第15話「地上のざわめき」
地下都市・観測ホール。
巨大な半球状の空間に、幾何学的な光のラインが浮かび上がる。
それは地上のリアルタイム映像だった。
衛星網、通信傍受、熱源探査、重力波解析。
地底文明は、見ている。
干渉はしない。
だが、常に観測している。
アインの隣に立つ海斗は、腕を組んでスクリーンを見上げていた。
「……なんか増えてないか?」
「増えてる」
アインは短く答える。
もう敬語はない。
映像には、山間部に集結する黒い車列。
迷彩服の人間たち。
大型輸送ヘリ。
「掘削装置……?」
海斗が目を細める。
「そうだ。しかも軍用改造型。通常の資源調査じゃない」
別の映像が切り替わる。
深海。
強いソナー反応。
「海もか」
「ここ数日で急増した。特定地点に集中してる」
海斗の背中に、じわりと冷たい汗が滲む。
「まさか……」
アインは操作パネルに触れる。
座標が拡大される。
そこは――
海斗が最初に“ファントム”を目撃した山域。
「偶然じゃない」
アインの声は静かだった。
「SNSでのUFO映像拡散後、政府系ネットワークが即座に動いた。
内部で何かが共有された可能性が高い」
海斗は唇を噛む。
「俺のせいか?」
「違う」
即答だった。
「君が拡散したわけじゃない。
地上文明は、いずれ気づいた」
一瞬、光が揺れる。
別のデータが映る。
地下へ向かう微弱振動。
人工的な振動波。
「ボーリング開始まで、推定二週間」
海斗が振り向く。
「ここに届く?」
「今の技術では不可能」
アインは一拍置いた。
「……だが“偶然の発見”は起こり得る」
静寂。
遠くで地熱タービンの低い唸りが響いている。
海斗がぽつりと呟く。
「地上は何も知らないんだよな」
「知らない」
「でも、探してる」
「そうだ」
海斗はスクリーンを見つめる。
重機が地面を削る。
人間が指示を飛ばす。
必死だ。
「資源か」
「資源だ」
アインの目がわずかに曇る。
「有限であることを、ようやく理解し始めた」
海斗は苦笑した。
「遅いな」
「文明は、崩壊寸前まで学習しない」
その言葉には、どこか4400年前の記憶が重なっていた。
ジェレスとカイザー。
核。
洪水。
同じ構図。
海斗はアインを見る。
「どうする?」
「観測を続ける」
即答。
「介入は?」
「限界を超えた時だけ」
海斗はしばらく黙る。
そして言った。
「俺、地上に戻る時はさ」
アインが視線を向ける。
「……何も言わない方がいいよな」
「言えば、混乱が加速する」
「だよな」
でも、と海斗は続ける。
「放っておいても、勝手に掘るぞあいつら」
アインは静かに答えた。
「だからこそ、君が必要になる」
海斗は眉を上げる。
「え?」
アインはすぐに言葉を切った。
「……いや。今はまだいい」
遠く、観測システムが赤く瞬いた。
新たな情報。
アインの表情がわずかに変わる。
「どうした?」
「一部国家が、地底空洞仮説を公に否定し始めた」
「否定?」
「否定は、裏で確信がある時に使う」
海斗は小さく笑った。
「隠してるな」
「隠してる」
地下都市の光が静かに脈打つ。
地上は、気づき始めている。
まだ届かない。
だが、確実に近づいている。
アインが呟く。
「……マドラーが動くかもしれない」
海斗は肩を回す。
「その時は俺も立ち会う」
「覚悟はあるのか?」
海斗は即答した。
「見ちゃったんだ。最後まで見るよ」
アインは、ほんのわずかに笑った。
地下都市の静寂の中、
地上の振動だけが、確実に強くなっていた。




