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オブザーバー 〜下の世界から〜  作者: ムーンキャット


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2/24

第2話 禁忌という名の未来

夜が明ける前の研究施設は、

地上よりも静かだった。

分厚い岩盤に守られた地下空間。

外界の天候も、神話も、祈りも、

ここには届かない。

巨大な制御盤の前で、

カイザーは黙って数値を追っていた。

「……異常じゃない」

低く、確信に満ちた声だった。

ジェレスは工具を置き、振り返る。

「“異常”じゃない、か。

それを異常と呼ばないのは、お前くらいだぞ」

カイザーはわずかに口角を上げた。

「原子を分解できる時点で、

俺たちはもう“正常”の枠外だ」

二人の前にあるのは、

原子反応を極限まで制御する試作炉。

エネルギー効率は、

自然界の雷や火山噴火をはるかに超えていた。

ジェレスは理解していた。

理解しているからこそ、

胸の奥がざわついていた。

「それは……武器になる」

カイザーは否定しなかった。

「なる。

いや、武器にするべきだ」

空気が、わずかに変わる。

「ジェレス。

見ただろう? 地上を」

最近、争いが増えている。

土地、水、信仰。

理由は何でもよかった。

「人類は未熟だ。

だが、導く者がいれば違う」

ジェレスは眉をひそめる。

「導く?

それは支配だろ」

「支配でいい」

即答だった。

「恐怖は、最も平等なルールだ。

逆らえば滅びる。

それだけで争いは消える」

ジェレスはゆっくりと首を振った。

「それは平和じゃない。

ただの沈黙だ」

カイザーは装置から目を離し、

初めてジェレスをまっすぐ見た。

「沈黙のない世界に、

平和は存在しない」

二人の視線がぶつかる。

同じ知識を持ち、

同じ技術を手にしながら、

見ている未来は、すでに違っていた。

その頃、地上では――

空を覆う雲が、

何日も太陽を隠し続けていた。

雨はまだ降らない。

だが、大地は不安を覚えたかのように軋み、

海は、確実に水位を上げている。

動物たちは高地へと移動し、

人々はそれを「神の兆し」と呼び始めていた。

研究施設の奥。

誰にも知られぬ場所で、

ジェレスは別の設計図を開く。

それは武器ではない。

地下へ潜るための船。

水も、岩も、物質すらもすり抜ける――

原子潜水船の原型だった。

「……争うくらいなら、離れる」

彼は小さく呟く。

同じ夜、

カイザーは別の計画を完成させていた。

核反応を応用した、

地上制圧用エネルギー装置。

彼は確信していた。

「これで、人類は一つになる」

まだこの時点では、

二人とも“正しい”と思っていた。

そしてまだ、知らない。

この選択が――

神話に記される

大洪水という結末を

呼び寄せることになるということを。

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