第13話 マドラーの襲来
地下都市の静けさを破るように、通信室のモニターが赤く点滅した。
「アイン、状況を確認」
翻訳機越しの声が響く。
「部下からの報告です。火種と思われる地上個体が再接触しました。識別番号未付与」
海斗は背筋にぞくりと走るものを感じた。
「火種……俺のことか?」
その時、格納庫の巨大スクリーンに映し出された映像に、海斗の視線が釘付けになる。
地上から突如、巨大な影が地下都市に向かって進んでくる。
「これは……」海斗が呟く間もなく、アインが説明する。
「マドラーです。反対勢力のトップ。部下を伴い、地下都市への直接侵入を試みています」
廊下を通じ、轟音と共に地上とは異なる激しい重力の波が伝わる。
スクリーン越しに、マドラーの姿が現れる。黒いコートと鋭い目つき、怒りに満ちた声が反響する。
「アイン! 何をしている! 誰が勝手に地底と接触させた! 答えろ!」
「冷静に、マドラー様。海斗は危険な人間ではありません」
アインの声は落ち着いていた。
「落ち着いて? 落ち着いてられるか! お前らの監視が甘いから、こんな火種が再接触するんだ!」
マドラーは拳を震わせ、画面を殴るような勢いで怒鳴る。
「……海斗、君は大丈夫だ。危害は加えられない」
アインが翻訳機越しに海斗に語りかける。
海斗は小さく頷いた。
「……助かる。俺、殺されるんじゃないかと思った」
マドラーはさらに声を張る。
「アイン! 説明しろ! どうしてこの個体を地底に接触させた!」
「記録を確認してください。私は監視と観測を行ったまでです」
アインの声は揺るがない。
「監視と観測だと? ふざけるな! 危険な火種を放置するなんて、許せると思ってるのか!」
マドラーの怒りは臨界点に達していた。
海斗は息を吞む。
——完全に理不尽な怒りだ——
だがアインは動じず、静かにマドラーの怒声を遮る。
「マドラー様、この個体は特例です。危害を加える必要はありません」
マドラーは唇を噛み、瞳を光らせた。
「特例……俺の目の前で何が特例だ!」
海斗は思わず割って入る。
「……俺は悪くない! 何もしないから!」
アインは微かに頷き、海斗の安全を確保した。
「地上と地底のルールを守る限り、危害は加えません」
マドラーはしばし黙った後、低い声で唸った。
「……次は見逃さない。必ず規律に従わせる」
そして、部下たちと共に地下都市から去っていった。
轟音が消え、地下都市には再び静寂が戻る。
海斗は深く息をつき、アインに目を向けた。
「……君たち、すごいな。本当に……」
アインは微かに笑みを浮かべる。
「火種の存在を理解し、観測の範囲内に収める。それが我々の役目です」
海斗はその言葉に心底感心し、同時に胸の奥で興奮が再び湧き上がった。
——地底文明は、理性と合理の極地だ——




