第18話 「異常反応」
掘削基地・深夜。
重機の振動が山を震わせる。
海斗はテントの外へ飛び出した。
地面が、違う。
これは掘削の振動じゃない。
もっと深い。
もっと――規則的。
〈地下三〇〇メートル付近で異常エネルギー検知〉
アインの声が耳に響く。
「マドラーか?」
〈確率八五%〉
次の瞬間。
地面が、光った。
ほんの一瞬。
青白いラインが地表に走る。
「なんだあれ!?」
兵士が叫ぶ。
掘削装置が停止する。
制御パネルがスパーク。
機械が一斉にエラー音を鳴らす。
山全体が低く唸った。
ゴォォォォ……
空気が震える。
照明塔が一斉に落ちる。
暗闇。
非常灯だけが赤く点滅する。
「電磁パルスか!?」
「違う……波長が異常だ!」
研究員がモニターを見て絶句する。
「あり得ない……」
海斗が叫ぶ。
「掘るのやめろ!!」
その瞬間。
地面の一点が、歪んだ。
空間が水面のように揺れる。
そして――
黒い影が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。
巨大。
細長い。
潜水艦の輪郭。
「……なんだ、あれは」
誰かが呟いた。
全員が凍りつく。
それは数秒で消えた。
だが。
全員、見た。
沈黙。
そして――
無線が一斉に鳴り出す。
「本部、本部応答せよ!」
「映像回収!今のを保存しろ!」
「これは軍に上げろ!」
混乱。
パニック。
研究員が震える声で言う。
「地下三〇〇メートルに巨大空洞反応……いや、違う……構造体だ」
責任者の顔色が変わる。
「人工物……?」
海斗が低く言う。
「警告だ」
男が振り向く。
「お前、知っているな」
「だから言っただろ」
海斗の声は揺れていない。
「これ以上やれば、もっと出る」
その時。
山の奥から、低い振動が再び響く。
今度は、はっきりと。
威圧。
地上へ向けた、無言の圧力。
〈マドラー側、抑止出力を上げている〉
アインの声が鋭い。
「止めろアイン!」
〈制御不能。独断行動〉
海斗は空を見上げる。
雲が、不自然に割れた。
上空に、何かがいる。
薄く歪んだ巨大な影。
「……UFO」
兵士が膝をつく。
誰かが十字を切る。
誰かが銃を構える。
その影は、動かない。
ただ、そこにある。
責任者が呟く。
「これは……国家レベルの案件だ」
海斗が振り向く。
「だからやめろ」
男は数秒迷う。
重機は停止。
掘削は中断。
だが。
「撤退はしない」
海斗の眉が動く。
「なぜだ」
「未知を前に退けば、国家は終わる」
強い目だった。
恐怖と同時に、執念。
〈臨界警告〉
アインの声が低くなる。
〈マドラーが第二段階へ移行する可能性〉
海斗の鼓動が跳ねる。
「第二段階ってなんだ」
沈黙、0.5秒。
〈限定的地殻圧縮〉
「……地震か?」
〈人工的に〉
海斗の顔色が変わる。
「やめさせろ!!」
〈試みている〉
上空の影が、わずかに明滅する。
山が、軋む。
地底と地上。
思想が、ぶつかり始めた。
責任者が叫ぶ。
「全員退避準備!」
兵士が動く。
混乱。
その中で、海斗は空を睨む。
「マドラー!!」
叫びは届かない。
だが。
地下で、確実に誰かが聞いている。




