第10話 アトムスーツと壁をすり抜ける世界
地下都市の奥にある実験棟に、アインは海斗を案内した。
壁や床は整然と光を反射し、さまざまな装置が静かに作動している。
「これが……アトムスーツか……」
海斗はスーツに目を奪われた。
滑らかな金属と繊維が一体化し、どこか有機的な光沢を放っている。
アインは翻訳機を通して説明する。
「アトムスーツは原子分解技術を応用し、壁や物体を通過可能にします。重力制御も内蔵され、短距離の空間移動が可能です」
海斗の目が輝く。
「壁を……すり抜けるって、本当に?」
「はい。実演します」
アインはスーツを着た地底人の研究者に手を示した。
その人物は一礼すると、ゆっくりと壁に向かって歩き、まるで空気の中を通るように消えた。
「え……消えた……!?」
海斗は後ずさる。目を凝らすが、壁の向こうに人影はない。
数秒後、スッと壁の反対側から姿を現す地底人。
「信じられない……」
海斗の声は震えていた。
アインは微かに頷く。
「この技術は日常生活にも応用されています。都市内の移動、資源の管理、研究活動……すべて効率的に行えるのです」
海斗は装置や壁に手を伸ばして触れてみる。
「この壁も、必要な時だけ出てるんだよな……?」
「はい」
アインの翻訳機越しの声が響く。
「地底文明の生活は、合理性と安全性を最優先しています。物理的制約を超え、自由と効率を確保することが目的です」
海斗は深呼吸し、目を輝かせた。
——4400年前、ジェレスが描いた理想が、ここに形になっている——
アトムスーツや壁の仕組み、光ゴケ、地熱……すべてが文明の精密な設計の産物だと、海斗は実感した。
「すごい……俺、こんな世界、見たことない……」
思わず独り言のように漏れる。
アインは微かに頷き、海斗の好奇心を遮らずに静かに説明を続ける。
「そして、あなたが体験していることのすべてが、地底文明の一部です。この技術は兵器ではなく、生活と観測のために設計されています」
海斗は興奮を抑えきれずに笑った。
「……もう、完全に現実じゃないみたいだな」
アインは静かに笑みを浮かべるように微調整用の装置を操作する。
地底文明の静かな光と科学の力が、海斗の胸に畏敬と希望を刻み込む。
——こうして、海斗は地底文明の技術と日常の合理性を目の当たりにし、
未知なる世界への興奮と好奇心を膨らませていった。




