だった」
沈黙。
その時、別の警告。
「地上側、海域だけでなく山岳探査も継続中」
マドラーが目を細める。
「読まれている」
アインの瞳が静かに光る。
「相手に優秀な観測者がいる」
海斗が呟く。
「……誰だよ」
画面に表示される顔写真。
防衛情報局
鷹宮蓮司。
アインが言う。
「この人物。異常検知後、解析を主導している」
マドラーが低く笑う。
「面白い」
海斗が写真を見つめる。
「こいつが……」
アインが静かに告げる。
「いずれ君と向き合う可能性が高い」
地下と地上。
観測者同士。
静かな知恵比べが、確実に始まっていた。




